偵察行動
文字数 2,876文字
「というわけで……三本勝負をすることになりました!」
翌日、葵が毘沙門カフェに集まった将愉会の面々に伝える。
「「「……」」」
「あ、あれ、皆反応が鈍いな~どうしたのかな?」
「……だからどうしたもこうしたも、なにがどうなったらそんなことになるんですの⁉」
小霧が立ち上がって、葵に問いかける。
「えっと……場の流れというかなんというか……」
「またそれですの……伊達仁さん、貴女がついていけば……」
「どうしても外せない用事がありまして……まあ、こうなってしまっては致し方ありません。三本勝負への対策を考えることにしましょう」
「対策と言っても……どんな競技が行われるんだ?」
景元の質問に爽が端末を片手に答える。
「先方から送られてきたメールによりますと……心・技・体をテーマにした3つの種目が行われるそうです」
「すごく漠然としているな……」
「参加人数は一種目につき、四名までとのことです」
「ということは団体競技なのか?」
「恐らくはそのようですね。葵様、如何いたしましょうか?」
「う~ん、それぞれの種目につき、四名ずつなのかな?」
「……種目ごとに参加するメンバーを変更しても良いようですし、四名だけに絞っても構わないようですね」
「そうか……他の陣営はどう出てくるかな?」
「現在黒駆君たちに探りを入れてもらっています」
「たち? そ、そうなんだ……」
一方、二年い組の教室では、氷戸光ノ丸が両手を組んで考え込んでいた。
「殿、体育会からの参加要請ですが、如何いたしましょうか?」
「絹代か……お前はどう思う?」
光ノ丸に静かに語りかけてきた黒髪のおかっぱ頭の女性は風見絹代 と言い、長年光ノ丸の秘書を務めている。
「気が進まないようであれば、辞退しても……」
「ふん、余の辞書に辞退や諦めという類の文字は無い」
「では……」
「SとKの二人を呼べ」
「介次郎 さんと覚之丞 さんですね」
「……伏字にした意味がまるで無いが、まあいい」
教室の天井裏に身をひそめていた秀吾郎が呟く。
「氷戸陣営は“介さん覚さん”が出てくるか……」
「運動神経が自慢の介さんと、頭の切れる覚さん、良いコンビと評判の二人ですね」
「うおっ⁉」
秀吾郎はいつの間にか自分の背後にいた光太に驚いた。
「しっ! 気付かれてしまいますよ……」
「い、いや、先生一体何をやっているのですか?」
「忍者に憧れて……ではなくて、危険な任務を生徒にだけは任せられませんから」
「複数の方がバレる危険性が増しますよ……って藍袋座殿まで⁉」
光太の脇に一超が控えていたことに気付く。
「屋根裏に 忍ぶ経験 稀有なこと」
「遊びではありません! と、とにかく撤退しましょう!」
ドタバタと物音がする天井を眺めながら絹代が呟く。
「殿、口封じをいたしますか?」
「どうせ当日には分かることだ。放っておけば良い……」
二年ろ組の教室では、五橋八千代が思案を巡らせていた。憂が声をかける。
「……体育会からのお話、如何いたしましょうか?」
「勿論参加致します。どうせ若下野さんが体育会に乗り込んで流れで決まった話でしょうけど……これに乗らない手はありません」
「参加する面々はどうしましょうか?」
「人数はあえて絞るつもりですわ、わたくしと憂は決まりとして、問題は後の二人……」
「ええっ⁉ 私も出るんですか⁉」
「何を今更、当然でしょう」
「は、はあ……」
「うぃーっす」
教室のドアが開き、進之助がズカズカと入ってきた。
「あ、赤毛の君⁉」
「あのよ、そっちは誰を出すつもりなんだい?」
「そ、そんなこと教える訳がないでしょう!」
進之助の余りに直球過ぎる質問を憂が一蹴した。
「え~そんなケチ臭いこと言わずにさ~頼むよ~」
「竹波 君と呂科 君にお願いしようと思っていますわ……」
「お、お嬢様⁉」
憂が驚いて振り返る。
「その二人は運動自慢なのかい?」
「このろ組きっての文武両道の二人ですわ……」
「へ~そりゃ手強そうだ。教えてくれてありがとうよ!」
「いいえ、お役に立てたのなら幸いです……」
八千代は胸の前で両手を組み、ポーっとした顔で答えた。
「いやあ~弾七っつあんの言った通りにしてみたら教えてくれたぜ。なんでだろうな?」
進之助は教室の外で待っていた弾七に不思議そうに尋ねた。
「さあ……なんでだろうな」
「妙なこともあるもんだな。えっと、竹波と呂科だったっけ? さて、忘れちまう前に爽の姐さんに報告に行こうか」
「……これも勝つためだ、悪く思ってくれるなよ……」
弾七は依然として進之助のことを目で追っている八千代と、その傍らで頭を抱える憂の姿を見つめながら呟いた。
二年は組のクラスでは日比野飛虎が憮然とした表情で座っていた。北斗が声をかける。
「ちょっと、ちょっと、これ動画なんだからさ~なにか喋ってもらわないと~」
「……動画出演には確かに了解を出した。ただ、コイツと一緒とは聞いてねえぞ」
「コイツとはまた他人行儀な悲しい物言いを……舞台で共演した仲じゃない?」
飛虎の隣の席には獅源が座っていた。
「ちっ……」
飛虎が頬杖をつく。北斗がカメラを回す南武に合図を出す。
「南武、例のものを」
「は、はい……というか、兄上がやって下さいよ!」
南武が北斗に札の束を渡す。飛虎が怪訝そうに尋ねる。
「なんだそりゃ?」
「ふふっ、トークテーマだよ」
「トークテーマ?」
「恐らく話が弾まないだろうなと思ってね、この札にはそれぞれトークのお題が書かれてあるんだ。札を一枚引いてもらって、その札に書かれているお題に沿ってトークをしてもらおうと思ってね。じゃあ、早速どうぞ一枚引いてもらえる?」
「ふん……じゃあこれを」
飛虎は一枚札を引き、内容を確認した。
「何々……? 『三本勝負、は組は誰が出場するの?』ってなんだよ、このお題⁉」
「誰が出るの?」
「素直に教えるわけないだろうが!」
「ふふっ……内心恐れているんじゃないのかい?」
「なんだと……?」
獅源の言葉に飛虎が眉をひそめる。
「ちょっと手の内をさらけ出した位で負ける恐れがある……おたくの陣営ってのはそんなヤワなもんなのかい?」
「ああ? 馬鹿にしてんのか?」
「小馬鹿にしているさね、まさかそんな小心者だとは……」
飛虎が立ち上がって叫ぶ。
「ナメんな! いいだろう、特別に教えてやるよ! 俺たちは組からは俺を含めた四人、通称『四神』が出るぜ! 震えて待ってな!」
「『四神』……」
「うわあ、なんともダサそうな響き!」
「あ、兄上! ど、動画の撮れ高は十分です! ありがとうございました!」
南武は飛虎に礼を言い、北斗と獅源を連れて、そそくさとは組の教室を後にした。
「ふむ……各陣営とも人数を絞って参加するようですね……」
各自の報告に目を通した爽が呟いた。
「で、どうしますの?」
「え、何が?」
小霧に葵が問い返す。
「何がって、我々将愉会から参加する面々ですわ。やはりここは運動が得意な人を優先するのでしょう?」
「種目が不明なのが気になるが、それが賢明だろうな……」
「ああ、それなんだけどね、私が考えていたのは……」
「「「ええっ⁉」」」
葵の言葉に小霧たちは驚いた。
翌日、葵が毘沙門カフェに集まった将愉会の面々に伝える。
「「「……」」」
「あ、あれ、皆反応が鈍いな~どうしたのかな?」
「……だからどうしたもこうしたも、なにがどうなったらそんなことになるんですの⁉」
小霧が立ち上がって、葵に問いかける。
「えっと……場の流れというかなんというか……」
「またそれですの……伊達仁さん、貴女がついていけば……」
「どうしても外せない用事がありまして……まあ、こうなってしまっては致し方ありません。三本勝負への対策を考えることにしましょう」
「対策と言っても……どんな競技が行われるんだ?」
景元の質問に爽が端末を片手に答える。
「先方から送られてきたメールによりますと……心・技・体をテーマにした3つの種目が行われるそうです」
「すごく漠然としているな……」
「参加人数は一種目につき、四名までとのことです」
「ということは団体競技なのか?」
「恐らくはそのようですね。葵様、如何いたしましょうか?」
「う~ん、それぞれの種目につき、四名ずつなのかな?」
「……種目ごとに参加するメンバーを変更しても良いようですし、四名だけに絞っても構わないようですね」
「そうか……他の陣営はどう出てくるかな?」
「現在黒駆君たちに探りを入れてもらっています」
「たち? そ、そうなんだ……」
一方、二年い組の教室では、氷戸光ノ丸が両手を組んで考え込んでいた。
「殿、体育会からの参加要請ですが、如何いたしましょうか?」
「絹代か……お前はどう思う?」
光ノ丸に静かに語りかけてきた黒髪のおかっぱ頭の女性は
「気が進まないようであれば、辞退しても……」
「ふん、余の辞書に辞退や諦めという類の文字は無い」
「では……」
「SとKの二人を呼べ」
「
「……伏字にした意味がまるで無いが、まあいい」
教室の天井裏に身をひそめていた秀吾郎が呟く。
「氷戸陣営は“介さん覚さん”が出てくるか……」
「運動神経が自慢の介さんと、頭の切れる覚さん、良いコンビと評判の二人ですね」
「うおっ⁉」
秀吾郎はいつの間にか自分の背後にいた光太に驚いた。
「しっ! 気付かれてしまいますよ……」
「い、いや、先生一体何をやっているのですか?」
「忍者に憧れて……ではなくて、危険な任務を生徒にだけは任せられませんから」
「複数の方がバレる危険性が増しますよ……って藍袋座殿まで⁉」
光太の脇に一超が控えていたことに気付く。
「屋根裏に 忍ぶ経験 稀有なこと」
「遊びではありません! と、とにかく撤退しましょう!」
ドタバタと物音がする天井を眺めながら絹代が呟く。
「殿、口封じをいたしますか?」
「どうせ当日には分かることだ。放っておけば良い……」
二年ろ組の教室では、五橋八千代が思案を巡らせていた。憂が声をかける。
「……体育会からのお話、如何いたしましょうか?」
「勿論参加致します。どうせ若下野さんが体育会に乗り込んで流れで決まった話でしょうけど……これに乗らない手はありません」
「参加する面々はどうしましょうか?」
「人数はあえて絞るつもりですわ、わたくしと憂は決まりとして、問題は後の二人……」
「ええっ⁉ 私も出るんですか⁉」
「何を今更、当然でしょう」
「は、はあ……」
「うぃーっす」
教室のドアが開き、進之助がズカズカと入ってきた。
「あ、赤毛の君⁉」
「あのよ、そっちは誰を出すつもりなんだい?」
「そ、そんなこと教える訳がないでしょう!」
進之助の余りに直球過ぎる質問を憂が一蹴した。
「え~そんなケチ臭いこと言わずにさ~頼むよ~」
「
「お、お嬢様⁉」
憂が驚いて振り返る。
「その二人は運動自慢なのかい?」
「このろ組きっての文武両道の二人ですわ……」
「へ~そりゃ手強そうだ。教えてくれてありがとうよ!」
「いいえ、お役に立てたのなら幸いです……」
八千代は胸の前で両手を組み、ポーっとした顔で答えた。
「いやあ~弾七っつあんの言った通りにしてみたら教えてくれたぜ。なんでだろうな?」
進之助は教室の外で待っていた弾七に不思議そうに尋ねた。
「さあ……なんでだろうな」
「妙なこともあるもんだな。えっと、竹波と呂科だったっけ? さて、忘れちまう前に爽の姐さんに報告に行こうか」
「……これも勝つためだ、悪く思ってくれるなよ……」
弾七は依然として進之助のことを目で追っている八千代と、その傍らで頭を抱える憂の姿を見つめながら呟いた。
二年は組のクラスでは日比野飛虎が憮然とした表情で座っていた。北斗が声をかける。
「ちょっと、ちょっと、これ動画なんだからさ~なにか喋ってもらわないと~」
「……動画出演には確かに了解を出した。ただ、コイツと一緒とは聞いてねえぞ」
「コイツとはまた他人行儀な悲しい物言いを……舞台で共演した仲じゃない?」
飛虎の隣の席には獅源が座っていた。
「ちっ……」
飛虎が頬杖をつく。北斗がカメラを回す南武に合図を出す。
「南武、例のものを」
「は、はい……というか、兄上がやって下さいよ!」
南武が北斗に札の束を渡す。飛虎が怪訝そうに尋ねる。
「なんだそりゃ?」
「ふふっ、トークテーマだよ」
「トークテーマ?」
「恐らく話が弾まないだろうなと思ってね、この札にはそれぞれトークのお題が書かれてあるんだ。札を一枚引いてもらって、その札に書かれているお題に沿ってトークをしてもらおうと思ってね。じゃあ、早速どうぞ一枚引いてもらえる?」
「ふん……じゃあこれを」
飛虎は一枚札を引き、内容を確認した。
「何々……? 『三本勝負、は組は誰が出場するの?』ってなんだよ、このお題⁉」
「誰が出るの?」
「素直に教えるわけないだろうが!」
「ふふっ……内心恐れているんじゃないのかい?」
「なんだと……?」
獅源の言葉に飛虎が眉をひそめる。
「ちょっと手の内をさらけ出した位で負ける恐れがある……おたくの陣営ってのはそんなヤワなもんなのかい?」
「ああ? 馬鹿にしてんのか?」
「小馬鹿にしているさね、まさかそんな小心者だとは……」
飛虎が立ち上がって叫ぶ。
「ナメんな! いいだろう、特別に教えてやるよ! 俺たちは組からは俺を含めた四人、通称『四神』が出るぜ! 震えて待ってな!」
「『四神』……」
「うわあ、なんともダサそうな響き!」
「あ、兄上! ど、動画の撮れ高は十分です! ありがとうございました!」
南武は飛虎に礼を言い、北斗と獅源を連れて、そそくさとは組の教室を後にした。
「ふむ……各陣営とも人数を絞って参加するようですね……」
各自の報告に目を通した爽が呟いた。
「で、どうしますの?」
「え、何が?」
小霧に葵が問い返す。
「何がって、我々将愉会から参加する面々ですわ。やはりここは運動が得意な人を優先するのでしょう?」
「種目が不明なのが気になるが、それが賢明だろうな……」
「ああ、それなんだけどね、私が考えていたのは……」
「「「ええっ⁉」」」
葵の言葉に小霧たちは驚いた。