第12話

文字数 1,006文字

 僕は新しい出会いがあるたびに、自分が成長したことを嬉しく思ったが、その気持ちと裏腹にやはり恐怖心が芽生えてしまう。
(またあの時と同じようなことが起きてしまったら……大切な友人を助けられなかったらどうしよう)

 お父さんの言うように自分が強くならないとダメだ。いつかきっと自分自身に、もう大丈夫と言える日がくるまで、とにかく前向きに強く生きていかなければ。

 もうすぐ悪夢の受験がやってくる。僕はどれだけ多くの人の悩みを受け止められるかわからないが、日々の学校生活をおくるなかで、たくさんの先生たちに助けてもらった。その恩返しをしたくて教師を目指すことを決めた。
 ある時は時間を作ってくれて、親身になって僕たちの気持ちを理解しようとしてくれた。力及ばないときは、僕たちに頭を下げて謝ってもくれた。学校の先生は常に僕たちの前ではポジティブだった気がする。

 お父さんとの会話の中でポジティブ思考という言葉を教えてもらった。特に、子供の頃に壁にあたってしまうと解決方法がわからないまま人生に迷ってしまうものであると。そんな時、近くにいる大人を頼ったり、相談できる友達がいたりということがとても重要で、物事をポジティブにとらえる思考ができれば、自殺者は大きく減るだろうと。投げやりになるのではなく、なんくるないさーー何とかなるさと前向きに物事を考える力をみんなが持っていれば、社会は良くなるはずだとお父さんは教えてくれた。

 選択肢は一つではない。相談相手が五人いたら少なくとも五通りの意見があるはずでーー
 迷っていたなら着地点がみつかったり、問題解決に向けて一歩でも前へ踏み出すことができる。
 一人でも多くのポジティブ思考の人間が世の中には必要だと僕に伝えたかったのだろう。

 それを聞いて僕は考えた。ならば、心が未熟な小学生や中学生の教師になろうと。

 家庭では解決できないこと、あるいは単純に学校での悩み、子供だからこその悩み事の力になれるのではないかーー頼られる人間になりたいと僕は思った。
 僕みたいに辛い体験をしてほしくない。僕は周りの人に頼られる大人になりたい。だから、まもなくやってくる受験シーズンも、前向きに人生を考える思考をもって絶対に乗り越えてみせる。

(サトル、ハルト、僕と一緒にポジティブ思考な人間になろうぜ。これからも何でも話せる友達でいよう)

 僕はあの日から、誰よりも一生懸命、日々を大切に過ごしている。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み