雪の女王その4
文字数 2,889文字
OK、最初からもう一度。
僕はルナ。平凡な16歳のJKだったけど、代 わり映 えのしない毎日に退屈していた。
ある日『骨紳士』と名乗る銀髪赤目のあやしげな男と出会って人生が一変。
瀕死 のおじさんの命を救うためにこいつと契約。
仕事は単純、人間界に逃げ出して好き勝手している魔物を切ること。
それなりに楽しんでたら、ある朝突然、鏡の中からもう一人の僕が飛び出した!
もう一つの世界の僕なんだって。しかも、向こうの『おじさん』は女の人!
「別世界の同一存在が集まる時は、必ず意味があるのよ」
「すべきことを果たせば元通りになるわ」
おネェちゃんの言葉を信じて、もう一人の僕……カナと僕と愛猫のヌーは、おとぎ探偵となって歪みに憑かれた本を浄化している。
ゆきしろべにばら、更級日記、青ひげ、人魚姫、赤ずきん、不思議の国のアリス、パンをふんだ娘。
これまで7冊のおとぎ話を浄化して、ついに雪の女王に囚われていたロビンを救出。
無事に現実世界に戻ったと思ったら!
雪の女王が、本の外まで追いかけてきた。
それだけじゃない、歪んだおとぎ話が、現実世界にあふれ出しちゃった!
一体どうなる?
※
雪が降る。雪が降る。
しんしんと粉雪が降り積もる。鉛色 の雲におおわれた空から……ではない。
見慣れた日常を浸食する幻想。
七巡市 の上空に、さかさまに広がるおとぎの国。中心は、雪の女王の氷のお城。
「何てこと」
「おとぎ話が、現実になっちゃった!」
すっと本屋の主人が進み出る。
「正確には現実世界と融合 しています」
「ゆうごう」
頭をかかえるルナとカナ。
「スケール大きすぎておいつかない」
「頭がバグりそう」
「溶けたチーズとチーズがくっついた状態ですね」
「あ、それ何となく理解できる」
「まさかこんなに大規模な浸食が起きるとは、予想外でした。この町にある全ての本が、おとぎ世界に繋がったのです」
「本が……」
「それに今は、これがありますから」
すっと平べったい金属板をかかげて、指をすべらせる。音も無く走る四角いアイコン。
「スマホ?」
「そうです。今や一人一人が自分だけの図書館を持ち歩いてるようなものですからね」
「あー……」
「このまま融合が進むとどうなるの?」
「現実世界が、歪んだおとぎ話に飲み込まれます」
本屋の主人がこめかみを指で叩く。
「今回の場合はそうですね……雪の女王に支配され、全てが凍りつくことでしょう」
「とんでもない! それだけは却下! 断固として拒否ですっ」
「うるさいよ、骨」
じと目でにらむルナとカナ。
「がうっ!」
狼が牙をむく。
「その口を閉じよ、無礼者」
王子が剣の柄 に手をかける。
「ひぃいい」
おびえる骨紳士。藍色の髪の少年が、しゅんと肩を落としてうなだれる。
「……ごめんね」
「ロビンは悪くない」
「そうだよ、ロビンは悪くないよ、姉さん」
「仰 せの通りに、マイ・プリンセス」
「……」
がくっと肩を落とすカナ。
「まさか、姉さんが本物の王子様になっちゃうなんて」
元々王子様っぽい行動パターンだった姉さんは、今や服装も青い軍服に変わっている。
「宝塚っぽいよね」
カナは内心、複雑だった。
(おとぎ話の王子様って変態ばっかりじゃん! やだーっ)
そんなカナを見て姉さんは。
「誓おう! 君を守ると。我が剣にかけて!」
(変態なのにかっこいいって、ずるい)
ルナも肩をすくめる。
「まさか、おじさんが本物の狼になっちゃうなんて」
「くぅ〜ん」
わっしゃわっしゃと黒い毛並をなで回す。
「あ、きもちいい……」
「んぴぃ」
「あったかぁい」
「ぴぃうるる」
二匹の銀色子猫は、狼さんの背中の上。もっふもふの毛皮にもぐりこんでくつろいでいる。
猫は、あったかい所が大好きなのだ。
「ねえ、おネェちゃん、どうしてこうなっちゃったの?」
「それはね、雪の女王が本から飛び出したせいなの」
「やっぱり?」
「現実世界の人間が、強制的におとぎ話の登場人物の役に当てはめられちゃったのね」
「強制ロールプレイだ」
「全て雪の女王が原因」
「ってことは」
ルナは上空をにらむ。氷のお城を中心に、コペンハーゲンの町が。人魚姫の海が。そして広大な森が広がっている。
他にも名前はわからないけれど、お城がいくつか点在している。
「あいつを浄化して」
「本の中に戻せば」
「万事解決!」
「でもなんか、さっきより近づいてる気がする」
どや顏でしゃしゃりでる骨紳士。
「そりゃそうですよ、時間とともに浸食は進みますからね。やがては衝突! 完全に融合してしまうでしょう」
「向こうの人や物は、何で落ちて来ないのかな」
「重力は、向こう側の『地面』に向けて働いてるのよ」
「そーゆーとこは科学的なんだ」
「不思議」
「さっ、二人とも、今回の衣裳ができたわよぉ!」
「仕事早っ!」
「時間との勝負だからね」
本屋の主人とおネェちゃん、骨と駒鳥は何故変わらないのだろう?
彼らは既におとぎ話の中での役割が決まっているからだ。
※
本棚の間にカーテンをはりめぐらせ、お着替えタイム。
王子と狼の見守る中、さっとカーテンがとりはらわれる。
「今回のテーマは魔法少女よ!」
二人の手には、きらりと光る魔法のステッキ。先端にきらめく星の形のクリスタル。
「……もしくは、伝説の戦士」
基本カラーはいつも通り、ルナが白メインでカナは赤メイン。
スカートはすそが斜めのアシンメトリー。ルナは左側が短く右側が長い。カナは逆に右側が短く左側が長い。
ふわっとふくらむそではチューリップの形。ルナは左手に、カナは右手に長手袋をしている。
そして背中に翼。頭にミニ帽子。胸元にリボン、中央に半球型のブローチ。
足下はおそろいの、膝丈の白いブーツ
「美しい。君は雪原を照らす一輪の花だ、マイプリンセス!」
「わふっ」
絶賛する王子、しっぽを振る狼。
「……ぼくたち、おとぎ探偵だよね」
「今更だけどジャンル変わりすぎだよね」
びゅうっと風が吹きつける。ぴしぴし、みしり。窓ガラスが悲鳴をあげる。
この雪は、痛い。
「んんん」
さかさまのおとぎ世界と、凍りついた七巡市。二つの町の間に、ふっと浮かぶ赤い蜘蛛の巣。
またたき、ゆらめき、また消えた。
「お、おネェちゃん?」
「顏、青いよ!」
「かも……ね」
「あんな大きな結界張ってるから?」
「大丈夫、心配ないわ」
ほほ笑む蜘蛛の魔法使い。もそもそとコタツにもぐり込む。
「あー……」
「寒いんだ」
「和装だしね」
「ここはあたしが守るから、ルナちゃんとカナちゃんは安心して、どーんとやっちゃいなさい」
コタツの中の足はひっそりと、色を失い、透明になっていた。
※次回は5/11の11:00に更新します
僕はルナ。平凡な16歳のJKだったけど、
ある日『骨紳士』と名乗る銀髪赤目のあやしげな男と出会って人生が一変。
仕事は単純、人間界に逃げ出して好き勝手している魔物を切ること。
それなりに楽しんでたら、ある朝突然、鏡の中からもう一人の僕が飛び出した!
もう一つの世界の僕なんだって。しかも、向こうの『おじさん』は女の人!
「別世界の同一存在が集まる時は、必ず意味があるのよ」
「すべきことを果たせば元通りになるわ」
おネェちゃんの言葉を信じて、もう一人の僕……カナと僕と愛猫のヌーは、おとぎ探偵となって歪みに憑かれた本を浄化している。
ゆきしろべにばら、更級日記、青ひげ、人魚姫、赤ずきん、不思議の国のアリス、パンをふんだ娘。
これまで7冊のおとぎ話を浄化して、ついに雪の女王に囚われていたロビンを救出。
無事に現実世界に戻ったと思ったら!
雪の女王が、本の外まで追いかけてきた。
それだけじゃない、歪んだおとぎ話が、現実世界にあふれ出しちゃった!
一体どうなる?
※
雪が降る。雪が降る。
しんしんと粉雪が降り積もる。
見慣れた日常を浸食する幻想。
「何てこと」
「おとぎ話が、現実になっちゃった!」
すっと本屋の主人が進み出る。
「正確には現実世界と
「ゆうごう」
頭をかかえるルナとカナ。
「スケール大きすぎておいつかない」
「頭がバグりそう」
「溶けたチーズとチーズがくっついた状態ですね」
「あ、それ何となく理解できる」
「まさかこんなに大規模な浸食が起きるとは、予想外でした。この町にある全ての本が、おとぎ世界に繋がったのです」
「本が……」
「それに今は、これがありますから」
すっと平べったい金属板をかかげて、指をすべらせる。音も無く走る四角いアイコン。
「スマホ?」
「そうです。今や一人一人が自分だけの図書館を持ち歩いてるようなものですからね」
「あー……」
「このまま融合が進むとどうなるの?」
「現実世界が、歪んだおとぎ話に飲み込まれます」
本屋の主人がこめかみを指で叩く。
「今回の場合はそうですね……雪の女王に支配され、全てが凍りつくことでしょう」
「とんでもない! それだけは却下! 断固として拒否ですっ」
「うるさいよ、骨」
じと目でにらむルナとカナ。
「がうっ!」
狼が牙をむく。
「その口を閉じよ、無礼者」
王子が剣の
「ひぃいい」
おびえる骨紳士。藍色の髪の少年が、しゅんと肩を落としてうなだれる。
「……ごめんね」
「ロビンは悪くない」
「そうだよ、ロビンは悪くないよ、姉さん」
「
「……」
がくっと肩を落とすカナ。
「まさか、姉さんが本物の王子様になっちゃうなんて」
元々王子様っぽい行動パターンだった姉さんは、今や服装も青い軍服に変わっている。
「宝塚っぽいよね」
カナは内心、複雑だった。
(おとぎ話の王子様って変態ばっかりじゃん! やだーっ)
そんなカナを見て姉さんは。
「誓おう! 君を守ると。我が剣にかけて!」
(変態なのにかっこいいって、ずるい)
ルナも肩をすくめる。
「まさか、おじさんが本物の狼になっちゃうなんて」
「くぅ〜ん」
わっしゃわっしゃと黒い毛並をなで回す。
「あ、きもちいい……」
「んぴぃ」
「あったかぁい」
「ぴぃうるる」
二匹の銀色子猫は、狼さんの背中の上。もっふもふの毛皮にもぐりこんでくつろいでいる。
猫は、あったかい所が大好きなのだ。
「ねえ、おネェちゃん、どうしてこうなっちゃったの?」
「それはね、雪の女王が本から飛び出したせいなの」
「やっぱり?」
「現実世界の人間が、強制的におとぎ話の登場人物の役に当てはめられちゃったのね」
「強制ロールプレイだ」
「全て雪の女王が原因」
「ってことは」
ルナは上空をにらむ。氷のお城を中心に、コペンハーゲンの町が。人魚姫の海が。そして広大な森が広がっている。
他にも名前はわからないけれど、お城がいくつか点在している。
「あいつを浄化して」
「本の中に戻せば」
「万事解決!」
「でもなんか、さっきより近づいてる気がする」
どや顏でしゃしゃりでる骨紳士。
「そりゃそうですよ、時間とともに浸食は進みますからね。やがては衝突! 完全に融合してしまうでしょう」
「向こうの人や物は、何で落ちて来ないのかな」
「重力は、向こう側の『地面』に向けて働いてるのよ」
「そーゆーとこは科学的なんだ」
「不思議」
「さっ、二人とも、今回の衣裳ができたわよぉ!」
「仕事早っ!」
「時間との勝負だからね」
本屋の主人とおネェちゃん、骨と駒鳥は何故変わらないのだろう?
彼らは既におとぎ話の中での役割が決まっているからだ。
※
本棚の間にカーテンをはりめぐらせ、お着替えタイム。
王子と狼の見守る中、さっとカーテンがとりはらわれる。
「今回のテーマは魔法少女よ!」
二人の手には、きらりと光る魔法のステッキ。先端にきらめく星の形のクリスタル。
「……もしくは、伝説の戦士」
基本カラーはいつも通り、ルナが白メインでカナは赤メイン。
スカートはすそが斜めのアシンメトリー。ルナは左側が短く右側が長い。カナは逆に右側が短く左側が長い。
ふわっとふくらむそではチューリップの形。ルナは左手に、カナは右手に長手袋をしている。
そして背中に翼。頭にミニ帽子。胸元にリボン、中央に半球型のブローチ。
足下はおそろいの、膝丈の白いブーツ
「美しい。君は雪原を照らす一輪の花だ、マイプリンセス!」
「わふっ」
絶賛する王子、しっぽを振る狼。
「……ぼくたち、おとぎ探偵だよね」
「今更だけどジャンル変わりすぎだよね」
びゅうっと風が吹きつける。ぴしぴし、みしり。窓ガラスが悲鳴をあげる。
この雪は、痛い。
「んんん」
さかさまのおとぎ世界と、凍りついた七巡市。二つの町の間に、ふっと浮かぶ赤い蜘蛛の巣。
またたき、ゆらめき、また消えた。
「お、おネェちゃん?」
「顏、青いよ!」
「かも……ね」
「あんな大きな結界張ってるから?」
「大丈夫、心配ないわ」
ほほ笑む蜘蛛の魔法使い。もそもそとコタツにもぐり込む。
「あー……」
「寒いんだ」
「和装だしね」
「ここはあたしが守るから、ルナちゃんとカナちゃんは安心して、どーんとやっちゃいなさい」
コタツの中の足はひっそりと、色を失い、透明になっていた。
※次回は5/11の11:00に更新します