江の島ー1グランプリ
文字数 1,801文字
「いや~熱いライブでしたね~どうもありがとうございました! 皆さん今一度『四神』に大きな拍手を!」
「わあっ~!」
司会の言葉に観客が応える。
「さあ、続いては……このコンビの登場です!」
(コンビ?)
客席にいる爽が首を傾げる。
「「はい、どうも~」」
金銀と将司が拍手をしながらステージの中央に出てくる。
「はい、山王です!」
「金銀です!」
「二人揃って!」
「「将ズで~す‼」」
(こ、これは漫才⁉ ま、まさかの演目!)
爽が露骨に戸惑う。
「いや~楽しくやっていきたいなと思っていますけどね」
「そうですね」
「ところで金銀さん」
「はい、なんでしょう?」
「僕、彼女が欲しいんですよ~」
「ごめんなさい!」
金銀が勢いよく頭を下げる。
「いや、違いますよ! なんで僕がフラれたみたいになるんですか⁉」
「遠まわしなプロポーズかと……」
「そんなこと、ステージ上でしないでしょう……」
「でも待って。貴方、彼女いらっしゃいませんでした?」
「それが……ちょっと前に別れちゃったんです……」
「なんでまた?」
「まあ……簡単に言うと、価値観の違いですかね~」
「あら、そんなことで?」
「そんなことって、大事ですよ、価値観は」
「価値観って具体的に言うと何ですか?」
「え? 例えば……趣味がピッタリ合うとか……」
「趣味が合うというのも考えものですよ~」
金銀が首を捻る。
「そうですかね? 楽しいと思いますよ」
「では貴方、趣味は何ですか?」
「え、そうですね、将棋ですかね……」
「将棋! じゃあ、貴方が将棋好きの彼氏で……」
「はい」
「あそこの女性に将棋好きの彼女をやってもらいましょう」
金銀が客席の女性を指し示す。
「いや、なんでですか⁉ そこは金銀さんが彼女役をやるところでしょう⁉」
「あ、そういうパターン?」
「他にどんなパターンがあるんですか?」
「分かりました。じゃあ、デートで待ち合わせという体でいきましょう」
「急に始まるな……」
「ごめんなさ~い、待った?」
「いや、大丈夫、大丈夫。今来たところだよ」
「朝の詰将棋がなかなか解けなくて……」
「詰将棋⁉ 髪のセットが決まらなくてとかじゃなくて⁉」
「それで今日はどこを囲うの?」
「か、囲う⁉」
「ええ、まずは守りを固めてからでしょう?」
「動物園でも行こうかなって……熊の赤ちゃんが生まれたらしいよ」
「穴熊ね、OK」
「OKって……」
「お昼はどうするの?」
「お昼? ああ、美味しいお蕎麦屋さんがあるらしいからそこに行ってみない?」
「それ、SNSで拡散して良い?」
「なんで⁉」
「将棋めしって、ファンの間でも注目の的だから……ダメかしら?」
「別にダメじゃないけど、わざわざ拡散することかな……?」
「お昼ご飯を食べたらどうする?」
「そうだな……今話題の映画でも見に行かない?」
「映画?」
「うん」
「それ持ち時間何分?」
「も、持ち時間⁉ 上映時間のこと? 確か2時間弱だったかな……」
「ふ~ん……」
「あ、ちょっと長い?」
「いや、大丈夫。それじゃあ2時間超えたら私が秒読みするね」
「え⁉」
金銀が声色を変えて喋る。
「『山王さん持ち時間を使いきりましたので、これから一分映画でお願いします』」
「一分映画⁉」
「『50秒……1、2、3……』」
「中継でよく見るやつだ! じゃなくて、やめて!」
「なんで?」
「周りに迷惑だから!」
「そう……」
「と、とにかく、移動しようか……うわあ、人が多いな~」
「そうね……1マス飛び越えていく?」
「1マス⁉」
「2マス前方の、右か左に着地するの」
「いや、僕、桂馬の動きは出来ないよ⁉」
「あれ、出来ないの?」
「そもそもマスという概念がないからね? 普通に行こう」
「あ~でも、昨日全然眠れなかったんだ~」
「あ、そうなんだ」
「今日が楽しみで楽しみで……もう胸が二歩二歩しちゃって」
「ドキドキじゃないの⁉ ニフニフなんてオノマトペ聞いたことないよ⁉」
「あ、電車で移動するのね」
「うん。ちょっと時間がかかるかも」
「しりとりでもしましょう。じゃあ、『一歩千金』の『ん』!」
「終わっているじゃん! ってか、さっきから将棋推しがエグい!」
「でしょ? だから同じ趣味でも考えものってことよ」
「極端すぎるでしょう、いい加減にしなさい……」
「「ありがとうございました!」」
金銀と将司が頭を下げ、ステージからはけていく。客席からは拍手が鳴る。
(お、思った以上に盛り上がっていますね……)
爽は妙に感心するのであった。
「わあっ~!」
司会の言葉に観客が応える。
「さあ、続いては……このコンビの登場です!」
(コンビ?)
客席にいる爽が首を傾げる。
「「はい、どうも~」」
金銀と将司が拍手をしながらステージの中央に出てくる。
「はい、山王です!」
「金銀です!」
「二人揃って!」
「「将ズで~す‼」」
(こ、これは漫才⁉ ま、まさかの演目!)
爽が露骨に戸惑う。
「いや~楽しくやっていきたいなと思っていますけどね」
「そうですね」
「ところで金銀さん」
「はい、なんでしょう?」
「僕、彼女が欲しいんですよ~」
「ごめんなさい!」
金銀が勢いよく頭を下げる。
「いや、違いますよ! なんで僕がフラれたみたいになるんですか⁉」
「遠まわしなプロポーズかと……」
「そんなこと、ステージ上でしないでしょう……」
「でも待って。貴方、彼女いらっしゃいませんでした?」
「それが……ちょっと前に別れちゃったんです……」
「なんでまた?」
「まあ……簡単に言うと、価値観の違いですかね~」
「あら、そんなことで?」
「そんなことって、大事ですよ、価値観は」
「価値観って具体的に言うと何ですか?」
「え? 例えば……趣味がピッタリ合うとか……」
「趣味が合うというのも考えものですよ~」
金銀が首を捻る。
「そうですかね? 楽しいと思いますよ」
「では貴方、趣味は何ですか?」
「え、そうですね、将棋ですかね……」
「将棋! じゃあ、貴方が将棋好きの彼氏で……」
「はい」
「あそこの女性に将棋好きの彼女をやってもらいましょう」
金銀が客席の女性を指し示す。
「いや、なんでですか⁉ そこは金銀さんが彼女役をやるところでしょう⁉」
「あ、そういうパターン?」
「他にどんなパターンがあるんですか?」
「分かりました。じゃあ、デートで待ち合わせという体でいきましょう」
「急に始まるな……」
「ごめんなさ~い、待った?」
「いや、大丈夫、大丈夫。今来たところだよ」
「朝の詰将棋がなかなか解けなくて……」
「詰将棋⁉ 髪のセットが決まらなくてとかじゃなくて⁉」
「それで今日はどこを囲うの?」
「か、囲う⁉」
「ええ、まずは守りを固めてからでしょう?」
「動物園でも行こうかなって……熊の赤ちゃんが生まれたらしいよ」
「穴熊ね、OK」
「OKって……」
「お昼はどうするの?」
「お昼? ああ、美味しいお蕎麦屋さんがあるらしいからそこに行ってみない?」
「それ、SNSで拡散して良い?」
「なんで⁉」
「将棋めしって、ファンの間でも注目の的だから……ダメかしら?」
「別にダメじゃないけど、わざわざ拡散することかな……?」
「お昼ご飯を食べたらどうする?」
「そうだな……今話題の映画でも見に行かない?」
「映画?」
「うん」
「それ持ち時間何分?」
「も、持ち時間⁉ 上映時間のこと? 確か2時間弱だったかな……」
「ふ~ん……」
「あ、ちょっと長い?」
「いや、大丈夫。それじゃあ2時間超えたら私が秒読みするね」
「え⁉」
金銀が声色を変えて喋る。
「『山王さん持ち時間を使いきりましたので、これから一分映画でお願いします』」
「一分映画⁉」
「『50秒……1、2、3……』」
「中継でよく見るやつだ! じゃなくて、やめて!」
「なんで?」
「周りに迷惑だから!」
「そう……」
「と、とにかく、移動しようか……うわあ、人が多いな~」
「そうね……1マス飛び越えていく?」
「1マス⁉」
「2マス前方の、右か左に着地するの」
「いや、僕、桂馬の動きは出来ないよ⁉」
「あれ、出来ないの?」
「そもそもマスという概念がないからね? 普通に行こう」
「あ~でも、昨日全然眠れなかったんだ~」
「あ、そうなんだ」
「今日が楽しみで楽しみで……もう胸が二歩二歩しちゃって」
「ドキドキじゃないの⁉ ニフニフなんてオノマトペ聞いたことないよ⁉」
「あ、電車で移動するのね」
「うん。ちょっと時間がかかるかも」
「しりとりでもしましょう。じゃあ、『一歩千金』の『ん』!」
「終わっているじゃん! ってか、さっきから将棋推しがエグい!」
「でしょ? だから同じ趣味でも考えものってことよ」
「極端すぎるでしょう、いい加減にしなさい……」
「「ありがとうございました!」」
金銀と将司が頭を下げ、ステージからはけていく。客席からは拍手が鳴る。
(お、思った以上に盛り上がっていますね……)
爽は妙に感心するのであった。