第31話

文字数 967文字

 うーん……と。

 六道輪廻の六道とは、魂は不滅だから、生前の善悪で地獄界。餓鬼界。畜生界。修羅界。人間界。天上界と、これらの世界へと輪廻することだったはず。

 あ、でも。

 解脱って……確か……。

 極楽浄土へ行くことだったはず。
 
 地獄から解脱して、極楽浄土へ?

 そんなことって?

 ……。
 
 うん……。とりあえずは、妹の罪を全部知ってからにしてみようか。

「音星。これから閻魔丁へ行こうよ」
「はい。浄玻璃の鏡ですね」
「ああ……。でも、少し違うかもな……」
「はい?」

「?」
「ニャ―?」

 俺は妹の弥生の顔をまじまじと見つめた。
 すると、弥生が首を傾げた。
 
 多分な……。

 きっと……。

「クーラーバッグの中の冷たい飲み物とかは、まだ持つだろうし。だけど、下の階層。大叫喚地獄の入り口まで行ったら、また補給に一旦。八天街へ戻ろうか?」
「ええ……。でも……火端さん。その前に大叫喚地獄の入り口を見つけたら、一旦八天街の民宿で休みましょうよ。とても残念ですけど。もう、現世は夜遅いのですし、火端さんの頭の火傷がとても気になりますし……」
「……そういえば、もう八天街は夜になるんだな……」
「ええ。火端さんのリュックサックも心配ですし……」

 急に、叫喚地獄全体の悲鳴が一段と激しくなった。

 上空を見ると、灰色の空からまた大量の煮え湯が降り注いできそうだった。何故なら、巨大な青色の腕が手酌を振り上げていたからだ。

 ああ、こうやって。

 煮え湯が巻かれていたんだな。

「う、うわ!!」
 
「火端さん!! 弥生さん!! 早くあっちの火のついていない釜土へ!!」

「兄貴!! 走るぞ!! また頭焦がしたいか!!」

「ニャ―!!」

 真っ赤な地面に手酌からの水滴が落ちてきた。水滴が落ちたところから、真っ赤な地面は大量の煙を発した。巨大な腕の手酌が目一杯振り上げられたのだ。その次は、当然。空の腕が勢いよく手酌を振り下ろしてしまった。爆発音に近い風の音共に、手酌から大量の煮え湯が地面へと注がれる。

 俺は頭を両腕で守って、みんなのしんがりを大急ぎで走った。

 見る見るうちに先頭を走る弥生に追いつけなくなった。

 音星も呼吸を乱しながら、俺の前を走っているけど、速すぎて見失いそうになる。地面には火のついた釜土が所狭しとあった。

 火のついた釜土からも間欠泉のように湯気が立ち昇る。
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