ホムンクルスの訪問

文字数 1,111文字

「それより、こいつは幽霊なのか? 屋敷のことに詳しいんだろ」
 アルベルに視線を向けられ
「足があるし、幽霊ではないと思います」
 ルルドが答える。
「そういうことを聞いて……」
「テベット看護師?」
 アルベルの疑問に答えたのは、エリスの声だった。
「あ、エリス様。ごきげんようでス」
「先生の知り合いか?」
 親しそうな様子を見てアルベルが言う。
「入院中している兄の世話をしてくれているんだ。しかし、どうしてここに?」
テベットは頷くと
「緊急の要件がありましテ。正面からは時間がかかるのデ、こちらから入らせてもらいましタ。なぜカ、幽霊と勘違いされていまス」
 エリスに事情を説明する。
 確かに、病院から森などを抜ければアトリエから入ることが効率的だ。
「ううっ、幽霊が……」
 床で唸っているクロード。
「よかった、怪我してないわね」
 ミシュナがホッとした表情を浮かべる。
 エリスは小さな溜息をつく。
「できることなら、普通に玄関から入ってくれ」
「今度かラ、そうしまス」
テベットが律儀に頭を下げる。
「急いで来る必要もなかったかしら」
 床に倒れた魔物を見て、フラウが言った。
 そして、砕けた石の方へと視線を移す。
「……石の方も問題なさそうですね。純度が低いだけに、すぐに割れたようです」
「あはは、うっかり手で壊してしまいまして」
 ルルドの手の平から、微かに血が滲んでいた。
「少し切れていますね。サービスしておきます」
 フラウはその手を握り、傷を癒していく。
「空飛ぶ人魚……」
 眉を寄せるアルベルに
「フラウだって、言ってたよ」
 やっぱり先生ってすごいよね、とミシュナが言った。
 窓の外からは、いつの間にか穏やかな陽光が降り注いでいる。
「急に、晴れたね。なんだか、少し疲れちゃった」
 ミシュナが一息つく。
 それを見ていたルルドは
「エリス様、今日は皆さんを先に返した方がいいです。クロード君もこの状態ですし、僕が送っていきます」
 アルベル君も手伝ってください、と続けた。
「なんで俺が」
「怪我をした僕に、一人で彼を運べと?」
「さっき、治療してもらってなかったか」
 文句を言いながらも、アルベルはルルドと一緒にクロードを起こす。
「そうだ、リア先生……大丈夫かな?」
ルルドは、ミシュナに視線を向ける。
「そういえば、一緒に来なかったんですか」
「私たちのこと、あの魔物から庇ってくれたの。怪我もして……」
「分かりました。リア先生の所へ、寄って行きましょう」
 こちらのことはお任せください、とエリスにルルドが言った。
「すまない、頼んだ。私は、テベットと話がある」

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