カノープスの丘

文字数 1,091文字

「貴様が、やはりライル・フラメルか」
 アルベルが、ルルドの襟元を掴む。
「乱暴な奴だな。少しは、人の話を聞こうと思わないのか」
 ルルドが手を払い退ける。
 アリベルは眉間に皺を寄せた。
「今まで本性隠して、おちょくっていたくせによくいう」
「嘘はついていない、本当に忘れていた」
「ちょうど、悪い所に頭が当たった」
「記憶喪失だったとでも?」
 信じられるか、とアルベルは怪訝な表情を浮かべる。
「最近の若者は、疑り深くていけない」
 ルルドは頭を掻く。
「クロエだったか……どうせ、好きな女を生き返らせてやるから協力しろとくらい言われてるんだろ」
 アルベルが、氷の様に冷たい視線をルルドに向ける。
「クロエは、死んでいない」
「魂が、門の向こうから返ってこないか?」
「……」
 ルルドの言葉に、アルベルは無言。
「図星だな」
 ルルドは肩を竦めた。
「無気力症は、知っているな」
 シェオール門に接触することで、魂を向こう側に引きずり込まれる。
 その結果、無気力状態になる他に眠り続ける現象が発生。
「……俺が、試してみようと言ったんだ」
 アルベルがゆっくりと口を開いたのを見て、ルルドは興味深そうな表情を浮かべる。
「ほう?」

「俺が、錬金術を試そうって誘った」
 しかし、その結果は――
「興味本位で、試したのか?」
 ルルドの問いに、アルベルは首を横に振る。
「クロエは元々、病弱で……そんな時、先生が教えてくれたんだ」
 ウロボロスが願いを叶えてくれる。
「だが、実際は失敗だ」
アルベルは、ルルドに視線を向ける。
「お前なら、何が足りなかったか分かるんじゃないのか」
 ルルドは、落胆するように深い溜息をつく。
「……普通は、おかしいと気付くものだがな。なんでも願いが叶う、ご都合主義があるわけないだろう」
 ルルドは肩を竦めた。
「お前は、先生とやらの実験に使われたんだ。屋敷で見た、石に似た奴をもらって使えと言われたんだろう」
「そんなはずは……先生が、約束してくれたんだ」
 アルベルが激しく動揺。
「それを、これから証明する」
 ルルドはカノープスの丘の方角に視線を向ける。
「あの女が、信用できるかできないかは自分の目で確かめろ」

♦♦♦
「今日は最高に気分がいい」
 かつて、有名な貴族の屋敷が建てられたいた場所。
 現在はカノープスの丘として、観光名所になっているが整備された石畳や鮮やかな花が植えられた庭園は、貴族として繁栄していた名残がある。
「自由とは、素晴らしい。そうは思わないか?」
 青年は、後方に立つ人物へと視線を向けた。

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