古代からの因縁

文字数 1,880文字

「ふん、忌々しいのはこっちの台詞や……」

「ちょ、ちょっと、ヒヨっち⁉」

「なんや?」

 ヒヨコが葵に視線を向ける。

「あ、あいつらのこと、知っているの?」

「……」

「え?」

「……知らん」

「い、いや、今のは絶対知っている間でしょ⁉」

「まあ……」

「まあ?」

「知らん寄りの知っている……」

「やっぱり知ってんじゃん!」

「だから細かかことはよか!」

「細かくないって! かなり大事なことでしょ⁉」

「……あいつらは奴邪国の末裔じゃ」

「ヌヤ国⁉」

「まさか……」

 爽がずれた眼鏡を直しながら呟く。葵が尋ねる。

「知っているの、サワっち⁉」

「奴邪国……古代、九州を中心に西日本に広い領土を持っていたとされる大国です……」

「邪馬台国とは違うの?」

「邪馬台国との激しい争いの末、滅んだと……」

「まだ滅んではいない! 我らがいる!」

 兵士たちを統率する男が叫ぶ。

「ふん……」

「なるほど、獅源さんの恰好を見て、古代の女王だと勘違いしたと……」

 葵が舞台上の獅源を見る。獅源が頬に手を当てる。

「まさか女王に間違われるとは……役者冥利に尽きますねえ……」

「なっ⁉ 役者だと⁉」

「ええ、アタシは涼紫獅源と言います。自分で言うのもなんですが、江戸では結構知られた歌舞伎役者です。今後ともご贔屓に……」

 獅源がうやうやしく礼をする。統率する男が戸惑う。

「お、男だったとは……」

「ふん……」

 ヒヨコが鼻で笑う。

「わ、笑うな! ここで会ったが千年目! お前を懲らしめてやる!」

 統率する男がヒヨコを指差す。

「やれるもんなら……やってみぃ!」

「うおおっ⁉」

 ヒヨコが両手を交差する。炎が巻き起こり、兵士たちが後退を余儀なくされる。

「はっ、口ほどにもない……」

「お、おのれ……!」

「何をやっている……」

「モ、モクコ様⁉」

 後方から、長身の男が現れる。統率する男らと似たような服装をしている。

「きさんは……」

「奴邪国四天王、モクコだ……火の巫女か……念の為、身柄を確保させてもらおう」

「そがんことが出来るか?」

「出来るさ……!」

「むっ⁉」

 モクコが手をかざすと、地中から木が生えて、ヒヨコを襲う。

「枝や蔓で貴様の自由を奪う……!」

「させるか! ⁉」

 ヒヨコが炎を巻き起こすが、モクコが生じさせた木はそれをものともしない。

「我は木の術者だ……火に対する策など用意してある……」

「……太くて丈夫な木! 耐火性も十分!」

「そういうことだ……もらった!」

 モクコが右腕に木を生やす。木は鋭く尖っている。その先端をヒヨコに向ける。

「くっ!」

「ならば……」

「上杉山流奥義……」

「なに⁉」

 デニスが手をかざし、雪鷹が竹刀をかざすと、大木が一瞬で凍り付く。

「……氷への対策はしていなかったようだな」

「むう……」

「もらった!」

「ぬうっ!」

 ヒヨコが術でモクコが右腕に生やした木を燃やす。

「今度は体を燃やす!」

「おのれ!」

「おっと⁉」

 詰め寄ろうとしたヒヨコの足元から木が生える。ヒヨコは思わず足を止める。

「間合いを詰めたのは悪手だな! これで……⁉」

 モクコが左腕に木を生やし、ヒヨコを貫こうとするが、その首先に葵が薙刀を突きつける。

「ヒヨっちを傷つけるのなら許さない……!」

「……貴様は誰だ?」

「大江戸幕府第二十五代将軍、若下野葵!」

「将軍だと? ほう……ここは撤退させてもらうか」

 モクコが踵を返し、すたすたと歩き出す。統率する男が声を上げる。

「お、お前ら、ここは退くぞ!」

 その声に従い、兵士たちも足早にその場から離れる。ヒヨコがため息をつく。

「ふう……」

「ねえ、ヒヨっちってさ……」

「ん?」

「邪馬台国の女王様の末裔だったりするの?」

「~~♪」

「口笛吹いた⁉ 誤魔化し方が下手!」

「と、とにかく細かかことはよか!」

「全然細かくないよ!」

「ティ、ティムも戻ってきた! それで良かじゃろう!」

 その後、お祭りは開かれ、奉納舞も行われることになった。葵がクロエに尋ねる。

「……ところでさ、体育会の二人は対馬まで何の用で来たんです? 交流の一環?」

「その前に休みをとったのですが……この方にチケットを任せたのが間違いでした……」

「ゲームで遊んで楽しかったから来てみた……!」

 自らの額を抑えるクロエの横で雪鷹がグッと右手の親指を突き立てる。

「ぐ、偶然だったんですね……こちらとしては大変助かったけど……」

「……ありがとうございました」

 舞台から降りた獅源に爽が声をかける。

「涼紫様、見事な奉納舞でした……葵様からの好感度上昇チャンスを活かしましたね……」

「! ふふっ、それはそれは……さっそくご利益がありましたね」

 獅源が笑みを浮かべる。
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