九月の物語 夢咲地蔵《ゆめさきじぞう》
文字数 4,352文字
遥かかなたまで
草原が広がる景色の中に、
どこまでも続く一本道。
まだまだ残暑が厳しい九月のある日。
照りつける太陽の真下を、
ポツンとたった一人、
歩いている旅人がいました。
彼の名は、「伊達 眞継 」。
尊敬していた祖父と同じ
仏師 の道に進むと決意し、
ここまで懸命にやってきましたが、
なかなか仕事を任せてくれない
師匠 の元を飛び出し、
これから先どうしたらいいのか
答えが出ないまま、
あてもなく彷徨 っていたのです。
「眞継 」は、名だたる先輩 仏師 から、
千年に一度の逸材 と言われ、
天才仏師 と謳 われた「眞継」の祖父でさえも
孫の腕前にはいち目 置いていたほどでした。
厳しい修行の合間を縫って、
完璧に彫り上げた仏像に対し、
師匠は「眞継」にこう言い放ったのです。
「仏像はただの彫刻ではない。
こんなものは彫刻家でも彫れる。
人々が仏像に何を求めているのか、
おまえはまったくわかっていない。
仏師の道はあきらめて、
別の道を進んだ方がいい。」
どうして自分が今ここにいるのか、
「眞継」にもわかりませんでした。
ただ。。。
以前、夢で同じ景色を見たことがあり、
気づいたらここに来ていたのです。
ここは東ヨーロッパの片田舎。
人里離れたこの村を
訪れる外国人はほとんどいません。
しばらく歩いていると、
何か小さな屋根のような
ものが目に止まり、
近づいて見てみると、
そこには祠 に護 られた
石像があったのです。
なんと、その石像は
日本の道端でもよく見かける
《お地蔵 さま》。
(どうしてこんな所に《お地蔵 さま》が。
この《お地蔵 さま》、誰かに似ている。)
「眞継」がそう思った時、
後ろから誰かが近づいてくる
足音がしました。
振り向いて見てみると
ひとりの若い女性が、
水の入ったコップと一切れのパンが
のった皿を持って、
こちらに向かってくるところ。
彼女の名は「ナターシャ」。
「ナターシャ」は、
「眞継」が日本人だとすぐわかり、
親しげに流ちょうな日本語で
話しかけてきたのです。
「日本人の方ですか?」
「はい。
あのぅ。。。
これは《お地蔵 さま》ですよね?
どうして日本の石像が
この地にあるのですか?
それもこんな草原の中に。」
彼女の話によれば、
この石像がこの地に設置されたのは
千年ほど前だそうで、
彼女の祖先が、
二人の異国人から
この石像を託されたのだ
ということです。
当時、この辺りは未開拓地で、
とても人が住めるような場所では
ありませんでした。
気候にも恵まれず、
ある年は日照りが続き、
またある年は大雨が続き、
多くの人々が
飢えて亡くなっていったといいます。
その二人の異国人は、
「必ずこの場所にこの石像を祀 り、
毎日、水とパンを供 え、
手を合わせて
感謝と願いを込めた祈りを
捧 げてください。
そうすれば、
きっとあなた方に
幸せをもたらしてくれるでしょう。」
そう言って去って行ったそうです。
絶望の淵 に立たされていた
彼女の祖先はその言葉を信じ、
村人とともに
この石像に祈りを捧げました。
不思議なことに
それ以来一度も
日照りや洪水が起こることはなく、
けっして裕福な暮らしでは
ありませんでしたが、
食べることに困ることなく
生きていくことができたそうです。
それどころか、
「ナターシャ」を含め、
この村に住む多くの人々が
夢を叶えているらしいのです。
けっして生活は楽ではないけれど、
この村の人々はみな
一切、自暴自棄 にならず、
また絶望することなく
前向きに希望を胸に
日々精一杯生きている人々ばかり。
そして夢をあきらめず、
この石像に毎日欠かさず
祈りを捧 げているそうです。
それが彼らの祖先からの
唯一の遺言なのです。
「ナターシャ」は言います。
「夢が叶ったのは、
その祈りに答えてくれた
この石像のおかげです。」と。
「ナターシャ」の好意で
一晩家に泊めてもらうことになった
「眞継」は、その夜夢を見ました。
ただ一心に石像を
彫っている男性の後ろ姿。
その背中。
見覚えがありました。
それは、天才仏師と謳 われた
亡くなった「眞継」の祖父と
そっくりの男性だったのです。
その表情は実に穏やかで、
優しい笑みを浮かべています。
「眞継」には、いつも自分に向けてくれた
祖父の微笑 みと同じように感じたのです。
それは、まさに今
その仏師が彫り上げている
石像の表情そのもの。
やがて出来上がった石像は
二人の男女の手に渡されます。
女性の方は《巫女 》様のようでした。
《巫女 》様は
その石像を祭壇 に供 えると
手を合わせて祈り始めます。
その時「眞継」には
その《巫女 》様の
祈りの声が聞こえたのです。
(どうかこの世が
平穏 でありますように。。。)
(童 が飢 えで苦しむことなく
腹を満たせますように。。。 )
(童 の
祈りを捧 げると、《巫女 》様と男性は
その石像を携 え、港から船に乗り、
どこかへ旅立ちます。
《巫女 》様の肩には、
真っ白なかわいい子鳥が
止まっていました。
そこで「眞継」は目が覚めたのです。
(間違いない。
この石像。。。この石像は、
『夢咲地蔵 』と呼ばれる幻の石像)。
「眞継」は、まだ小さかった頃、
祖父から聞いた話を思い出しました。
千年ほど前、
一人の《巫女 》様に頼まれ、
《お地蔵 さま》の石像を彫った
一流の仏師がいたそうな。
その石像は『夢咲地蔵 』と呼ばれ、
人々の夢を叶える、まるで神そのもの
であるかのような【無限の力】が
宿されていると。
やがてその石像は日本を離れ、
遠い異国のどこかに運ばれた。
彼らをその地まで案内したのは、
天から遣 わされし、金色の光に包まれた
一羽の真っ白なハチドリ。
『夢咲地蔵 』のおかげで
その地には争いも戦 もなく、
子供たちが飢えで苦しんだり、
亡くなったりしなくなったという。
余命 いくばくもない、その仏師が
全身全霊 を懸 けて彫り上げた
人生最後の渾身 の一体。
仏師の魂そのものであるその石像に、
《巫女 》様の、人々の幸せを願う
美しく清らかな心を重ね合わせ、
それが天に認められたその時。
三者の想いが一つになり、
幸福の旋律 を奏 でると言われている。
その過程で、ほんのわずかでも
邪心 が入り込んだ途端 、
その石像は、たちまち
ただの石と化してしまう。
選ばれし者のみが
唯一作り上げることが出来る、
幸福をもたらすと言われる幻の石像。
「眞継」は急いで
その石像のもとへ向かいます。
そして石像を見て、
仏師として自分に何が
欠けていたのかを知るのです。
「眞継」のあとを
追いかけてきた「ナターシャ」は、
彼に手紙のようなものを渡します。
色あせた和紙にくるまれた
その手紙には、毛筆らしき字体で
こう書かれてありました。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
≪今日 ゆり千代 以後 、 長月。
望月 、 闇夜 に消 え入 る初月 。
我等 が国家 ゆり、継 ぐ人
此 の地 を訪 れむ。
仏師 にして、一 九 九 二 二 二 九
なる印あり。
此 の人 に其 の道具 を渡し 給 へ。
然 らば、差 し次 ぐ像 、
新 地 に幸 伝来 させむ。≫
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(現代語訳:
今日から千年後の九月。
満月が闇夜に消える新月の日。
私たちの国から継承者が
この地を訪れるでしょう。
仏師であり、
一・九・九・二・二・二・九という
数字を持っている、
この人にその道具を渡してください。
そうすれば次に続く石像が
新たな土地に幸福をもたらすでしょう。)
「ナターシャ」は
やっと自分の使命を果たす時が来た、
そう思いながら「眞継」に尋ねます。
「今日はまさしく千年後の九月。
新月の日です。
一・九・九・二・二・二・九というのは
あなたの生年月日ではありませんか?
あなたは一九九二年二月二十九日生まれ
のはずです。
私の使命は、正式な継承者、
つまりあなたにこれを渡すこと。
この日が来るのを心待ちにしていました。
「眞継」さん、
どうかこれを受け取ってください。」
確かにその数字は
「眞継」の生年月日でした。
そしてその道具とは、
石像を彫るために使用される金槌 と鑿 。
千年前のものとは思えないほど新品同様。
全くさびていない道具たち。
彼女の祖先が千年に渡り、
代々その使命を受け継ぎ、
ずっとさびないように
ひたすら研 ぎ続けてきたものです。
それは、まさにあの石像を彫った
仏師が使用していた道具でした。
自らの命と同じぐらい
大切にしていたこの道具。
それを次の継承者に託すため、
二人に渡したのです。
初めてこの石像を見た時、
誰かに似ていると思った
その誰かとは、紛 れもなく
彼の祖父でした。
急ぎ日本へ戻った「眞継」は、
再び師匠の元を訪れます。
そして師匠の許しを得て、
託された道具で一体の石像を
彫り上げます。
あの石像に込められた
仏師と《巫女 》様の想いを
自分なりに表現してみたのです。
出来上がった石像を見た
師匠は言いました。
「私の師匠であるおまえのおじいさんが
もし生きていたら、きっと涙を流して
喜んだだろう。
粗削 りだが、この石像には
おまえの心がこもっている。
多くの人々の幸せを願う
その尊 い気持ちが手に取るようにわかる。
石像も仏像も
人々の心のよりどころとなるもの。
しかし、像というものは同時に
ただそれにすがるだけでなく、
その像の前に立った時、
人々が何か大きな教えや
それに込められた想いを
受けとれるようなものでなければならない。
自らを省 みて、
これから先どう生きていくべきか、
悩み苦しむ人々の心に寄り添い、
支えとなる存在でなければならないんだ。
口で言わずとも、それをお前に
肌で感じ取ってほしいとずっと願っていた。
技術は伝えられても
それだけは教えることができないからな。
そしてもうひとつ、お前に伝えたい
とても大事なことがある。
我々は仏師として、後世まで
仏像とその仏像に込められた想いを
語り継いでいかねばならない。
そのためには後 に続く後継者を
育てていかないとな。
晩年おまえが最後の仕事を終え、
仏師として命と同じくらい大切にしている
その鑿 を擱 くその瞬間、
「「後 は任せた。」」と
自らが育てた後継者に安心して
すべてを託すことができた時
はじめて仏師としての使命を果たし終わる。
眞 の仏師というものはそういうものだ。
このことを肝 に銘 じて
いつまでも彫り続けていってほしい。
お前には誰よりも
その才能があるのだから。」
師匠のその言葉に
「眞継」はただただ涙するのでした。
こうして大きな二つの使命を
背負った「眞継」は、その使命遂行のため、
日々感謝の気持ちを忘れずに
精進することを自らに誓うのでした。
終
草原が広がる景色の中に、
どこまでも続く一本道。
まだまだ残暑が厳しい九月のある日。
照りつける太陽の真下を、
ポツンとたった一人、
歩いている旅人がいました。
彼の名は、「
尊敬していた祖父と同じ
ここまで懸命にやってきましたが、
なかなか仕事を任せてくれない
これから先どうしたらいいのか
答えが出ないまま、
あてもなく
「
千年に一度の
天才
孫の腕前にはいち
厳しい修行の合間を縫って、
完璧に彫り上げた仏像に対し、
師匠は「眞継」にこう言い放ったのです。
「仏像はただの彫刻ではない。
こんなものは彫刻家でも彫れる。
人々が仏像に何を求めているのか、
おまえはまったくわかっていない。
仏師の道はあきらめて、
別の道を進んだ方がいい。」
どうして自分が今ここにいるのか、
「眞継」にもわかりませんでした。
ただ。。。
以前、夢で同じ景色を見たことがあり、
気づいたらここに来ていたのです。
ここは東ヨーロッパの片田舎。
人里離れたこの村を
訪れる外国人はほとんどいません。
しばらく歩いていると、
何か小さな屋根のような
ものが目に止まり、
近づいて見てみると、
そこには
石像があったのです。
なんと、その石像は
日本の道端でもよく見かける
《お
(どうしてこんな所に《お
この《お
「眞継」がそう思った時、
後ろから誰かが近づいてくる
足音がしました。
振り向いて見てみると
ひとりの若い女性が、
水の入ったコップと一切れのパンが
のった皿を持って、
こちらに向かってくるところ。
彼女の名は「ナターシャ」。
「ナターシャ」は、
「眞継」が日本人だとすぐわかり、
親しげに流ちょうな日本語で
話しかけてきたのです。
「日本人の方ですか?」
「はい。
あのぅ。。。
これは《お
どうして日本の石像が
この地にあるのですか?
それもこんな草原の中に。」
彼女の話によれば、
この石像がこの地に設置されたのは
千年ほど前だそうで、
彼女の祖先が、
二人の異国人から
この石像を託されたのだ
ということです。
当時、この辺りは未開拓地で、
とても人が住めるような場所では
ありませんでした。
気候にも恵まれず、
ある年は日照りが続き、
またある年は大雨が続き、
多くの人々が
飢えて亡くなっていったといいます。
その二人の異国人は、
「必ずこの場所にこの石像を
毎日、水とパンを
手を合わせて
感謝と願いを込めた祈りを
そうすれば、
きっとあなた方に
幸せをもたらしてくれるでしょう。」
そう言って去って行ったそうです。
絶望の
彼女の祖先はその言葉を信じ、
村人とともに
この石像に祈りを捧げました。
不思議なことに
それ以来一度も
日照りや洪水が起こることはなく、
けっして裕福な暮らしでは
ありませんでしたが、
食べることに困ることなく
生きていくことができたそうです。
それどころか、
「ナターシャ」を含め、
この村に住む多くの人々が
夢を叶えているらしいのです。
けっして生活は楽ではないけれど、
この村の人々はみな
一切、
また絶望することなく
前向きに希望を胸に
日々精一杯生きている人々ばかり。
そして夢をあきらめず、
この石像に毎日欠かさず
祈りを
それが彼らの祖先からの
唯一の遺言なのです。
「ナターシャ」は言います。
「夢が叶ったのは、
その祈りに答えてくれた
この石像のおかげです。」と。
「ナターシャ」の好意で
一晩家に泊めてもらうことになった
「眞継」は、その夜夢を見ました。
ただ一心に石像を
彫っている男性の後ろ姿。
その背中。
見覚えがありました。
それは、天才仏師と
亡くなった「眞継」の祖父と
そっくりの男性だったのです。
その表情は実に穏やかで、
優しい笑みを浮かべています。
「眞継」には、いつも自分に向けてくれた
祖父の
それは、まさに今
その仏師が彫り上げている
石像の表情そのもの。
やがて出来上がった石像は
二人の男女の手に渡されます。
女性の方は《
《
その石像を
手を合わせて祈り始めます。
その時「眞継」には
その《
祈りの声が聞こえたのです。
(どうかこの世が
(
腹を満たせますように。。。 )
(
夢
が花ひらき、咲
き誇りますように。。。)祈りを
その石像を
どこかへ旅立ちます。
《
真っ白なかわいい子鳥が
止まっていました。
そこで「眞継」は目が覚めたのです。
(間違いない。
この石像。。。この石像は、
『
「眞継」は、まだ小さかった頃、
祖父から聞いた話を思い出しました。
千年ほど前、
一人の《
《お
一流の仏師がいたそうな。
その石像は『
人々の夢を叶える、まるで神そのもの
であるかのような【無限の力】が
宿されていると。
やがてその石像は日本を離れ、
遠い異国のどこかに運ばれた。
彼らをその地まで案内したのは、
天から
一羽の真っ白なハチドリ。
『
その地には争いも
子供たちが飢えで苦しんだり、
亡くなったりしなくなったという。
人生最後の
仏師の魂そのものであるその石像に、
《
美しく清らかな心を重ね合わせ、
それが天に認められたその時。
三者の想いが一つになり、
幸福の
その過程で、ほんのわずかでも
その石像は、たちまち
ただの石と化してしまう。
選ばれし者のみが
唯一作り上げることが出来る、
幸福をもたらすと言われる幻の石像。
「眞継」は急いで
その石像のもとへ向かいます。
そして石像を見て、
仏師として自分に何が
欠けていたのかを知るのです。
「眞継」のあとを
追いかけてきた「ナターシャ」は、
彼に手紙のようなものを渡します。
色あせた和紙にくるまれた
その手紙には、毛筆らしき字体で
こう書かれてありました。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
≪
なる印あり。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(現代語訳:
今日から千年後の九月。
満月が闇夜に消える新月の日。
私たちの国から継承者が
この地を訪れるでしょう。
仏師であり、
一・九・九・二・二・二・九という
数字を持っている、
この人にその道具を渡してください。
そうすれば次に続く石像が
新たな土地に幸福をもたらすでしょう。)
「ナターシャ」は
やっと自分の使命を果たす時が来た、
そう思いながら「眞継」に尋ねます。
「今日はまさしく千年後の九月。
新月の日です。
一・九・九・二・二・二・九というのは
あなたの生年月日ではありませんか?
あなたは一九九二年二月二十九日生まれ
のはずです。
私の使命は、正式な継承者、
つまりあなたにこれを渡すこと。
この日が来るのを心待ちにしていました。
「眞継」さん、
どうかこれを受け取ってください。」
確かにその数字は
「眞継」の生年月日でした。
そしてその道具とは、
石像を彫るために使用される
千年前のものとは思えないほど新品同様。
全くさびていない道具たち。
彼女の祖先が千年に渡り、
代々その使命を受け継ぎ、
ずっとさびないように
ひたすら
それは、まさにあの石像を彫った
仏師が使用していた道具でした。
自らの命と同じぐらい
大切にしていたこの道具。
それを次の継承者に託すため、
二人に渡したのです。
初めてこの石像を見た時、
誰かに似ていると思った
その誰かとは、
彼の祖父でした。
急ぎ日本へ戻った「眞継」は、
再び師匠の元を訪れます。
そして師匠の許しを得て、
託された道具で一体の石像を
彫り上げます。
あの石像に込められた
仏師と《
自分なりに表現してみたのです。
出来上がった石像を見た
師匠は言いました。
「私の師匠であるおまえのおじいさんが
もし生きていたら、きっと涙を流して
喜んだだろう。
おまえの心がこもっている。
多くの人々の幸せを願う
その
石像も仏像も
人々の心のよりどころとなるもの。
しかし、像というものは同時に
ただそれにすがるだけでなく、
その像の前に立った時、
人々が何か大きな教えや
それに込められた想いを
受けとれるようなものでなければならない。
自らを
これから先どう生きていくべきか、
悩み苦しむ人々の心に寄り添い、
支えとなる存在でなければならないんだ。
口で言わずとも、それをお前に
肌で感じ取ってほしいとずっと願っていた。
技術は伝えられても
それだけは教えることができないからな。
そしてもうひとつ、お前に伝えたい
とても大事なことがある。
我々は仏師として、後世まで
仏像とその仏像に込められた想いを
語り継いでいかねばならない。
そのためには
育てていかないとな。
晩年おまえが最後の仕事を終え、
仏師として命と同じくらい大切にしている
その
「「
自らが育てた後継者に安心して
すべてを託すことができた時
はじめて仏師としての使命を果たし終わる。
このことを
いつまでも彫り続けていってほしい。
お前には誰よりも
その才能があるのだから。」
師匠のその言葉に
「眞継」はただただ涙するのでした。
こうして大きな二つの使命を
背負った「眞継」は、その使命遂行のため、
日々感謝の気持ちを忘れずに
精進することを自らに誓うのでした。
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