逆さまの魔物

文字数 1,168文字

「今のクロードの声だわ……」
 クロードの悲鳴に、ミシュナが顔を強張らせる。
 エリスは足を早めながら
「なにか、あったのか?」
『――テ』
 耳鳴りに、額を押えた。
「……今日は、やたら話すな」
「先生、やっぱり体調が?」
 ミシュナが不安そうな表情で見上げる。
「多分、低気圧のせい――」
「危ないですわ」
 リアがエリスを庇うように倒れる。
「な……」
「……グルルルル」
狼の姿をした魔物が、鋭い牙を剥き出しにしてこちらを睨みつけている。
 そして、異常なことにそれは重力を無視して逆さまの状態。
「う、嘘、こんな近くに魔物が……」
 ミシュナが激しく動揺をする。
「ううっ……」
 リアが傷みに顔を歪める。
 石を持っていた右手から血が流れるのを見て
「すいません、私を庇った時に……」
 エリスが申し訳なさそうな表情をする。
「いえ、少し手の甲を引っ掻かれたようで……それより、魔物が」
「ガウルルルル」
「ひっ」
 魔物がミシュナに向かって襲いかかる。
「ミシュナ!」
 エリスが声を荒げる。
ミシュナと魔物の間を、青い炎が遮った。
それに怯んだのかは分からないが、魔物は床に落ちた珍しい石を咥えて去って行った。
「た、助かったの?」
 ミシュナは、その場に座り込む。
(あの魔物、なぜ石を……)
エリスは眉を寄せる。
「今は、三人を探す方が先だ。他にも魔物が入っていたら、危ない」
「そうですわね」
 リアが左足を押え、痛みに顔を歪める。
「ごめんなさい、さっき足を捻ったみたいですわ。私はここで待っていますので、エリスさんとミシュナさんは先に行ってください」
「しかし、危険では……」
 エリスが戸惑うのを見て
「私も、錬金術師ですわ。いざという時の対処はできています」
 リアが諭すように言った。
「今は、無防備な生徒の方が危険なはずです」
「すみません、早めに戻ります。ミシュナ、歩けるか?」
 エリスがミシュナに視線を向ける。
「う、うん、なんとか……」
 エリスはミシュナを連れ、三人が向かった研究室の方へと急いだ。

♦♦♦

幽霊のような存在に驚き、クロードは床に倒れて気を失っている。
 その時に巻き添えをくらい、ルルドは壁に頭をぶつけて気絶。
「……私のどこが、幽霊ですカ。こんな可愛い美少女居ませんヨ」
「に、人間なのか?」
 戸惑いながらも、アルベルはそれに問いかける。
「近いけど、遠い……まったく、マスターの命令で来てみれバ」
 ややこしい状態ですネ、と深い溜息をついた。
 アルベルは深く深呼吸をし、目の前の人物に問いかけた。
「なあ、もしそっちの世界があるなら……クロエを」
「話は後でス、まずは後ろのソレを片付けましょウ」
逆さまに立つ少女の視線は、アルベルの背後に向けられていた。


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