十一月の物語 三柱の幼神《みはしらのおさながみ》
文字数 7,470文字
今月は十一月。
十一月の代表的な行事といえば、
何といっても十一月十五日の
≪七五三≫のお祝いですよね。
諸説ありますが、
男の子は五歳で、
女の子は三歳と七歳で
地元の神社にお参りし、
ここまで無事に育ったことを
《神》様に感謝し、これからも健康で、
無事に育つようにとお願いするもの。
女の子だけどうして
二回もお祝いするの?
男の子から
ちょっと怒られそうですね。
そんな中、今年七歳を迎えた
一人の女の子が今回の物語の主人公。
紹介しますね。
「水島 愛 」ちゃん。
とっても元気な女の子です。
お友だちがいじめっ子に
いじめられていると、
すぐにそのいじめっ子を
やっつけて、泣かせてしまうくらい
強~い女の子。
お年寄りにも親切な「愛」ちゃんは、
近所のおじいちゃん、おばあちゃんにも
人気 があり、「愛ちゃん。愛ちゃん。」
といつも声をかけられ、とっても可愛がられているんです。
「愛」という名前は
みんなから愛されるようにと
お父さんがつけてくれた名前。
「愛」ちゃんは、自分の名前が
とっても気に入っています。
でも、
そんな「愛」ちゃんは、
お友だちから
≪愛される≫存在
というよりは。。。
むしろ
≪頼られる≫存在なのかも。
強いね、優しいね。
「愛」ちゃん!
もうすぐ≪七五三≫のお祝いの日。
おじいちゃんとおばあちゃんから
プレゼントしてもらったきれいなお着物を
着て、神社にお参りに行くのを
とってもとっても楽しみにしています。
お着物の色は大好きなピンク。
白がすこし入っているグラデーション。
お袖 と前身 ごろの下の方には
御所車 の柄があって、その周りには
色とりどりの四季のお花さんたちが
いっぱいいっぱい咲いています。
桜、菊、牡丹 、梅、桔梗 などなど。
お気に入りのお着物に
袖 を通す日まであと三日。
その日まで、特別に「愛」ちゃんの
お部屋にそのお着物を飾 ってもらいました。
「わ~。 ほんとにきれいだな~。」
「愛」ちゃん、ずっとそのお着物を
見ていてもまったく飽 きません。
するとその時。
「愛ちゃん。 愛ちゃん。」
「愛」ちゃんを呼ぶ声が聞こえました。
(誰だろう。
お父さんでもお母さんでもないし。)
「愛」ちゃんには大人の声というよりは
お友だちの声のように聞こえたのです。
でも、辺 りを見回しても
お部屋には誰もいません。
「愛ちゃん。 ボクはここだよ。」
声が聞こえるところを
よ~く見てみると。。。
どうやらそれは「愛」ちゃんのお着物の
左袖 の御所車 の柄のあたりのよう。
「こんにちは。 愛ちゃん!」
その途端、御所車の中から
着物姿の男の子が飛び出してきました。
パ~ン!!
「うわ~。」
ビックリする「愛」ちゃん。
「だれ?
どうして着物を着ているの?
≪七五三≫のお祝いは
あと三回寝てからだよ。」
「愛」ちゃんの目の前に突然現れた
着物姿のその男の子は、つぶらな瞳 で
「愛」ちゃんを見つめながら、
ニッコリ笑ってこう言ったのです。
「愛ちゃん。
ボクとお友だちになってくれる?
ボクも愛ちゃんと同じ日に
≪七五三≫のお祝 いをするんだ。
ほかにあと二人お友だちがいて、
三人のお祝 いなんだ。
愛ちゃんにもボクたちのこと、
お祝いしてほしいんだ。」
「愛」ちゃんと同じくらいの年ごろに
見えるその男の子。
まるでひな祭りの時に飾 る
≪おひなさま≫みたいです。
それも七段飾りの一番上の段にいる
お内裏 さまのような恰好 をしています。
白百合色 の地 に、麻 の葉柄 の
金の刺繍 がほどこされたお着物を
身にまとい、体全体がキラキラした
光に包まれています。
いったいこの男の子は?
と、説明いたしますと。。。
古くから行われている
この≪七五三≫のお祝い。
実は、十一月というまさに同じ時期に
天に住まう《神々》の世界でも行われている
そうなのです。
【七五三祝 の儀 】
毎年、幼い《神々》の中でも
特に優秀と認められた
《三柱 の幼き神々》が選ばれ、
より位の高い《神》に昇格 する
という非常に重要なこの儀式 。
選ばれた《三柱 の幼き神々》が相談して、
たった一人だけ幸せにしたい人物を
私たち人間から選び、儀式 に参加して
くれたお礼として幸福を授けるというもの。
もうお分かりになりましたよね。
そうです。
そうなんです。
「愛」ちゃんは
そのたった一人の人物として
みごとにこの幼き《神々》に
選ばれたのです。
「おめでとう。 愛ちゃん!」
ところが肝心の「愛」ちゃんは。。。
そんなこととはつゆ知らず。
無理もありません。
七歳になったばかりの「愛」ちゃんには
それがどんなに素晴 らしいことなのか、
わからなくて当然でしょう。
≪七五三≫のお祝いに
参加してほしいとお願いする
その男の子に「愛」ちゃんは快 く、
「うん。 いいよ。」
そう元気よくお返事しました。
「じゃあ、あと三回寝たら、
今度は二人のお友だちと
いっしょにここに来るから、
お祝いしてね。」
男の子はそう言うと、
またニッコリ笑って
御所車の中に消えていきました。
そんなことがあってから、
あっという間に三日が経 ちました。
今日は「愛」ちゃんが
待ちに待った≪七五三≫のお祝いの日。
「愛」ちゃんの家は朝からバタバタです。
いつもならまだ寝ているはずの
「愛」ちゃんは、朝五時に起こされ、
眠い目をこすりながら朝ごはんを
食べて美容院へ。
大人のお姉さんたちと
同じようにお化粧をしてもらい、
鏡の前で大人っぽくなった自分を見て、
「愛」ちゃん、
嬉 しいような、恥 ずかしいような。
大好きなピンクの口紅を
塗 ってもらって、気分はもうお姫さま。
この日のために、ず~と切らずに
我慢 していた長い髪は、
だんだん憧 れの舞妓 さんのように
結 い上げられていきます。
髪にはすっごくきれいなお花の
かんざしをたくさんつけてもらい、
仕上げにしだれ桜のかんざしを
左側に挿 してもらって完成です。
目のあたりに桜のお花が
ゆらゆら揺 れてとってもステキです。
「うわ~。 すご~い。」
「愛」ちゃん、大満足~!
ジャジャーン。
「愛姫 」さまの誕生で~す!
「愛姫」さまは、そのままお忍 びで
写真屋さんへ。
お父上 、お母上 、爺 や、婆 やを
お供に引き連れ、一緒に
お祝いの記念写真をお撮りになるのですが。
カメラを向けられ、
「はい。 愛姫さま。
ニッコリ笑って。」
という写真屋さんの言葉に
「愛姫」さま、
緊張 しすぎて上手に笑うことが
できません。
どうしてもお顔が引きつってしまわ
れるのです。
それでもなんとか笑顔で、
「パチッ」
やっと写真を撮 り終わり、
今度は近所の神社へと向かわれます。
あっ、「愛姫」さま、
少々お待ちくださいませ。
写真屋さんがお祝いに千歳飴 を
プレゼントしてくださるそうですよ。
鶴 さんと亀 さんの色鮮やかな袋に
おめでたい紅白の飴 が入ってます。
なんだか今日はたくさんのプレゼントを
いただけるような予感がいたしますね。
「愛姫」さま、
末永 いご多幸をお祈り申し上げます。
さあ、やっと神社に到着された
「愛姫」さま。
ところが、「愛姫」さまはかなり
お疲れのご様子。
そして。。。
「あ~、疲れた。
もうお姫さまはやめる~。」
とのことだそうです。
そうね。
「愛」ちゃんは「愛」ちゃんらしく、
でいいと思いますよ。
「愛」ちゃんは神社が大好き。
何かあると
すぐ《神》様にお願いをしに行くんです。
お母さんが風邪で寝込んでしまった時。
神社に来て、
(お母さんの病気が
早く良くなりますように。)
とお願いします。
おじいちゃんが
転 んでけがをした時も、
(おじいちゃんが
早く歩けますように。)
とお祈 りします。
お友だちが引 っ越 してしまう時も、
(いつまでもその子と
お友だちでいられますように。)
と《神》様にお願いしているのです。
小さな両手を合わせて、
きちんと頭を下げて、
「愛」ちゃんは必ず
心の中で《神》様に言うんです。
(私が代わりに病気になるから
お母さんを助けてください。)
けがをして痛がっている
おじいちゃんの時は、
(私の足を痛くしていいから、
おじいちゃんの痛いのを
治してください。)と。
こんな優しい「愛」ちゃんを
ずっとおそばで見ていらしたのが
あの時の男の子。
《三柱 の幼神 》の中の
一柱 でいらっしゃる
『明光照尊 』さまでした。
『明光照尊 』さまは
明るく、人の心を光で照らすような
子供が大好き。
そんな「愛」ちゃんを
いつもおそばで見ていらして、
(この子を幸せにしたい。)
きっとそう思われたのでしょうね。
さて神社では、
≪七五三≫のお祝いをしてもらえる
ほかの子供たちといっしょに
宮司 様に祝詞 を唱 えていただきます。
宮司様が子供たちに代わって、
《神》様に祈りを捧 げてくださるのです。
宮司様、よろしくお願いいたします。
どうか子供たちのために、
ここまで無事に育ったことを《神》様に
感謝し、これからもお護 りくださいと
お願いをしてくださいね。
「愛」ちゃんのほかにも、
羽織 ・袴 の男の子や、まるで花嫁さんの
ような長~いドレスを着た女の子。
タキシード姿の男の子や、
ハイカラさんのような矢羽根 の着物に
袴 、ブーツを身につけた女の子など
様々な衣装に身を包んだ子供たちが
勢ぞろい。
この日だけは、
「愛」ちゃんたち≪七五三≫のお祝いを
してもらう子供たちはみ~んな、
≪ヒーロー≫と≪ヒロイン≫ですからね。
予約をしていたレストランで
≪七五三≫のお祝いの食事会を
開いてもらい、大好きなハンバーグや
お寿司、ピザやグラタンをほおばる
「愛」ちゃん。
あっ、気をつけて!
ちゃんと食べないと
お気に入りのお着物が汚れちゃうよ。
「大丈夫。」
「愛」ちゃんは
お着物を汚さないように
ひざの上に大きなナプキンを広げ、
タオルを胸のまわりに
ぐるっと巻いて食べています。
お腹もいっぱいになったし。
「愛」ちゃんご満悦~。
あらあら、たいへん!
「愛」ちゃん、
眠くなってきちゃったのかな?
無理もないよね。
朝早くから起こされて。
眠くなっちゃうよね。
目を開 けようとしても
だんだん開 かなくなって。
コックン、コックン。
知らず知らずのうちに夢の中へ。
おやおや、「愛」ちゃん。
さて、どんな夢をみているのかな?
(あれ? ここはどこだろう?)
気がつくと、「愛」ちゃんは
いつの間にか見たこともない
場所にいました。
不思議に思いながらも辺 りを
見回してみると。。。
なんと「愛」ちゃんは豪華 な
宴 の席にいたのです。
驚いたことに目の前のテーブルには
ごちそうがいっぱい。
大きな鯛 の尾頭 付き、
伊勢 エビのお造り、アワビの煮物 、
ハマグリのお吸 い物 にお蕎麦 、
お赤飯 などなど。
(でも、もうお腹いっぱい。
そんなに食べられないし。)
「愛」ちゃんがそう思った時。
「愛ちゃん。 愛ちゃん。」
「愛」ちゃんを呼ぶ声がしました。
あの時、お着物の御所車から
出てきた男の子が、「愛」ちゃんの前に
再び姿を現したのです。
(あっ、あのときの男の子だ。)
「愛ちゃん。
約束どおり、ボクたちの
≪七五三≫のお祝いに来てくれて
ありがとう。
紹介するね。
この子は『宝美姫命 』。
そしてこちらは『豊寿縁命 』。
二人とも愛ちゃんが大好きなんだよ。」
(変わった名前だな~。)
と思いながらも
「愛」ちゃん、
初めて見る三柱の《神々》の姿に
釘付 けになってしまいました。
『宝美姫命 』という名の
女の子の《幼神 》。
平安時代の宮廷 の子女 のように
真ん中から分けた長~い黒髪に
赤いお着物。
金と銀の鶴 の刺繍 の柄が
とっても華やかです。
そしてもう一人の男の子の《幼神 》。
『豊寿縁命 』さま。
藍色 のお着物に、金色の亀甲 文様 が
全体にちりばめられています。
『宝美姫命 』さまが
「愛」ちゃんにお礼のお言葉を
述べられました。
「愛ちゃん。
今日は私たちのお祝いに
来てくれてありがとう。
これは私から
愛ちゃんにお礼のプレゼント。
絶対にお金持ちになってね!」
そうおっしゃると
「愛」ちゃんに、手にお持ちの
透き通るようにきれいな赤い珠 を
お渡しになりました。
実は『宝美姫命 』さまは富 の《神》様。
「愛」ちゃんに、富に恵まれる
プレゼントを下さったのです。
「ありがとう。」
「愛」ちゃん、素直に受け取ります。
あっ、たいへん。
「愛」ちゃんが受け取った途端 、
そのきれいな珠 はす~と消えて
しまいました。
「あれっ、なくなっちゃった。」
「愛」ちゃんがそう言うと、
「愛ちゃん。 大丈夫よ。
なくなったのではなく、
愛ちゃんの心の中に入っていったの。
大切にしてね。」
「うん!」
子どもって本当に純粋ですよね。
相手の言葉を
そのまま素直に受け取ります。
これがもし大人だったら、
きっとしゃかりきになって
辺 りを探 しまわることでしょうね。
そして今度は『豊寿縁命 』さまが
お言葉を述 べられます。
「愛ちゃん。
愛ちゃんが来てくれるのを
楽しみに待っていたよ。
今日は来てくれてありがとう。
はい。 これ、愛ちゃんに。」
そうおっしゃると今度は、
やはり透き通るようにきれいな
青い珠 を下さいました。
『豊寿縁命 』さまは
人とのご縁を深めてくださる《神》様。
「愛」ちゃん、
これからきっとたくさんの人たちと
素晴らしいご縁を築 けますね。
そして最後に、
「愛」ちゃんのことを、
そばでずっと見護 ってくださっていた
『明光照尊 』さまから、
まるで澄 んだ水のように透き通った珠 を
授 かります。
実は『明光照尊 』さまの
お母さまは月の《女神》様。
母である月の《女神》様も
ご子息 の祝儀 にはたいへん満足して
いらっしゃるご様子。
「愛」ちゃんが、
『明光照尊 』さまから
授かったもの。
それは、なんと。。。
【誰からも愛される愛の力】。
「愛」ちゃん、
「愛」ちゃんの名前のとおり、
とっても素晴らしいプレゼントを
いただきましたね。
パチパチパチ。。。
とどろくような拍手 の音。
祝儀 に参列 されている
多くの《神々》が一斉 に立ち上がり、
拍手をされたのです。
《三柱 の幼神 》は、
満場一致 で承認 され、
いよいよその≪昇格 の儀 ≫が
執 り行われます。
おやっ、どこからともなく
笛 の音 が聞こえてきましたよ。
着物を来たオーケストラが
見たこともない楽器 で
演奏 を始めました。
初めて聞く不思議 な演奏 。
でもとっても素敵 な曲。
すると、《三柱の幼神》は
ふわりと宙 へ浮き上がり、
踊 り始められました。
なんと美しい舞 でしょう。
あまりの素晴らしさに。。。
「愛」ちゃん、お口ポカ~ン。
もう、うっとりです。
それぞれの《幼神》の豪華絢爛 な舞。
参列している《神々》も、
その華やかな舞に
身動きすらせず魅了 されて
しまっています。
そして《三柱の幼神》は、
目を開けていられないほどの
ものすごい光に照らされたかと思うと
みごとに昇格 を果 たされたのです。
さきほどまで、「愛」ちゃんと
同じくらいの身長だった
《三柱の幼神》は、今ではもう
大人と見まがうほど成長されました。
ほ~。 これは、これは。。。
『宝美姫命 』さまの
長かった黒髪はお滑 らかしになり、
お召 し物の柄は
鶴から鳳凰 の柄へと変わり、
赤く輝く富の光に
包まれていらっしゃいます。
『豊寿縁命 』さまは
海のように深く青き光の中で
優雅 に舞っていらっしゃいます。
お召し物の柄は亀甲 文様 から
精悍 な金色の龍へと変わっていました。
そして、
『明光照尊 』さまは、
月明かりのごとく柔らかく、
雅 な白蓮 のようなお色の光の中で
「愛」ちゃんを優しく
見つめていらっしゃいます。
お召し物の柄は麻の葉から
気品のある日月 文様 へと
変わっていました。
ついに昇格を果たし、
《大神 》となられた《三柱の幼神》。
まるで大きな、大きなシャボン玉の
ような不思議で美しい光の中で、
《三柱の大神 》は「愛」ちゃんに向かって
手を合わせ、深く一礼 されました。
そして。。。
それぞれの手と手をふわりとお取りに
なり、【三柱 の輪 】をお創りになると、
お互いにさりげなく見つめ合われ、
ゆっくりとゆっくりと回り始められたのです。
すると突然、《神々》の頭上から
末広 がりの扇 の形の桐 の箱が
舞い降りてきました。
『宝美姫命 』さまがその箱を
手に取られ、赤い麻 の紐 で
リボン結びに結んでくださいました。
「愛ちゃん。
これは私たち三柱の大神 が
愛ちゃんの幸せを願い、
創り上げた贈り物です。
どうかこの箱を
大切になさってください。」
そうおっしゃると、
『宝美姫命 』さまは
「愛」ちゃんにその箱を
渡してくださいました。
「愛ちゃんが
二十歳 になるまで
絶対に開けないでくださいね。
そしてこのことは
けっして誰にも言わないでください。
中に何が入っているのか、
その時まで楽しみに
待っていてくださいね。」
次に『豊寿縁命 』さまが
そうおっしゃいました。
「うん。 わかった。 ありがとう。」
「愛」ちゃん、
またまた素直に受け取ります。
そして最後に『明光照尊 』さまが
「愛」ちゃんにお言葉を述べられました。
その時の『明光照尊 』さまは
笑顔がなく、少し寂し気な表情をして
いらっしゃったのです。
きっと。。。
大好きな「愛」ちゃんとお別れ
しなければならないことで
悲しいお気持ちになられたのでしょうね。
「愛ちゃん。
今日は、お祝いの儀式に参加して下さり、
ありがとうございました。
私たちはこれからもずっと
愛ちゃんの幸せを空から祈っていますね。」
目が覚めると
「愛」ちゃんは自分のお部屋にいました。
お父さんとお母さんが
レストランで眠ってしまった
「愛」ちゃんを家に連れて帰り、
お部屋に寝かせたのです。
(あれっ、じゃあ、
あれは夢だったのかな?)
いえいえ、そんなことはありません。
「愛」ちゃんの枕元には
あの時いただいた扇形 の桐の箱が
ちゃんとあったのですから。
「愛」ちゃん、どうする?
今、開けちゃう?
「開けないよ。
だってお友だちと約束したもん。
大きくなったら開ける。
それまでここにしまっておくの。」
残念ですね。
みなさん、
中に何が入っているのか
見たかったですよね?
それが何か、誰にもわかりません。
もし知りたければ
二十歳 になった未来の「愛」ちゃんに
会いに行くしかないでしょう。
ねえ、「愛」ちゃん。
その時、「明 」さんに教えてくれる?
「や~だよ! 教えな~い。
誰にも教えないよ~だっ。」
え~。。。どうして教えてくれないの?
「だって、誰にも言わないでって
お友だちに言われたもん!」
だそうです。(笑)
終
十一月の代表的な行事といえば、
何といっても十一月十五日の
≪七五三≫のお祝いですよね。
諸説ありますが、
男の子は五歳で、
女の子は三歳と七歳で
地元の神社にお参りし、
ここまで無事に育ったことを
《神》様に感謝し、これからも健康で、
無事に育つようにとお願いするもの。
女の子だけどうして
二回もお祝いするの?
男の子から
ちょっと怒られそうですね。
そんな中、今年七歳を迎えた
一人の女の子が今回の物語の主人公。
紹介しますね。
「
とっても元気な女の子です。
お友だちがいじめっ子に
いじめられていると、
すぐにそのいじめっ子を
やっつけて、泣かせてしまうくらい
強~い女の子。
お年寄りにも親切な「愛」ちゃんは、
近所のおじいちゃん、おばあちゃんにも
といつも声をかけられ、とっても可愛がられているんです。
「愛」という名前は
みんなから愛されるようにと
お父さんがつけてくれた名前。
「愛」ちゃんは、自分の名前が
とっても気に入っています。
でも、
そんな「愛」ちゃんは、
お友だちから
≪愛される≫存在
というよりは。。。
むしろ
≪頼られる≫存在なのかも。
強いね、優しいね。
「愛」ちゃん!
もうすぐ≪七五三≫のお祝いの日。
おじいちゃんとおばあちゃんから
プレゼントしてもらったきれいなお着物を
着て、神社にお参りに行くのを
とってもとっても楽しみにしています。
お着物の色は大好きなピンク。
白がすこし入っているグラデーション。
お
色とりどりの四季のお花さんたちが
いっぱいいっぱい咲いています。
桜、菊、
お気に入りのお着物に
その日まで、特別に「愛」ちゃんの
お部屋にそのお着物を
「わ~。 ほんとにきれいだな~。」
「愛」ちゃん、ずっとそのお着物を
見ていてもまったく
するとその時。
「愛ちゃん。 愛ちゃん。」
「愛」ちゃんを呼ぶ声が聞こえました。
(誰だろう。
お父さんでもお母さんでもないし。)
「愛」ちゃんには大人の声というよりは
お友だちの声のように聞こえたのです。
でも、
お部屋には誰もいません。
「愛ちゃん。 ボクはここだよ。」
声が聞こえるところを
よ~く見てみると。。。
どうやらそれは「愛」ちゃんのお着物の
「こんにちは。 愛ちゃん!」
その途端、御所車の中から
着物姿の男の子が飛び出してきました。
パ~ン!!
「うわ~。」
ビックリする「愛」ちゃん。
「だれ?
どうして着物を着ているの?
≪七五三≫のお祝いは
あと三回寝てからだよ。」
「愛」ちゃんの目の前に突然現れた
着物姿のその男の子は、つぶらな
「愛」ちゃんを見つめながら、
ニッコリ笑ってこう言ったのです。
「愛ちゃん。
ボクとお友だちになってくれる?
ボクも愛ちゃんと同じ日に
≪七五三≫のお
ほかにあと二人お友だちがいて、
三人のお
愛ちゃんにもボクたちのこと、
お祝いしてほしいんだ。」
「愛」ちゃんと同じくらいの年ごろに
見えるその男の子。
まるでひな祭りの時に
≪おひなさま≫みたいです。
それも七段飾りの一番上の段にいる
お
金の
身にまとい、体全体がキラキラした
光に包まれています。
いったいこの男の子は?
と、説明いたしますと。。。
古くから行われている
この≪七五三≫のお祝い。
実は、十一月というまさに同じ時期に
天に住まう《神々》の世界でも行われている
そうなのです。
【七五三
毎年、幼い《神々》の中でも
特に優秀と認められた
《
より位の高い《神》に
という非常に重要なこの
選ばれた《
たった一人だけ幸せにしたい人物を
私たち人間から選び、
くれたお礼として幸福を授けるというもの。
もうお分かりになりましたよね。
そうです。
そうなんです。
「愛」ちゃんは
そのたった一人の人物として
みごとにこの幼き《神々》に
選ばれたのです。
「おめでとう。 愛ちゃん!」
ところが肝心の「愛」ちゃんは。。。
そんなこととはつゆ知らず。
無理もありません。
七歳になったばかりの「愛」ちゃんには
それがどんなに
わからなくて当然でしょう。
≪七五三≫のお祝いに
参加してほしいとお願いする
その男の子に「愛」ちゃんは
「うん。 いいよ。」
そう元気よくお返事しました。
「じゃあ、あと三回寝たら、
今度は二人のお友だちと
いっしょにここに来るから、
お祝いしてね。」
男の子はそう言うと、
またニッコリ笑って
御所車の中に消えていきました。
そんなことがあってから、
あっという間に三日が
今日は「愛」ちゃんが
待ちに待った≪七五三≫のお祝いの日。
「愛」ちゃんの家は朝からバタバタです。
いつもならまだ寝ているはずの
「愛」ちゃんは、朝五時に起こされ、
眠い目をこすりながら朝ごはんを
食べて美容院へ。
大人のお姉さんたちと
同じようにお化粧をしてもらい、
鏡の前で大人っぽくなった自分を見て、
「愛」ちゃん、
大好きなピンクの口紅を
この日のために、ず~と切らずに
だんだん
髪にはすっごくきれいなお花の
かんざしをたくさんつけてもらい、
仕上げにしだれ桜のかんざしを
左側に
目のあたりに桜のお花が
ゆらゆら
「うわ~。 すご~い。」
「愛」ちゃん、大満足~!
ジャジャーン。
「
「愛姫」さまは、そのままお
写真屋さんへ。
お
お供に引き連れ、一緒に
お祝いの記念写真をお撮りになるのですが。
カメラを向けられ、
「はい。 愛姫さま。
ニッコリ笑って。」
という写真屋さんの言葉に
「愛姫」さま、
できません。
どうしてもお顔が引きつってしまわ
れるのです。
それでもなんとか笑顔で、
「パチッ」
やっと写真を
今度は近所の神社へと向かわれます。
あっ、「愛姫」さま、
少々お待ちくださいませ。
写真屋さんがお祝いに
プレゼントしてくださるそうですよ。
おめでたい紅白の
なんだか今日はたくさんのプレゼントを
いただけるような予感がいたしますね。
「愛姫」さま、
さあ、やっと神社に到着された
「愛姫」さま。
ところが、「愛姫」さまはかなり
お疲れのご様子。
そして。。。
「あ~、疲れた。
もうお姫さまはやめる~。」
とのことだそうです。
そうね。
「愛」ちゃんは「愛」ちゃんらしく、
でいいと思いますよ。
「愛」ちゃんは神社が大好き。
何かあると
すぐ《神》様にお願いをしに行くんです。
お母さんが風邪で寝込んでしまった時。
神社に来て、
(お母さんの病気が
早く良くなりますように。)
とお願いします。
おじいちゃんが
(おじいちゃんが
早く歩けますように。)
とお
お友だちが
(いつまでもその子と
お友だちでいられますように。)
と《神》様にお願いしているのです。
小さな両手を合わせて、
きちんと頭を下げて、
「愛」ちゃんは必ず
心の中で《神》様に言うんです。
(私が代わりに病気になるから
お母さんを助けてください。)
けがをして痛がっている
おじいちゃんの時は、
(私の足を痛くしていいから、
おじいちゃんの痛いのを
治してください。)と。
こんな優しい「愛」ちゃんを
ずっとおそばで見ていらしたのが
あの時の男の子。
《
『
『
明るく、人の心を光で照らすような
子供が大好き。
そんな「愛」ちゃんを
いつもおそばで見ていらして、
(この子を幸せにしたい。)
きっとそう思われたのでしょうね。
さて神社では、
≪七五三≫のお祝いをしてもらえる
ほかの子供たちといっしょに
宮司様が子供たちに代わって、
《神》様に祈りを
宮司様、よろしくお願いいたします。
どうか子供たちのために、
ここまで無事に育ったことを《神》様に
感謝し、これからもお
お願いをしてくださいね。
「愛」ちゃんのほかにも、
ような長~いドレスを着た女の子。
タキシード姿の男の子や、
ハイカラさんのような
様々な衣装に身を包んだ子供たちが
勢ぞろい。
この日だけは、
「愛」ちゃんたち≪七五三≫のお祝いを
してもらう子供たちはみ~んな、
≪ヒーロー≫と≪ヒロイン≫ですからね。
予約をしていたレストランで
≪七五三≫のお祝いの食事会を
開いてもらい、大好きなハンバーグや
お寿司、ピザやグラタンをほおばる
「愛」ちゃん。
あっ、気をつけて!
ちゃんと食べないと
お気に入りのお着物が汚れちゃうよ。
「大丈夫。」
「愛」ちゃんは
お着物を汚さないように
ひざの上に大きなナプキンを広げ、
タオルを胸のまわりに
ぐるっと巻いて食べています。
お腹もいっぱいになったし。
「愛」ちゃんご満悦~。
あらあら、たいへん!
「愛」ちゃん、
眠くなってきちゃったのかな?
無理もないよね。
朝早くから起こされて。
眠くなっちゃうよね。
目を
だんだん
コックン、コックン。
知らず知らずのうちに夢の中へ。
おやおや、「愛」ちゃん。
さて、どんな夢をみているのかな?
(あれ? ここはどこだろう?)
気がつくと、「愛」ちゃんは
いつの間にか見たこともない
場所にいました。
不思議に思いながらも
見回してみると。。。
なんと「愛」ちゃんは
驚いたことに目の前のテーブルには
ごちそうがいっぱい。
大きな
ハマグリのお
お
(でも、もうお腹いっぱい。
そんなに食べられないし。)
「愛」ちゃんがそう思った時。
「愛ちゃん。 愛ちゃん。」
「愛」ちゃんを呼ぶ声がしました。
あの時、お着物の御所車から
出てきた男の子が、「愛」ちゃんの前に
再び姿を現したのです。
(あっ、あのときの男の子だ。)
「愛ちゃん。
約束どおり、ボクたちの
≪七五三≫のお祝いに来てくれて
ありがとう。
紹介するね。
この子は『
そしてこちらは『
二人とも愛ちゃんが大好きなんだよ。」
(変わった名前だな~。)
と思いながらも
「愛」ちゃん、
初めて見る三柱の《神々》の姿に
『
女の子の《
平安時代の
真ん中から分けた長~い黒髪に
赤いお着物。
金と銀の
とっても華やかです。
そしてもう一人の男の子の《
『
全体にちりばめられています。
『
「愛」ちゃんにお礼のお言葉を
述べられました。
「愛ちゃん。
今日は私たちのお祝いに
来てくれてありがとう。
これは私から
愛ちゃんにお礼のプレゼント。
絶対にお金持ちになってね!」
そうおっしゃると
「愛」ちゃんに、手にお持ちの
透き通るようにきれいな赤い
お渡しになりました。
実は『
「愛」ちゃんに、富に恵まれる
プレゼントを下さったのです。
「ありがとう。」
「愛」ちゃん、素直に受け取ります。
あっ、たいへん。
「愛」ちゃんが受け取った
そのきれいな
しまいました。
「あれっ、なくなっちゃった。」
「愛」ちゃんがそう言うと、
「愛ちゃん。 大丈夫よ。
なくなったのではなく、
愛ちゃんの心の中に入っていったの。
大切にしてね。」
「うん!」
子どもって本当に純粋ですよね。
相手の言葉を
そのまま素直に受け取ります。
これがもし大人だったら、
きっとしゃかりきになって
そして今度は『
お言葉を
「愛ちゃん。
愛ちゃんが来てくれるのを
楽しみに待っていたよ。
今日は来てくれてありがとう。
はい。 これ、愛ちゃんに。」
そうおっしゃると今度は、
やはり透き通るようにきれいな
青い
『
人とのご縁を深めてくださる《神》様。
「愛」ちゃん、
これからきっとたくさんの人たちと
素晴らしいご縁を
そして最後に、
「愛」ちゃんのことを、
そばでずっと
『
まるで
実は『
お母さまは月の《女神》様。
母である月の《女神》様も
ご
いらっしゃるご様子。
「愛」ちゃんが、
『
授かったもの。
それは、なんと。。。
【誰からも愛される愛の力】。
「愛」ちゃん、
「愛」ちゃんの名前のとおり、
とっても素晴らしいプレゼントを
いただきましたね。
パチパチパチ。。。
とどろくような
多くの《神々》が
拍手をされたのです。
《
いよいよその≪
おやっ、どこからともなく
着物を来たオーケストラが
見たこともない
初めて聞く
でもとっても
すると、《三柱の幼神》は
ふわりと
なんと美しい
あまりの素晴らしさに。。。
「愛」ちゃん、お口ポカ~ン。
もう、うっとりです。
それぞれの《幼神》の
参列している《神々》も、
その華やかな舞に
身動きすらせず
しまっています。
そして《三柱の幼神》は、
目を開けていられないほどの
ものすごい光に照らされたかと思うと
みごとに
さきほどまで、「愛」ちゃんと
同じくらいの身長だった
《三柱の幼神》は、今ではもう
大人と見まがうほど成長されました。
ほ~。 これは、これは。。。
『
長かった黒髪はお
お
鶴から
赤く輝く富の光に
包まれていらっしゃいます。
『
海のように深く青き光の中で
お召し物の柄は
そして、
『
月明かりのごとく柔らかく、
「愛」ちゃんを優しく
見つめていらっしゃいます。
お召し物の柄は麻の葉から
気品のある
変わっていました。
ついに昇格を果たし、
《
まるで大きな、大きなシャボン玉の
ような不思議で美しい光の中で、
《三柱の
手を合わせ、深く
そして。。。
それぞれの手と手をふわりとお取りに
なり、【
お互いにさりげなく見つめ合われ、
ゆっくりとゆっくりと回り始められたのです。
すると突然、《神々》の頭上から
舞い降りてきました。
『
手に取られ、赤い
リボン結びに結んでくださいました。
「愛ちゃん。
これは私たち三柱の
愛ちゃんの幸せを願い、
創り上げた贈り物です。
どうかこの箱を
大切になさってください。」
そうおっしゃると、
『
「愛」ちゃんにその箱を
渡してくださいました。
「愛ちゃんが
絶対に開けないでくださいね。
そしてこのことは
けっして誰にも言わないでください。
中に何が入っているのか、
その時まで楽しみに
待っていてくださいね。」
次に『
そうおっしゃいました。
「うん。 わかった。 ありがとう。」
「愛」ちゃん、
またまた素直に受け取ります。
そして最後に『
「愛」ちゃんにお言葉を述べられました。
その時の『
笑顔がなく、少し寂し気な表情をして
いらっしゃったのです。
きっと。。。
大好きな「愛」ちゃんとお別れ
しなければならないことで
悲しいお気持ちになられたのでしょうね。
「愛ちゃん。
今日は、お祝いの儀式に参加して下さり、
ありがとうございました。
私たちはこれからもずっと
愛ちゃんの幸せを空から祈っていますね。」
目が覚めると
「愛」ちゃんは自分のお部屋にいました。
お父さんとお母さんが
レストランで眠ってしまった
「愛」ちゃんを家に連れて帰り、
お部屋に寝かせたのです。
(あれっ、じゃあ、
あれは夢だったのかな?)
いえいえ、そんなことはありません。
「愛」ちゃんの枕元には
あの時いただいた
ちゃんとあったのですから。
「愛」ちゃん、どうする?
今、開けちゃう?
「開けないよ。
だってお友だちと約束したもん。
大きくなったら開ける。
それまでここにしまっておくの。」
残念ですね。
みなさん、
中に何が入っているのか
見たかったですよね?
それが何か、誰にもわかりません。
もし知りたければ
会いに行くしかないでしょう。
ねえ、「愛」ちゃん。
その時、「
「や~だよ! 教えな~い。
誰にも教えないよ~だっ。」
え~。。。どうして教えてくれないの?
「だって、誰にも言わないでって
お友だちに言われたもん!」
だそうです。(笑)
終
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