プロローグ
文字数 1,082文字
「本当に、こちらのお屋敷で?」
ランプを片手に、管理人は眉を寄せる。
「理事長は、好きな空き家を使ってもいいと言っていたが」
青色の長い髪を、花の模様が装飾されたバレッタで留めた若い女性、エリス・キュアノエイデス。同色の切れ長の瞳、透き通るような白い肌、端整な顔立ち。淡いランプの光に照らされ、夜の闇に映える。
「と、とにかく警告はしましたよ」
管理人は、逃げるように去る。
エリスは肩を竦めると
「荷物の整理は、明日にして今日はもう休むことにしよう」
この屋敷は、元々は貴族お抱えの錬金術師に与えられた。いつの間にか、研究は放棄され空き家。そういった屋敷が、この辺りにはいくつか存在する。
「幽霊なんて、いるわけがない」
おそらく、発光系の薬剤が床にでもこぼれたのを管理人が見たのだろう。 それを夜中に見て、幽霊だと勘違いしたのだ。
翌日。焼き立てのパンの香りに誘われて、エリスは食堂の椅子へと座る。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
「本日は、ブルーベリージャムを御用意しました」
「手作りのジャムか。紅茶はある?」
「はい、南方より質の良い紅茶を仕入れました」
ジャムの入った小瓶に手を伸ばし、エリスは違和感に眉を寄せる。
「何だ、君は?」
エリスの足元から、徐々に床が黒く焦げていく。
「ルルドと申します」
執事のように礼儀正しく答える。
「名前は、聞いていない」
エリスは、頭一個分、背の低い黒髪の少年に視線を向ける。
「この、不法侵入者め」
「僕から見たら、貴方の方が不法侵入者ですけどね」
ルルドは困り顔を浮かべる。
「何を言っている。ここは、だいぶ前から空き家のはずだ」
「そうですね。いつの間にか、そうなっていました」
「最近、目覚めたような口振りだな」
怪訝そうなエリスに
「この屋敷には、錬金術師が使う研究所が二つ存在します。ちょうど僕がいた研究所は、この屋敷の北側にある東屋の地下です」
かなり分かりにくい場所のため、誰も気付かなかったとルルドは語る。
「何をしていいか、分からなかったので」
とりあえず、新しく引っ越して来た錬金術師が出かけている間に、こっそり夕食を作ってテーブルの上に用意した。
ルルドは唇を尖らせると
「そしたら、幽霊扱いですよ」
不本意です、と続ける。
エリスは額に手を当てながら
「気味が悪すぎるだろ」
そう呟いた。
「貴方みたいに、真夜中に引っ越して来た方は初めてだったので、こうして朝から朝食を御用意させていただきました」
得意気にルルドが語った。
ランプを片手に、管理人は眉を寄せる。
「理事長は、好きな空き家を使ってもいいと言っていたが」
青色の長い髪を、花の模様が装飾されたバレッタで留めた若い女性、エリス・キュアノエイデス。同色の切れ長の瞳、透き通るような白い肌、端整な顔立ち。淡いランプの光に照らされ、夜の闇に映える。
「と、とにかく警告はしましたよ」
管理人は、逃げるように去る。
エリスは肩を竦めると
「荷物の整理は、明日にして今日はもう休むことにしよう」
この屋敷は、元々は貴族お抱えの錬金術師に与えられた。いつの間にか、研究は放棄され空き家。そういった屋敷が、この辺りにはいくつか存在する。
「幽霊なんて、いるわけがない」
おそらく、発光系の薬剤が床にでもこぼれたのを管理人が見たのだろう。 それを夜中に見て、幽霊だと勘違いしたのだ。
翌日。焼き立てのパンの香りに誘われて、エリスは食堂の椅子へと座る。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
「本日は、ブルーベリージャムを御用意しました」
「手作りのジャムか。紅茶はある?」
「はい、南方より質の良い紅茶を仕入れました」
ジャムの入った小瓶に手を伸ばし、エリスは違和感に眉を寄せる。
「何だ、君は?」
エリスの足元から、徐々に床が黒く焦げていく。
「ルルドと申します」
執事のように礼儀正しく答える。
「名前は、聞いていない」
エリスは、頭一個分、背の低い黒髪の少年に視線を向ける。
「この、不法侵入者め」
「僕から見たら、貴方の方が不法侵入者ですけどね」
ルルドは困り顔を浮かべる。
「何を言っている。ここは、だいぶ前から空き家のはずだ」
「そうですね。いつの間にか、そうなっていました」
「最近、目覚めたような口振りだな」
怪訝そうなエリスに
「この屋敷には、錬金術師が使う研究所が二つ存在します。ちょうど僕がいた研究所は、この屋敷の北側にある東屋の地下です」
かなり分かりにくい場所のため、誰も気付かなかったとルルドは語る。
「何をしていいか、分からなかったので」
とりあえず、新しく引っ越して来た錬金術師が出かけている間に、こっそり夕食を作ってテーブルの上に用意した。
ルルドは唇を尖らせると
「そしたら、幽霊扱いですよ」
不本意です、と続ける。
エリスは額に手を当てながら
「気味が悪すぎるだろ」
そう呟いた。
「貴方みたいに、真夜中に引っ越して来た方は初めてだったので、こうして朝から朝食を御用意させていただきました」
得意気にルルドが語った。