朝の寝室

文字数 1,862文字

                  捌

「ん……」

「起きたカ?」

 葵が目を覚ますと、枕元からイザベラが覗き込んできた。

「う、うわあっ⁉」

 葵は驚いて飛び起きる。イザベラが不服そうな顔をする。

「人の顔を見て悲鳴を上げるとは、相変わらず失礼だナ……」

「だから、そうやって枕元にいられると驚くんだって……」

 葵が眠い目をこすりながらぼやく。

「警護対象の安全を確認せねばならんからナ……」

「も、もっとまともに確認してよ……ああ、おはよう、ザベちゃん」

「おはよウ……」

「うん……」

 葵が伸びをする。

「昨日はよく眠れたカ?」

「もうぐっすりと!」

「それは何よりだナ」

「だってさ、ほぼ一日テストだったんだよ!」

「それは把握していル」

「そういえば、ザベちゃんはテストどうだったの?」

「……それを聞いてどうすル?」

「え? 普通気になるじゃん、友達のテストの手ごたえとか」

「トモダチ?」

 イザベラはいささか驚いた表情になる。

「そう! で? どうだったの?」

「……まずは自分がどうだったのダ?」

「う~ん、ボチボチってところかな?」

「墓地墓地……そうか、聞いた私が悪かっタ……」

 イザベラが少々罰の悪そうな顔になり、すぐに顔を背ける。

「い、いや! 誤解していない⁉ まあまあだったってことだよ!」

「マアマア……」

「そうそう!」

「だったら初めからそう言エ……」

「いや、日本語ペラペラだから通じると思うじゃん!」

「戦場において思い込みというのは危険ダ……」

「ここは戦場じゃないよ! ワードがいちいち不穏なんだって!」

「戦場=仕事場みたいなものダ」

「ま、まあ、それで良いけどさ。で?」

「うン?」

「テストはどうだったの?」

「私は実ハ……」

「実は?」

「はっきりと言ってしまえバ……」

「ん?」

「この学園に潜入しているようなものダ」

「うん、それはなんとなく分かるよ」

「なッ!」

 葵の言葉にイザベラが驚いた視線を向ける。葵が戸惑う。

「な、なに……?」

「気付いていたのカ……?」

「そ、そりゃあねえ……」

「思っているよりは愚かではないということカ……」

「え? それじゃあ、今でも愚かって思っているってことじゃん!」

「なかなか鋭いナ……」

「馬鹿にしてんの? まあ、いいやザベちゃんのテストの出来は?」

「今さら学生どもと肩を並べてテストに臨むなどまったく馬鹿らしイ……」

「手を抜いたってこと? ダメだよ!」

「ダメ? なにがダ?」

「もしも追試になったら私のこと警護出来なくなるじゃん!」

「……警護を嫌がっていただろウ……」

「でも、これも何かの縁じゃん!」

「エン?」

「せっかくだからザベちゃんとも夏の思い出一杯作りたいよ!」

「!」

「だから追試だったら大変じゃん」

 葵の真剣な眼差しを見て、イザベラはプッと吹き出す。

「フフ……」

「何がおかしいのよ!」

「い、いや、なんでもなイ……」

「なんでもなかったらなんで笑うのよ⁉」

「まあ、少し落ち着ケ……深呼吸ダ」

 自らに迫ってくる葵をイザベラはなだめる。葵は深呼吸をする。

「……落ち着いたよ」

「素直だナ」

「深呼吸しろって言うから」

「テストだが、追試にはならない程度にはしておいタ。問題はなイ……」

「そ、そんなことが出来るの? ま、まさか、カンニング⁉ 腕利きのガンマンの技術を生かして……!」

「なにが悲しくてガンマンとして培った技術をカンニングに費やさねばならんのダ……」

「そ、それじゃあ、ちゃんとテストは受けたんだね!」

「だからそう言っているだろウ……」

「良かった、良かった!」

「! か、肩をばしばしと叩くナ……それよりショーグンはどうなんダ?」

「え?」

 葵が首を傾げる。イザベラはため息をつく。

「まあまあと答えたナ……むしろそちらの方が追試の可能性が高いんじゃないカ?」

「! そ、そう言われると……」

 葵が急に不安げな表情になる。

「……追試の受験者一覧、掲示板に張り出されていましたよ」

 爽が部屋に戻ってくる。

「え? ちょ、ちょっと見てくる!」

 葵は寝間着のまま飛び出す。爽はため息交じりでイザベラに尋ねる。

「葵様なら心配はいらないでしょうに……何を吹き込んだのですか?」

「別二……向こうが勝手に盛り上がっただけダ……」

「本日の予定ですが、把握されていますか?」

「勿論ダ」

「わたくしは参加できません。なかなか難しい警護になるかと思いますが……」

「問題はなイ……」

「どうやらあの方が動くそうです。一応警戒を……」

「ある筋からその情報は既に得ていル……心配するナ」

「流石ですね。よろしくお願いします」

 爽がイザベラに向かって丁寧に頭を下げる。
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