シャッフルゴミ拾い

文字数 2,077文字

「む……」

「何か問題でも?」

「いえ、別に……」

「金銀お嬢様! 氷戸様の口車に乗っては危険です……!」

「分かっています」

 将司が金銀に耳打ちする。金銀としてもそれについてはよく理解している。そこに光ノ丸が畳みかけてくる。

「まさか、稀代の勝負師が挑まれた勝負から逃げるわけではあるまいな?」

「! ……良いでしょう、氷戸様もご参加下さい」

「金銀お嬢様! それでは当初の予定が……!」

「落ち着きなさい、想定内です」

「そ、想定内って……」

「では、三組の男女で一番多くゴミを集められた組が勝ちということだな?」

 光ノ丸の問いに、金銀が首を振る。

「それでは面白くありません」

「なに?」

「男女の組み合わせを変えましょう」

「なんだと?」

「ほう……」

 光ノ丸が驚き、光太は顎に手をやって呟く。

「組み合わせは……そうですね、あみだくじで決めましょうか」

 金銀がその辺から拾った枝を用いて、砂浜にあみだくじを書く。爽が結果を見て呟く。

「……結果はこのような組み合わせですね」

「余と尾成殿か……絹代は?」

「私は新緑先生とです」

「私は山王さんとか……よろしくお願いします」

「よ、よろしくお願いします。ちょ、ちょっとすみません! 金銀お嬢様⁉ 本当にこれでよろしいのですか⁉」

 将司は再度金銀に耳打ちする。

「問題ありません。狙い通りです」

「ね、狙い通りって……」

「いいですか、将司? 私のこの夏合宿での目標は“将愉会の切り崩し”です」

「切り崩し……」

「そうです。単なる怪しげな集まりかと思っていた将愉会、蓋を開けてみれば、なかなか興味深い面子が揃っています。若くして著名な文化人三人に、町奉行二人、体育会会長、そして、勘定奉行兼教師! 人数こそ多くはありませんが、その影響力はけして馬鹿に出来たものではありません」

「言われてみれば確かに……」

「そういうことです」

「い、いや、しかしですね! 切り崩しと言ってもどうすれば良いのですか⁉」

「この場合は上様と貴方の組が一番いい結果を出せば良いのです。新緑先生と風見さんの組に大差をつければ、上様の新緑先生への信頼は揺らぐことでしょう」

「な、なるほど……ん? 金銀お嬢様はどうされるのですか?」

「私はまあ……適当にこなします。とにかく将司、貴方の活躍にかかっていますから」

「そ、そんな⁉」

「……ひそひそ話は終わったか?」

 光ノ丸が声をかける。金銀はコホンと咳払いを一つして、口を開く。

「失礼致しました……それでは開始と行きましょうか!」

 金銀が懐から取り出した扇子をバっと広げる。ゴミ拾い勝負が始まった。

                  ♦

「ふむ……とにかく手当たり次第に拾っていくか」

「甘いですね、氷戸様」

「なんだと?」

 光ノ丸が険しい視線をペア相手の金銀に向ける。

「ゴミ拾いも将棋も一緒……二手三手先を読む必要があるのです」

「何を言っているのかさっぱり分からんぞ」

「小さいゴミを拾い集めていたら、いざ大きいゴミを拾おうとした際、ゴミ袋がパンパン……ゴミ袋の交換をしている間に、その狙っていた大きなゴミを他の誰かに拾われてしまう……そうなってしまっては目も当てられません」

「た、確かに、言われてみれば……」

「まずは大物から狙っていきましょう」

「分かった」

 金銀と光ノ丸はゴミ探しを始める。

                  ♦

「さて……如何しますか、先生?」

 絹代が光太に問う。

「まずはゴミ袋を複数枚用意しましょう」

「複数枚ですか?」

「ええ、そしてゴミを一か所に集め、それから一気に回収します」

「なるほど……効率的ですね。流石は勘定奉行様です」

「奉行云々はあまり関係無いと思いますが……早速取り掛かりましょう」

                  ♦

「う、上様、如何いたしましょうか?」

「? とにかく片っ端から拾いましょうよ」

「は、はあ……」

「というか、それしかなくないですか?」

「お、おっしゃる通りです」

「じゃあ、ドンドン行きましょう!」

「は、はい!」

                  ♦

「それでは結果を発表します……優勝は葵様と山王さんのペアです」

「やったぁ! やりましたね、山王さん!」

「え、ええ……」

「第二位は新緑先生と風見さんペアです」

「僅差で及ばずですか、申し訳ありません……」

「いえ、私は大変感銘を受けました……いつもアホの相手しかしていなかったので……」

「そ、そうですか……」

 絹代の熱い視線から光太は思わず目を逸らす。

「第三位は氷戸様と尾成様ペアです」

「負けましたね!」

「大差で負けてしまったではないか! 何が二手三手先を読むだ!」

「考え過ぎも良くないということですね~」

「くっ! これではただ単に屈辱を味わっただけではないか! 絹代、行くぞ!」

「……はい」

 光ノ丸と絹代はその場から去っていく。

「なかなか良い勝負でした。ですが、次は後れを取りませんよ」

「は、はあ……え、次?」

「それではご機嫌よう!」

「し、失礼します……」

 金銀と将司も去っていく。

「ひょ、ひょっとして、合宿中、ずっとこの調子……?」

 葵は天を仰いだ。
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