魂の三本勝負~体の巻~

文字数 3,357文字

「……それでは、最後の種目を発表する!」 

 大和が巻物を開いて、最後となる種目名を大音声で叫んだ。

「第三の種目は……『体の大乱闘』!」

「だ、大乱闘?」

「これもルールは至極単純! グラウンド上に設置された舞台上でバトルロイヤルを行う! 目潰し・金的以外なんでもありだ! 相手を戦闘不能とするか、場外に落とせば、勝利となる!」

「た、確かに今までと比べるとすごい単純だ……!」

 葵がコクコクと頷く。

「では、早速出場者は舞台に上がってもらおう!」

 大和の言葉を受けて、皆が舞台へと上がる。

「皆、準備は宜しいか? では合図を頼む!」

 大和が舞台下のクロエに声を掛ける。クロエはマイクを手にする。

「それでは……『体の大乱闘』、開始‼」



「殿、如何いたしましょうか?」

 絹代の問いに光ノ丸が答える。

「ハンデだかなんだか知らんが、皆四人チームの中、一人だけで戦うというのが気に食わん。介、覚、まずは体育会のあいつを潰せ」

「「御意!」」

 介次郎と覚之丞が木刀を片手に大和に向かって同時に飛び込む。大和がフッと笑う。

「まずは噂の“介さん覚さん”か! なるほど! 良い踏み込みだ! ……だが!」

「「⁉」」

「ああっと⁉ 青臨選手に斬りかかった〝介さん覚さん“が一斉に崩れ落ちた! 二人とも動けない! 解説の上杉山さん! 今のは一体⁉」

 実況担当の放送部員の問いに雪鷹が答える。

「今のは青臨流受身の型の一つ……『清臨偶(せいりんぐ)』だ」

「せ、『清臨偶』ですか⁉」

「そうだ、『清らかな流れに臨み、偶然のように受け流す』さまからその名が付いた、青臨流の伝統的な技だ」

「で、伝統的な技のわりには、どことなく横文字感があるような……」

「他の流派の細かい事情は知らん……とにかく、今の二人組の飛び込みは悪くはなかったが、少し素直過ぎたな」

「……カウンターを当てやすかったということでしょうか?」

「今風に言えばそういうことだ」

「さあ、二年い組、早くも二人が戦闘不能になってしまいました! そこに青臨選手が迫ります!」

「く……き、絹代、なんとかしろ!」

「……無理難題をおっしゃいますね!」

 愚痴をこぼしながら、絹代が一瞬で大和との距離を詰めて、右拳を繰り出す。

「なっ⁉」

 しかし、大和はそれをあっさりと躱した。

「古武術の使い手か! 悪くない攻撃だ! しかし!」

「ちぃっ! ……⁉」

「速さにはこちらも自信がある!」

 大和は絹代の後ろに回り込んだ。絹代は膝から崩れ落ちた。

「い、今のは何が⁉ 風見選手、気を失ってしまった!」

「……後ろに回った瞬間、首筋に手刀を入れた」

 雪鷹の解説に実況が驚愕する。

「な、なんという早業!」

「さて……残るは貴方だけだ」

「くっ……調子に乗るなよ!」

「ああっと! 氷戸選手、拳銃を取り出した⁉」

 ざわつく会場に対し、光ノ丸が視線を大和から逸らさず叫ぶ。

「騒ぐな! モデルガンだ、殺傷能力は無い! なんでもありの大乱闘なのだろう⁉」

「……ふむ、その通り!」

「速さに自信があるとかなんとか言っていたが、弾のそれには叶うまい!」

 そう叫び、光ノ丸は引き金を二度引いた。会場に銃声が響く。

「⁉」

 次の瞬間、光ノ丸が拳銃を落として苦しそうに倒れ込んだ。大和がその様子を横目に見ながらスタスタと歩く。

「……倒れたのは氷戸選手! こ、これは一体⁉」

「弾を躱して、即座に二度打ち込んだ。まず、相手の手を打って拳銃を叩き落とし、次に喉のあたりを突いた……」

「じゅ、銃弾を躱すなんて、そんな芸当が可能なのですか⁉」

「銃口の向きを見れば、ある程度の予測はつく……」

「そ、そんな……」

 雪鷹の解説に実況はしばし絶句した。

「二発撃たれたものだから、思わず二打打ち返してしまった! 許されよ!」

 大和は軽く振り返って、光ノ丸に謝罪し、残りの相手に向き直った。我に返った実況が状況を伝える。

「二年い組、全員戦闘不能です! 残りは4チームの争いです!」



「ふん、どうする、飛虎?」

 い組をあっという間に片付けた大和を見て、龍臣が飛虎に尋ねる。

「まずは他チームを倒してからと思っていたが……気が変わったぜ! まずは全力であの野郎をぶった倒す‼」

 飛虎は大和を指差した。龍臣がさらに尋ねる。

「奴は想像以上の使い手だぜ?」

「関係ねえ! 強い奴ほど燃えてくるってもんだ!」

飛虎の答えに龍臣がニヤリと笑う。

「それでこそ相棒だ! 思い出すな、あの河原で数十人に囲まれたことを……」

「全くそんな思い出が無いが、まあいい、行くぞ龍臣! 雀鈴! 玄道!」

「おう!」

「ああ!」

「相分かった!」

 飛虎の掛け声に、龍臣と雀鈴と呼ばれたおさげ髪の女性、玄道と呼ばれた髷を結っている巨漢が一斉に大和に襲いかかる。

「なっ⁉」

「「「⁉」」」

「ああっと、青臨選手、武闘派で知られる二年は組、“四神”の同時攻撃を両手両足を使って受け止めた!」

 大和が不敵に笑う。

「空手部の日比野飛虎、ボクシング部の神谷龍臣、少林寺拳法部の中目雀鈴(なかめじゃくりん)、そして相撲部の津築玄道(つづきくろうど)……それぞれ気持ちの込もった良い一撃だ。だが……まだ軽い!」

 大和は四人の手足を払い、竹刀を手に取った。

「吹っ飛べ!」

 大和は竹刀を横に豪快に払った。

「うおっ⁉」

 飛虎たち四人は成す術なく場外に吹き飛ばされてしまった。

「おおっと! 二年は組の面々、まとめて場外へ! 全員敗退です!」

「スピードだけじゃなく、パワーも桁違いかよ……」

 そう言って飛虎は力なく倒れ込んだ。



「ど、どうしますか、お嬢様?」

「憂はどう考えますの?」

「え、そ、そうですね、ここは残った将愉会の皆さんを何とか倒して、二番手を狙うのが上策かと……」

 憂の言葉に八千代は一旦将愉会の方を見るが、その内の一人の顔を確認すると、首をぶんぶんと横に振った。

「いいえ、それは、それだけはなりません!」

「ええっ⁉」

「ここは、全力であの方を倒します!」

 八千代は大和を指差した。

「竹波君、呂科君、耳をお貸しなさい!」

「……な、なんと⁉」

「や、やってみます!」

「頼みましたわよ!」

 竹波と呂科が左右に別れて、ゆっくりと歩いてくる大和に向き合った。

「「やあー!」」

「⁉」

 二人の取った思わぬ行動に大和は動きを止めた。

「こ、これは⁉ 竹波、呂科、両選手、手に持っていた木刀を投げ捨てた⁉」

「ぬっ⁉」

 二人は大和の両腕に絡まるようにして抱き付き、大和の動きを塞いだ。

「い、今です!」

「は、早く!」

「お見事!」

 八千代は竹波が投げ捨てた木刀を拾い、大和に斬りかかった。多少ではあるが、剣術の覚えがあるため、危険な頭ではなく、肩を狙って木刀を振り下ろした。

「! えっ……」

「ああっと! 青臨選手、真剣白刃どりの要領で、竹波、呂科、両選手の体を使って、五橋選手の攻撃を受け止めた!」

「目には目を、奇策には奇策をだな」

 雪鷹がニヤッと笑った。

「ふんっ!」

 大和が竹波ら二人を投げ飛ばし、八千代は木刀を落としてしまった。

「ああっ!」

「少々面食らいました!」

 大和が竹刀を構えようとする。

「お嬢様!」

 憂が呂科の投げ捨てた木刀を拾って、八千代に向かって投げる。八千代はそれを受け取り様に、再び大和に斬りかかった。

「⁉ そ、そんな……」

 八千代の放った渾身の一撃も大和は指二本のみで止めた。

「筋は悪くないですな! そしてその闘志も天晴! 流石は五橋家の御令嬢!」

 次の瞬間、大和は八千代の背後に回った。

「御免!」

 大和の繰り出した手刀を喰らい、八千代は膝から崩れ落ちる。

「お、おのれっ!」

 憂が転がっていた木刀を拾い、果敢にも大和に斬りかかった。

「ほう⁉」

 大和が竹刀で憂の攻撃を受け止め、弾き返す。そして、一瞬で憂の後ろに回った。

「⁉」

 大和の手刀を受け、憂もまた気を失って倒れた。

「こ、これで二年ろ組も戦闘不能! 残るは将愉会のみです!」



 ゆっくりと向かってくる大和に対して、将愉会の面々は気を引き締める。

「へへっ、腕が鳴るな、秀一郎!」

「秀吾郎だ……ここは普通怖気づくところだぞ?」

「大火事に比べりゃなんてことねえよ!」

「……頼もしい限りだと言っておくか」

「葵様、ここは黒駆君と赤宿君に任せましょう! ……って葵様⁉」

「え?」

「な、何をなさっているのですか……?」

「何をって、戦う準備だけど?」

 葵はそう言って薙刀を構えた。
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