第53話

文字数 481文字

「アッチーーー!! アチチチチッチ!!」

 ここは、大焦熱地獄だ。

 五戒を破って、浄戒(悪いことをしない清浄なもの)の尼を犯した者が落ちるといわれている。

 巨大な炎が黒煙を上げて、大地で踊り狂っているのを目の当たりにして、俺は熱い冷や汗を掻いた。汗は滴となって、地面に落ちる前に瞬時に蒸発した。

「こりゃ、凄いな……全然、前に進めないぞ……」

 まるで、炎を纏った竜巻が幾つも発生しているかのようだった。
 けれども、目を凝らしてみると、幾ばくかの隙間が発生している。 
 炎の中を、なんとか通れそうだった。

「よし!」

 俺は冷たい飲み物を、クーラーバッグから取出し、頭からかけた。
 そして、隙間目掛けて、全力ダッシュ。

 ……

 走る。走る。走る。

 後ろを振り向かずに、俺は炎の竜巻の隙間を走り通った。地面の浅い穴に張ってあった海水を踏むと、少しは身体の熱を下げられた。
 
「ゼエッ、ゼエッ!」

 無我夢中だった。
 辺りは燃え盛る火炎の音しか聞こえない。

 炎の無数の竜巻が途切れた。

 俺は、更に下層へ向かう洞穴を見つけた……。
 よし! あそこまで……なんとか無事に行ければ……。 
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