第20話

文字数 1,222文字

 衆合地獄とは、窃盗、殺人、姦淫の三つを犯したものが落ちる地獄で、牛頭(ごず)馬頭(めず)に追われ続け、石や鉄山などで圧死させられる場所だった。 

   
 ピタン、ピタン、ピタン……。

 水滴の音以外には、後ろを歩く音星と俺の足音しかしない。とても静かな場所だった。人魂と提灯の光源だけを頼りに、俺たちは真っ暗な洞窟の中をただひたすらに歩いた。衆合地獄の入り口? 一体どこにあるんだろう? どうやら、この洞窟の道は斜め下へと降りていくようだ。延々とした真っ暗な傾斜を歩いて行くと、人魂の数が増えてきた。傾斜が激しくなった。自然に、音星と俺の歩く速度も速くなる。

 下へ。

 更に下へ。

 ふと、その時。背後に嫌な感じがした。

 俺の後ろを歩く音星もそう感じたようで、音星も暗い洞窟の元来たところを見つめていた。人魂は俺たちに寄ってきているようで、そのために、すでに歩いたところは、真っ暗だった。

 ぞわりぞわり、ぞわり、ぞわり。不快でとても嫌な感じが増してきて、それと同時に、元来たところから得体の知れない何かが迫って来た。

「音星! 逃げるぞ!」
「ええ!」

 俺と音星はあまりの不快さから、早歩きから、ダッシュになった。暗闇の洞窟内に俺と音星の走る足音が反響している。それでも、得体の知れないものの不快感が、胸一杯に膨らんできていた。
 
 前方に、薄暗い井戸があった。
 どうやら、ここが第三層の入り口らしかった。
 井戸の底から恐ろしい大音量の擦り切れる音や押し潰す音などがしている。

 衆合地獄への入り口! やっと、見つけた!

「ふうっ……走り回ったりで、だいぶ疲れましたよね。ここから第三層へ行けるみたいですので、ここで一旦、八天街へ戻りましょう」
「ああ……あの魑魅魍魎まで八天街へ来りしないかな?」
「大丈夫ですよ。この鏡に写らなければ」
「お、おう」  

 ぞわぞわとする洞窟の暗闇の中から音星の手鏡を見つめていると、しばらくして、昼時のカンカン照りのロータリーに俺たちは立っていた。車のクラクションの音と共に街の喧騒が押し寄せてくる。

「うん? 腹減ってきたな……昼飯、昼飯っと……」
「え? あんなに食べたのに? 火端さん。それだと、ちょっと、食べ過ぎのような気がします……」

 俺はそこで、すぐ近くに大通りから裏通りにある民宿へ向かう途中でコンビニを見つけた。黒縄地獄が暑すぎたので、アイスもいいかなと思った。

「それじゃあ、あそこのコンビニでアイスでも買おうかな?」
「ええ、それはいいですね。私も暑さには滅入っていました」

 行き交う人々もどこか忙しない朝の6時頃。大通りを少し歩くと、コンビニへと入る。自動ドア付近にあるアイスボックスからペパーミントを取り出した。音星はストロベリーだ。この時間なので、店内は通勤途中のサラリーマンが多かった。

 レジを済ませた後で、音星と相談して民宿で少し休憩することになった。
 休憩が終わったら、今日のうちに衆合地獄まで行こうということになった。
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