雪の女王その1
文字数 2,234文字
雪と氷に閉ざされたお城の、永遠に凍 てつく広間に男の子が一人。
氷の玉座にうずくまる。
金色の瞳はうつろ
目の前の鏡を見つめている。
写っているのは自分自身。
耳元でささやく女の声。
「ここにはお前の望む永遠がある」
「ずうっとここにいなさい」
なずく男の子。
さしのべた手が触れ合う。
男の子、男の子。
氷の広間で遊んでいる。
楽しそうに、笑ってる。
鏡にはだれも写っていない。
※
雪が降る。雪が降る。
四月の後半になっても寒い日が続いていた。花冷えとすませるにはあまりに長い、凍てつく日々。
「桜の花に雪が降り積もる」「風流ですねー」お天気キャスターがのん気に言ってる。
だけど事態は想像以上に深刻。
「みんなまだ気づいていないんだ」
異様な寒さが、世界中に広まっている。
日本、アメリカ、ヨーロッパ、中国、ロシア、台湾、インド、エジプト……
世界中で「季節外れのあわ雪」が降り始めていた。
つもらず溶ける、はかないあわ雪。しかしそれも地面が熱をたくわえている間のこと。ほどなく粉雪降りつもり、やがては吹雪が視界を閉ざす。
だぁれも知らない。
それが決して止まない雪の始まりだとは。
七巡市 もその例外ではない。
高級住宅街の一角、骨身荘 と呼ばれる古い洋館。
中味は最新式の快適 なシェアハウスに改築されているけれど、これだけ広いとやはり寒い。
居間の暖炉は燃え盛り、コタツは強。そして猫はコタツで丸くなる。二匹ぴったりくっついて、ふわっふわの銀色猫だんご。
「ヌー、おいで、にぼしだよ」
「ヌー、おいで、チーズだよ」
「……」
「……」
「ダメだ、出てこない」
「寒いものね」
「雪降ってるしね」
猫はこたつで丸くなる。
「しょうがないなー、今回はお留守番する?」
「ぴゃーっ」
途端に二匹とも飛び出し、ルナとカナにしがみつく。寒いのは苦手、だけどルナカナと離れるのはもっとイヤ。
「こまったなーどうしよう」
「コタツを背負ってく訳には行かないし……」
「リュックにカイロつめる?」
「何個入れればいいんだろう」
ピンポーン。
鳴り響くインターホン。
「どうぞ」
「ごめんくださぁい」
ドアが開いた。冷たい風が吹きつけて、二匹の子猫はぴゃっとコタツに逃げ込んだ。
黒地に赤い刺繍の入った和装コートを羽織り、入ってきたのは魔法使いのおネェさん。雪の中を歩いてきたはずなのに、全然まったくぬれてない。
「お待たせ! 今回のドレスよ!」
風呂敷包みを広げて、中から次々とドレスを取り出す。まるでまるで魔法。いいえ、これこそ魔法。
ファーの縁取 られたふっかふかのフードつきケープにロングコート! 手袋! 厚手のロングスカート!
「そしてヒート○ック」
「そこ、ユ○クロの技術なんだ」
「もちろん魔法もばっちり織り込んだわ。これを着れば、どんなに寒くても、中は常に摂氏 20度に保 たれるのよ」
早速、おきがえタイム。
「おお」
「あったかい!」
「ケープはヌーちゃんたちとおそろいよ」
「ぴゃあ」
「ぴゃああ!」
「寒くないように、フットカバーも用意したわ」
「さすがおネェちゃん」
寒さ問題はこれで解決。
魔法のバスケットに、ポットに入れたあったかいお茶とお弁当を入れて、本屋さんに出発!
「さあ、浄化をはじめよう」
※
ある日、おとぎ話が『歪 み』に汚染 された。
歪みはまたたくまに世界中に広がり、勝手に話を書き換 える。
やがては現実をも。
これは、歪んだおとぎ話を浄化 する不思議な双子 のお話 。
※
「どうなってるの!?」
雪が降る。雪が降る。さらさらささらと降りつもる、細かな固い粉の雪。ふかふかみっしり降りつもる。石畳の道に。灰色の屋根に。高だかとそびえる市庁舎の時計塔に。
「ここ、コペンハーゲンだよね」
「この間来たばっかりだ」
「でもちがう」
「だいぶちがう」
然 り。前回、地獄の女王と化したインゲルと巨大ロボに破壊された町並は、全て元に戻っていた。
だが、凍っている。
分厚 い氷に覆われた建物の上に、さらさらと雪がすべる。道を歩く人も、走る馬車も、犬も、猫も、全て氷の柱の中。
表情に恐怖は無い。
日常生活の一コマを、一時停止で閉じ込めた。
「凍ってるね、ルナ」
「そうだね、カナ。何もかも凍ってる」
「ありえない」
「こんな瞬間凍結」
「魔法だ」
「魔法の力だ」
「ぴゃああ」
「どうしたのヌー」
銀色子猫が見つめるその先は、天に向ってそびえたつ、とんがり屋根。二つの屋根の間にせり出した、ささやかないベランダの上。
「行ってみよう、ルナ」
「そうだね、カナ」
ばさり。
二人の背中に羽根が広がる。光が実体化した虹色の羽根。
※
ふわり。
ふわり。
妖精のように舞い降りる二人。
「ああ」
「何てこと」
小さなベランダには氷柱二つ。
木箱に植えられた薔薇の花。
小さなじょうろを抱えて、今まさに水をそそごうとする小さな女の子。
「ゲルダが」
「凍ってる」
※次回は5/8の11:00に公開します
氷の玉座にうずくまる。
金色の瞳はうつろ
目の前の鏡を見つめている。
写っているのは自分自身。
耳元でささやく女の声。
「ここにはお前の望む永遠がある」
「ずうっとここにいなさい」
なずく男の子。
さしのべた手が触れ合う。
男の子、男の子。
氷の広間で遊んでいる。
楽しそうに、笑ってる。
鏡にはだれも写っていない。
※
雪が降る。雪が降る。
四月の後半になっても寒い日が続いていた。花冷えとすませるにはあまりに長い、凍てつく日々。
「桜の花に雪が降り積もる」「風流ですねー」お天気キャスターがのん気に言ってる。
だけど事態は想像以上に深刻。
「みんなまだ気づいていないんだ」
異様な寒さが、世界中に広まっている。
日本、アメリカ、ヨーロッパ、中国、ロシア、台湾、インド、エジプト……
世界中で「季節外れのあわ雪」が降り始めていた。
つもらず溶ける、はかないあわ雪。しかしそれも地面が熱をたくわえている間のこと。ほどなく粉雪降りつもり、やがては吹雪が視界を閉ざす。
だぁれも知らない。
それが決して止まない雪の始まりだとは。
高級住宅街の一角、
中味は最新式の
居間の暖炉は燃え盛り、コタツは強。そして猫はコタツで丸くなる。二匹ぴったりくっついて、ふわっふわの銀色猫だんご。
「ヌー、おいで、にぼしだよ」
「ヌー、おいで、チーズだよ」
「……」
「……」
「ダメだ、出てこない」
「寒いものね」
「雪降ってるしね」
猫はこたつで丸くなる。
「しょうがないなー、今回はお留守番する?」
「ぴゃーっ」
途端に二匹とも飛び出し、ルナとカナにしがみつく。寒いのは苦手、だけどルナカナと離れるのはもっとイヤ。
「こまったなーどうしよう」
「コタツを背負ってく訳には行かないし……」
「リュックにカイロつめる?」
「何個入れればいいんだろう」
ピンポーン。
鳴り響くインターホン。
「どうぞ」
「ごめんくださぁい」
ドアが開いた。冷たい風が吹きつけて、二匹の子猫はぴゃっとコタツに逃げ込んだ。
黒地に赤い刺繍の入った和装コートを羽織り、入ってきたのは魔法使いのおネェさん。雪の中を歩いてきたはずなのに、全然まったくぬれてない。
「お待たせ! 今回のドレスよ!」
風呂敷包みを広げて、中から次々とドレスを取り出す。まるでまるで魔法。いいえ、これこそ魔法。
ファーの
「そしてヒート○ック」
「そこ、ユ○クロの技術なんだ」
「もちろん魔法もばっちり織り込んだわ。これを着れば、どんなに寒くても、中は常に
早速、おきがえタイム。
「おお」
「あったかい!」
「ケープはヌーちゃんたちとおそろいよ」
「ぴゃあ」
「ぴゃああ!」
「寒くないように、フットカバーも用意したわ」
「さすがおネェちゃん」
寒さ問題はこれで解決。
魔法のバスケットに、ポットに入れたあったかいお茶とお弁当を入れて、本屋さんに出発!
「さあ、浄化をはじめよう」
※
ある日、おとぎ話が『
歪みはまたたくまに世界中に広がり、勝手に話を書き
やがては現実をも。
これは、歪んだおとぎ話を
※
「どうなってるの!?」
雪が降る。雪が降る。さらさらささらと降りつもる、細かな固い粉の雪。ふかふかみっしり降りつもる。石畳の道に。灰色の屋根に。高だかとそびえる市庁舎の時計塔に。
「ここ、コペンハーゲンだよね」
「この間来たばっかりだ」
「でもちがう」
「だいぶちがう」
だが、凍っている。
表情に恐怖は無い。
日常生活の一コマを、一時停止で閉じ込めた。
「凍ってるね、ルナ」
「そうだね、カナ。何もかも凍ってる」
「ありえない」
「こんな瞬間凍結」
「魔法だ」
「魔法の力だ」
「ぴゃああ」
「どうしたのヌー」
銀色子猫が見つめるその先は、天に向ってそびえたつ、とんがり屋根。二つの屋根の間にせり出した、ささやかないベランダの上。
「行ってみよう、ルナ」
「そうだね、カナ」
ばさり。
二人の背中に羽根が広がる。光が実体化した虹色の羽根。
※
ふわり。
ふわり。
妖精のように舞い降りる二人。
「ああ」
「何てこと」
小さなベランダには氷柱二つ。
木箱に植えられた薔薇の花。
小さなじょうろを抱えて、今まさに水をそそごうとする小さな女の子。
「ゲルダが」
「凍ってる」
※次回は5/8の11:00に公開します