シナリオ版ゆきしろべにばら
文字数 7,707文字
※こちらは役名と演出メモを入れたバージョンです。
※小説より、シナリオに近い形です。
※漫画の原作やボイスドラマのシナリオにお使いいただく時に。
//場面:夕方の町
どんより重 たい鈍色 の空。分厚 い雲の向こうからおひさまが弱々 しく照 らす。
石畳 の道。広場を抜 け教会の前を通り森に向かう道。
こつ、こつ、こつ。
靴 を鳴らし、並 んで歩く少女と少女。
ルナ「静かだね、カナ」
カナ「静かだね、ルナ」
ルナ「だれもいない」
カナ「うん、だれもいない」
その二人、完ぺきなシンメトリーにしてアンシンメトリー。
モノトーンの風景の中、浮かび上がるまぶしい白、あざやかな赤。
愛らしいはずなのに、見ているだけで胸がざわつく。
うねり一つ無いまっすぐな黒髪に、陶器 のような白い肌 。
ぱっちり二重 の目、ふさふさのまつげ、きゅっと結んだ唇 はまるで桜貝 。
顔のつくりはうりふたつ。すんなりした手足も背丈 も体つきもまたしかり。
おそろいのドレスにおそろいのコルセット、おそろいのブローチ、おそろいのフード付 きケープ。
抱 えたバスケットからちょこんと、これまたおそろいの銀色子猫 が顏を出す。
何もかもおそろいの少女、だがちがいはあった。故 に見分 けるのは容易 。
まずはケープの色。一人は白、もう一人は赤。
そして瞳 の色だ。
一人は黒、もう一人はこげ茶とゆらめく緑の左右 色ちがい。
ルナ「教会だね、カナ」
カナ「お墓だね、ルナ」
穴を掘 る男が手を止める。
かびくさい土に立てかけた、大きなシャベルによりかかる。
//この段階では彼にとってルナとカナは初めて見る顏。
墓掘り人「やあ、おじょうさんたち。見かけない顏だね」
二人は顏を見合 わせて、互 いの胸元 に手をのばす。
白い指先が触 れる。襟元 の丸いブローチに。一箇所 だけ欠 けた、それ以外は完ぺきな半球 。
//ここでルナとカナはドレスに織り込まれた「見たいものを見せる」魔法を発動。
//この町に居そうなありふれた少女に擬態し、さらに墓掘り人には一時的に「知ってる子」と認識させます。
刹那 、光が走った。
白と赤、フードつきケープの表面にちらちらと。
夕焼 けが照 り映 えたような、淡 い赤い光の網 。
つかのま浮かんですぐ消える、はかない夢のよう。
墓掘り人「どこに行くんだい?」
最初に白いフードの黒い瞳 が口をひらいた。
ルナ「僕たち、おじさんの家に行くんだ」
赤いフードに色ちがいの瞳の少女が続く。
カナ「ねえさんが待っているから」
ルナ「そうだね、心配しているね」
カナ「うん、きっと心配してる」
墓掘り人「わかるよ、近 ごろいろいろ物騒 だからね」
男が掘っているのは、墓穴 だった。
そい寝 のように並べられた、同じ大きさの穴 二つ。
墓掘り人「今から行くと森の中で日 が暮 れてしまうよ?」
ルナ「いいんだ、急 いでいるからね」
カナ「僕たち、急 いでいるからね」
墓掘り人「そうかい。気をつけておゆき。この町では、子どもが消えているんだ。今まで何人も、何人も」
ルナ「知ってる」
カナ「消える時はいつも二人なんでしょ?」
墓掘り人「ああ。兄弟 、姉妹 、従妹 に従弟 。血のつながる子どもが二人一緒にいなくなり、森で見つかる」
ルナ「それも、その子たちのお墓?」
墓掘り人「……ああ、そうだよ」
ルナ「小さいね」
カナ「お人形のベッドみたいだね」
墓掘り人「これだけしか、見つからなかったんだ」
そして、墓掘り人は見送 った。森に向かう二人 の少女と二匹 の子猫 を。
墓掘り人「はて、あれはどこの家 の子だったんだろう」
確かに知ってる子と話していた。そのはずだった。
もう、思い出せない。名前も顏も。
墓掘り人「あれは、だれだったんだろう?」
//場面転換:町から森へ
白いずきんと赤いずきん。
少女たちは歩く。ベルトとバックルのついたおそろいの可愛 い革靴 で、灰色 の石畳 を踏 んで。
やがて石畳 の道は砂利 となり土 となり、町 を抜 け、森へと入 る。
石がごろごろ、雑草 まではえた細 い道 。
少女たちは歩く。まるでみがかれた宮殿 の床 を踏 むように、かろやかな足 どりで。
それでも森は広い。あまりに広い。
とことこと歩いて歩いて少女たち、森の中で日 が暮 れる。
ルナ「夜がくるよ、カナ」
カナ「夜がくるね、ルナ」
オレンジ色にかすむ空。足下 にしのびよる藍色 の闇 。
行く手 にぽつりと灯 がともる。
森の中の一軒家 。石づくりの壁、こけむした屋根。
戸口 の前に二本のバラ。一つは白く、一つは赤い。
小さな石のアーチの真ん中 で、しっかりからみあう。
ルナ「手をにぎってるね」
カナ「うん、にぎってるね」
バラのアーチをくぐり、玄関 の石段 を上 がる。
ずっしりぶあつい扉 には、わっかをくわえたクマの頭 がついている。
白いずきんのルナが手をのばし、わっかを握 って、扉をたたく。
//金属のドアノッカーの音
ゴン、ゴン、ゴーン……。
夕暮 れにひびく、重 たい音。
扉がきしみ、開 く、
白い女「どなた?」
女が一人顏を出す。白い顏、白い髪のぞっとするほど美しい女。
ルナ「僕は、ルナ」
カナ「ぼくは、カナ」
白い女「まあ、かわいらしい」
女の口角 がきゅうっと上がった。
白い女「こんな時間にどうしたの、おじょうちゃんたち」
ルナ「道に迷ったの」
カナ「まあかわいそうに。さあお入りなさい」
//場面転換:家の中へ
女は扉を開き、少女たちを招 きいれる。
家の中には明かりがともり、温 かい。
ルナ「ひとりで暮 らしているの?」
白い女「いいえ。妹といっしょよ。いらっしゃい」
女は少女たちを食卓 に招 いた。
あたたかいシチューとふかふかのパン、あまいケーキでもてなした。
少女のつれてる子猫にも、おいしいごはんを用意した。
おさかなのスープにひたしたパンとミルク。
子猫はごきげん、のどを鳴らし、一滴 のこらずなめとった。
白い女「つかれたでしょう? ぐっすりおやすみなさい」
案内された部屋には、ベッドが二つ並んでいる.
すべすべの敷布 、ふかふかの羽根布団 。
まるでお姫様 が眠るために準備されたような、かわいいベッド。
白い女「お飲みなさい。あたたまるわ」
カップに入ったあたたかいミルク。
テーブルに置くと、女は静かに部屋を出て、扉をしめた。
ルナ「おやすみなさい」
カナ「おやすみなさい」
ミルクからたちのぼる湯気 ふたすじ。
あまくてあたたかいミルクに顏をよせ、子猫はひくひくと鼻をうごめかせる。
子猫「んびぃ」
耳を伏 せた。
子猫「んびゃあ」
白い牙 を見せた。
カナ「そう」
ルナ「やっぱりね」
//時間経過
真夜中 を少しすぎたころ。
木々を鳴らす風さえも息 をひそめる静 けさ。
//廊下を歩く音
きぃ、きっ、きっ。
廊下 がきしみ、扉が開 く。ろうそくを灯 した燭台 を手に、白い女がすべりこむ。
ベッドのかたわらに立ち、少女たちの寝息 をうかがう。
白い女「ぐっすりねむっている」
ルナ「そうだね」
白い女「なっ!」
ふりむけば、ほほえみ立つのは白いフードの少女。
同時にベッドに眠る二人がぱちりと目を開ける。
金色 の瞳。
子猫「ぴゃあ」
子猫「ぴゃああ」
おきあがるのは二匹の子猫。
白い女「お前、ミルクを飲まなかったね?」
ルナ「うん。だって食事はあなたも一緒に食べたけど、ミルクは僕たちの分 しかなかったじゃない」
白い女「バカな子。眠ったまま楽に死なせてあげたのに」
ルナ「大きなお世話 」
白い女「もう一人はどこ?」
白いフードの少女は後 ずさる。女が後 を追う。
//魔法のドレスの擬態機能で、白い女にはルナとカナが「金髪で青い瞳」に見えています。
白い女「ねえ、あなたたちは本当にそっくりね。金色 の髪、青い瞳、バラ色のほほ、同じ顏」
じりじりと廊下 を歩き、居間 に向かう。
ついさっき、あったかいご飯 を食べた部屋へ。
白い女「同じ姿の双子 の姉妹 。いつでもどこでも一緒」
めらめらと燃 える暖炉 の明 かりが照 らす。
骨 だ。
女の持つ燭台 は、ぴかぴかにみがかれた骨だ。
ほっそりきゃしゃな手の骨が、ロウソクをつかんでいるのだ。
白い女「いつでもいつでも二人で一人。そんなのっておかしい。絶対おかしいわ! 私とあの子は、ちがうのに!」
くわっと女が目を開く。血走 った白目 、黒くうがたれた瞳孔 。
白い女「私たち、二人で一緒でなきゃ意味がなかった。価値 がなかった」
口角 から泡 を飛ばして顏をゆがめる。
白い女「だからいつも一緒にいたの。いつも、いつも、いつも」
白い女「クマを家に入れた時も、小人のヒゲを切った時も」
白い女「小人を斧 でなぐり殺して王子様の呪 いをといた時も、二人一緒だった。それなのに! ああ、それなのに!」
//骨の砕ける音
がしゃり。
女はロウソクを暖炉 に投 げ込 んだ。骨がくだけて炎 に包 まれる。
白い女「王子様が選んだのはあの子! 明るい声でよく笑う、可愛 い紅 バラ。私の妹!」
かわりににぎるは古い斧。
くもった刃 、ひびわれた柄 。なまなましく血のこびりついた斧。
白い女「切り刻 んでやった。こまぎれにして、骨から肉をひきはがして、残らず食 ってやった!」
くわっと女が口を開ける。色の薄 い唇の内側 は、まがまがしく赤い。
白い女「さあ、かわいい子、お前もほんとはそうなんでしょう? もう一人がねたましいでしょう?」
白い女「あの子の居場所 を教えなさい。そしたらお前は逃がしてあげる」
ルナ「おあいにくさま」
少女は笑う。桜貝 の唇を三日月 につり上げて、白い歯を見せて。
フードの中に手を入れて、ざらっと抜 き出すのは大きな裁ち鋏 。美しいつる草状 の模様 が刻 まれた、ぴかぴかの鋏 。
斧に立 ち向かうには、あまりに小さく頼 りない。
白い女「あらあら、そんな鋏 でどうするの?」
女は身 を反 らせて笑う。けたたましい声。耳障 りな金切 り声 。
白い女「お裁縫 でもはじめるつもり?」
ルナ「僕たちは姉妹 じゃないよ」
//ルナが擬態魔法を解除しました。
唇をすぼめて、ふっと胸元 のブローチに息をふきかける。
白いケープに光が走る。
女の顔から笑 みが消える。
白い女「お前はだれ?何者 ?」
ルナ「僕は僕だよ。ああ、このドレスね、特別製 なんだ」
少女は落ち着 き払 ってぱちりと片目 をつぶる。
ルナ「魔法使 いのおネェさんが作ってくれた。見たいものを見せる魔法を今、解 いた」
//金属音
しゃりん、と澄 んだ音 を立てて鋏 が分 かれる。左右 に分かれて二本の短い刃 に変 わる。
ルナ「僕たちは別の『本』の同じ存在。同じだから食いあわない」
//カナは今まで擬態魔法で姿を消して隠れていました。それを解除したのです。
影の中から音もなく、赤いずきんの少女が現れる。
カナ「同じだからうらやまない」
ルナ「お前とはちがう」
ぐりんっと女の目がひっくりかえる。
白い女「同じだろうがちがってようが、かまうものか!」
//斧を振り回す音
斧をふり上げ打ちかかる。
白い女「二人とも刻 んでやる。食 ってやるぅうう!」
ルナ「遅 い遅 い」
//ルナとカナ、サイドステップで斧をかわす
二人の少女はさっと左右 にわかれた。
ふわりと白いケープが宙 に舞 う。
//ルナがジャンプ。
ルナ「さあ、絵本はおしまい、ベッドにおゆき、雪白 ちゃん」
//ルナ、鋏で切りかかる
銀の光が走る。
すっぱりと女の顔に線が走る。
額 から鼻 、顎 、首 、胸 、腹 、つまさまで一気 に。
白い女「あ……」
//女、切られる。あまりリアルじゃなくて、すぱっとリンゴとかキャベツの切れるような感じ。
かぱっと女は真っ二 つ。
右と左に真っ二 つ。
中からこぼれるもう一人。首だけの美しい女がもう一人。
ルナ「ほんとだ、一緒にいたんだね」
カナ「ずっと一緒にいたんだね」
飛 び散 る血潮 が白いずきんを赤く染 める。
ルナ「歌って、カナ」
カナ「わかったよ、ルナ」
赤いフードの少女は胸の前で手を組み、歌い出す。
//少女が歌うイメージの音楽を流してもいいかも。
最初は小川のせせらぎよりも小さな声で。
次第に大きく、はっきりと。
ひばりのさえずりよりも高 らかに歌いあげる祈 りの歌。
どこかで聞いたような。そしてどこでも聞いたことのないメロディ。
歌声は夜の空気を震 わせ、輝 きとなり部屋を満 たす。
声と旋律 がよりあわさり、繭 となり……
真っ二 つの女と首だけの女。
うり二つの美しい姉妹をつつみこむ。
床 の上で真っ二 つの女がつぶやく。
白い女「わたし、妹が大好きだったのよ。だから、だから王子様なんかにとられたくなかったの……」
白い薔薇 は散 った。
赤い薔薇 をのみこんで。
白い薔薇 と赤い薔薇 はどちらも消えてしまった。
子猫「ぴゃあ」
子猫「ぴゃああ」
そしてゼロから再 び始 まる。
//場面転換:本の中の世界から現実世界へ
ぽんっと二人は本から飛び出した。ふわふわの銀色子猫 を腕 に抱 いて。
おねえさん「お帰りカナちゃんっ、ああ無事 でよかった心配したーっ」
心配しているおねえさん。
//わがままなお姫様と、お姫様が可愛すぎてひれふす忠実な下僕。
カナ「つかれた。靴 ぬがせて」
おねえさん「はい」
カナ「足もんで」
おねえさん「はい!」
おじさん「お帰りルナ」
待っていたおじさん。
//血まみれの少女を見てほほえむおじさん……ちょっとアレな二人です。
ルナ「見て見て、おじさん。きれいに咲 いたでしょ?」
おじさん「ああ、美しい。にあうよ、赤いフード」
本屋「お二人ともおつかれさです」
白いシャツに黒いベストに黒いズボン。物静 かな店主 がうやうやしく身 をかがめる。
飴色 の光に満 たされた店の中、壁をうずめる本棚 は天井 までとどく。中には本がぎっしり。
手袋をはめた手には、一冊の本。表紙には黒い染 みが蠢 き、タイトルはわからない。
その蠢 く染 みが、しゅわっと消えた。
赤い表紙と金 で箔押 しされたタイトルが現 れる。
『ゆきしろべにばら』
本屋「ありがとう、無事に本の汚染 が除去 されました。ほうっておいたら、店中 の本に広がっていました」
カナ「なにそれ、怖 っ」
ルナ「この店の本って、全 ての本につながってるんでしょ?」
本屋「はい。あやうく世界中 の『ゆきしろべにばら』が、妹を食い殺す姉の話に書 き換 えられるところでした」
カナ「なにそれ、趣味 わるーい」
ルナ「うつくしくなーい」
店主は身 をかがめてカウンターの裏から、大きなバスケットを持ち上げた。
本屋「これはほんのお礼 です。みなさんで召 し上 がってください」
カナ「わあ、美味 しそう」
おみやげは、大きな大きないちごのパイと、赤いぶどう酒 。
そして、少女たちは「お家 」に帰りました。
めでたし、めでたし。
(おとぎ探偵ルナカナ~ゆきしろべにばら/了)
※小説より、シナリオに近い形です。
※漫画の原作やボイスドラマのシナリオにお使いいただく時に。
//場面:夕方の町
どんより
こつ、こつ、こつ。
ルナ「静かだね、カナ」
カナ「静かだね、ルナ」
ルナ「だれもいない」
カナ「うん、だれもいない」
その二人、完ぺきなシンメトリーにしてアンシンメトリー。
モノトーンの風景の中、浮かび上がるまぶしい白、あざやかな赤。
愛らしいはずなのに、見ているだけで胸がざわつく。
うねり一つ無いまっすぐな黒髪に、
ぱっちり
顔のつくりはうりふたつ。すんなりした手足も
おそろいのドレスにおそろいのコルセット、おそろいのブローチ、おそろいのフード
何もかもおそろいの少女、だがちがいはあった。
まずはケープの色。一人は白、もう一人は赤。
そして
一人は黒、もう一人はこげ茶とゆらめく緑の
ルナ「教会だね、カナ」
カナ「お墓だね、ルナ」
穴を
かびくさい土に立てかけた、大きなシャベルによりかかる。
//この段階では彼にとってルナとカナは初めて見る顏。
墓掘り人「やあ、おじょうさんたち。見かけない顏だね」
二人は顏を
白い指先が
//ここでルナとカナはドレスに織り込まれた「見たいものを見せる」魔法を発動。
//この町に居そうなありふれた少女に擬態し、さらに墓掘り人には一時的に「知ってる子」と認識させます。
白と赤、フードつきケープの表面にちらちらと。
つかのま浮かんですぐ消える、はかない夢のよう。
墓掘り人「どこに行くんだい?」
最初に白いフードの黒い
ルナ「僕たち、おじさんの家に行くんだ」
赤いフードに色ちがいの瞳の少女が続く。
カナ「ねえさんが待っているから」
ルナ「そうだね、心配しているね」
カナ「うん、きっと心配してる」
墓掘り人「わかるよ、
男が掘っているのは、
そい
墓掘り人「今から行くと森の中で
ルナ「いいんだ、
カナ「僕たち、
墓掘り人「そうかい。気をつけておゆき。この町では、子どもが消えているんだ。今まで何人も、何人も」
ルナ「知ってる」
カナ「消える時はいつも二人なんでしょ?」
墓掘り人「ああ。
ルナ「それも、その子たちのお墓?」
墓掘り人「……ああ、そうだよ」
ルナ「小さいね」
カナ「お人形のベッドみたいだね」
墓掘り人「これだけしか、見つからなかったんだ」
そして、墓掘り人は
墓掘り人「はて、あれはどこの
確かに知ってる子と話していた。そのはずだった。
もう、思い出せない。名前も顏も。
墓掘り人「あれは、だれだったんだろう?」
//場面転換:町から森へ
白いずきんと赤いずきん。
少女たちは歩く。ベルトとバックルのついたおそろいの
やがて
石がごろごろ、
少女たちは歩く。まるでみがかれた
それでも森は広い。あまりに広い。
とことこと歩いて歩いて少女たち、森の中で
ルナ「夜がくるよ、カナ」
カナ「夜がくるね、ルナ」
オレンジ色にかすむ空。
森の中の
小さな石のアーチの
ルナ「手をにぎってるね」
カナ「うん、にぎってるね」
バラのアーチをくぐり、
ずっしりぶあつい
白いずきんのルナが手をのばし、わっかを
//金属のドアノッカーの音
ゴン、ゴン、ゴーン……。
扉がきしみ、
白い女「どなた?」
女が一人顏を出す。白い顏、白い髪のぞっとするほど美しい女。
ルナ「僕は、ルナ」
カナ「ぼくは、カナ」
白い女「まあ、かわいらしい」
女の
白い女「こんな時間にどうしたの、おじょうちゃんたち」
ルナ「道に迷ったの」
カナ「まあかわいそうに。さあお入りなさい」
//場面転換:家の中へ
女は扉を開き、少女たちを
家の中には明かりがともり、
ルナ「ひとりで
白い女「いいえ。妹といっしょよ。いらっしゃい」
女は少女たちを
あたたかいシチューとふかふかのパン、あまいケーキでもてなした。
少女のつれてる子猫にも、おいしいごはんを用意した。
おさかなのスープにひたしたパンとミルク。
子猫はごきげん、のどを鳴らし、
白い女「つかれたでしょう? ぐっすりおやすみなさい」
案内された部屋には、ベッドが二つ並んでいる.
すべすべの
まるでお
白い女「お飲みなさい。あたたまるわ」
カップに入ったあたたかいミルク。
テーブルに置くと、女は静かに部屋を出て、扉をしめた。
ルナ「おやすみなさい」
カナ「おやすみなさい」
ミルクからたちのぼる
あまくてあたたかいミルクに顏をよせ、子猫はひくひくと鼻をうごめかせる。
子猫「んびぃ」
耳を
子猫「んびゃあ」
白い
カナ「そう」
ルナ「やっぱりね」
//時間経過
木々を鳴らす風さえも
//廊下を歩く音
きぃ、きっ、きっ。
ベッドのかたわらに立ち、少女たちの
白い女「ぐっすりねむっている」
ルナ「そうだね」
白い女「なっ!」
ふりむけば、ほほえみ立つのは白いフードの少女。
同時にベッドに眠る二人がぱちりと目を開ける。
子猫「ぴゃあ」
子猫「ぴゃああ」
おきあがるのは二匹の子猫。
白い女「お前、ミルクを飲まなかったね?」
ルナ「うん。だって食事はあなたも一緒に食べたけど、ミルクは僕たちの
白い女「バカな子。眠ったまま楽に死なせてあげたのに」
ルナ「大きなお
白い女「もう一人はどこ?」
白いフードの少女は
//魔法のドレスの擬態機能で、白い女にはルナとカナが「金髪で青い瞳」に見えています。
白い女「ねえ、あなたたちは本当にそっくりね。
じりじりと
ついさっき、あったかいご
白い女「同じ姿の
めらめらと
女の持つ
ほっそりきゃしゃな手の骨が、ロウソクをつかんでいるのだ。
白い女「いつでもいつでも二人で一人。そんなのっておかしい。絶対おかしいわ! 私とあの子は、ちがうのに!」
くわっと女が目を開く。
白い女「私たち、二人で一緒でなきゃ意味がなかった。
白い女「だからいつも一緒にいたの。いつも、いつも、いつも」
白い女「クマを家に入れた時も、小人のヒゲを切った時も」
白い女「小人を
//骨の砕ける音
がしゃり。
女はロウソクを
白い女「王子様が選んだのはあの子! 明るい声でよく笑う、
かわりににぎるは古い斧。
くもった
白い女「切り
くわっと女が口を開ける。色の
白い女「さあ、かわいい子、お前もほんとはそうなんでしょう? もう一人がねたましいでしょう?」
白い女「あの子の
ルナ「おあいにくさま」
少女は笑う。
フードの中に手を入れて、ざらっと
斧に
白い女「あらあら、そんな
女は
白い女「お
ルナ「僕たちは
//ルナが擬態魔法を解除しました。
唇をすぼめて、ふっと
白いケープに光が走る。
女の顔から
白い女「お前はだれ?
ルナ「僕は僕だよ。ああ、このドレスね、
少女は落ち
ルナ「
//金属音
しゃりん、と
ルナ「僕たちは別の『本』の同じ存在。同じだから食いあわない」
//カナは今まで擬態魔法で姿を消して隠れていました。それを解除したのです。
影の中から音もなく、赤いずきんの少女が現れる。
カナ「同じだからうらやまない」
ルナ「お前とはちがう」
ぐりんっと女の目がひっくりかえる。
白い女「同じだろうがちがってようが、かまうものか!」
//斧を振り回す音
斧をふり上げ打ちかかる。
白い女「二人とも
ルナ「
//ルナとカナ、サイドステップで斧をかわす
二人の少女はさっと
ふわりと白いケープが
//ルナがジャンプ。
ルナ「さあ、絵本はおしまい、ベッドにおゆき、
//ルナ、鋏で切りかかる
銀の光が走る。
すっぱりと女の顔に線が走る。
白い女「あ……」
//女、切られる。あまりリアルじゃなくて、すぱっとリンゴとかキャベツの切れるような感じ。
かぱっと女は
右と左に
中からこぼれるもう一人。首だけの美しい女がもう一人。
ルナ「ほんとだ、一緒にいたんだね」
カナ「ずっと一緒にいたんだね」
ルナ「歌って、カナ」
カナ「わかったよ、ルナ」
赤いフードの少女は胸の前で手を組み、歌い出す。
//少女が歌うイメージの音楽を流してもいいかも。
最初は小川のせせらぎよりも小さな声で。
次第に大きく、はっきりと。
ひばりのさえずりよりも
どこかで聞いたような。そしてどこでも聞いたことのないメロディ。
歌声は夜の空気を
声と
うり二つの美しい姉妹をつつみこむ。
白い女「わたし、妹が大好きだったのよ。だから、だから王子様なんかにとられたくなかったの……」
白い
赤い
白い
子猫「ぴゃあ」
子猫「ぴゃああ」
そしてゼロから
//場面転換:本の中の世界から現実世界へ
ぽんっと二人は本から飛び出した。ふわふわの
おねえさん「お帰りカナちゃんっ、ああ
心配しているおねえさん。
//わがままなお姫様と、お姫様が可愛すぎてひれふす忠実な下僕。
カナ「つかれた。
おねえさん「はい」
カナ「足もんで」
おねえさん「はい!」
おじさん「お帰りルナ」
待っていたおじさん。
//血まみれの少女を見てほほえむおじさん……ちょっとアレな二人です。
ルナ「見て見て、おじさん。きれいに
おじさん「ああ、美しい。にあうよ、赤いフード」
本屋「お二人ともおつかれさです」
白いシャツに黒いベストに黒いズボン。
手袋をはめた手には、一冊の本。表紙には黒い
その
赤い表紙と
『ゆきしろべにばら』
本屋「ありがとう、無事に本の
カナ「なにそれ、
ルナ「この店の本って、
本屋「はい。あやうく
カナ「なにそれ、
ルナ「うつくしくなーい」
店主は
本屋「これはほんのお
カナ「わあ、
おみやげは、大きな大きないちごのパイと、赤いぶどう
そして、少女たちは「
めでたし、めでたし。
(おとぎ探偵ルナカナ~ゆきしろべにばら/了)