五月の物語 リキ、ぼくの友だち
文字数 4,845文字
翔太君は小学校三年生。
お父さんの転勤で、
四月に東京から
富山県に引っ越してきたばかり。
家の周りは田んぼと畑だらけです。
もうすぐゴールデンウィーク。
学校から帰ってくる途中、
田んぼのあぜ道を歩いていると、
段ボールの中で
弱々しく泣いている
子犬を見つけました。
「かわいそうに。。。
きっと捨てられたんだ」
真っ白で、
耳がピンと立っている
立ち耳の子犬。
翔太君は、
急いで子犬を家に連れて帰り、
水を飲ませたり。
温めたミルクを飲ませたり。
でも弱っているのか、
少し口にするだけで
すぐにぐったりしてしまいます。
早く元気になって、
幸せになってほしい。
そんな願いを込めて、
翔太君はその犬を
『ハッピー』と名付けました。
車で二時間かかる
動物病院にも連れていきました。
五日間、精一杯
ほとんど寝ずの看病 をしましたが、
その甲斐 もなく、
『ハッピー』は
とうとう息を引き取ってしまいました。
一ヶ月前、
北海道に住む
おじいちゃんの家で
飼っていた
犬の『リキ』が
亡くなったばかりなのに。。。
今度は『ハッピー』まで
失ってしまい、
翔太君はあまりのショックで
ずっと落ち込んでいたのです。
翔太君は、
真っ白いシベリアンハスキーの
『リキ』が大好きでした。
そんな『リキ』も翔太君が大好き。
翔太君が、
おじいちゃん家に遊びに行くと、
『リキ』は大はしゃぎで
翔太君のそばから
ずっと離れませんでした。
ボール遊びが大の得意で、
『リキ』お気に入りの
黄色いテニスボールで
よく一緒に遊んだものです。
『ハッピー』が亡くなって
一週間ほど経 ったある日。
翔太君は、
お母さんに買い物を頼まれ
いつものように
田んぼのあぜ道を
通って行きました。
その時、こちらを見て
ワンワンと吠 えている
子犬と出会ったのです。
なんとそれは
死んでしまったはずの
『ハッピー』。
『ハッピー』は、
まるで後 をついてきてと
言っているかのように、
時々後ろを振り返り、
翔太君をある場所へと
誘 っていきます。
そして、
誰も住んでいない廃屋 の中に
入っていったのです。
「ハッピー。 ハッピー。
。。。。。
どこにいるの?」
『ハッピー』のあとを追いかけて
廃屋 の中に入っていくと、
『ハッピー』の姿は見当たらず、
そこには白い着物を着た人が
後ろ向きに立っていたのです。
「あのぅ。。。
ちょっとすみません。
白い犬が。。。
ここに
来ませんでしたか?」
翔太君がその人に尋 ねると、
その人はゆっくり振り返ります。
その姿を見て、
翔太君、一瞬 びっくりしました。
髪の毛は長く真っ白で、
耳が異様 に長く、
ピンと立っています。
目は少しつりあがっていて、
人の姿をしているようですが、
どう見ても人ではありません。
ところが翔太君は
なぜかその姿を見ても、
まったく怖 がることはなかったのです。
「翔太君。
わたしです。
ハッピーです。」
「やっぱりハッピーだったんだ。
。。。。。
病気を治してあげられなくてごめんね。」
「いいえ、
わたしのことを
最後まで
看病してくれて
ありがとう。
翔太君。
どうしても翔太君に
聞いてほしいことがあるんです。」
真剣な表情の『ハッピー』を見て、
翔太君は黙 ってうなずきました。
「実は。。。
わたしは、犬族 の神、
『犬月 』と申します。
わたしたち犬族 の神々は
ずっと昔から
この日本と
日本の人々を
守ってまいりました。」
『犬月 』の話によれば、
人間による犬に対する虐待 。
気まぐれに飼っては
犬を捨てる心無 い扱 い。
そして身勝手 に増やしては
殺処分 する残虐 な行為 。
それらに憤 りを感じている神々が、
人間に復讐 しようとしている
というのです。
中には今までのように
人間との共存 を
望む神々もいますが、
このままだと反乱 を抑 えることは
できない状況 だったそうです。
そこで『犬月 』を含む百体の犬族の神々が
なんとか彼らの怒りを鎮 めようと
説得 を試 みたところ。
彼らはある条件を出してきたのです。
人間との共存を望む
百体の犬族の神々それぞれが
一人の人間を選び、
その人間たちが
どれだけ犬たちに
≪愛情≫をもって
尽 くしてくれるのか。
そういう人間が
一人でもいれば、
反乱は起こさないと
約束してくれたのです。
ところが、
彼らのいう≪愛情≫とは
単に自分の飼っている犬だけに
注 げばいいというものではなく、
≪犬も大切な命ある生き物である≫
それを世の人々に知らしめ、
全ての犬のために
尽力 してくれる
人間を選ぶことでした。
百体の神々は真剣に人間を選び、
自らが捨てられた犬に扮 して
その人間たちを試していったのですが。
全ての犬のために
尽 くしてくれる人間を
見つけることはできませんでした。
九十九体の犬族の神々の選択 は
失敗 に終わり、
残りは『犬月 』のみ。
百体目の犬族の神である『犬月 』は、
みなの期待を背負い、
日本中を探し回りました。
そして、犬が本当に大好きで、
全ての犬に純粋に愛情を注いでくれる、
ひとりの男の子を見つけ出したのです。
それが翔太君でした。
「あなたは百体の犬族の神々にとって
最後の砦 だったのです。
本日、ここにお招 きしたのは
ほかでもありません。
わたしたち犬族の神々の中でも
最高位の神であられる
『火之狗神 』様が、
あなたにお会いし、
ぜひともお礼をしたいと
おっしゃっているのです。」
『犬月 』がそう言った瞬間、
どこからともなく
声が聞こえてきました。
「汝 の名は翔太といったな。
我は日本国を数千年の時を超えて
守護 する最古 の神、
『火之狗神 』と申す。
汝 のこのたびの行い、しかと見届けた。
礼を申すぞ。
勝手ながら汝の魂 、
そして未来を読み取らせてもらった。
正義を見抜 く鋭 い目。
まっすぐな心。
そして我が子孫 に注ぐ愛情は
真 なるものであること、
よくわかった。」
偉大 なる神の声です。
深く、低く、
そして重々 しい威厳 のある
その声の主 は、
紛 れもなく『火之狗神 』でした。
「我は、
桜舞い散り、杜若 綻 ぶ
まさに今ならば、
汝の前に姿を現 し、
褒美 を授 けることができる。
汝のほしいものは何だ。
どんなものでもひとつだけ授けよう。
申してみよ。」
翔太君。
しばらく黙っていましたが、
なぜかこの神には、
素直に本当のことが
言えるような気がして。
思い切って
ずっと前から
思っていたことを口にします。
「。。。ぼっ、ぼくが一番ほしいのは。。。
とっ、友だちです。」
「ほ~っ。 友だち、とな?」
翔太君の答えを疑 い、
あざ笑うかのような
『火之狗神 』のお言葉。
そして、
翔太君の、
「友だちがほしい」という答えが
本当に心からの願いなのか、
『火之狗神 』は
試すように聞き返されます。
「長い間、人間を見てきたが、
どうやら人間というものは、
ことのほか金 というものに
目がないように視 えるがな。
それさえあれば満足し、
それさえあれば幸福だと
思い込んでいる。
汝はその金 というものは
欲しくはないのか。」
『火之狗神 』のお言葉に
翔太君は真 っ向 から反論 します。
「ボクは、ボクは。。。
お金なんかいらない。
だって本当の友だちは
お金なんかじゃ買えないから。
たくさんじゃなくてもいいんだ。
ひとりでもいいから、
何でも言い合えて、
助け合えて。。。
ボクは、ボクは、
ずっと仲良くしていける
友だちがほしい。」
翔太君。
そうきっぱりと答えました。
すると突然。
まるで大きな地震が
起こったかのように
地面が揺 れたかと思うと、
辺 り一面が霧 でおおわれ、
すぐそばにいた『犬月 』の姿も
消えてしまっていました。
徐々 に辺りの霧が消えていき、
ふたたび周りがようやく見え始めた時。
翔太君の目の前には
言葉に表すことが
できないほどの
強大な神が
いらっしゃいました。
なんと大きなことか。
その存在たるや。
思わずひれ伏 してしまうほどの
圧倒的 な威厳 あるお姿。
そしてその全身を包んでいる
高尚 なる光。
まるで二階建ての一軒家 ほどの
大きさの神が、
翔太君を見下ろしていたのです。
その姿を見た翔太君は、
『リキ』。。。
そうつぶやいていました。
そうです。
『火之狗神 』は、
翔太君と仲の良かった『リキ』と
そっくりだったのです。
「汝の願い、よくわかった。
汝には【信頼 を勝ち取る力】を授けよう。
誰からも裏切 られることなく、
周囲の信頼を得られる力。
真 の友情と信頼で
結ばれた友に恵まれ、
望む未来を切り開いていける、
≪切り札となる力≫だ。
誰にでも授けられるものではない。
たとえその力を授かったとて、
もし心無 い者であれば、
それは逆に自らに刃 を
向けさせることとなる。
だが汝であれば、
その力がきっと
後押 しをしてくれよう。
汝はまもなく
同じ年ごろの人間と
出会うことになる。
その人間は、
『リキ』という名の犬を飼っている。
その者とは
いずれ固い絆で結ばれた
生涯 の友となろう。
≪汝たち人間のかたわらには
常に我が子孫たちがいる≫
そのことを、
どうか、どうか忘れないでほしい。」
そうお言葉を発した
『火之狗神 』の目には、
すでに止めどない涙があふれていました。
『火之狗神 』を
黙って見つめていた翔太君。
泣くのをずっとこらえていた翔太君。
泣いたらダメ。
そしたら涙で
『火之狗神 』の姿が
見えなくなる。
会いたかった『リキ』。
会いたくてももう会えない『リキ』。
『火之狗神 』に
大好きだった『リキ』の姿を
重ねていた翔太君は
その『火之狗神 』のお言葉に
大きくうなずくのがやっとでした。
すると、
『火之狗神 』は、
自らの首にかかっていた勾玉 を
翔太君にお渡しになったのです。
翔太君が勾玉を受け取ると、
そのうるんだ瞳 で
翔太君の顔を
しばらくじっと
見つめていらっしゃいました。
もはやお言葉などなくとも
『火之狗神 』の
その慈愛 の眼差 しが
すべてを物語っていたのです。
翔太君は何かを悟 ったようでした。
そして。。。
『火之狗神 』は
優しく微笑 まれ、
そのまま霧の中に消えていかれました。
その時です。
『火之狗神 』から
いただいた勾玉が
翔太君の手の中で、
黄色いテニスボールに
変わっていったのです。
それは、
『リキ』が大好きだった
黄色いテニスボール。
翔太君には、わかっていたのです。
『火之狗神 』こそが、
あの『リキ』だったということが。
犬にこの上ない愛情を
注いでくれる人間は必ずいる。
それは『火之狗神 』自身が
一番ご存じだったのです。
頼みの綱 の『犬月 』が、
翔太君を選んだ時、
『火之狗神 』は
どんなに安堵 されたことでしょう。
ゴールデンウィークも終わり、
学校に行くと、
翔太君のクラスには
転校生がやってきました。
名前は隼人 君。
自己紹介で隼人君は
『リキ』という名の犬を
飼っていると言いました。
たまたま空いていた
翔太君の隣の席に座ることになり、
その後二人は
無二 の親友となります。
大人になり、
二人で立ち上げた会社は、
今では社会に貢献 するほどの
すばらしい会社になりました。
翔太君はもちろん
犬のことを忘れてはいません。
獣医 の資格を取り、
積極的に犬や動物たちを救っていきます。
おそらく
この翔太君の未来の姿を、
あの時、
『火之狗神 』は
すでに見抜かれていたのでしょう。
『火之狗神 』の、
≪犬は常に人間のかたわらに存在する≫
というお言葉。
そのお言葉の中には、
時には盲導犬 として、
時には聴導犬 として、
そして、
時にはセラピー犬として。
私たち人間のためにひたすら尽くし、
その一生を捧 げてくれている犬に対して、
ただ愛情を注いであげてほしい。
人間と同じ命ある犬を
もっと大切にしてほしい。
そのような想いを抱 かれ
翔太君にその想いを託された
のではないでしょうか?
私たち人間にとって
尊 き癒 しの力を持つ犬。
太古 の昔より、
犬をはじめ様々な生き物が
私たち人間と共存してきました。
私たち人間はそのことを忘れ、
いつの間にか
≪人間中心主義≫に
なってしまっているのかもしれませんね。
終
お父さんの転勤で、
四月に東京から
富山県に引っ越してきたばかり。
家の周りは田んぼと畑だらけです。
もうすぐゴールデンウィーク。
学校から帰ってくる途中、
田んぼのあぜ道を歩いていると、
段ボールの中で
弱々しく泣いている
子犬を見つけました。
「かわいそうに。。。
きっと捨てられたんだ」
真っ白で、
耳がピンと立っている
立ち耳の子犬。
翔太君は、
急いで子犬を家に連れて帰り、
水を飲ませたり。
温めたミルクを飲ませたり。
でも弱っているのか、
少し口にするだけで
すぐにぐったりしてしまいます。
早く元気になって、
幸せになってほしい。
そんな願いを込めて、
翔太君はその犬を
『ハッピー』と名付けました。
車で二時間かかる
動物病院にも連れていきました。
五日間、
ほとんど寝ずの
その
『ハッピー』は
とうとう息を引き取ってしまいました。
一ヶ月前、
北海道に住む
おじいちゃんの家で
飼っていた
犬の『リキ』が
亡くなったばかりなのに。。。
今度は『ハッピー』まで
失ってしまい、
翔太君はあまりのショックで
ずっと落ち込んでいたのです。
翔太君は、
真っ白いシベリアンハスキーの
『リキ』が大好きでした。
そんな『リキ』も翔太君が大好き。
翔太君が、
おじいちゃん家に遊びに行くと、
『リキ』は大はしゃぎで
翔太君のそばから
ずっと離れませんでした。
ボール遊びが大の得意で、
『リキ』お気に入りの
黄色いテニスボールで
よく一緒に遊んだものです。
『ハッピー』が亡くなって
一週間ほど
翔太君は、
お母さんに買い物を頼まれ
いつものように
田んぼのあぜ道を
通って行きました。
その時、こちらを見て
ワンワンと
子犬と出会ったのです。
なんとそれは
死んでしまったはずの
『ハッピー』。
『ハッピー』は、
まるで
言っているかのように、
時々後ろを振り返り、
翔太君をある場所へと
そして、
誰も住んでいない
入っていったのです。
「ハッピー。 ハッピー。
。。。。。
どこにいるの?」
『ハッピー』のあとを追いかけて
『ハッピー』の姿は見当たらず、
そこには白い着物を着た人が
後ろ向きに立っていたのです。
「あのぅ。。。
ちょっとすみません。
白い犬が。。。
ここに
来ませんでしたか?」
翔太君がその人に
その人はゆっくり振り返ります。
その姿を見て、
翔太君、
髪の毛は長く真っ白で、
耳が
ピンと立っています。
目は少しつりあがっていて、
人の姿をしているようですが、
どう見ても人ではありません。
ところが翔太君は
なぜかその姿を見ても、
まったく
「翔太君。
わたしです。
ハッピーです。」
「やっぱりハッピーだったんだ。
。。。。。
病気を治してあげられなくてごめんね。」
「いいえ、
わたしのことを
最後まで
看病してくれて
ありがとう。
翔太君。
どうしても翔太君に
聞いてほしいことがあるんです。」
真剣な表情の『ハッピー』を見て、
翔太君は
「実は。。。
わたしは、
『
わたしたち
ずっと昔から
この日本と
日本の人々を
守ってまいりました。」
『
人間による犬に対する
気まぐれに飼っては
犬を捨てる
そして
それらに
人間に
というのです。
中には今までのように
人間との
望む神々もいますが、
このままだと
できない
そこで『
なんとか彼らの怒りを
彼らはある条件を出してきたのです。
人間との共存を望む
百体の犬族の神々それぞれが
一人の人間を選び、
その人間たちが
どれだけ犬たちに
≪愛情≫をもって
そういう人間が
一人でもいれば、
反乱は起こさないと
約束してくれたのです。
ところが、
彼らのいう≪愛情≫とは
単に自分の飼っている犬だけに
≪犬も大切な命ある生き物である≫
それを世の人々に知らしめ、
全ての犬のために
人間を選ぶことでした。
百体の神々は真剣に人間を選び、
自らが捨てられた犬に
その人間たちを試していったのですが。
全ての犬のために
見つけることはできませんでした。
九十九体の犬族の神々の
残りは『
百体目の犬族の神である『
みなの期待を背負い、
日本中を探し回りました。
そして、犬が本当に大好きで、
全ての犬に純粋に愛情を注いでくれる、
ひとりの男の子を見つけ出したのです。
それが翔太君でした。
「あなたは百体の犬族の神々にとって
最後の
本日、ここにお
ほかでもありません。
わたしたち犬族の神々の中でも
最高位の神であられる
『
あなたにお会いし、
ぜひともお礼をしたいと
おっしゃっているのです。」
『
どこからともなく
声が聞こえてきました。
「
我は日本国を数千年の時を超えて
『
礼を申すぞ。
勝手ながら汝の
そして未来を読み取らせてもらった。
正義を
まっすぐな心。
そして我が
よくわかった。」
深く、低く、
そして
その声の
「我は、
桜舞い散り、
まさに今ならば、
汝の前に姿を
汝のほしいものは何だ。
どんなものでもひとつだけ授けよう。
申してみよ。」
翔太君。
しばらく黙っていましたが、
なぜかこの神には、
素直に本当のことが
言えるような気がして。
思い切って
ずっと前から
思っていたことを口にします。
「。。。ぼっ、ぼくが一番ほしいのは。。。
とっ、友だちです。」
「ほ~っ。 友だち、とな?」
翔太君の答えを
あざ笑うかのような
『
そして、
翔太君の、
「友だちがほしい」という答えが
本当に心からの願いなのか、
『
試すように聞き返されます。
「長い間、人間を見てきたが、
どうやら人間というものは、
ことのほか
目がないように
それさえあれば満足し、
それさえあれば幸福だと
思い込んでいる。
汝はその
欲しくはないのか。」
『
翔太君は
「ボクは、ボクは。。。
お金なんかいらない。
だって本当の友だちは
お金なんかじゃ買えないから。
たくさんじゃなくてもいいんだ。
ひとりでもいいから、
何でも言い合えて、
助け合えて。。。
ボクは、ボクは、
ずっと仲良くしていける
友だちがほしい。」
翔太君。
そうきっぱりと答えました。
すると突然。
まるで大きな地震が
起こったかのように
地面が
すぐそばにいた『
消えてしまっていました。
ふたたび周りがようやく見え始めた時。
翔太君の目の前には
言葉に表すことが
できないほどの
強大な神が
いらっしゃいました。
なんと大きなことか。
その存在たるや。
思わずひれ
そしてその全身を包んでいる
まるで二階建ての
大きさの神が、
翔太君を見下ろしていたのです。
その姿を見た翔太君は、
『リキ』。。。
そうつぶやいていました。
そうです。
『
翔太君と仲の良かった『リキ』と
そっくりだったのです。
「汝の願い、よくわかった。
汝には【
誰からも
周囲の信頼を得られる力。
結ばれた友に恵まれ、
望む未来を切り開いていける、
≪切り札となる力≫だ。
誰にでも授けられるものではない。
たとえその力を授かったとて、
もし
それは逆に自らに
向けさせることとなる。
だが汝であれば、
その力がきっと
汝はまもなく
同じ年ごろの人間と
出会うことになる。
その人間は、
『リキ』という名の犬を飼っている。
その者とは
いずれ固い絆で結ばれた
≪汝たち人間のかたわらには
常に我が子孫たちがいる≫
そのことを、
どうか、どうか忘れないでほしい。」
そうお言葉を発した
『
すでに止めどない涙があふれていました。
『
黙って見つめていた翔太君。
泣くのをずっとこらえていた翔太君。
泣いたらダメ。
そしたら涙で
『
見えなくなる。
会いたかった『リキ』。
会いたくてももう会えない『リキ』。
『
大好きだった『リキ』の姿を
重ねていた翔太君は
その『
大きくうなずくのがやっとでした。
すると、
『
自らの首にかかっていた
翔太君にお渡しになったのです。
翔太君が勾玉を受け取ると、
そのうるんだ
翔太君の顔を
しばらくじっと
見つめていらっしゃいました。
もはやお言葉などなくとも
『
その
すべてを物語っていたのです。
翔太君は何かを
そして。。。
『
優しく
そのまま霧の中に消えていかれました。
その時です。
『
いただいた勾玉が
翔太君の手の中で、
黄色いテニスボールに
変わっていったのです。
それは、
『リキ』が大好きだった
黄色いテニスボール。
翔太君には、わかっていたのです。
『
あの『リキ』だったということが。
犬にこの上ない愛情を
注いでくれる人間は必ずいる。
それは『
一番ご存じだったのです。
頼みの
翔太君を選んだ時、
『
どんなに
ゴールデンウィークも終わり、
学校に行くと、
翔太君のクラスには
転校生がやってきました。
名前は
自己紹介で隼人君は
『リキ』という名の犬を
飼っていると言いました。
たまたま空いていた
翔太君の隣の席に座ることになり、
その後二人は
大人になり、
二人で立ち上げた会社は、
今では社会に
すばらしい会社になりました。
翔太君はもちろん
犬のことを忘れてはいません。
積極的に犬や動物たちを救っていきます。
おそらく
この翔太君の未来の姿を、
あの時、
『
すでに見抜かれていたのでしょう。
『
≪犬は常に人間のかたわらに存在する≫
というお言葉。
そのお言葉の中には、
時には
時には
そして、
時にはセラピー犬として。
私たち人間のためにひたすら尽くし、
その一生を
ただ愛情を注いであげてほしい。
人間と同じ命ある犬を
もっと大切にしてほしい。
そのような想いを
翔太君にその想いを託された
のではないでしょうか?
私たち人間にとって
犬をはじめ様々な生き物が
私たち人間と共存してきました。
私たち人間はそのことを忘れ、
いつの間にか
≪人間中心主義≫に
なってしまっているのかもしれませんね。
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