第20話

文字数 1,002文字

「よかったですわ。実験は成功ですのね」
 女性は嬉しさのあまり、声を震わせながら言った。
「ああ、貴様は間違いなく優秀だ。門が完全に開かなかったのは惜しいが」
「いいえ、貴方様がこうして居るだけでも価値がありますわ」
「そうであろう、そうであろう」
 青年は頷くと、女性の手の怪我に視線を向ける。
「怪我ぐらい、早めに治せ」
「……ノーム、お願いしますわ」
『……にゃーは、フラウと違って治療は得意じゃないのにゃ』
 溜息混じりの声と同時に、女性の影が動いた。
『リアは、にゃー使いが荒いのにゃ』
「後で、魚をあげますわ」
『仕方がないにゃ。にゃーは、新鮮なのがいいにゃ』
 リアの影が、再び蠢く。
「兄さん、そこに居るのか?」
 エリスが声を掛ける。
 兄の傍らに立つ、リアを見てエリスは戸惑う。
「リア先生、なぜ……?」
「エリス様、気をつけテ」
 テベットが警戒をする。
 青年は、人の良さそうな笑みを浮かべる。
「久しぶりだな、しばらく面倒をかけたみたいだ」
 エリスに近寄った。
「……ええ、本当に。行かないでて、止めたかった」
「だが、もう安心だ。俺はもうとこにも行かない」
 青年は、エリスの肩に手を伸ばす。
「……似てる」
 エリスは、その手を払う。
「今の兄さんは、腹黒い貴族にそっくりだ」
ユーリスにスカウトされる前まで、フリーの錬金術師として何度か貴族の依頼を請け負ったことがある。
 表面上は、人の良さそうな顔を浮かべているが依頼内容は正反対。
 自分より成功している他人を貶めたい。
 毒薬やら、神経に作用する薬品の製作を依頼してきた。
「もちろん、全て断った」
 エリスは、深い溜息をつく。
「君は、だだの空っぽだ」
 エリスは兄の姿をした何かに視線を向ける。
「一体誰だ?」
「なんて、失礼な口の利き方を……」
 咎めようとするリアを止め
「ククククク、面白い。面白いではないか」
 青年は楽しそうに笑う。
 得体のしれない不気味さに、エリスは警戒する。
「貴様、イフリートの核を持っているな」
「それは……」
 あの事件があった後、兄が右手に真紅の石を持っていた。
 フラウから聞いた話では、それはイフリートの核。
。元々、イフリートは力を失っていたため石の状態で、こちらの世界に持ってこられた。
 精霊の核は繊細なため、一時的にイフリートの核をフラウが保管している。

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