八月の物語 天の鏡と地の鏡

文字数 7,784文字

 
 みなさんは、
河童(かっぱ)』の伝説を
聞いたことがありますか?


 『河童(かっぱ)』は、
本当に存在するのでしょうか?


 今回の物語には
その『河童(かっぱ)』が登場します。


 『河童(かっぱ)』に対するイメージは人それぞれ。
 

 ここでは
その『河童(かっぱ)』がある人を
幸せにするために大活躍してくれます。







 物語の舞台は東北のある農村。


 季節は八月。
 

 (あた)り一面、田んぼや畑が
広がっているのどかな田園地帯。 


 土手の近くの小川で
子どもたちのはしゃぐ声。


 みんなで水遊びをしているようです。


 川の水の深さは
子どもたちの腰のあたりぐらい。


 一人の男の子が
足を思いっきり()って、
クロールで泳ごうとしたその時。


 「痛いっ!」


 誰かの声がしました。
 

 「痛いよ。

 ボクの頭を()()ばさないでよ。

 お皿が割れちゃうよ。」


 そう言って
川の水の中から姿を現したのは、



 なんと、
あの伝説の『河童(かっぱ)』でした。


 背丈は子どもたちと同じくらい。


 頭の上には
平らな白い皿のようなものが
乗っていて、

その皿を囲むように
こげ茶色の髪の毛が
もさもさと()えています。
 

 口には
薄緑色のくちばしがあり、

目はギョロっとしていて、

背中には
亀のような甲羅(こうら)を背負っていました。
 

 体の色は青緑で、
両手の指の間には
水かきがついています。



 「うわ~っ」


 みんなビックリして
一斉(いっせい)に川から上がり、
一目散(いちもくさん)に逃げていきます。


 中には怖くて
そのまま川の中で
尻もちをついてしまい、
(おぼ)れかかってしまう子も。


 「行かないでよ。

 一緒に遊ぼうよ。」


 『河童(かっぱ)』は
逃げていく子供たちに叫びます。





 そんな中、
その場に一人だけ
逃げない男の子がいました。


 名前は「葉月(はづき)」くん。


 この男の子、
なぜだか『河童(かっぱ)』を見ても驚きません。


 それもそのはず。
 

 「葉月(はづき)」くんは小さい頃から
おじいちゃんの話してくれる
不思議な昔ばなしが大好きで、

中でも『河童(かっぱ)の神様』のお話は
おじいちゃんにお願いして
何度も話してもらったくらいです。


 「葉月」くんは、
目に見えないけど
みんなを守ってくれている存在が
必ずいるんだって、
ずっと信じている子なのです。


 まあ今回は、『河童(かっぱ)』の姿は
子供たちみんなに見えたようですけどね。


 そんな「葉月」くんの気持ちが
きっと『河童』に通じたのでしょう。


 おじいちゃんはこう言っていました。
 

 「この川には

『河童の神様』がいて、

この地域一帯を

いつも守ってくれているんだよ。


 今までその姿を見た者は

ほとんどいない。


 『河童の神様』は

子どもが大好きなんだ。


 だから子どもには

姿を見せてくれるらしい。


 もし出会えたら

怖がらずにお礼を言いなさい。


 そうすれば

きっといいことがあるよ。」


 そう。


 おじいちゃんの言っていたとおり。


 『河童の神様』は子どもが大好き。


 ただ子供たちと一緒に遊びたくて、
まれに姿を現すそうです。


 だから川で遊んでいた子どもたちは
本当ならとても幸運なはず。


 でも突然『河童』が現れたら
誰でもビックリして逃げちゃいますよね。


 「ボクは君に会いたくて

姿を現したんだ。」


 『河童の神様』はニッコリ笑って

「葉月」くんにそう言いました。


 「えっ?」

 
 「君が大人になったら

また会いに来るからね。」


  「おじいちゃんから

話を聞いたことがあるんだ。


 この川には

『河童の神様』がいるって。


 もし出会えたら、

この(あた)りを守ってくれて

ありがとうって

お礼を言いなさいって

言われてた。


 河童さん、ありがとう。」


 「葉月」くんがそうお礼を言うと、
『河童の神様』はうれしそうにうなずき、
そのまま川の中へ消えていきました。







 あの不思議な
『河童の神様』との出会いから
十五年が経ちました。


 そんな「葉月」君も今では大学生。


 あの時の出来事は
昨日のことのように
はっきりと覚えています。


 故郷の東北を離れて上京し、
東京の大学に通っている「葉月」君。


 気がつけば、
夢を語り合っていた
友人達のほとんどは、

成長するにつれ、
次第に夢から遠ざかり、

いつしか現実に()もれてしまい、

夢の実現より
現実を受け入れる方を
選んでいるようです。


 「葉月」君も来年は大学を卒業します。


 なのに、
自分の将来について
ずっと悩んでいる様子。


 いろいろ夢はあるけれど。


 あきらめるのは簡単。


 そしてあきらめるという決断も
ある意味必要なことでしょう。


 「僕は。。。


 僕には

絶対にやりたいことがあるんだ。


 だけど。。。」







 そのころ、
ある祈祷師(きとうし)の屋敷では
非常に重要な儀式の真最中(まっさいちゅう)でした。


 その祈祷師(きとうし)の名は昇龍(しょうりゅう)  導光(どうこう)


 ところがそんな祈祷師(きとうし)
昇龍(しょうりゅう)  導光(どうこう)は、意外にも
見た目はとても祈祷師とは思えないほど
物腰柔(ものごしやわ)らかな人物。


 ダンディで背が高く、
(おだ)やかな口調で語る導光に
魅了(みりょう)される女性は
(あと)を絶たないようです。


 そんな導光ですが、
彼がこの上なく愛するものは
何といっても龍と家族。


 先祖代々祈祷師の家系に生まれ、
昇龍家第四十八代当主として
家を(まも)り、先祖の教えを(とうと)び、
当主となってからも日々修行を(おこた)らない
まさに正統派の祈祷師。


 (さかのぼ)ること二千年ほど前。


 昇龍家の始祖(しそ)
ある≪龍神≫に仕える神官でした。


 以来、この≪龍神≫を守護神として(まつ)り、
その導きの(もと)、導光の代に至るまで
実に多くの迷える人々を救ってきたのです。

 

 導光(どうこう)も先祖のその意志を受け継ぎ、
祈祷師を天命の職と強く自覚し、
少しでも多くの人々に寄り添い、
その支えとなりたいと願っています。


 そのためには、まず祈祷師として
自分自身を心身ともに常に浄化された状態に
保たなければなりません。
 

 月や太陽、火星、木星などの天体や、
山、川、森林、海などのありとあらゆる
自然からその大いなる力を授かり、
降りかかる事象と常に対峙(たいじ)することを
要求されるのです。






 明日は≪新月(しんげつ)≫。





 ≪新月(しんげつ)≫になる直前の月は
完全な形を成すために
発揮される力が特に強大なため、
たいへん貴重とされており、

その機会に月に感謝し、
その月の力を授かるための儀式を
()り行っていたのです。


 儀式には
様々な神具(しんぐ)が使用されます。


 今回の儀式に使用されたのは≪鏡≫。


 銅製(どうせい)で円形のその鏡は
数百年前から昇龍家(しょうりゅうけ)
代々伝わるもので、

重要な儀式に用いられる
非常に大切な神具(しんぐ)の一つ。


 儀式を終え、
ていねいに(みそぎ)を済ませて、
保管庫の中の棚にその鏡を
収めようとしたその時。






 突然、鏡から強い光が発せられ、
そのあまりの(まぶ)しさに
導光は完全に視界を
(うば)われてしまったのです。


 (うわっ、なんて強い光だ。

 目を開けているのに何も見えない。


 太陽の光が鏡に反射しただけなら

こんなに強い光を発するはずはない。)


 両手で目を(おお)いながら、
徐々に光に目を慣らしていくと、
ぼんやりと視界がもどってきました。


 (あた)りを見回し、
再び鏡に目を向けると、

鏡の中に、
ある文字(もじ)と数字が
浮かび上がってきたのです。


 「葉月。 成志(せいし)大学。

199988。」


 導光がその文字(もじ)と数字を
小声でつぶやくと、

どこからともなく
声が聞こえてきました。



 「導光さま。

 お願いがございます。
 

「葉月」という名のお方を探してください。


 私が存じ上げているのは、

その方が成志(せいし)大学の学生である

ということと、

1999年8月8日生まれだということ。


 私はそのお方を幸せにしたいのです。


 この【(てん)の鏡】が映す力。


 それは悲観的になったり、

否定的になったり、

自信を失ったりするような

不安や負の思念を取り除き、

迷うことなく新たな一歩を

踏み出すための原動力となる力。


 私の持っている

()の鏡】が映す力は、

未知の可能性を引き出し、

夢を実現へと導く力。



 明日の≪新月≫の日。 
 

 【()の鏡】に≪新月≫の力を宿し、

二鏡を合わせれば、

天地叶願鏡(てんちきょうがんきょう)】が完成します。


 それこそが

「葉月」さまを幸福にする力を

生み出すための鏡。


 導光さまには、

ぜひともその儀式の

お力添えをお願いしたいのです。


 【天地叶願鏡(てんちきょうがんきょう)】がもたらすこの力は、

多くの人々に

希望と幸せな未来を

授けるものでもあります。


 「葉月」さまのみならず、

多くの人々の幸福が

かかっております。


 ですからなんとしても

「葉月」さまにこの力を

受け取っていただきたいのです。


 あなたは「葉月」さまの身内の方と

お知り合いのはずです。


 東北にお住いのそのお方は

「葉月」さまの名づけの親でもございます。


 明日の≪新月≫の日、

夜七時に導光さまのお屋敷に

(うかが)いいたします。


 「葉月」さまに

幸せをお渡しできるのは

たった一度、

明日の≪新月≫の時だけ。


 どうか、どうかその時に

「葉月」さまを

必ずこちらへお連れください。」





 声の(ぬし)が誰なのか
導光にはまったく見当が
つきませんでした。


 (私が、名づけの親と知り合い?


 いったい誰だろう。 東北。。。)


 「東北に行くことは滅多(めった)にない。


 ここ最近も行っていない。


 だとすると。。。」


 導光は十年ほど前に、
ある依頼を受け、
東北に出向いた時のことを
思い出しました。
 

 (あっ、そうか。。。あの時。


 依頼者の近所に住んでいた方に

お世話になったことがあった。


 とても親切な方で、

たしか、お孫さんに

「葉月」という名をつけたと言っていた。


 「男の子で「葉月」君ですか。


 めずらしいですね。」


 私がそう言うと、

その方は、

「あの子は八月生まれ。


 八月にご縁があるんですよ。


 きっとこれから転機も八月に起こる。


 八月に何かと出会い、

八月に何かを授かる、

そう感じるんです。」 


 「葉月」君の名づけの親は、

確かそう言っていた。)


 「そうか。

 わかった。

 きっとあの方だ!」


 導光は思わず声を出しながら
納得するようにうなずきました。


 (思い出した。


 あの方は「葉月」君のおじいさん。


 とても孫をかわいがっている方だった。)


 導光は「葉月」君のおじいさんから
元気いっぱいの「葉月」君を
紹介してもらった時、

そのあまりにも神々(こうごう)しい姿に
(まぶ)しくて、目を開けていられないほど
だったことを思い出したのです。


 「さっきの【(てん)の鏡】のあの光。

 あれは、

あの時の「葉月」君が

放っていた光とまったく同じだ。


 私はあの時、

 (なんというパワーの持ち主だろう。


 この子はきっと、

将来人々のために

大業を成し遂げるような子になる。


 まさに神に選ばれし子だ。) 


 そう思ったんだ。」







 導光は急ぎ、
東北に住む、かつての依頼主に
連絡を取ったのでした。





 そして次の日。


 約束の夜七時になりました。


 声の(ぬし)の依頼どおり、
導光は「葉月」君を
屋敷に招いていたのです。


 今回のことを
「葉月」君に説明した時、
「葉月」君は導光をまったく疑わず
信じてくれました。


 「おじいちゃんから言われたんです。


 「「いつか必ずこのような日が来る。


 その時は神様に感謝して、

授かりものをありがたくいただきなさい。


 そしてそれを

世のため人のために生かす。


 「葉月」はそういう運命の(もと)

生まれたんだよ。」」と」。







 その時、




「ごめんください。」


 玄関先で声がしました。



 誰かが訪ねてきたようでした。






 あの声の(ぬし)でしょうか?






 導光は「葉月」君と一緒に
玄関へ向かいます。


 すると、玄関には
一人の男性が立っていたのです。


 灰色のトレンチコートを身にまとい、
深々と帽子をかぶり、
まるで人目を避けるかのような
おどおどした様子。


 息づかいが荒く、
ハアハアと苦しそうに見えます。


 「導光さま。」


 そう言うと、
その男性はそのままうつ伏せに
倒れてしまいました。


 「大丈夫ですか?」


 導光が急いで
その男性の上半身を抱き起こすと、

かぶっていた帽子が頭から落ち、
その帽子で(かく)されていた顔が
(あら)わになったのです。





 「なんと、

こっ、これは、人間ではない。」



 ギョロっとした
大きな緑色の二つの目。


 顔色は青黒く、
薄緑色の口ばしがあり、



 【()の鏡】の(ぬし)



 それは『河童』だったのです。



 (河童は水の中を生きる存在。


 どんなことがあっても

絶対に自らの生域(せいいき)を離れることはない。


 いや、離れてはいけないのだ。


 河童の生きる世界でも、

それを(おか)してはならない法があるはず。


 その法を(おか)してまで

ここに来たということは、

ただ事ではないということか。)


 すべてを察した導光は、

 「「葉月」君。


 手を貸してほしい。


 この方は『河童の神』。


 君は以前、

この方と出会ったことがあるはず。


 今日は君のために

はるか遠くから

わざわざやって来て下さったんだ。


 まずは庭の井戸のところまで

お連れしよう。」


 「葉月」君にそう言って
助けを求めます。


 「はい。」


 二人は急いで
『河童の神様』を
井戸のところへ連れて行きます。
 

 そして服を脱がし、
井戸水を頭から全身に
何度もかけたのです。


 『河童の神様』は
大きく深呼吸をし、
ほっとした表情で
二人を見つめました。
 

 完全に乾燥していた
青黒かった肌は
水を浴びたおかげで
プルプルした美しい
深緑色に光る肌にもどり、

正座をした『河童の神様』は
両手を地面につけ、
頭を下げられたのです。


 「導光さま。


 本日は、私の願いを聞いて下さり、

ありがとうございました。


 私にとって

こんなに嬉しいことはございません。


 私の使命は

ここにいらっしゃる「葉月」さまに

天地叶願鏡(てんちきょうがんきょう)】の力を

お渡しすること。


 やっとこれで

使命を果たすことができます。


 それを果たすまでは、

ずっと「葉月」さまの生まれた

地域一帯を守る土地神として

そこに住む人々とその地を

守ることがお役目でした。


 私の持つ【()の鏡】の力は

(てん)の鏡】の力と合わせることで

初めて本来の力を発揮します。


 どんなにこの日が来るのを

待ちわびたことか。」


 「あの時の河童さんですよね。


 僕、よく覚えています。


 導光さんから連絡をもらった時、

やっとまた会える、そう思ったんです。


 「「僕が大人になったら

また会いに来る」」というそのお言葉、

ずっと心の中にありました。


 今日はこんな遠くまで

僕のために来てくれて

本当にありがとうございます。」


 「葉月」君にそう言われ、
『河童の神様』は
少し涙ぐまれているようでした。


 「時間がありません。


 早く儀式を始めましょう。」


 導光がそう声をかけると、

『河童の神様』は、

「導光さま。 

()の鏡】は、私の頭の上にある

この白い皿です。


 ここに【(てん)の鏡】を合わせ、

≪新月≫の力を宿したら、

私の方で【天地叶願力(てんちきょうがんりょく)】を

お創りいたします。


 そしてそれを「葉月」さまの魂に宿せば

必ず葉月さまは幸せになれるでしょう。

 
 目に見えずとも

本日の≪新月≫の力は特別に強大なもの。


 すでに私のこの鏡には

その力が十分に宿っております。」


 『河童の神様』が
頭を夜空にかざされると
その白い皿は美しく煌々(こうこう)と輝く
銀色の(さかずき)に変わっていきました。


 そして導光が手にしていた
(てん)の鏡】を受け取られると
その鏡をご自身の頭上に向けられたのです。






 すると、




 その二つの鏡は
≪新月≫の力を受けて
みごとに共鳴(きょうめい)し、

『河童の神様』の頭上から
なんとも柔らかな
淡い金色に包まれた
青磁(せいじ)色の球体が現れ、

「葉月」君の周りを
くるくる円を描くように回ると
静かに吸い込まれるように
「葉月」君の胸の中に
すっと消えていきました。





 

 『河童の神様』の目からは
ひと筋の涙が流れ、

地面に落ちたその涙は
いくつものちいさな翡翠玉(ひすいだま)となり
キラキラと輝いていました。


 「よかった。。。


 これでやっと

私は使命を果たすことができました。


 「葉月」さま、おめでとうございます。


 あなたは元々、神々から選ばれし人。


 幸せになるべきお方なのです。


 私は神々により、

この日が来るまで

「葉月」さまのお近くで

「葉月」さまを守り、

そして時が来たら、

必ずこの【天地叶願力(てんちきょうがんりょく)】を

「葉月」さまに授けるよう

(めい)を受けました。


 これからあなたは

実現したい夢に向かって真っすぐに進み、

大業を成し遂げることができます。


 【(てん)の鏡】と【()の鏡】が

融合する瞬間にだけ生じる力、

不運や悪運を幸運や勝機へと変える

転幸勝運力(てんこうしょううんりょく)】もお授けいたしました。


 どうかこれからは

迷うことなく

信じた道をお進みください。


 あなたが進む道には

多くの人々の

明るい未来がかかっております。


 ご自身だけでなく、

人々の幸せも

常に考えていらっしゃる

あなただからこそ授けられた

偉大なふたつの力、

天地叶願力(てんちきょうがんりょく)】と【転幸勝運力(てんこうしょううんりょく)】。


 私はあなたに

このふたつの力をお授けできて

本当に幸せです。」


 『河童の神様』のこのお言葉を聞いて、

「葉月」君の目にも涙があふれていました。


 「僕のためにそこまで。。。


なんてお礼を言っていいのか。」



 「≪神≫という存在は

そういうものなのですよ。


 「葉月」君。


 ≪神々≫の願いはただ一つ。


 人々が幸せになること。


 そのために

≪神≫でさえも祈りを(ささ)げ、

厳しい修行で得た力を

()しげもなく

私たちに授けてくださる。


 そして絶対に見返りを求めない。


 ≪神≫とはそういう存在です。


 『河童の神様』がおっしゃるとおり、

君は≪神々≫から選ばれた人。


 自分の幸せのために、

そして多くの人々の

明るい未来のために

今、心に秘めている志を(つらぬ)くといい。」 


 そう言うと、
導光は「葉月」君の手を
ギュッと握り締めました。





 今、目の前に広がる光景は
あまりにも美しく、

今までいろいろな場面に
遭遇(そうぐう)してきた導光でさえ、
思わずもらい泣きして
しまうほどでした。


 『河童の神様』は
しばらくじっと
夜空を見つめていらっしゃいました。



 そして、


 「お別れの時がやって来たようです。


 使命を果たした今、

私は天へと帰らなければなりません。


 導光さま、ありがとうございました。


 今度は天から

「葉月」さまのお幸せを願っております。


 「葉月」さま、

どうか、お元気で。


 成功をお祈りいたします。」

 
 そうおっしゃると、
『河童の神様』はニッコリ笑って、

美しい深緑色の肌を輝かせ、
『土地神』から『天の神』となって
天へと昇っていかれたのです。


 何度も振り返っては
「葉月」君を見つめられ、
手を振りながら
まっすぐに、まっすぐに
天へとお戻りになったのです。






  『河童の神様』から
素晴らしい力を授かった「葉月」君。


 「葉月」君が実現したい夢、
それは「葉月」君にしかわかりません。


 ひとつだけ確かなのは、
それは『河童の神様』も
おっしゃっていたように

 「多くの人々も幸せになること」

なのでしょう。


  例え、どんなに強大なお力を
お持ちの≪神≫であっても
すべての人々にそのお力を
授けることは至難(しなん)(わざ)だとききます。


 だからこそ、

この人ならば、

この人に授ければ

周囲の人も

より多くの人々も

幸せになるだろう。


 そう≪神々≫によって
見初(みそ)められた人こそが
授かれるものなのでしょう。


 授かるというよりは託される、

ということでしょうか。


 もしもあなたが、そんなお力を
≪神≫から授かったらどうしますか?


 その時あなたは、

 「これは私が授かったのではない。

 これは託されたもの。

 多くの人々の幸せのために使うんだ。」


 ≪神≫に、

そしてあなた自身の心に

そう誓うことができますか?

                                    終
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