謎の兵士出現
文字数 2,035文字
「ふう……あら?」
リハーサルの休みに入った獅源が舞台から降りると、葵たちに気付く。
「獅源さん、こんなところでなにを?」
「いやあ、お祭りで特別な舞を奉納するということで……それでこのアタシに白羽の矢が立ったようで……スケジュールの都合もちょうど合ったのでお受けしようと……」
「そうだったんですか……」
「上様もなかなか賑やかな視察旅行をされておられるみたいですねえ」
獅源がデニスやヒヨコを見ながら呟く。
「ははっ、旅は道連れというか……」
「……女の人?」
「いや違うぞ、エマ。この人は女形と言って、男性が女性を演じるんだ」
「へえ……」
首を傾げるエマに対し、デニスが説明する。
「ふふっ、大分珍しいかしらねえ?」
獅源がエマに向けてウインクする。
「サワっち、これからの予定は?」
「夕方まで各地の視察を行った後、夜はこちらのお祭りの奉納舞をご覧いただきます」
葵の問いに爽が答える。
「そうなんだ……」
「へえ、それじゃあ、上様に見て頂けるのですね? さらに気合いが入るというものです」
獅源が笑みを浮かべる。葵がデニスに尋ねる。
「どうする? ここで待つ?」
「いや……組織の狙いと言ったが、具体的にはこのツシマのどこで何をするつもりなのかが不明だ……帯同させてもらえるなら助かる」
「そうだね、エマちゃんも心配だし、その方が良いと思う。良いよね、サワっち?」
「ええ、大丈夫です。問題ないです」
爽が頷く。葵が獅源に手を振る。
「それじゃあ獅源さん、また夜に」
「はい、上様も皆様もどうぞお気をつけて……」
獅源が頭を下げる。葵たちは対馬各地の視察へと向かう。
「ふう~食べた食べた♪」
葵たちは対馬の郷土料理を食した。葵は満足気に店を出る。爽が咳払いをする。
「こほん、葵様……」
「はっ、ごめん! デニスさん、エマちゃん! ティムが大変な時に……」
「いや、いい……腹が減ってはなんとやらとも言うしな」
「あ、ああ……」
「食事をすることで気も紛れ、頭もよく回ってきた……」
「そ、そう言ってもらうと助かるよ……」
ヒヨコが尋ねる。
「葵、どうやった、対馬の黄金穴子は?」
「ああ、うん。すごい美味しくて、穴子に対する印象が大きく変わったよ……」
「そうじゃろう、そうじゃろう!」
ヒヨコが深々と頷く。
「……この対馬が日本最大の穴子産地なのです」
「えっ、そうなんだ⁉」
爽の説明に葵は驚く。ヒヨコも目を丸くする。
「そうなんや……」
「……ヒヨっちも知らないんじゃん」
「こ、細かかことはよか!」
「まあいいや……デニスたちはなにを食べていたの? 麺類だったよね?」
「ろくべえというものだ」
「ろくべえ……そういう名前のうどんなんだ?」
「いや、あれはサツマイモを原料としてつくられたもんや」
「サツマイモ?」
ヒヨコの言葉に葵が首を傾げる。
「こん対馬という土地は平地が少ないから米の収穫量が乏しく、昔からサツマイモの栽培が奨励されていたけんね」
「そうなんだ……」
「対馬と島原半島でしか食べられていない麵料理や」
「ほ、本当にローカルだね……」
ヒヨコの説明に葵が頷く。
「午後もいくつか視察する場所があります。行きましょう」
爽が声をかけて、葵たちは移動する。
「……ふう、ここまで戻ってきた……」
夕方になり、葵たちは初めに訪れた神社に戻ってきた。
「予定よりも早く済みましたので、最終リハーサルが行われていますね」
爽の言葉通り、境内に特設された舞台の上で、衣装を身に纏い化粧をした獅源が舞っている。既に何十人か集まっている観客は獅源の優雅な舞にすっかり魅了されている。
「ふむ……」
「葵様、なにか気になることでも?」
「いや……獅源さんの衣装が変わっているなって思って……」
「変わっている?」
「なんていうのかな……平安っぽい感じってより、もっと前の時代のような……」
「そう言われると、神話から出てきたような……」
葵は苦笑しながら後頭部を掻く。
「いや、私は時代に全然明るくないんだけど……」
「そん見込みはあながち間違うとらん……」
「え? どういうこと?」
ヒヨコの呟きに葵は首を捻る。
「……おいでなすった」
「え? ⁉」
葵が周囲を振り回すと、古代の時代から飛び出してきたかのような姿をした兵士たちが舞台を包囲する。兵士たちを統率する男が声を上げる。
「見つけたぞ、女王!」
「はて? 女王?」
獅源が不思議そうに小首を傾げる。
「しらばっくれても無駄だ! 捕まえろ!」
「!」
「サワっち!」
「はい!」
葵は薙刀を取り出して、爽とともに、兵士たちの前に飛び出す。
「なんだ、お前ら⁉」
「それはこっちの台詞!」
「まあいい! まとめて確保しろ!」
「こがん大変な時に!」
「ヒヨコ! こいつらは何者だ⁉」
デニスがヒヨコに尋ねる。
「やつらは……⁉」
「妹ちゃんを確保しに来てみたら、予想外のことになっているわね……」
「よく分からんが、面倒な事態だということはよく分かる……」
「ユエとタイヤンか!」
ユエとタイヤンの姿を見つけ、デニスが声を上げる。
リハーサルの休みに入った獅源が舞台から降りると、葵たちに気付く。
「獅源さん、こんなところでなにを?」
「いやあ、お祭りで特別な舞を奉納するということで……それでこのアタシに白羽の矢が立ったようで……スケジュールの都合もちょうど合ったのでお受けしようと……」
「そうだったんですか……」
「上様もなかなか賑やかな視察旅行をされておられるみたいですねえ」
獅源がデニスやヒヨコを見ながら呟く。
「ははっ、旅は道連れというか……」
「……女の人?」
「いや違うぞ、エマ。この人は女形と言って、男性が女性を演じるんだ」
「へえ……」
首を傾げるエマに対し、デニスが説明する。
「ふふっ、大分珍しいかしらねえ?」
獅源がエマに向けてウインクする。
「サワっち、これからの予定は?」
「夕方まで各地の視察を行った後、夜はこちらのお祭りの奉納舞をご覧いただきます」
葵の問いに爽が答える。
「そうなんだ……」
「へえ、それじゃあ、上様に見て頂けるのですね? さらに気合いが入るというものです」
獅源が笑みを浮かべる。葵がデニスに尋ねる。
「どうする? ここで待つ?」
「いや……組織の狙いと言ったが、具体的にはこのツシマのどこで何をするつもりなのかが不明だ……帯同させてもらえるなら助かる」
「そうだね、エマちゃんも心配だし、その方が良いと思う。良いよね、サワっち?」
「ええ、大丈夫です。問題ないです」
爽が頷く。葵が獅源に手を振る。
「それじゃあ獅源さん、また夜に」
「はい、上様も皆様もどうぞお気をつけて……」
獅源が頭を下げる。葵たちは対馬各地の視察へと向かう。
「ふう~食べた食べた♪」
葵たちは対馬の郷土料理を食した。葵は満足気に店を出る。爽が咳払いをする。
「こほん、葵様……」
「はっ、ごめん! デニスさん、エマちゃん! ティムが大変な時に……」
「いや、いい……腹が減ってはなんとやらとも言うしな」
「あ、ああ……」
「食事をすることで気も紛れ、頭もよく回ってきた……」
「そ、そう言ってもらうと助かるよ……」
ヒヨコが尋ねる。
「葵、どうやった、対馬の黄金穴子は?」
「ああ、うん。すごい美味しくて、穴子に対する印象が大きく変わったよ……」
「そうじゃろう、そうじゃろう!」
ヒヨコが深々と頷く。
「……この対馬が日本最大の穴子産地なのです」
「えっ、そうなんだ⁉」
爽の説明に葵は驚く。ヒヨコも目を丸くする。
「そうなんや……」
「……ヒヨっちも知らないんじゃん」
「こ、細かかことはよか!」
「まあいいや……デニスたちはなにを食べていたの? 麺類だったよね?」
「ろくべえというものだ」
「ろくべえ……そういう名前のうどんなんだ?」
「いや、あれはサツマイモを原料としてつくられたもんや」
「サツマイモ?」
ヒヨコの言葉に葵が首を傾げる。
「こん対馬という土地は平地が少ないから米の収穫量が乏しく、昔からサツマイモの栽培が奨励されていたけんね」
「そうなんだ……」
「対馬と島原半島でしか食べられていない麵料理や」
「ほ、本当にローカルだね……」
ヒヨコの説明に葵が頷く。
「午後もいくつか視察する場所があります。行きましょう」
爽が声をかけて、葵たちは移動する。
「……ふう、ここまで戻ってきた……」
夕方になり、葵たちは初めに訪れた神社に戻ってきた。
「予定よりも早く済みましたので、最終リハーサルが行われていますね」
爽の言葉通り、境内に特設された舞台の上で、衣装を身に纏い化粧をした獅源が舞っている。既に何十人か集まっている観客は獅源の優雅な舞にすっかり魅了されている。
「ふむ……」
「葵様、なにか気になることでも?」
「いや……獅源さんの衣装が変わっているなって思って……」
「変わっている?」
「なんていうのかな……平安っぽい感じってより、もっと前の時代のような……」
「そう言われると、神話から出てきたような……」
葵は苦笑しながら後頭部を掻く。
「いや、私は時代に全然明るくないんだけど……」
「そん見込みはあながち間違うとらん……」
「え? どういうこと?」
ヒヨコの呟きに葵は首を捻る。
「……おいでなすった」
「え? ⁉」
葵が周囲を振り回すと、古代の時代から飛び出してきたかのような姿をした兵士たちが舞台を包囲する。兵士たちを統率する男が声を上げる。
「見つけたぞ、女王!」
「はて? 女王?」
獅源が不思議そうに小首を傾げる。
「しらばっくれても無駄だ! 捕まえろ!」
「!」
「サワっち!」
「はい!」
葵は薙刀を取り出して、爽とともに、兵士たちの前に飛び出す。
「なんだ、お前ら⁉」
「それはこっちの台詞!」
「まあいい! まとめて確保しろ!」
「こがん大変な時に!」
「ヒヨコ! こいつらは何者だ⁉」
デニスがヒヨコに尋ねる。
「やつらは……⁉」
「妹ちゃんを確保しに来てみたら、予想外のことになっているわね……」
「よく分からんが、面倒な事態だということはよく分かる……」
「ユエとタイヤンか!」
ユエとタイヤンの姿を見つけ、デニスが声を上げる。