レジェンドオブオニワバン

文字数 1,920文字

「じゃあ、そういうことで……」

「ちょ、ちょっと待テ!」

 イザベラが珍しく動揺した様子で葵を呼び止める。

「なに?」

「だ、誰だ、その者ハ?」

「え? 用務員さんの高尾さんだよ」

「用務員?」

「学園関係者ならば誰とコンビを組んでも良いみたいだから……サワっちの推薦もあったから高尾さんにお願いしたよ」

「ソンナ……」

「高尾さんも腕に覚えがあるみたいだし、そうですよね、高尾さん?」

「昔取ったなんとやらですが……上様のお役に立てるのであれば……」

 葵に語りかけられ、高尾と呼ばれたジャージ姿の初老の男性は照れくさそうに頭を掻く。

「それじゃあ、参加申し込みしてくるから」

「ま、待テ! 我々はどうなル⁉」

「え?」

「え?じゃなイ!」

「そうです、上様。これでは一体何のためにイザベラ殿と競り合ったのか……」

 秀吾郎も困惑した様子で呟く。

「いや~なんというか……二人ともガチ過ぎてなんか引くっていうか……」

「ガチ過ぎル⁉」

「なんか引く⁉」

 イザベラと秀吾郎が愕然とする。

「私は純粋にレクリエーションとしてのビーチバレー大会を楽しみたいんだよね」

「で、では、自分たちはどうすれば……」

「二人がペアを組んで参加すれば?」

「「⁉」」

 葵の言葉に二人は驚く。

「それじゃあね」

 去っていく葵の背中を見ながら秀吾郎が頷く。

「それも悪くはないが……しかし」

「ああ、あの用務員……怪しいナ」

「「仕掛ける(ル)!」」

 秀吾郎たちが高尾に向かって飛び掛かる。

「……」

「なっ⁉」

「バ、馬鹿ナ……?」

 次の瞬間、飛び掛かった秀吾郎たちの背後に高尾が音もなく回り込んでいた。

「ふむ、筋は悪くないが……まだまだ青さがあるな」

「!」

「ナ、何ヲ……?」

「まあ、そういきり立つな。儂は決して怪しいものではない」

「そ、そう言われても……」

「十分怪しいゾ!」

「とにかく上様に危害を加えるつもりはない、むしろ逆だ」

「逆?」

「どういうことダ?」

「味方だ。お主らも大会に参加せよ。お手並み拝見といこうではないか」

「なっ!」

「ムッ!」

 高尾の言葉に秀吾郎たちは顔を険しくする。

「それでは失礼する……」

「……どうする?」

「上から目線が気に食わン……我々も参加すル」

「ああ、そうしよう」

 秀吾郎たちも参加を申し込み、ビーチバレー大会が始まる。

「おおっと⁉ 上様と用務員さんの高尾さんのコンビ、予想以上の快進撃だ!」

 実況アナウンサーが興奮しながら叫ぶ。イザベラが呟く。

「あの用務員、やはり只者ではないナ、動きに一切の無駄が見られなイ……」

「ああ……もしや!」

「どうしタ?」

 イザベラは声を上げた秀吾郎の方に視線を向ける。

「あの動き……やはり間違いない! 伝説の御庭番、尾高半兵衛(おだかはんべえ)殿だ! 現在は公儀隠密課特命係の特別顧問をされているはずだが……何故ここに?」

「レジェンドオブオニワバン……決勝の相手として不足はないナ」

「ああっと! 上様と高尾さんペア敗退! 決勝進出はならず!」

「「なっ(ナッ)⁉」」

 アナウンサーの実況に秀吾郎たちは驚く。葵と尾高がコート外に出てくる。

「あ~負けちゃった」

「……」

「と、特別顧問……」

 尾高は人差し指を自らの口元に当てて、小声で呟く。

「今は用務員だ……対戦を楽しみにしておったのだが、残念ながら叶わなかった。代わりに優勝してみせよ」

「!」

「今こそ御庭番の実力を示すのだ!」

「はい!」

「あまりひけらかすものでもないと思うのだガ……」

 元気よく返事する秀吾郎の横でイザベラが首を傾げる。

「イザベラ殿! こうなったら絶対優勝です!」

「目的が微妙に変わっていないカ?」

「尾高さまの弔い合戦です!」

「いや、死んどらんわ!」

 秀吾郎の失礼な物言いに尾高も思わず声を上げる。イザベラがふっと笑う。

「……まあイイ、ここまできたら勝つカ」

「ええ!」

「……さあ、いよいよビーチバレー大会も決勝戦です! まずはほぼノーマークの状態で勝ち上がってきた黒駆秀吾郎・西東イザベラコンビがコートに入ってきました!」

「きゃああ!」

「観客から黄色い歓声が上がっている! クールな二人のプレーにファンも急増中だ!」

「思いっきり目立っちゃっているけど良いのかしら……」

 葵が呆れ気味にコートに立つ二人を見つめる。

「対するは優勝候補大本命! 体育会副会長、上杉山雪鷹(うえすぎやまゆたか)と書記、武枝(たけえだ)クロエコンビ!」

「きゃあああ!」

「うおおおお!」

「学園屈指の実力者かつ美女たちの登場に観衆の興奮はさらにヒートアップ!」

「……先ほどの用務員さんの動きにはやや目を見張ったけど、退屈な大会ね」

 クロエはショートボブの金髪を撫でながら呟く。

「時間の無駄だ……さっさと決めさせてもらう!」

 雪鷹が銀髪のポニーテールを揺らしながら、颯爽とコートに入る。
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