第61話

文字数 883文字

「なあ、シロの奴はここへ来たがっていただろ? あいつはここら辺の出身なんだってさ。なんかさあ、飼い主が東京の人だってさ」
「へえー、シロが? ひょっとしたら、あの黒猫はシロの親猫なのかな?」
「ああ、って。きっと違うんだよなあ。あの黒猫はなあ。俺の前に通っていた仕事場の前で、いつも鳴いているだけなんだよ」
「え? 古葉さんって、ひょっとしてここで働いていたの?」

 黒猫の真後ろには、大型ペットショップがある。

「シロの飼い主って……一体? 誰?」
「お、こっちだぞ」

 大型ペットショップの脇道を通ると、古いモルタル塗りのビルがあった。

 モルタル造りのビルは、廃墟同然の外観だった。至る所に蜘蛛の巣が張ってあって、ヒビができていた。

 だけど、ビルの中はかなり綺麗で、調度品なども高級品のように贅沢そうな作りだった。金色やエメラルドグリーン、スカイブルー、などなどの煌びやかな内装が目立った。

「お、うっわー、金かけてるんだなあ」
「うっわー、古葉さん。この金色のピカピカの女神像って、幾らくらいするのかな?」
「わかんねえ。けどなあ、きっとロクな金で買ったんじゃねえぞ。ダメだぞ。触るな。触るな」
「お、おう」

 俺はこんなところに金が入って来ること自体が、とても許せなかった。金の出所はさっぱりなんだけど、たぶん、よくないのはわかっているんだ。
 
 くっそ。弥生は、こんなところで一体何をやらされていたんだ。

 お兄ちゃん。

 とても心配してきたぞ!
 
 あの優しかった妹が……。

「お! ここじゃないか? おい! 火端! これ金庫だよ! それに、この金庫のダイヤルって、なんか怪しくね?」
「??」

 俺はこのビルの一階奥に、立て掛けてある龍の銅像の下に、古葉さんが発見した大型金庫を見た。古葉さんのところまでいくと、金の腕時計をズボンのポケットから取り出してみた。

 あれれれれ?
 よく見たら、この腕時計は止まったままだぞ。

 あー、閃いた!

 金の腕時計は三時三十分十二秒で止まってるんだ。

 だから、この場合は……。
 よーっし。

 俺は古葉さんを脇へどいてもらうと、33012のダイヤルを回した……。
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