行方不明の兄

文字数 1,083文字

「まったく、本当に大丈夫かしら……」
 そわそわ落ち着きのない、フラウ。
 それを見てエリスが
「ついて行くべきだったか?」
 フラウに尋ねる。
「別に、それより反転を解除してください。あまり、こっちは好きではありません」
「そうだった。テベット、頼む」
 エリスの言葉に、テベットは頷く。
「空間反転、解除」
 その言葉と同時に、フラウの姿が消えた。
「これで、機嫌も良くなるだろう」
 消えたように見えても、実際にはエリスの近くに居る。
「お兄さんガ、病室から姿を消しましタ」
 ワタシの不注意でス、とテベットが申し訳なさそうに言う。
 それを聞いて、エリスは激しく動揺する。
「な、何を言って……」
 兄は眠ったままの状態。
 意識が戻るのは難しいと、担当医も苦言していた。
「今日は天気が良かったのデ、換気をしようと窓を開けましタ。少し目を話したラ、姿が消えていテ」
 申し訳ありませン、とテベットが頭を下げる。
「君のせいじゃない、顔を上げてくれ」
 ふと、昔に聞いた兄の言葉がエリスの頭を過る。
「高い所はいいな、なんだか王様になった気分だ」
「……煙となんとかは、高い所が好きだって聞いたよ」
「妹よ、兄は傷ついたぞ」
「ふーんだ」
 言葉にはできないが、何か胸騒ぎがする。
「どこか、高い場所はないか……丘とか」
 全部を見渡せる場所がいい、とエリスが続けた。
「……カノープスの丘がありまス」
「テベット、そこに案内してくれ」

♦♦♦
「あれ、リア先生がいないよ」
 確か、ここで待っていると言っていた。
 動揺するミシュナに
「……帰ったんだろ。薬学の先生なら、自分で治療くらいできるはずだ」
 アルベルが言った。
「怪我、大丈夫だったのかな」
 ミシュナの言葉を聞いて、ルルド肩を竦める。
「考えても仕方ないですね、まずはクロード君を家まで送りましょう」
 ルルドたちは、クロードを家まで送り届ける。
 その帰りに、ミシュナの家の前で別れた。

「錬金術を学ぶには、それなりの費用が必要だ。一般から、転入の方が珍しい」
「クラスの皆さん、お嬢様やら御曹司で肩身が狭いです」
「本当に、困っているんだか……」
 茶化しているようなルルドの態度に、アルベルは溜息をついた。
「そうだ。ちょっと、寄り道していきませんか」
「は?」
 ルルドの提案に、アルベルは眉を寄せた。
「カノープスの丘とか、見晴らしがすごく良いんですよ」
「そんな暇は……」
 アルベルが背を向けたのを見て
「彼女は、おそらく約束は守らない」
 ルルドが溜息混じりに呟いた。
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