錬金術師養成学園

文字数 1,043文字

「ウロボロス?」
「門の向こう側の存在だ。ウロボロスに会えれば、神父様を取り戻せる」
「……兄さんあれは?」
 少女の声に
「必要な道具を揃えただけさ」
 少年が答える。
 片手にナイフを握り、横たわる黒衣の男達。
 床には、真紅の液体が滴り落ちている。
 それは文字を描くように、徐々に変化していく。
「……ひっ」
 少女は目を逸らした。
「自業自得さ。最後に、一人が宝を独占したくなったんだ。こいつらの血でも、疑似的な賢者の石の代わりに使える」
「兄さん、辞めて。錬金術は、死者の蘇生には使えないって神父様も……」
 行かないで、と必死に手を伸ばした。
 しかし、兄の手を少女は掴むことは出来なかった。
「……嫌な夢」
 エリスは、ベッドから上半身を起こす。
 支度を整えて、食堂へと向かう。
「おはようございます」
 朝食のパンを、ルルドがテーブルに並べる。
「顔色が悪いようですが?」
「問題ない。夢見が悪かっただけだ」
 エリスが席に着く。
「そうですか。今日は、早いですね」
「今日は、初仕事の日だからな」
 ルルドはキョトンとした表情で
「え?」
「私は、学園の教師として理事長に呼ばれたんだ」

主要都市アアルには、錬金術養成学園があり何人もの錬金術師を輩出している。
「……」
 ルルドがエリスにジト目を向ける。
「何だ?」
「エリス様、弟子は取らないと言ってましたよね」
「そうだが?」
「先生ってことは、生徒は弟子みたいなものでは?」
 エリスは首を傾げる。
「生徒と弟子は違うだろ」
「もう、知りません」
 頬を膨らませ、ルルドは食堂を出て行く。
「あれは、拗ねたのか?」
 エリスは焼き立てのパンを口にしながら
「よく分からない奴だな」
 肩を竦めた。

「君のような優秀な人材が来てくれると非常にありがたい」
 色々と人手が足りなくてね、と眼鏡を掛けた青年が言った。
 錬金術師養成校の創設者にして理事長、ユーリス・トニトルス。
 見た目は二十代前半に見えるが、錬金術を極めると年齢はあてにならない。
(噂では、もう百歳超えているとか……)
 エリスの心の中を読み取ったのか
「こう見えても現役バリバリさ」
 無駄なマッスルポーズで若さをアピール。
「は、はあ……」
 エリスは苦笑い。

「そういう所が、オジサンですわ」
 ユーリスの隣に立つ、痩身の女性が呆れた口調で言った。
「秘書のリアですわ。よろしく、エリスさん」
 女性は蠱惑的な笑みを浮かべる。
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