第5話

文字数 1,925文字

「健太、これから話すことをよく聞いてくれ。質問はすべて話し終えてからにしてほしい。いいか?……」
 お父さんは深呼吸してから話し始めた。
「まず、健太がみたものは人間がもっている心の叫び、魂の影なんだ。その影をリボーンという。特殊な能力をもった人間にしか見えない現象だ。それは人型であったり動物に似たものであったり、いびつな形のものであったり様々なんだ。その特殊能力を持った人間は、人の命を救うという使命を必然的に背負うことになる。実はお父さんもその能力を持っている。今まで隠していてごめんな、健太。だが、このことは決して他人には言ってはいけないんだ。普通の人間にわかってしまうと能力は失われてしまうんだ。今は健太がその能力をもっているとわかったから、健太を信用して話をしているわけだ。ここまでいいか?」
「うん」
「そのリボーンは、そこに住む誰かが死を考えているということを表しているんだ。死を考えるほど何かを悩んでいる……ということだ。だから、その家の誰かに接触して、どんなかたちでもいい、悩みを解決してあげてリボーンを消してあげなければならない。それがこの能力をもった者の使命なんだよ」

 僕はお父さんがこんなに真剣に嘘のような話をしている状況をどこか他人事のように聞いていた。そして、お父さんはいったんお茶を一口飲み、話を続けた。

「お父さんは、中学生のときに、この能力について健太のおじいちゃんから聞いたんだ。お父さんには弟がいてな、その弟が悩んでいたのを知らずにいたんだが……ある日、月明かりの明るい日だったが、部活で遅くなった日に家の外でリボーンを見たんだ。人型をしていて、とても複雑な動きをしていて、見た時は幽霊かと思い、とてもびっくりしたことを昨日のことのように憶えているよ。お父さんは、玄関で出迎えてくれたおまえのおじいちゃんにすぐ、話をしたんだよ。そしたら、ちょっと奥にこい、と言われ、今、健太にしたようなことを打ち明けられた……というわけだ。これは、どうやら遺伝らしいが、どの子孫に受け継がれるのかはいまだに不明なんだ。
 お姉ちゃんの綾香には、その能力はないようだしな。十五歳までに体験しないと、その能力は受け継がれないらしい。お父さんの弟はな、クラスでいじめられていたことを打ち明けてくれたのさ。結果、弟の命を助けることができたんだよ。お父さんも月明かりの明るい日は、パトロールといったら大袈裟かもしれないが、仕事の帰り途中の様子とか我が家の周辺とかを気にするようにしているんだよ。健太のことは心配していたが、強い子だし、自殺は食い止められる……という自信があったから、ひきこもりもずっと見守っていたんだよ。さてと、質問はあるかい?」

 僕は質問だらけで、何をどう尋ねたら良いのか考えていた。僕は湯呑みを机に置いて
「僕に特殊能力があることは何となく理解した。それで、昨日、僕は確かに斉藤くんちで、そのリボーンを見た
……ということは、斉藤くんじゃないかもしれないけど、あの家の誰かが死にたいほど悩んでいるということなんだね」
「そうだな……おそらく、誰かが助けてくれと叫んでいる……ということだと思う」
「僕はどうしたらいいんだろう……」
「まずは学校へ行って斉藤くんにコンタクトをとらなければならないな」
「斉藤くんならライン友達だから連絡とってみるよ」
「おお、そうか。それは突破口になりそうだな。救えるといいな、おまえの力で……」
「お父さんも手を貸してくれよ。一人じゃ全然、自信ないよ」
「もちろんさ。このことは我が家では男だけの秘密だぞ。約束だ」
「うん、わかった。僕、ひきこもっている場合じゃないんだね。なんだか神様が人生をやり直すチャンスを僕に与えてくれたような気がするよ」
「そうだな……よし、健太、人生ここから失った時間を取り戻そう」
「うん」
「じゃあ、今夜は明日からの人生に向けて、ちゃんと休んでおけよ」
「うん、わかった。おやすみなさい、お父さん」
「ああ、おやすみ、健太」

 お父さんは静かに部屋を出て行った。それからは、ベッドに入ってもすぐには寝付けなかった。

 僕には使命がある。困っている人を助けなければ……

もし、もう少し早く特殊能力に気づいていたら……
 この能力を発揮できていたなら、カイトの命を救えたのではないか……

 僕はやっぱり自分を責めた。責めずにはいられなかった。

 これから先の未来は自分の力で変えていかないと……

 でも、起きてしまった過去は消すことはできない。この先もずっと、自分の能力を背負っていかなければならない重たさに耐えられるのだろうか……

 十二歳の僕はお父さんの告白を心に強く刻んだ。
 そして、深い眠りに落ちた。
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