第36話 閻魔庁と浄玻璃鏡? 

文字数 1,508文字

「や、弥生。その男は……誰なんだよ! ああ……わかったぞ! あいつだ!」

 その黒いサングラスの男には、俺は見覚えがあった。弥生が事故を起こした時に同じニュースにでていた男だった。なんでも、非合法グループのリーダーだったようだ。弥生を死に追いやった。冤罪を着せた張本人だ!

 俺は拳を握ると、その男に殴りかかって行った。

 だが、サングラスの男は、俺の拳をあっさり避けてしまった。
 代わりに男のフックが俺の腹を抉っていた。

「ぐほっ! いってーーー!!」

 俺は大叫喚地獄の真っ赤な地面で、転がり込んだ。

「フフフッ……わけわかんねえ。いきなり殴りかかって来やがっって!!」
 
 その次は、サングラスの男が俺の頬をサッカーボールを蹴るように、思いっ切り蹴り飛ばした。

「いってーーー!!」
「やめろ!」

 弥生が俺とサンクスの男の前に、立ちふさがった。
 
「フン! 弥生よ! お前には散々役に立ってもらったけどなあ。こいつは誰なんだ? ひょっとしてお前の彼氏か?」
「違うんだよ! 兄貴だよ!」

 その時、一人の獄卒がこの喧嘩に気がついて、金棒を振り回して襲ってきた。

「や、やべえなあ!」

 サングラスの男は、骸の山を登って素早く逃げ出した。

「いててててて」
「大丈夫か? 兄貴?」
「弥生! 早く逃げるんだ!!」
「ダメだ! 兄貴を置いてけない!」
「しょうがねえなー」

 俺は血反吐を唾と一緒に、吐き出して必死に立ち上がった。弥生を連れ、サングラスの男を追い掛けた。その後ろから獄卒も俺たちを追い掛けた。

 俺は骸の山の天辺で、サングラスの男に追いつくと、再び拳を握った。
 だが、真後ろまで獄卒が迫ってきていた。

「なんだ?! まだ俺とやるのか!! お兄ちゃんよ!!」
「ああ!! 一発お前を殴らないと、スッキリしないんだよ!!」

 固く握った拳を、サングラスの男の顔面目掛けて思いっ切り振り上げる。
 その時、骸の山の上で骨の腕を踏んだせいで、サングラスの男がバランスを大きく崩した。見事、俺の拳がサングラスの男の顔面を抉った。それから、獄卒が俺たちの間に割って入った。

 金棒を振り回す獄卒の動きが、俺にはスローモーションのように見えた。獄卒の金棒は、よく見ると元々血塗られていた。それがサングラスの男の上半身を容赦なく粉々に粉砕する。

 バキバキと大量に骨の折れる派手な音が辺りに鳴った。

「ぐっ!! ぐへええ!」

 サングラスの男の身体は、その場から血をまき散らして遥か彼方へ吹っ飛んだ。

「やったな! ざまあみろ! なあ、兄貴!」
「ああ! でも、早めにここから逃げた方がいいな……ほら、騒ぎに気がついた獄卒たちが集まってきている」
「……そうだな……あのな……兄貴……オレは広部 康介っていうとある組織のリーダーに長い間。脅迫されていたんだ」

 辺りから無数の裸足の足音がしてきた。
 獄卒が広部の方へと歩く音だった。

「その広部ってやつが、さっきの黒のサングラスの男だったんだな。それであんなことを?」
「あ、ああ。生きていた時で、最後に覚えていたことっていったら、都内の高級バーで強引に酒を勧められていたことと、それから憂さ晴らしに酔っぱらって車ころがして、それから……とある組織の幹部の車に突っ込んだことだけだ」     
「え? ……幹部?」
「そうだけど?」
「ひょっとして、弥生は普通の自動車との正面衝突をしたんじゃなくて、幹部を狙って事故を起こしたのか?」
「ああ……多分な……ワリい……オレ記憶があやふやで……」
「ああ、そうだよな」

 一人の大きな体躯の獄卒が近くを横切った。
 それから、立ち止まって、こちらをじっと見つめている。
 俺は何やら不穏な空気を察知した。
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