一月の物語 神様はご先祖様
文字数 5,557文字
「たっ、たいへんです。
昇龍 さん。
奥の本殿に祀 られているはずの
≪神様≫が。。。 ≪神様≫が。。。」
年が明けたばかりの元旦の朝早く、
あまりにびっくりして祈祷師 の昇龍 導光 に
電話をかけてきたのは、月照 神社の
宮司様でした。
導光がよくよく話を聞いてみると。。。
例年のことながら、
年末から様々な行事で忙しい神社では、
お焚 き上げやら祈祷 やらで、
てんてこ舞いだった昨夜の大晦日 から
初詣 に訪れた地元住民の長蛇の列で
にぎわう中。。。
いつものように本殿に祀 られている
≪神様≫に祈りを捧げようとしたところ、
そこに鎮座 していらっしゃるはずの
≪神様≫が行方不明になってしまわれたと
言うのです。
(そんなことがあるはずはない。
年が明けたばかりの元旦である今日は、
一年の中でも一番人々が神社を訪れることは
≪神様≫もご存知のはず。
人々の願いに耳を傾けて下さる
とても大切な時期であるはずなのに。。。
なぜそんなことに?)
とにかく、知り合いの宮司様から
≪神様≫の《捜索願い》を承 った導光は、
きっと何かの間違いだろうと思いつつも、
急いで月照 神社に向かいます。
神社に到着した導光は、自分の目を
疑いました。
「こっ、これは。。。
いったいどういうことだ。」
導光が驚くのも無理はありません。
なぜならすでに≪神様≫は、
本殿を抜け出し、ふわふわと神社の上空を
漂 っておられたのですから。
しかも、まるでサンタクロースのように、
大きな、大きな白い袋を肩にかついで
いらっしゃいます。
その袋はパンパンに膨らんでいて、
今にもはちきれそうでした。
そして導光を空から見下し、ニッコリと
微笑 まれると、そのまま北の方に飛んで
行かれてしまったのです。
(これはただ事 ではない。)
そう思った導光は、≪神様≫を見失わない
ように急いであとを追っていきます。
ところが不思議なことに≪神様≫は、
まるで導光に同行を求めるかのように
ゆっくりとゆっくりと進んでいらっしゃる
ご様子。
どうも神社のある奈良県から日本列島を
北上しながら飛んでいかれているようです。
(いったいあの≪神様≫は
どこに行かれるつもりなのだろう。
それに。。。
あの大きな袋は何だ?
中に何か入っているように見えるが。
パンパンでやけに重そうだ。)
導光は注意を払いながら、≪神様≫の
あとをずっとつけていきました。
いったいどのくらい時間が経ったの
でしょうか?
気がつくと導光は、海沿いの町まで
来ていたのです。
辺りを見回し、今、自分がどこにいるのか
確かめてみると。。。
(えっ? なに? 松島?
まさか。。。
ここは、本当にあの松島か?)
そう。
導光がたどり着いたのは、なんとなんと
宮城県は松島。
それも海沿いの松島港に近い場所。
驚く導光を見下ろしながら、
≪神様≫は一軒の家の上空を何度も何度も
旋回 していらっしゃいます。
しばらくすると、その家から一人の中学生
ぐらいの≪少女≫が出てきました。
その家の上空で旋回していらっしゃった
のは、どうもこの≪少女≫が家から出てくる
のをずっと待っていらっしゃったからの
ようです。
≪神様≫は歩みを進める≪少女≫のあとを
空の上からゆっくりとついて行かれました。
不思議に思う導光もそのあとをつけて
いきます。
≪少女≫は、初詣でにぎわっている
地元の神社の横を通り過ぎ、細い路地に
入って行きました。
時々胸を押さえながら、苦しそうな表情
で、歩く速度も遅く、何度か歩みを止めては
また歩き出す。
しばらく進んでいくと、家と家との間の
狭いすき間に小さなお社 がありました。
やっとたどり着いたという表情をして、
≪少女≫はそのお社 に手を合わせ、
何かお願いをしているようでした。
その時、導光には≪神様≫の声が
聞こえたのです。
「導光よ。
我 の願いを聞いてはくれぬか。」
「はっ。 かしこまりました。
どのような願いでございましょう。」
「我 が数百年かけて集めたたくさんの
【福徳】がこの袋の中に入っている。
この【福徳】をこの子に授けたい。
だがそのためには、神社に祀 られている
≪神≫としての名前ではなく、天界にいた時
の我 の名前を思い出さねばならぬ。
もう何百年も前のこと。
我 は以前の名を忘れてしまった。
この子に【福徳】を授けるためには、
その以前の名を唱えてもらわねばならぬ。
今の≪神≫としての名は、すべての人々の
願いを受け止めるための名前。
ひとりの先祖として、子孫であるこの子に
【福徳】を授けるためには、我 自身の名を
もって授けなければならぬ。
たいへん不思議なことに、この子には、
記憶をよみがえらせるというすばらしい
力がある。
【古 の名よ。
遠い記憶よりよみがえりたまえ。】
この言葉をこの子に唱えてもらって
ほしいのじゃ。
それこそが我 が名を思い出すための
言霊 となる。」
そうは言われても、いったい初対面の
この≪少女≫に、どのように説明すれば
わかってもらえるのか。
いきなりこの言葉を唱えてほしいなど
とも言えず、どう切り出そうか、迷った末に
導光が≪少女≫に声をかけようとすると。。。
「導光さん? ですよね。」
導光はびっくりしました。
まさか≪少女≫の方から声をかけてくる
などとは思ってもいなかったのです。
しかも≪少女≫は導光の名を知って
いたのです。
その≪少女≫によれば。。。
小さいころから病気がちだった
≪少女≫は、友だちもできず、
よくこのお社 の前で、ポツンとひとりで
遊んでいたということです。
そしていつもこのお社 の≪神様≫に、
「早く病気が治って、
みんなとかけっこをしたり、
山に登ったり、海で泳いだり、
学校に行って勉強したい。
だから早く病気を治してください。」
そうお願いしていました。
物心ついたときから夢など一度も
見たことがなかったのに。
ちょうど一週間前、夢の中で不思議な
声を聞いたというのです。
「一週間後の一月一日の元旦、
午後一時に必ずこのお社 を訪れ、
≪神様≫にお願いをしなさい。
そこで待っていれば
導光という名の祈祷師がやってくる。
あとは導光に任せればよい。
そうすれば、きっとそなたの願いは
叶うだろう。」
「それなら話は早い。 お嬢さん。
【古 の名よ。
遠い記憶よりよみがえりたまえ。】
という言葉を唱えていただけますか?」
導光がそう≪少女≫にお願いすると、
≪少女≫はまるで訴えるようなまなざしで
導光を見つめながらうなずき、唱えます。
【古 の名よ。
遠い記憶よりよみがえりたまえ。】
≪少女≫がその言葉を唱えると、
≪神様≫は、はっとした表情をお見せに
なり、
『豊徳 恵寿 』。
そうつぶやかれました。
そして導光にこうおっしゃったのです。
「導光よ。
我 は思い出したぞ。
神社に祀 られる前の我 が名 を。」
『豊徳 恵寿 』
それが≪神様≫の以前のお名前。
そして≪神様≫は、ご自身の想いを
その≪少女≫に伝えてほしいと
導光に懇願されたのでした。
導光は、その≪少女≫に、
夢の中で聞いたその声の主 は
≪少女≫のご先祖さまだと説明し、
今は≪神様≫であらせられる
ご先祖さまからのお言葉を伝えたのです。
「我 が子孫よ。
愛しき、愛しき我 が子孫よ。
ずいぶん待たせてしまったな。
どんなにこの手を差し伸べたかった
ことか。。。
この日まで。。。
ただ遠くから見護 るしかなかった。。。
無力な我 を。。。許してほしい。。。
生まれながらに弱き体。
されど笑顔を絶やさず、
さながら、春の木漏 れ日のごとく、
柔らかな光で周囲を包みこむ美しき魂よ。
そなたの笑顔に、我 さえも救われた。
そなたのような子孫が生まれたこと、
心から誇りに思う。
満ちあふれる慈愛の心で
人を笑顔にする我 が子孫。
そなたこそが幸せになるべき者。
さすれば、その幸せが周囲にも
広がっていこう。
まさにこの日、
ついに、我 が全ての【福徳】を
授けるべき時がやってきた。
そなたの幸せを願う我 の想いとともに、
どうか、どうか受け取ってほしい。」
導光がそのお言葉を≪少女≫に伝えた時、
澄んだ≪少女≫の瞳から、とめどなく涙が
あふれてきました。
「導光よ。
我 は今、その子の目の前に居 る。
我 に向かってその名前を唱えるように
言ってはもらえぬか?」
「承知いたしました。」
導光が、≪少女≫に『豊徳 恵寿 』と
唱えるように頼むと、≪少女≫は≪神様≫の
方に向かって手を合わせ、願いを込めて、
『豊徳 恵寿 』と唱えました。
そして、ていねいに一礼したのです。
するとその瞬間。
バ~ンッ!!!
物凄い音がして、≪神様≫がかついで
いらした、大きな、大きな袋が開いたかと
思うと、たくさんの【福徳】がその袋から
飛び出してきたのです。
一番最初に出てきたもの。
それは≪少女≫が一番望んでいたもの。
《病気治癒》《健康長寿》でした。
次から次へと飛び出す【福徳】。
《無病息災》《学業成就》
《金運・財運上昇》
《出世成功》《昇進昇格》
《商売繁盛》《家内安全》
《一発逆転》《良縁成就》 などなど。
まだまだ数えきれないほどの【福徳】が
飛び出し、大きな、大きな橙 色の光に
なると、≪神様≫はその光の中にご自身で
何百年もかけて作り上げた【恩恵】をそっと
添えて≪少女≫の魂に宿していったのです。
もう何代も何代も前のご先祖様。
天寿を全 うし、何百年にも及ぶ、
それは、それは厳しい修行を経 て、
ついに≪神様≫へと昇格されたご先祖様。
天界で人々を見護 るよりも、
地上に降りて、もっと人々のすぐそばで
人々を見護り、その願いを叶えたい。
その一心で、流れ着いた神社に祀 られ
ましたが、そのお心の奥には、愛する子孫を
幸せに導きたいという強き想いがずっと
秘められていたのです。
ゆえにその強き想いで≪神様≫はまた
さらに長い年月をかけて、たくさんの
【福徳】をお集めになりました。
きっといつの日か、ご自身の集めた
【福徳】とご自身が作り上げた力である
【恩恵】の数々を残さず渡せる子孫が現れる
のを願いながら。
≪少女≫を見つめるその優しいお顔は、
もはや≪神様≫としてのお顔ではなく、
間違いなくご先祖様としてのお顔。
≪少女≫の幸せを願うその想いが
確かに≪神様≫の表情にはっきりと
表れていました。
ご自身と血のつながった子孫というご縁も
もちろんおありだとは思います。
けれど、ずっとずっと子孫である
その≪少女≫の幸せをただひたすら願って
くださっていた慈愛に満ちたご先祖様。
≪神々≫が人々の幸せを願うように、
親が子の幸せを願うように、
先祖が子孫の幸せを願う
その愛はとても尊 く美しいものです。
すべての【福徳】や【恩恵】が
≪少女≫に注がれたのを見届けると、
≪神様≫はまたニッコリと微笑 まれ、
あっという間に空へと飛び立たれて
行きました。
やっとご自身の長年にわたる切なる想いを
果たせて安心され、ご自身の神社へと
おもどりになったのでしょう。
子孫の幸せを何よりも願うご先祖様。
とは言え。。。
今は神社をお護 りする≪神様≫で
あらせられる以上、これからは、なお一層
そのお務めを果たすべく尽力してくださる
ことでしょう。
涙をぬぐっている≪少女≫に向かって
導光は優しく言葉をかけました。
「たった今、ご先祖様はお帰りに
なりましたよ。
ずっと、ずっとあなたのことを
見つめながら。
とても嬉しそうなお顔をされていました。
これからあなたにはたくさんの幸せが
待っています。
いいえ、待つ必要もないでしょう。
こうしている間にも、その幸せが、
物凄いスピードであなたに向かってやって
来ているのが私にはわかります。
それは、どれだけ苦しい状況にあっても
≪希望の光≫を持ち続けたあなただからこそ
起こすことができた奇跡。
ご先祖様もおっしゃっていたとおり、
あなたの笑顔はほんとうに素敵だ。
その笑顔を前にすると
なぜだかみなが幸せな気持ちになる。
あなたのその笑顔から
勇気と安らぎをもらった人々は
きっとたくさんいるでしょう。
その笑顔こそが
あなたにとって一番の≪宝≫であり、
誰も手にすることができないもの。
私は、誰もが持っているその人自身の
≪宝≫にそれぞれが誇りを持ち、
自信を持って生きていってほしい。
そう思っています。
いつまでもその笑顔を絶やさず、
ご自身を信じて生きていってくださいね。
あなたのように
周囲の人々を優しく包み込むことが
できる人はなかなかいない。
これからは、ご自身の幸せと
あなたの幸せを願う人々の幸せも
祈りながら生きてくださいね。」
物腰柔らかに穏やかな口調で
励ましてくれた導光に、その≪少女≫は、
「ありがとうございます。 導光さん。
ご先祖様に何とお礼を言っていいか。
私、絶対に幸せになります。
そして、今まで私を励ましてくれた
人たちに恩返しがしたい。。。
そう思っています。」
≪少女≫のその力強い決意表明のような
言葉に導光のアドバイスは、
「まずはあなた自身が幸せになること。
それが一番の恩返しになりますよ。」
導光のその言葉に
≪少女≫はしっかりとうなずきました。
ご先祖様の愛しい子孫を想うその尊 い
お気持ち。
その愛の深さをひしひしと感じながら
感慨 深げに導光は家路へと向かうのでした。
ところで。。。
いったい導光はどうやって
ここまで≪神様≫を見失うことなく
たどり着いたのか。。。
それはこの物語の中では
あえて語らないことにいたしましょう。
さてさて。。。
勘のいいみなさんなら、どうしてこの
≪神様≫が、何百年も待ち続け、数ある
子孫の中でもこの≪少女≫に【福徳】を
お授けになったのか、きっとお分かりに
なることでしょう。
終
奥の本殿に
≪神様≫が。。。 ≪神様≫が。。。」
年が明けたばかりの元旦の朝早く、
あまりにびっくりして
電話をかけてきたのは、
宮司様でした。
導光がよくよく話を聞いてみると。。。
例年のことながら、
年末から様々な行事で忙しい神社では、
お
てんてこ舞いだった昨夜の
にぎわう中。。。
いつものように本殿に
≪神様≫に祈りを捧げようとしたところ、
そこに
≪神様≫が行方不明になってしまわれたと
言うのです。
(そんなことがあるはずはない。
年が明けたばかりの元旦である今日は、
一年の中でも一番人々が神社を訪れることは
≪神様≫もご存知のはず。
人々の願いに耳を傾けて下さる
とても大切な時期であるはずなのに。。。
なぜそんなことに?)
とにかく、知り合いの宮司様から
≪神様≫の《捜索願い》を
きっと何かの間違いだろうと思いつつも、
急いで
神社に到着した導光は、自分の目を
疑いました。
「こっ、これは。。。
いったいどういうことだ。」
導光が驚くのも無理はありません。
なぜならすでに≪神様≫は、
本殿を抜け出し、ふわふわと神社の上空を
しかも、まるでサンタクロースのように、
大きな、大きな白い袋を肩にかついで
いらっしゃいます。
その袋はパンパンに膨らんでいて、
今にもはちきれそうでした。
そして導光を空から見下し、ニッコリと
行かれてしまったのです。
(これはただ
そう思った導光は、≪神様≫を見失わない
ように急いであとを追っていきます。
ところが不思議なことに≪神様≫は、
まるで導光に同行を求めるかのように
ゆっくりとゆっくりと進んでいらっしゃる
ご様子。
どうも神社のある奈良県から日本列島を
北上しながら飛んでいかれているようです。
(いったいあの≪神様≫は
どこに行かれるつもりなのだろう。
それに。。。
あの大きな袋は何だ?
中に何か入っているように見えるが。
パンパンでやけに重そうだ。)
導光は注意を払いながら、≪神様≫の
あとをずっとつけていきました。
いったいどのくらい時間が経ったの
でしょうか?
気がつくと導光は、海沿いの町まで
来ていたのです。
辺りを見回し、今、自分がどこにいるのか
確かめてみると。。。
(えっ? なに? 松島?
まさか。。。
ここは、本当にあの松島か?)
そう。
導光がたどり着いたのは、なんとなんと
宮城県は松島。
それも海沿いの松島港に近い場所。
驚く導光を見下ろしながら、
≪神様≫は一軒の家の上空を何度も何度も
しばらくすると、その家から一人の中学生
ぐらいの≪少女≫が出てきました。
その家の上空で旋回していらっしゃった
のは、どうもこの≪少女≫が家から出てくる
のをずっと待っていらっしゃったからの
ようです。
≪神様≫は歩みを進める≪少女≫のあとを
空の上からゆっくりとついて行かれました。
不思議に思う導光もそのあとをつけて
いきます。
≪少女≫は、初詣でにぎわっている
地元の神社の横を通り過ぎ、細い路地に
入って行きました。
時々胸を押さえながら、苦しそうな表情
で、歩く速度も遅く、何度か歩みを止めては
また歩き出す。
しばらく進んでいくと、家と家との間の
狭いすき間に小さなお
やっとたどり着いたという表情をして、
≪少女≫はそのお
何かお願いをしているようでした。
その時、導光には≪神様≫の声が
聞こえたのです。
「導光よ。
「はっ。 かしこまりました。
どのような願いでございましょう。」
「
【福徳】がこの袋の中に入っている。
この【福徳】をこの子に授けたい。
だがそのためには、神社に
≪神≫としての名前ではなく、天界にいた時
の
もう何百年も前のこと。
この子に【福徳】を授けるためには、
その以前の名を唱えてもらわねばならぬ。
今の≪神≫としての名は、すべての人々の
願いを受け止めるための名前。
ひとりの先祖として、子孫であるこの子に
【福徳】を授けるためには、
もって授けなければならぬ。
たいへん不思議なことに、この子には、
記憶をよみがえらせるというすばらしい
力がある。
【
遠い記憶よりよみがえりたまえ。】
この言葉をこの子に唱えてもらって
ほしいのじゃ。
それこそが
そうは言われても、いったい初対面の
この≪少女≫に、どのように説明すれば
わかってもらえるのか。
いきなりこの言葉を唱えてほしいなど
とも言えず、どう切り出そうか、迷った末に
導光が≪少女≫に声をかけようとすると。。。
「導光さん? ですよね。」
導光はびっくりしました。
まさか≪少女≫の方から声をかけてくる
などとは思ってもいなかったのです。
しかも≪少女≫は導光の名を知って
いたのです。
その≪少女≫によれば。。。
小さいころから病気がちだった
≪少女≫は、友だちもできず、
よくこのお
遊んでいたということです。
そしていつもこのお
「早く病気が治って、
みんなとかけっこをしたり、
山に登ったり、海で泳いだり、
学校に行って勉強したい。
だから早く病気を治してください。」
そうお願いしていました。
物心ついたときから夢など一度も
見たことがなかったのに。
ちょうど一週間前、夢の中で不思議な
声を聞いたというのです。
「一週間後の一月一日の元旦、
午後一時に必ずこのお
≪神様≫にお願いをしなさい。
そこで待っていれば
導光という名の祈祷師がやってくる。
あとは導光に任せればよい。
そうすれば、きっとそなたの願いは
叶うだろう。」
「それなら話は早い。 お嬢さん。
【
遠い記憶よりよみがえりたまえ。】
という言葉を唱えていただけますか?」
導光がそう≪少女≫にお願いすると、
≪少女≫はまるで訴えるようなまなざしで
導光を見つめながらうなずき、唱えます。
【
遠い記憶よりよみがえりたまえ。】
≪少女≫がその言葉を唱えると、
≪神様≫は、はっとした表情をお見せに
なり、
『
そうつぶやかれました。
そして導光にこうおっしゃったのです。
「導光よ。
神社に
『
それが≪神様≫の以前のお名前。
そして≪神様≫は、ご自身の想いを
その≪少女≫に伝えてほしいと
導光に懇願されたのでした。
導光は、その≪少女≫に、
夢の中で聞いたその声の
≪少女≫のご先祖さまだと説明し、
今は≪神様≫であらせられる
ご先祖さまからのお言葉を伝えたのです。
「
愛しき、愛しき
ずいぶん待たせてしまったな。
どんなにこの手を差し伸べたかった
ことか。。。
この日まで。。。
ただ遠くから
無力な
生まれながらに弱き体。
されど笑顔を絶やさず、
さながら、春の
柔らかな光で周囲を包みこむ美しき魂よ。
そなたの笑顔に、
そなたのような子孫が生まれたこと、
心から誇りに思う。
満ちあふれる慈愛の心で
人を笑顔にする
そなたこそが幸せになるべき者。
さすれば、その幸せが周囲にも
広がっていこう。
まさにこの日、
ついに、
授けるべき時がやってきた。
そなたの幸せを願う
どうか、どうか受け取ってほしい。」
導光がそのお言葉を≪少女≫に伝えた時、
澄んだ≪少女≫の瞳から、とめどなく涙が
あふれてきました。
「導光よ。
言ってはもらえぬか?」
「承知いたしました。」
導光が、≪少女≫に『
唱えるように頼むと、≪少女≫は≪神様≫の
方に向かって手を合わせ、願いを込めて、
『
そして、ていねいに一礼したのです。
するとその瞬間。
バ~ンッ!!!
物凄い音がして、≪神様≫がかついで
いらした、大きな、大きな袋が開いたかと
思うと、たくさんの【福徳】がその袋から
飛び出してきたのです。
一番最初に出てきたもの。
それは≪少女≫が一番望んでいたもの。
《病気治癒》《健康長寿》でした。
次から次へと飛び出す【福徳】。
《無病息災》《学業成就》
《金運・財運上昇》
《出世成功》《昇進昇格》
《商売繁盛》《家内安全》
《一発逆転》《良縁成就》 などなど。
まだまだ数えきれないほどの【福徳】が
飛び出し、大きな、大きな
なると、≪神様≫はその光の中にご自身で
何百年もかけて作り上げた【恩恵】をそっと
添えて≪少女≫の魂に宿していったのです。
もう何代も何代も前のご先祖様。
天寿を
それは、それは厳しい修行を
ついに≪神様≫へと昇格されたご先祖様。
天界で人々を
地上に降りて、もっと人々のすぐそばで
人々を見護り、その願いを叶えたい。
その一心で、流れ着いた神社に
ましたが、そのお心の奥には、愛する子孫を
幸せに導きたいという強き想いがずっと
秘められていたのです。
ゆえにその強き想いで≪神様≫はまた
さらに長い年月をかけて、たくさんの
【福徳】をお集めになりました。
きっといつの日か、ご自身の集めた
【福徳】とご自身が作り上げた力である
【恩恵】の数々を残さず渡せる子孫が現れる
のを願いながら。
≪少女≫を見つめるその優しいお顔は、
もはや≪神様≫としてのお顔ではなく、
間違いなくご先祖様としてのお顔。
≪少女≫の幸せを願うその想いが
確かに≪神様≫の表情にはっきりと
表れていました。
ご自身と血のつながった子孫というご縁も
もちろんおありだとは思います。
けれど、ずっとずっと子孫である
その≪少女≫の幸せをただひたすら願って
くださっていた慈愛に満ちたご先祖様。
≪神々≫が人々の幸せを願うように、
親が子の幸せを願うように、
先祖が子孫の幸せを願う
その愛はとても
すべての【福徳】や【恩恵】が
≪少女≫に注がれたのを見届けると、
≪神様≫はまたニッコリと
あっという間に空へと飛び立たれて
行きました。
やっとご自身の長年にわたる切なる想いを
果たせて安心され、ご自身の神社へと
おもどりになったのでしょう。
子孫の幸せを何よりも願うご先祖様。
とは言え。。。
今は神社をお
あらせられる以上、これからは、なお一層
そのお務めを果たすべく尽力してくださる
ことでしょう。
涙をぬぐっている≪少女≫に向かって
導光は優しく言葉をかけました。
「たった今、ご先祖様はお帰りに
なりましたよ。
ずっと、ずっとあなたのことを
見つめながら。
とても嬉しそうなお顔をされていました。
これからあなたにはたくさんの幸せが
待っています。
いいえ、待つ必要もないでしょう。
こうしている間にも、その幸せが、
物凄いスピードであなたに向かってやって
来ているのが私にはわかります。
それは、どれだけ苦しい状況にあっても
≪希望の光≫を持ち続けたあなただからこそ
起こすことができた奇跡。
ご先祖様もおっしゃっていたとおり、
あなたの笑顔はほんとうに素敵だ。
その笑顔を前にすると
なぜだかみなが幸せな気持ちになる。
あなたのその笑顔から
勇気と安らぎをもらった人々は
きっとたくさんいるでしょう。
その笑顔こそが
あなたにとって一番の≪宝≫であり、
誰も手にすることができないもの。
私は、誰もが持っているその人自身の
≪宝≫にそれぞれが誇りを持ち、
自信を持って生きていってほしい。
そう思っています。
いつまでもその笑顔を絶やさず、
ご自身を信じて生きていってくださいね。
あなたのように
周囲の人々を優しく包み込むことが
できる人はなかなかいない。
これからは、ご自身の幸せと
あなたの幸せを願う人々の幸せも
祈りながら生きてくださいね。」
物腰柔らかに穏やかな口調で
励ましてくれた導光に、その≪少女≫は、
「ありがとうございます。 導光さん。
ご先祖様に何とお礼を言っていいか。
私、絶対に幸せになります。
そして、今まで私を励ましてくれた
人たちに恩返しがしたい。。。
そう思っています。」
≪少女≫のその力強い決意表明のような
言葉に導光のアドバイスは、
「まずはあなた自身が幸せになること。
それが一番の恩返しになりますよ。」
導光のその言葉に
≪少女≫はしっかりとうなずきました。
ご先祖様の愛しい子孫を想うその
お気持ち。
その愛の深さをひしひしと感じながら
ところで。。。
いったい導光はどうやって
ここまで≪神様≫を見失うことなく
たどり着いたのか。。。
それはこの物語の中では
あえて語らないことにいたしましょう。
さてさて。。。
勘のいいみなさんなら、どうしてこの
≪神様≫が、何百年も待ち続け、数ある
子孫の中でもこの≪少女≫に【福徳】を
お授けになったのか、きっとお分かりに
なることでしょう。
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