おきがえタイム

文字数 1,322文字

 長い長い坂道を登った先に、大きなお屋敷がありました。かつてヨーロッパに建てられた洋館を、わざわざ分解して日本で建て直したと言う手間とお金のかかった贅沢な家。
 その一室では今、二人の少女が試着の真っ最中。
「まあ、ルナちゃんもカナちゃんもお似合いよ」
 絹の黒髪、ぱっちりした二重の瞳、陶器のように白くなめらかな肌、桜貝の唇。うり二つの少女のために、魔法使いのおネェさんが仕立てた特別なドレス。
「どこか窮屈なとこはない?」
 腕を上げて、下げて、ぽんっと膨らむスカートをひろげてくるりとつま先、一回転。
「ないよ」
「動きやすい」
「羽根みたいに軽い」
「どこもかしこもぴったりだ」
「さすがおネェちゃんだね」
「ふふっ、ありがとう。生地から仕立てた甲斐があったわ」

 今回のドレスは「アリス服」。
 ふくらんだ袖、きゅっと絞ったウェスト、フリルとレースををたっぷり重ねたふわっふわのパニエとスカート、そしてエプロンと髪に結んだリボン。少女の夢とあこがれをぎゅっと濃縮、マカロンみたいに夢いっぱい甘さたっぷり。



 カナは赤いドレス白のエプロン、リボンの色は赤。



 ルナは白いドレスに赤いエプロン、リボンは白。足下は二人とも白黒ストライプの長ソックスにストラップつきの赤い靴。
 お互いを見て、それから鏡を見て、ルナは黒い瞳をぱちぱち。カナはこげ茶と緑の色ちがいの瞳をぱちぱち。

「水色どこいったの、おネェちゃん?」
「本来、アリスのドレスの色は決まってないのよ。元祖テニエルの挿し絵でも黄色や紫色のバージョンがあるしね、ほら」
 洋書に絵本にペーパーバック、ずらりとテーブルに並べるおネェさん。いったいどこから出したのか。
「ほんとだ」
「自由なんだ」
「だから、カナちゃんとルナちゃんに一番似合うカラーリングにしたのよ。さあ、お披露目よ」
「ぴゃあ」
「ぴゃあ」
 足下にすりよる銀色子猫を抱き上げて、ルナカナ並んで隣の部屋へ。居間のソファには、おじさんとお姉さんが待っていた。
「どう?」
「にあう?」
 首をかしげる二人の少女。
「ごふぅ」
 あまりの愛らしさに血を吹く二人の下僕。要は鼻血が激しすぎて口から出てるのだ。
「おにあいですマイプリンセス」
 鼻と口から血を垂らしたまま、キメ顏でほほ笑むお姉さん。すばやく袖口で血を拭ってからから顏をあげるおじさん。
「最高だ、ルナ」
「ありがとう」
「血、拭いたら、姉さん?」
「おっと」
「月代さん、グッジョブ」
「グッジョブ!」
「ふふっ、ありがと」

     ※

「さあ、今日の本は『不思議の国のアリス』だね」
「始めよう」

 準備万端、おとぎ探偵ルナとカナ。銀色子猫を抱いて、アリスの本にRead in。

※本文中に使用した画像は、らいら@denbu3 さんの「趣味丸出しメーカー https://picrew.me/image_maker/17569 」で風牙さんが作成したものです。
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