空間の反転

文字数 1,089文字

「ガルルルル……」
 唸る魔物。
 その口には、光りを放つ石が咥えられている。
 少女と同じく、その魔物も重力を無視して逆さまに立っていた。
「このままでは、やりにくいですネ。空間を固定しますので、少し酔いますヨ」
グラリ、空間が歪む。
 車に酔ったような気持ち悪さに
「ううっ、なんか気持ち悪い」
 ミシュナが口元を押える。
「……空間の反転? こんなのが出来るとしたら」
「ホムンクルスぐらいでは?」
 澄んだ女性の声。
「せ、先生、後ろ……」
 ミシュナが困惑する声。
 エリスが後方に視線を向ける。
青い炎を纏う、下半身が魚の美女が佇んでいた。
「ちょうどいい、ランプの代わりに前を歩いてくれ」
 エリスの言葉に
「まったく、華麗じゃないわね」
 人魚は溜息をついた。
 ミシュナはエリスの服の袖を掴みながら
「先生、人魚が、しゃべって……」
 口をパクパクと動かしている。
それを面白く思ったのか、人魚は顔をミシュナに近づけた。
「フラウ、名前くらいは聞いたことあるでしょう」
「それって、ウロボロスの……」
 ミシュナの視線が、エリスへと向けられる。
「その、話せば長くてな……」
「それより、石です。石、忠告しましたが」
 不服そうな顔で、フラウが言った。
「粗末ではありますが、かなり賢者の石に近い。微かですが、門が開いています」
それを聞いて、エリスが眉を寄せる。
「まさか、さっきの魔物は……」
「かすかに、門が開いた影響です。あの魔物、中に持ち帰る気です」
 とにかく、急いでとフラウがエリスとミシュナを急かす。

♦♦♦

「ああ、汚れタ。洗濯が面倒でス」
 少女が放った真紅のセフィロトの枝が、狼型の魔物を貫通。
 その一瞬の出来事を、アルベルは見ているだけだった。
「あ、ありえない、セフィロトの枝で魔物を刺した」
 戸惑うアルベルを横目に
「考えが古イ。最後に、勝てばいいのでス」
 少女は溜息をつく。
「さて、問題はあの石ですが……」
「うっかり、手がすべってしまいました」
 目を覚ましたルルドが、右手の手の甲で石を壊す。
「あれ、何か潰してしまったような」
「ナイスファイトでス。むしろ、結果オーライ」
 少女がルルドの肩を叩く。
「妙に、わざとらしくないか?」
 アルベルにジト目を向けられ
「君には、人を信じる心が足りないと思います。だから、女の子にモテないんです」
 ルルドは肩を竦める。
「……なっ」
 言葉に詰まるアルベルを横目に
「そうですネ。ワタシに、クロエとか女の名前を聞いていましたシ」
 少女が、からかうように言った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み