夏って感じ
文字数 2,021文字
「ふう……」
朝食を食べ終えた葵がお茶を飲んでひと息つく。イザベラが尋ねる。
「ショーグン、本日の予定が空欄なのだガ……」
「ああ、あえて何も入れてないよ」
「それは良いのカ?」
「今日が夏合宿の実質的な最終日です。成績不振者などは、追試や補習などでスケジュールが一杯ですが、葵様の場合はそれに該当しませんので……」
葵の代わりに爽が答える。イザベラが頷く。
「なるほどナ……」
「葵様。本日は宿舎でのんびり過ごされるのですか?」
「う~ん、どうしようかねえ?」
葵が腕を組んで首を捻る。
「昨日の疲れが溜まっているというのであれば、あまりご無理はなされない方が良いかとは思いますが……」
「いや、大丈夫だよ」
「夏バテなどはされていませんか?」
「それも大丈夫。朝食もしっかり食べたし」
「それならば良いのですが……」
「……サワっち、別に宿舎や研修施設の外に出かけても良いんだよね?」
「ええ、届け出をすれば問題はありません」
爽は葵の問いに答える。
「そうなんだ……」
「……予定が決まったのカ?」
「ザベちゃん、お出かけしても大丈夫?」
「何故私に確認すル?」
イザベラが首を傾げる。
「いや、警護の関係上とかで問題があるのかなって思って」
「別になイ。基本的にはクライアントの意向が最優先ダ……」
イザベラが髪をかき上げながら答える。
「そうか……」
「葵様?」
「うん、決まったよ」
「ということは?」
「今日はお出かけしよう!」
朝食から約一時間後、三人は海水浴場に移動した。
「着きましたね」
「人が多いね~!」
「海水浴シーズン真っ盛りですからね」
「これぞ夏って感じがするね!」
葵が満足気に頷く。爽が不思議そうに問う。
「葵様……?」
「うん? どうかした?」
「あの……水着などはお持ちにならなくて良かったのですか?」
「ああ、昨日十分に泳いだからいいよ」
葵は苦笑する。爽は納得したように頷く。
「まあ、確かにそうですね……」
「今日は雰囲気を味わえたらそれで良いかなって思って。こういう海水浴場に来るのは結構久しぶりだしね」
「そうなのですか?」
「うん、中学の時は夏休みもほとんど部活漬けだったし……砂浜でランニングさせられたことはあったっけかな? あんまり思い出したくないけど……」
葵は再び苦笑する。
「それではどうされますか?」
「適当に砂浜を散歩しようか」
「かしこまりました。イザベラさん、それでよろしいで……⁉」
イザベラの方を振り向いた爽が驚く。
「どうしタ?」
「い、いや、それはこっちの台詞です……どうしたのですか、その格好は?」
爽が指差す。イザベラが全身を黒ずくめで固めていたからである。
「なにか気になるカ?」
「気になりますよ。長袖長ズボンでマスクやサングラスをして……暑くないのですか?」
「意外と薄手ダ。マスクを含めて通気性はイイ」
「サングラスは?」
「日光が眩しいからナ。万が一不審者の襲撃があった場合にすぐ対応出来る為ダ」
「いや、どちらかと言えば、ザベちゃんが不審者っぽいけど……」
葵が戸惑い気味で見つめる。
「警護の為ダ、気にするナ」
「気になるけど……まあ、せめて服を脱いでって言っても断るんだろうね」
「そうだナ」
「見るからに暑苦しいんだけど……」
「見なければイイ。もしくは我慢してくレ」
「クライアントの意向が最優先とおっしゃっていませんでしたか?」
「例外もあル……」
爽の問いにイザベラはにべもなく答える。爽は重ねて問う。
「失礼ですが……素肌をさらしたくないような理由でもあるのですか?」
「そういうわけではなイ」
「では、何故に?」
「……ネタばらしをすると、この服の中に大量の武器が仕込んであル……」
「ええっ⁉」
葵が驚く。
「この人だかりダ、見えるように持ち歩くと無用な混乱を引き起こすだろウ?」
「全身黒ずくめの時点で既にざわついていますが……」
爽が周囲を見回して呟く。
「これも警護の為ダ。理解して欲しイ」
「う~ん、しょうがないなあ。じゃあ、砂浜を散歩しようか」
これ以上話しても無駄だと判断した葵は歩き出す。三人は周囲の注目を集めながら、海水浴場を散策する。爽が呟く。
「……かえって注目されていませんか? 警護を難しくしている気がするのですが……」
「敵意を持った視線にはすぐ気がつク……」
葵が振り返って二人に告げる。
「少し喉が渇いたね。皆であそこの海の家に行こうよ」
葵が指差した先に、少し古めかしい海の家がある。爽が言いづらそうに尋ねる。
「……他の店の方が良いのでは?」
「分かっていないな~サワっち。ああいう店の方が美味しかったするんだって」
「結構ギリギリなことおっしゃいますね……」
三人は店に入る。
「おや? こんなところでお会いするとは……将愉会の秘密の会合ですか?」
「生徒会長⁉ 秘密の会合って?」
生徒会長の万城目安久が奥のテーブルを指し示す。そこには一超が座っていた。
「一超君も⁉」
「この出会い 運命か夏の 悪戯か」
一超はマイペースを崩さずに呟く。
朝食を食べ終えた葵がお茶を飲んでひと息つく。イザベラが尋ねる。
「ショーグン、本日の予定が空欄なのだガ……」
「ああ、あえて何も入れてないよ」
「それは良いのカ?」
「今日が夏合宿の実質的な最終日です。成績不振者などは、追試や補習などでスケジュールが一杯ですが、葵様の場合はそれに該当しませんので……」
葵の代わりに爽が答える。イザベラが頷く。
「なるほどナ……」
「葵様。本日は宿舎でのんびり過ごされるのですか?」
「う~ん、どうしようかねえ?」
葵が腕を組んで首を捻る。
「昨日の疲れが溜まっているというのであれば、あまりご無理はなされない方が良いかとは思いますが……」
「いや、大丈夫だよ」
「夏バテなどはされていませんか?」
「それも大丈夫。朝食もしっかり食べたし」
「それならば良いのですが……」
「……サワっち、別に宿舎や研修施設の外に出かけても良いんだよね?」
「ええ、届け出をすれば問題はありません」
爽は葵の問いに答える。
「そうなんだ……」
「……予定が決まったのカ?」
「ザベちゃん、お出かけしても大丈夫?」
「何故私に確認すル?」
イザベラが首を傾げる。
「いや、警護の関係上とかで問題があるのかなって思って」
「別になイ。基本的にはクライアントの意向が最優先ダ……」
イザベラが髪をかき上げながら答える。
「そうか……」
「葵様?」
「うん、決まったよ」
「ということは?」
「今日はお出かけしよう!」
朝食から約一時間後、三人は海水浴場に移動した。
「着きましたね」
「人が多いね~!」
「海水浴シーズン真っ盛りですからね」
「これぞ夏って感じがするね!」
葵が満足気に頷く。爽が不思議そうに問う。
「葵様……?」
「うん? どうかした?」
「あの……水着などはお持ちにならなくて良かったのですか?」
「ああ、昨日十分に泳いだからいいよ」
葵は苦笑する。爽は納得したように頷く。
「まあ、確かにそうですね……」
「今日は雰囲気を味わえたらそれで良いかなって思って。こういう海水浴場に来るのは結構久しぶりだしね」
「そうなのですか?」
「うん、中学の時は夏休みもほとんど部活漬けだったし……砂浜でランニングさせられたことはあったっけかな? あんまり思い出したくないけど……」
葵は再び苦笑する。
「それではどうされますか?」
「適当に砂浜を散歩しようか」
「かしこまりました。イザベラさん、それでよろしいで……⁉」
イザベラの方を振り向いた爽が驚く。
「どうしタ?」
「い、いや、それはこっちの台詞です……どうしたのですか、その格好は?」
爽が指差す。イザベラが全身を黒ずくめで固めていたからである。
「なにか気になるカ?」
「気になりますよ。長袖長ズボンでマスクやサングラスをして……暑くないのですか?」
「意外と薄手ダ。マスクを含めて通気性はイイ」
「サングラスは?」
「日光が眩しいからナ。万が一不審者の襲撃があった場合にすぐ対応出来る為ダ」
「いや、どちらかと言えば、ザベちゃんが不審者っぽいけど……」
葵が戸惑い気味で見つめる。
「警護の為ダ、気にするナ」
「気になるけど……まあ、せめて服を脱いでって言っても断るんだろうね」
「そうだナ」
「見るからに暑苦しいんだけど……」
「見なければイイ。もしくは我慢してくレ」
「クライアントの意向が最優先とおっしゃっていませんでしたか?」
「例外もあル……」
爽の問いにイザベラはにべもなく答える。爽は重ねて問う。
「失礼ですが……素肌をさらしたくないような理由でもあるのですか?」
「そういうわけではなイ」
「では、何故に?」
「……ネタばらしをすると、この服の中に大量の武器が仕込んであル……」
「ええっ⁉」
葵が驚く。
「この人だかりダ、見えるように持ち歩くと無用な混乱を引き起こすだろウ?」
「全身黒ずくめの時点で既にざわついていますが……」
爽が周囲を見回して呟く。
「これも警護の為ダ。理解して欲しイ」
「う~ん、しょうがないなあ。じゃあ、砂浜を散歩しようか」
これ以上話しても無駄だと判断した葵は歩き出す。三人は周囲の注目を集めながら、海水浴場を散策する。爽が呟く。
「……かえって注目されていませんか? 警護を難しくしている気がするのですが……」
「敵意を持った視線にはすぐ気がつク……」
葵が振り返って二人に告げる。
「少し喉が渇いたね。皆であそこの海の家に行こうよ」
葵が指差した先に、少し古めかしい海の家がある。爽が言いづらそうに尋ねる。
「……他の店の方が良いのでは?」
「分かっていないな~サワっち。ああいう店の方が美味しかったするんだって」
「結構ギリギリなことおっしゃいますね……」
三人は店に入る。
「おや? こんなところでお会いするとは……将愉会の秘密の会合ですか?」
「生徒会長⁉ 秘密の会合って?」
生徒会長の万城目安久が奥のテーブルを指し示す。そこには一超が座っていた。
「一超君も⁉」
「この出会い 運命か夏の 悪戯か」
一超はマイペースを崩さずに呟く。