第28話

文字数 1,001文字

「この下の大叫喚地獄はもっと酷いんだろうな……」
「……そうですね……」
「俺、なんだか罪人が可愛そうな気がする。仕方ないけど、……妹はこんなところにまで来たんだな……って……」
「……妹さん。見つかるといいですね」

 そこで、俺は立って動く半透明な人型の魂を見つけた。

「あ!」
「ニャ―!!」

 それは俺の妹だった。

 弥生?



「あ! 兄貴?!」
「弥生?!」

 火のついていない釜土から、10メートルほど西の方に妹が半透明だが生前の姿で立っている。だが、俺が何か言おうとしたら、妹は更に西の方へ逃げだしてしまった。

「あ、弥生さん? 火端さん! あれ!」
「え?!」

 見ると、ここから西の方。妹が逃げた方に、湯気で見えにくかったけど、確かに火のついた釜土に挟まるようにポツンと古井戸がある。

 古井戸は後回しで、なんとしても急いで妹を追わないと……。

 俺は走った。
 足は妹よりも速い方だ。
 グングンと妹を追い掛ける。

「ま! 待ってくれ弥生!! お兄ちゃん心配してるんだぞ!!」

 火のついた釜土を避け、高温の湯気を払い。俺は妹を追った。
 前方を必死に逃げる妹は、何か叫んでいる。
 俺には、それが……。

「なんで? どうして? こんなところに兄貴がいるんだよーーー!」

 っと、あの妹のことだからそう聞こえたけど、定かではなかった。
 周囲の悲鳴で、よく聞こえないんだ。

 俺は必死に走る。

 なんでか、ここで妹を逃すと永遠に探し当てられないと思ったからだ。息を荒くして、足に力を入れて、持てる気力全部を使って逃げていく妹を全速力で追い掛けた。

 火のついた釜土の間を数多く通り過ぎ、その釜土からの熱い湯気を避けながら、身体から顔から汗を噴出しながら、ひたすら真っ赤な地面を走っていく。

 足の裏や体全体が暑くて仕方がない!

 いや、熱くてしょうがない!

 俺は、それでも歯を食いしばり走る!

 けれど、妹は何故か俺よりも足が速かった。

「ゼエ、ゼエ、ゼエ……くそっ」

 俺はそれでも諦めない。
 火のついた釜土からの湯気や、辺り構わず鳴り響く悲鳴を一切気にせずに走り続けた。

 だが、無情にも……。 

 西へ西へと逃げていった半透明な妹の姿を完全に見失ってしまった……。

 でも、諦めるもんか!!

 俺はその場で死ぬほど大量の汗を流してから……倒れた。

 もう息が持たなかった。

 高熱と高温の湯気で、まるで俺の肺は炎の中を走ったかのようだった。

 息が苦しいぜ。 
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