第51話

文字数 1,498文字

「良かった! シロ! ありがとな!」
「火端さん! どうしたのですか?」
「音星。シロを追うぞ! シロが安全で涼しいところを見つけてくれたんだ! このままじゃ、俺たちの命に関わる!」
「はい!」 

 俺は慎重に音星の腕を引き寄せてから、熱鉄のかまや、獄卒たちを避けて、走り出した。
 
 だけど、涼しい大地までかなりの距離がある。
 俺たちは、段々命懸けになってきた。
 空気が熱くて、走っていながら、息が大きく吸えなくなった。
 肺が焼けるようだ。

「ハッ、ハッ、ハッ、アッツーー!」
「フウ、フウ、火端さん……やはり焦熱地獄から下層は、人間では無理なのかも知れませんね」
「いや、なんとか……なるさ……きっと」
「ふふ……さすがです。火端さん。弥生さんが早くに見つかるといいですね」

 熱鉄のかまが、所狭しとある道へと差し掛かった。

 小さい体のシロは至って、困らない。
 だけど、俺たちには、これから狭い道を走って行かないといけない。そのことがひどく困難だった。

 熱鉄のかまに、あやまって少しでも触れてしまうと、大やけどになる。

 島全体の焼けるような高熱も、ほとんど耐えることができなくなってきたてしまった。

 そんな中。
 
 シロは、俺たちを置いて、一直線に走って行ってしまった。

「そんなあー、まあ、いっか……。音星。これから狭い道を走るから、気を付けて」
「ええ」
  
 急に地面の温度が上昇する。気温が更に上がって、真っ赤に焼けた熱鉄のかまが高熱を帯びだした。その間を、俺は音星の手を握り慎重に走る。周囲はごぼごぼと凄まじい白い煙。いや、大勢の半透明な人型の魂の目、鼻、口から湯気が立ちのぼっている。
 
 熱でやられて、クラクラしてきた。

 大量の汗の掻き過ぎで、足がフラフラする。
 音星も俺の手をギュッと、握りしめていて、無言だった。
 音星のひどく汗ばんでいる手が、こちらも辛くなるほどだぜ。

 でも、その時。
 その湯気の向こう側に、幻が見えた。

 俺には、それが他でもない。

 妹の弥生に見えた……。

「や、弥生……今、そこへ行くぞ……」


 ドンッと、空気が割れたような音が木霊する。
 遥か遠くの巨大な火柱が増えた。

 まだまだ熱くなっていく。

「……火端さん? シロが……」

 俺と同じく汗を掻き過ぎている音星が、か細い声を発した。
 音星が倒れ込みそうになりながら、白い花が咲いている大地の方を指差している。そっちを向くと、シロが木でできた水差しを咥えてこちらに走ってきていた。

「ニャー」
「シ……ロ……?」

 シロはその水差しを俺たちの前に置いて、ちょこんと座り込んだ。
 あれ? 水分補給ならクーラーバッグに冷たい飲み物があるから、もう間に合ってるが?

 辺りはその間も、凄い熱だ。
 ジュウジュウと、至る所から蒸発する音がしている。

「火端……さん? きっと、シロは応援して……くれてるんですよ……」

 息も絶え絶えの音星が、額の汗を布袋から取出したピンクのハンカチで拭いながら、シロの気持ちを察してくれた。

「あは……はは……ありがと……な! シロ! ……ハアッ……フウ……」

 だけど、俺はその場で熱さでバッタリと崩れ落ちた。

 俺は完全に気を失った。

…………

「兄貴?」

 どこかから、弥生の声がする。

 昔の懐かしさを残した声だ。

「や、弥生!!」

 俺は飛び起きた!

 そこは、白い花の咲く涼しい花畑だった。
 傍には音星とシロが倒れていた。

「こ……ここは?」
「おれ……いや……兄貴。ここで、お別れだ……」

 姿は見えないが、弥生の声がどこかからする。

「待て!! 弥生ーーーー!!」

 俺はありったけの声で、叫ぶが。
 そのまま弥生の声も聞こえなくなった……。 
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