第22話

文字数 1,002文字

「嘘は言っていませんガ、本当のことも言っていませんネ。人間の魂は未練を残したリ、不完全な状態でシェオール門を通過してしまうと魔物になってしまいまス」

 テベットの言葉に、エリスは目を大きく見開く。
「人間が、魔物に?」
 テベットは頷くと
「屋敷に出タ、あの狼……明らかにこちら側に未練がありましタ」
 そして、リアの方へ視線を向ける。
「それを利用しテ、そそのかしたと考えられまス」
「最近、魔物が大量に発生しているのは偶然ではありません。全ては、計画通りに進んでいるということです」
 ルルドは、ウロボロスに視線を向ける。
「シェオール門は、人間にとっては毒です。向こうとの境目がなくなれば、耐性のない人間はあっという間に魔物化してしまいます」
 それを平気で行うつもりです、と続けた。
「それは……」
 ウロボロスの目的を、人間側が知ったら否定するのは当然だろう。
 エリスは眉を顰める。
「そんなことに、兄を利用するつもりか」
「余の支配する世界は狭すぎる。それに、人間にとって不都合な点ばかりではあるまい」
 ウロボロスに会えば、全ての願いが叶えられる。
 そして、欲深い人間が望むものと言えば――
「なるほど、不老不死か」
 そう言って、エリスは納得をする。
「リア先生も、そういう意味で協力しているのだろう」
 エリスの言葉を聞いて、リアは憎悪の眼差しを向けた。
「若い体の貴方に、私の気持ちが分かるわけありませんわ」
「……先生は、宮廷錬金術師として長い間、王に仕えている。今は若く見えているが、実際はかなりの老婆だ」
 どんな手品を使っているか知らないが、とアルベルが言った。
「私の望みは、永遠の美ですわ。それをウロボロス様が、叶えてくださると約束してくださいましたの。そして、ノームもくださいましたわ」
 反応するかのように、リアの影が蠢く。

「ノーム、フラウと同じ……」
 エリスが警戒する。
『あんな脳みそまで、筋肉と一緒なのは嫌です』
『にゃー、魚の干物にしてやるにゃ』
 ノイズもなく、普通に声が聞こえていた。
(この場所特有の何かか……)
 エリスは、ウロボロスの方に視線を向ける。
「君の影響か……」
 どちらにしても、引くわけにはいかない。
「他の錬金術師がどう考えるか、私にはよくわからない。しかし、魔物になってまで生きるのは……本当に生きていると言えるのか」
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