十一月の物語 三柱の幼神《みはしらのおさながみ》

文字数 7,470文字

 今月は十一月。


 十一月の代表的な行事といえば、
何といっても十一月十五日の
≪七五三≫のお祝いですよね。


 諸説ありますが、
男の子は五歳で、
女の子は三歳と七歳で
地元の神社にお参りし、

ここまで無事に育ったことを
《神》様に感謝し、これからも健康で、
無事に育つようにとお願いするもの。


 女の子だけどうして
二回もお祝いするの?


 男の子から
ちょっと怒られそうですね。


 そんな中、今年七歳を迎えた
一人の女の子が今回の物語の主人公。


 紹介しますね。


 「水島(みずしま) (あい)」ちゃん。


 とっても元気な女の子です。


 お友だちがいじめっ子に
いじめられていると、

すぐにそのいじめっ子を
やっつけて、泣かせてしまうくらい
強~い女の子。


 お年寄りにも親切な「愛」ちゃんは、
近所のおじいちゃん、おばあちゃんにも
人気(にんき)があり、「愛ちゃん。愛ちゃん。」
といつも声をかけられ、とっても可愛がられているんです。


 「愛」という名前は
みんなから愛されるようにと
お父さんがつけてくれた名前。


 「愛」ちゃんは、自分の名前が
とっても気に入っています。


 でも、

そんな「愛」ちゃんは、

お友だちから

≪愛される≫存在 

というよりは。。。





むしろ

≪頼られる≫存在なのかも。



 強いね、優しいね。 



 「愛」ちゃん!





 もうすぐ≪七五三≫のお祝いの日。


 おじいちゃんとおばあちゃんから
プレゼントしてもらったきれいなお着物を
着て、神社にお参りに行くのを
とってもとっても楽しみにしています。


 お着物の色は大好きなピンク。


 白がすこし入っているグラデーション。


 お(そで)前身(まえみ)ごろの下の方には
御所車(ごしょぐるま)の柄があって、その周りには
色とりどりの四季のお花さんたちが
いっぱいいっぱい咲いています。


 桜、菊、牡丹(ぼたん)、梅、桔梗(ききょう)などなど。
 

 お気に入りのお着物に
(そで)を通す日まであと三日。


 その日まで、特別に「愛」ちゃんの
お部屋にそのお着物を(かざ)ってもらいました。


 「わ~。 ほんとにきれいだな~。」


 「愛」ちゃん、ずっとそのお着物を
見ていてもまったく()きません。




 するとその時。



 「愛ちゃん。 愛ちゃん。」


 「愛」ちゃんを呼ぶ声が聞こえました。


 (誰だろう。


 お父さんでもお母さんでもないし。)


 「愛」ちゃんには大人の声というよりは
お友だちの声のように聞こえたのです。


 でも、(あた)りを見回しても
お部屋には誰もいません。


 「愛ちゃん。 ボクはここだよ。」


 声が聞こえるところを
よ~く見てみると。。。



 どうやらそれは「愛」ちゃんのお着物の
左袖(ひだりそで)御所車(ごしょぐるま)の柄のあたりのよう。


 「こんにちは。 愛ちゃん!」


 その途端、御所車の中から
着物姿の男の子が飛び出してきました。


 パ~ン!!


 「うわ~。」


 ビックリする「愛」ちゃん。



 「だれ? 

 
 どうして着物を着ているの?


 ≪七五三≫のお祝いは

あと三回寝てからだよ。」


 「愛」ちゃんの目の前に突然現れた
着物姿のその男の子は、つぶらな(ひとみ)
「愛」ちゃんを見つめながら、
ニッコリ笑ってこう言ったのです。


 「愛ちゃん。

 
 ボクとお友だちになってくれる?


 ボクも愛ちゃんと同じ日に

≪七五三≫のお(いわ)いをするんだ。


 ほかにあと二人お友だちがいて、

三人のお(いわ)いなんだ。


 愛ちゃんにもボクたちのこと、

お祝いしてほしいんだ。」


 「愛」ちゃんと同じくらいの年ごろに
見えるその男の子。


 まるでひな祭りの時に(かざ)
≪おひなさま≫みたいです。

 
 それも七段飾りの一番上の段にいる
内裏(だいり)さまのような恰好(かっこう)をしています。


 白百合色(しらゆりいろ)()に、(あさ)葉柄(はがら)
金の刺繍(ししゅう)がほどこされたお着物を
身にまとい、体全体がキラキラした
光に包まれています。




 いったいこの男の子は?


 と、説明いたしますと。。。



 古くから行われている
この≪七五三≫のお祝い。


 実は、十一月というまさに同じ時期に
天に住まう《神々》の世界でも行われている
そうなのです。


 【七五三 (いわい)()


 毎年、幼い《神々》の中でも
特に優秀と認められた
三柱(みはしら)の幼き神々》が選ばれ、
より位の高い《神》に昇格(しょうかく)する
という非常に重要なこの儀式(ぎしき)


 選ばれた《三柱(みはしら)の幼き神々》が相談して、
たった一人だけ幸せにしたい人物を
私たち人間から選び、儀式(ぎしき)に参加して
くれたお礼として幸福を授けるというもの。


 もうお分かりになりましたよね。


 そうです。


 そうなんです。



 「愛」ちゃんは
そのたった一人の人物として
みごとにこの幼き《神々》に
選ばれたのです。



 「おめでとう。 愛ちゃん!」




 ところが肝心の「愛」ちゃんは。。。



 そんなこととはつゆ知らず。



 無理もありません。


 七歳になったばかりの「愛」ちゃんには
それがどんなに素晴(すば)らしいことなのか、
わからなくて当然でしょう。



 ≪七五三≫のお祝いに
参加してほしいとお願いする
その男の子に「愛」ちゃんは(こころよ)く、


 「うん。 いいよ。」


 そう元気よくお返事しました。


 「じゃあ、あと三回寝たら、

 今度は二人のお友だちと

いっしょにここに来るから、

お祝いしてね。」


 男の子はそう言うと、
またニッコリ笑って
御所車の中に消えていきました。







 そんなことがあってから、
あっという間に三日が()ちました。


 今日は「愛」ちゃんが
待ちに待った≪七五三≫のお祝いの日。


 「愛」ちゃんの家は朝からバタバタです。


 いつもならまだ寝ているはずの
「愛」ちゃんは、朝五時に起こされ、
眠い目をこすりながら朝ごはんを
食べて美容院へ。


 大人のお姉さんたちと
同じようにお化粧をしてもらい、
鏡の前で大人っぽくなった自分を見て、

「愛」ちゃん、
(うれ)しいような、()ずかしいような。


 大好きなピンクの口紅を
()ってもらって、気分はもうお姫さま。


 この日のために、ず~と切らずに
我慢(がまん)していた長い髪は、
だんだん(あこが)れの舞妓(まいこ)さんのように
()い上げられていきます。


 髪にはすっごくきれいなお花の
かんざしをたくさんつけてもらい、
仕上げにしだれ桜のかんざしを
左側に()してもらって完成です。


 目のあたりに桜のお花が
ゆらゆら()れてとってもステキです。


 「うわ~。 すご~い。」



 「愛」ちゃん、大満足~!






 ジャジャーン。





 「愛姫(あいひめ)」さまの誕生で~す!



 「愛姫」さまは、そのままお(しの)びで
写真屋さんへ。


 お父上(ちちうえ)、お母上(ははうえ)(じい)や、(ばあ)やを
お供に引き連れ、一緒に
お祝いの記念写真をお撮りになるのですが。


 カメラを向けられ、

 「はい。 愛姫さま。


 ニッコリ笑って。」


 という写真屋さんの言葉に


 「愛姫」さま、
緊張(きんちょう)しすぎて上手に笑うことが
できません。


 どうしてもお顔が引きつってしまわ
れるのです。


 それでもなんとか笑顔で、


 「パチッ」


 やっと写真を()り終わり、
今度は近所の神社へと向かわれます。


 あっ、「愛姫」さま、
少々お待ちくださいませ。


 写真屋さんがお祝いに千歳飴(ちとせあめ)
プレゼントしてくださるそうですよ。


 (つる)さんと(かめ)さんの色鮮やかな袋に
おめでたい紅白の(あめ)が入ってます。


 なんだか今日はたくさんのプレゼントを
いただけるような予感がいたしますね。



 「愛姫」さま、
末永(すえなが)いご多幸をお祈り申し上げます。







 さあ、やっと神社に到着された
「愛姫」さま。


 ところが、「愛姫」さまはかなり
お疲れのご様子。



 そして。。。







 「あ~、疲れた。


 もうお姫さまはやめる~。」



とのことだそうです。



 そうね。

 「愛」ちゃんは「愛」ちゃんらしく、
でいいと思いますよ。





 「愛」ちゃんは神社が大好き。


 何かあると
すぐ《神》様にお願いをしに行くんです。


 お母さんが風邪で寝込んでしまった時。


 神社に来て、

 (お母さんの病気が

早く良くなりますように。)

とお願いします。


 おじいちゃんが
(ころ)んでけがをした時も、

 (おじいちゃんが

早く歩けますように。)

とお(いの)りします。


 お友だちが()()してしまう時も、

 (いつまでもその子と

お友だちでいられますように。)

と《神》様にお願いしているのです。


 小さな両手を合わせて、
きちんと頭を下げて、
「愛」ちゃんは必ず
心の中で《神》様に言うんです。


 (私が代わりに病気になるから

お母さんを助けてください。)


 けがをして痛がっている
おじいちゃんの時は、

 (私の足を痛くしていいから、

おじいちゃんの痛いのを

治してください。)と。


 こんな優しい「愛」ちゃんを
ずっとおそばで見ていらしたのが
あの時の男の子。


 《三柱(みはしら)幼神(おさながみ)》の中の
一柱(ひとはしら)でいらっしゃる
明光照尊(みょうこうしょうのみこと)』さまでした。


 『明光照尊(みょうこうしょうのみこと)』さまは
明るく、人の心を光で照らすような
子供が大好き。


 そんな「愛」ちゃんを
いつもおそばで見ていらして、


 (この子を幸せにしたい。)


 きっとそう思われたのでしょうね。




 さて神社では、
≪七五三≫のお祝いをしてもらえる
ほかの子供たちといっしょに
宮司(ぐうじ)様に祝詞(のりと)(とな)えていただきます。


 宮司様が子供たちに代わって、
《神》様に祈りを(ささ)げてくださるのです。


 宮司様、よろしくお願いいたします。


 どうか子供たちのために、
ここまで無事に育ったことを《神》様に
感謝し、これからもお(まも)りくださいと
お願いをしてくださいね。


 「愛」ちゃんのほかにも、
羽織(はおり)(はかま)の男の子や、まるで花嫁さんの
ような長~いドレスを着た女の子。


 タキシード姿の男の子や、
ハイカラさんのような矢羽根(やばね)の着物に
(はかま)、ブーツを身につけた女の子など
様々な衣装に身を包んだ子供たちが
勢ぞろい。


 この日だけは、
「愛」ちゃんたち≪七五三≫のお祝いを
してもらう子供たちはみ~んな、
≪ヒーロー≫と≪ヒロイン≫ですからね。


 予約をしていたレストランで
≪七五三≫のお祝いの食事会を
開いてもらい、大好きなハンバーグや
お寿司、ピザやグラタンをほおばる
「愛」ちゃん。


 あっ、気をつけて!


 ちゃんと食べないと
お気に入りのお着物が汚れちゃうよ。


 「大丈夫。」


 「愛」ちゃんは
お着物を汚さないように
ひざの上に大きなナプキンを広げ、
タオルを胸のまわりに
ぐるっと巻いて食べています。

 
 お腹もいっぱいになったし。


 「愛」ちゃんご満悦~。





 あらあら、たいへん!


 「愛」ちゃん、
眠くなってきちゃったのかな?


 無理もないよね。


 朝早くから起こされて。


 眠くなっちゃうよね。


 目を()けようとしても
だんだん()かなくなって。


 コックン、コックン。


 知らず知らずのうちに夢の中へ。


 おやおや、「愛」ちゃん。


 さて、どんな夢をみているのかな?









 (あれ? ここはどこだろう?)


 気がつくと、「愛」ちゃんは
いつの間にか見たこともない
場所にいました。


 不思議に思いながらも(あた)りを
見回してみると。。。


 なんと「愛」ちゃんは豪華(ごうか)
(うたげ)の席にいたのです。


 驚いたことに目の前のテーブルには
ごちそうがいっぱい。



 大きな(たい)尾頭(おかしら)付き、
伊勢(いせ)エビのお造り、アワビの煮物(にもの)
ハマグリのお()(もの)にお蕎麦(そば)
赤飯(せきはん)などなど。


 (でも、もうお腹いっぱい。


 そんなに食べられないし。)



 「愛」ちゃんがそう思った時。



 「愛ちゃん。 愛ちゃん。」


 「愛」ちゃんを呼ぶ声がしました。


 あの時、お着物の御所車から
出てきた男の子が、「愛」ちゃんの前に
再び姿を現したのです。


 (あっ、あのときの男の子だ。)


 「愛ちゃん。


 約束どおり、ボクたちの

≪七五三≫のお祝いに来てくれて

ありがとう。


 紹介するね。


 この子は『宝美姫命(ほうびひめのみこと)』。 


 そしてこちらは『豊寿縁命(ほうじゅえんのみこと)』。


 二人とも愛ちゃんが大好きなんだよ。」


 (変わった名前だな~。)


と思いながらも

「愛」ちゃん、
初めて見る三柱の《神々》の姿に
釘付(くぎづ)けになってしまいました。


 『宝美姫命(ほうびひめのみこと)』という名の
女の子の《幼神(おさながみ)》。


 平安時代の宮廷(きゅうてい)子女(しじょ)のように
真ん中から分けた長~い黒髪に
赤いお着物。


 金と銀の(つる)刺繍(ししゅう)の柄が
とっても華やかです。


 そしてもう一人の男の子の《幼神(おさながみ)》。



 『豊寿縁命(ほうじゅえんのみこと)』さま。


 藍色(あいいろ)のお着物に、金色の亀甲(きっこう)文様(もんよう)
全体にちりばめられています。


 『宝美姫命(ほうびひめのみこと)』さまが
「愛」ちゃんにお礼のお言葉を
述べられました。


 「愛ちゃん。

 今日は私たちのお祝いに

来てくれてありがとう。


 これは私から

愛ちゃんにお礼のプレゼント。


 絶対にお金持ちになってね!」


 そうおっしゃると

「愛」ちゃんに、手にお持ちの

透き通るようにきれいな赤い(たま)

お渡しになりました。


 実は『宝美姫命(ほうびひめのみこと)』さまは(とみ)の《神》様。


 「愛」ちゃんに、富に恵まれる
プレゼントを下さったのです。


 「ありがとう。」


 「愛」ちゃん、素直に受け取ります。


 あっ、たいへん。


 「愛」ちゃんが受け取った途端(とたん)
そのきれいな(たま)はす~と消えて
しまいました。


 「あれっ、なくなっちゃった。」


 「愛」ちゃんがそう言うと、


 「愛ちゃん。 大丈夫よ。


 なくなったのではなく、

愛ちゃんの心の中に入っていったの。


 大切にしてね。」


 「うん!」



 子どもって本当に純粋ですよね。


 相手の言葉を
そのまま素直に受け取ります。


 これがもし大人だったら、
きっとしゃかりきになって
(あた)りを(さが)しまわることでしょうね。




 そして今度は『豊寿縁命(ほうじゅえんのみこと)』さまが
お言葉を()べられます。


 「愛ちゃん。


 愛ちゃんが来てくれるのを

楽しみに待っていたよ。


 今日は来てくれてありがとう。


 はい。 これ、愛ちゃんに。」


 そうおっしゃると今度は、
やはり透き通るようにきれいな
青い(たま)を下さいました。


 『豊寿縁命(ほうじゅえんのみこと)』さまは  
人とのご縁を深めてくださる《神》様。


 「愛」ちゃん、
これからきっとたくさんの人たちと
素晴らしいご縁を(きず)けますね。





 そして最後に、

「愛」ちゃんのことを、
そばでずっと見護(みまも)ってくださっていた
明光照尊(みょうこうしょうのみこと)』さまから、
まるで()んだ水のように透き通った(たま)
(さず)かります。


 実は『明光照尊(みょうこうしょうのみこと)』さまの
お母さまは月の《女神》様。


 母である月の《女神》様も
子息(しそく)祝儀(しゅくぎ)にはたいへん満足して
いらっしゃるご様子。


 「愛」ちゃんが、
明光照尊(みょうこうしょうのみこと)』さまから
授かったもの。


 それは、なんと。。。


 【誰からも愛される愛の力】。



 「愛」ちゃん、

「愛」ちゃんの名前のとおり、
とっても素晴らしいプレゼントを
いただきましたね。







 パチパチパチ。。。



 とどろくような拍手(はくしゅ)の音。


 祝儀(しゅくぎ)参列(さんれつ)されている
多くの《神々》が一斉(いっせい)に立ち上がり、
拍手をされたのです。


 《三柱(みはしら)幼神(おさながみ)》は、
満場一致(まんじょういっち)承認(しょうにん)され、

いよいよその≪昇格(しょうかく)()≫が
()り行われます。


 おやっ、どこからともなく
(ふえ)()が聞こえてきましたよ。


 着物を来たオーケストラが
見たこともない楽器(がっき)
演奏(えんそう)を始めました。


 初めて聞く不思議(ふしぎ)演奏(えんそう)


 でもとっても素敵(すてき)な曲。


 すると、《三柱の幼神》は
ふわりと(ちゅう)へ浮き上がり、
(おど)り始められました。


 なんと美しい(まい)でしょう。


 あまりの素晴らしさに。。。





「愛」ちゃん、お口ポカ~ン。


 もう、うっとりです。


 それぞれの《幼神》の豪華絢爛(ごうかけんらん)な舞。


 参列している《神々》も、
その華やかな舞に
身動きすらせず魅了(みりょう)されて
しまっています。


 そして《三柱の幼神》は、
目を開けていられないほどの
ものすごい光に照らされたかと思うと
みごとに昇格(しょうかく)()たされたのです。


 さきほどまで、「愛」ちゃんと
同じくらいの身長だった
《三柱の幼神》は、今ではもう
大人と見まがうほど成長されました。





 ほ~。 これは、これは。。。






 『宝美姫命(ほうびひめのみこと)』さまの
長かった黒髪はお(すべ)らかしになり、

()し物の柄は
鶴から鳳凰(ほうおう)の柄へと変わり、
赤く輝く富の光に
包まれていらっしゃいます。




 『豊寿縁命(ほうじゅえんのみこと)』さまは
海のように深く青き光の中で
優雅(ゆうが)に舞っていらっしゃいます。


 お召し物の柄は亀甲(きっこう)文様(もんよう)から
精悍(せいかん)な金色の龍へと変わっていました。







 そして、

明光照尊(みょうこうしょうのみこと)』さまは、
月明かりのごとく柔らかく、
(みやび)白蓮(びゃくれん)のようなお色の光の中で
「愛」ちゃんを優しく
見つめていらっしゃいます。


 お召し物の柄は麻の葉から
気品のある日月(にちげつ)文様(もんよう)へと
変わっていました。


 ついに昇格を果たし、
大神(おおかみ)》となられた《三柱の幼神》。


 
 まるで大きな、大きなシャボン玉の
ような不思議で美しい光の中で、
《三柱の大神(おおかみ)》は「愛」ちゃんに向かって
手を合わせ、深く一礼(いちれい)されました。




 そして。。。


 それぞれの手と手をふわりとお取りに
なり、【三柱(みはしら)()】をお創りになると、
お互いにさりげなく見つめ合われ、
ゆっくりとゆっくりと回り始められたのです。



 すると突然、《神々》の頭上から
末広(すえひろ)がりの(おうぎ)の形の(きり)の箱が
舞い降りてきました。


 『宝美姫命(ほうびひめのみこと)』さまがその箱を
手に取られ、赤い(あさ)(ひも)
リボン結びに結んでくださいました。


 「愛ちゃん。


 これは私たち三柱の大神(おおかみ)

愛ちゃんの幸せを願い、

創り上げた贈り物です。


 どうかこの箱を

大切になさってください。」


 そうおっしゃると、
宝美姫命(ほうびひめのみこと)』さまは
「愛」ちゃんにその箱を
渡してくださいました。


 「愛ちゃんが

二十歳(はたち)になるまで

絶対に開けないでくださいね。


 そしてこのことは

けっして誰にも言わないでください。


 中に何が入っているのか、

その時まで楽しみに

待っていてくださいね。」


 次に『豊寿縁命(ほうじゅえんのみこと)』さまが
そうおっしゃいました。


 「うん。 わかった。 ありがとう。」


 「愛」ちゃん、

またまた素直に受け取ります。


 そして最後に『明光照尊(みょうこうしょうのみこと)』さまが
「愛」ちゃんにお言葉を述べられました。


 その時の『明光照尊(みょうこうしょうのみこと)』さまは
笑顔がなく、少し寂し気な表情をして
いらっしゃったのです。



 きっと。。。


大好きな「愛」ちゃんとお別れ
しなければならないことで
悲しいお気持ちになられたのでしょうね。




 「愛ちゃん。 

 今日は、お祝いの儀式に参加して下さり、

ありがとうございました。


 私たちはこれからもずっと

愛ちゃんの幸せを空から祈っていますね。」










 目が覚めると
「愛」ちゃんは自分のお部屋にいました。


 お父さんとお母さんが
レストランで眠ってしまった
「愛」ちゃんを家に連れて帰り、
お部屋に寝かせたのです。


 (あれっ、じゃあ、

あれは夢だったのかな?)



 いえいえ、そんなことはありません。


 「愛」ちゃんの枕元には
あの時いただいた扇形(おうぎがた)の桐の箱が
ちゃんとあったのですから。





 「愛」ちゃん、どうする?


 今、開けちゃう?



 「開けないよ。


 だってお友だちと約束したもん。


 大きくなったら開ける。


 それまでここにしまっておくの。」





 残念ですね。




 みなさん、
中に何が入っているのか
見たかったですよね?



 それが何か、誰にもわかりません。




 もし知りたければ
二十歳(はたち)になった未来の「愛」ちゃんに
会いに行くしかないでしょう。 



 ねえ、「愛」ちゃん。


 
 その時、「(めい)」さんに教えてくれる?




 「や~だよ! 教えな~い。 


 誰にも教えないよ~だっ。」



 え~。。。どうして教えてくれないの?



 「だって、誰にも言わないでって

 お友だちに言われたもん!」





  だそうです。(笑)     


                           終

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