第20話

文字数 1,752文字

 僕は聞いた話をやっぱりお父さんに相談した。
「きっとリボーンが動き回っているんだろうな。見に行かなくても想像できるよ。どうしたらいいかな」
「うーん、会社の倒産か。これはどうにもならんな。残念だが新しく住むところは探さねばならんだろうな。ただ、お母さんにはすべて本当のことを打ち明けるべきだろうな。お父さんとは別れていても、加藤くんのお母さんは、事実を知らないままだとしたら、何年か後に知ったときにすごく悲しむだろう。私が加藤くんの母親だとしたらとても悲しい。お母さんだって受験料くらいはどうにかできるだろう。学生生活は加藤くんほどの優秀な学生なら奨学金を利用できる。入学したら、それこそアルバイトをして自分で生活費を工面すればいい。やり方はいくらでもある。まずはお母さんに真実を打ち明けてみること。そこから状況はいい方向へ動くんじゃないのかな。少なくとも私ならそうアドバイスするかな」 
「わかった。お父さん、ありがとう。僕なりに考えて明日にでも加藤くんに連絡してみるよ」
「そうだな。早い方がいいな」
「結果どうなったかは、また、報告するよ。事例としてまとめることにする」
「そうだな。人生いろんな体験をして成長していくもんだな。そういえば人のことを気にしている場合じゃないんじゃないのか?受験、健太は大丈夫なのか?」
「あー、そこは痛いとこ、気づかれちゃったな。まぁ、自分のことに影響がでない範囲で動いている……ということで。おやすみなさい」
「そうか。そういうことにしておくか。おやすみ。後悔しないようにな」


 翌日、僕は放課後、加藤くんの家に行った。
部屋は段ボールが積まれていた。
「片付けてみると、どうしても必要なものってほとんどないよな。くだらない思い出グッズなんか詰め込んだりしてな」 
 そう言うと、口の開いた段ボールに詰め込んだアルバムを指して苦笑した。
「みんなもそんなもんだろう。まだ、十七年しか生きていないんだし。記憶があるのって小学生くらいからだろう、そりゃあ必要なものなんて、一箱でじゅうぶんだろう」
 僕は加藤くんの気持ちを思って笑って答えた。
「そのへん、座って。どっちかいい?」と加藤くんはコーラとお茶のペットボトルを差し出した。
「コーラもらう」
 加藤くんからのパスを受け取った。
「それで、早速、本題なんだけど……僕は事実をお母さんに話すべきだと思うんだ。昨日、加藤くんのお母さんの立場になって一晩考えてみたんだ。そしたら涙がとまらなかったんだ。お母さんは加藤くんのことを思い、必死で生活を立て直そうと毎日頑張っている。お互い、心配をかけたくないからと、僕からすると遠慮しているようにしかみえないんだよ。それじゃ、お互い不幸だよ」
「だとしても、今の俺はお母さんの負担にしかならないんたよ」
「じゃあ、こう考えたらどうだ?お母さんの生活を助けるつもりで一緒に住んでみたら?生活費はバイト代でいくらか足しにしてもらう。一緒に住むことで最初は確かに負担をかけてしまうかもしれない。だけど長い目でみれば結果は同じじゃないのか?一緒に暮らすのが少し早くなっただけだろう。お母さんは精神的に楽になるんじゃないのか?きっと喜んでくれると思うよ」
 加藤くんは一人うつむいたまま僕の話を静かに聞いてくれた。
 そしてこう言った。
「ありがとう。真剣に考えてくれたんだな。俺も迷いが晴れた。二日後、お母さんに会う約束をしているから思い切って話してみるよ。その結果、俺の人生がどうころんでも、その先は自分で決めた人生を歩いていくよ。後悔だけはしたくない。今できるベストだと思うことをするだけだよな」
「そうだよ。きっといい方向へいく。僕は応援するよ。この先もずっと……」
「ありがとう。今日はぐっすり眠れそうだ。明後日からは試験が続くんだろう?体調には気をつけろよ」

 それから僕は、予備校に行くからと加藤くん家を後にした。コンビニの前で一度振り返ったが、加藤くん家にリボーンは見えなかった。ホッと一息ついて僕は改札を通った。

あれから加藤くんから連絡はない。僕の試験の日程を知っているから、わざと連絡してこないのは明らかだった。でもそれはそれで気にかかる。僕は試験に集中するように努めた。
(一生を左右する大事な日だーー頑張るぞ)
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