第6話

文字数 1,070文字

 翌朝、目覚めるといつもと変わらない朝だった。シーンと静まり返った部屋はどことなく虚しさを感じた。弱気な自分に押しつぶされそうな気分だった。
 ダイニングにいつもより大きなおにぎりが二つ。よく見ると海苔でファイトとデコられていた。
(お父さんがにぎってくれたのか……)
 ポットのお茶とおにぎりを朝の気分といっしょに胃の中に流し込んだ。
(さてと、僕にできることは……あっ、そうだった。まずは、サトルにラインをしなくっちゃ?何かきっかけは……)
 そういえば、サトルに漫画を貸す約束をしていたんだっけ。三ヶ月もまえの話だけど、まだ憶えているだろうか……

[おはよう。心配かけてごめんな。ようやく学校へ行けそうなんだ。もしよかったら今日、うちに来ないか?漫画を貸す約束してたよな]
 時計は十一時。学校へ行っている時間だった。返事があるとすれば、午後四時過ぎだろうと思い、とりあえず漫画を本棚から取り出し準備をしておこうとまとめていた。全部で六巻、僕の大好きなサッカー漫画だ。続編についてサトルと語り合う姿を想像していると、ポンとスマートフォンが鳴った。
(こんな時間に誰だ?)
 スマートフォンを確認すると、なんとサトルからだった。
(えっ、授業中じゃないのか?)

[よっ、健太、久しぶり。大丈夫なのか?今日は学校を休んだんだよ。今から健太んちへ行っていいか?]
[そうなのか。OK、まってるよ]

 僕は久しぶりに会う、家族以外の人間に緊張した。鏡の前で自分の顔をチェックして変質者に見えないかじっくりと調べた。目、鼻、口、えっと顔の輪郭ーー
 いつもの僕にしか見えなかった。
(よし、大丈夫だ。いつもの僕で会えばいいんだ)

 ピンポーン。十五分ほど過ぎた頃、チャイムが鳴った。

「健太、俺、サトル」
「おう」
 僕は鍵を開けサトルを招き入れた。
「元気そうじゃないか。顔を見たら安心したよ」サトルは言った。
 僕は不安な気持ちを隠し、元気な自分を演じる努力をした。
「今日はなんで学校休んだの?」
「健太、俺、自分じゃどうしていいかわからないから相談にのってほしいんだけど……聞いてくれるかな」
「えーっ、重たいなぁ。僕はひきこもりなんだけど……力になれるのか?」
 半分、冗談のつもりで笑いながら言った。
「健太しかいないんだよ。こんなことを相談できるのは」
 サトルが真剣な眼差しで僕に話しかけてきたことに少し驚いた。
「よし、わかった。でも僕の手に負えなかったら大人に相談することになるかもしれないけどそれでもいいか?」
「うん。とりあえず聞いてくれよ」
「わかったよ……で、どうしたんだ?」

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