第15話

文字数 1,355文字

 あれから僕は卑怯者になっていた気がする。口ではお父さんに、もっと強い自分になるーーとか宣言していたあの頃の自分ーー静かに暮らして三年が経ちーー
 自分を成長させるために何事にも挑戦し、着実に大きくなってきたつもりでいた。が、しかし、その反面、もう少し大人になるまで何事もおきないでくれーーと願う自分もいる。
(できればリボーンは見たくない。お願いだ。今は現れないでくれ。僕はまだ何もできない。お願いだ……今はまだ……)
 そうはいっても僕には特殊能力があるのは事実だった。
(ふーっ……何事もなく家に着いた。良かった)

 月明かりは頭上で眩しいくらいに輝いている。

と、突然、玄関のドアが開いてお父さんが出てきた。
「おぅ、健太、おかえり。ちょうど良かった。ちょっと散歩に付き合え。おい、お母さん、健太とちょっと出てくる」
 お父さんはちょっと慌てた様子で足早に普段は通ることがない道へ僕を連れ出した。
「今日な、仕事帰りに見かけた四十歳くらいの男性なんだがな、お父さんの勘が働いてな、ちょっと後をつけたんだよ。自宅はわかっている。気になったから、ちょっと様子を見にいってみようと思ってな」
「お父さん、まだ、九時だよ。ちょっと早いんじゃないかな。月明かりの夜ではあるけど」
「そうだな。ちょっと早いかもしれないな。でもな、リボーンは気配も残すんだよ。ほら、あそこの角の家だ」
 お父さんが指をさした家に明かりはなかった。
「家の人は帰宅したんだろう?明かりがないのは変だよ」
「そうだな。子供の小さな自転車が外にあるから、もう寝たのかも……」
「えーっ、十時前に?」
「健太、しーっ……よく見てごらん」
 佐々木と表札がある家の二階からリボーンが動き回っているのが見えた。
「あっ、お父さん、あれ」
「やっぱりだな。あの男性からは負のオーラを感じたんだよ。健太、佐々木さんって知ってるか?」
「ううん、知らない。この辺は学校も別区だからなぁ」
「そういえば、その男性は健太のバイト先のパン屋の袋を持ってたぞ。常連さんじゃないのか?」
「……あっ、もしかして最後にパンを買ったあのおじさんかな。もし、その人だとしたら、いつも来るお客さんではないな。たまたま寄った感じだったよ」
「そうか……とにかく、お父さんが何とかコンタクトしてみよう。もしかしたら、健太にも協力してもらうことになるかもしれない。その時はたのむな」
「うん、わかった。また報告してね」
「よし、じゃあ帰ろう。あまり遅くなるとお母さんが心配するから」
 僕はお父さんの後ろ姿を追いかけながら、奇妙に動くリボーンをもう一度振り返って見た。
(何度見てもやっぱり気持ちいいもんじゃないな)

 翌朝は、皆それぞれいつもの時間に家を出て、普段と何も変わらない一日が始まった。
 何もできない僕は僕なりに、もう一度、場所を確かめたくて、学校へ行く前に佐々木さんの家へ行ってみることにした。
 自転車で五分くらいの場所で、昨晩見た時のままの子供用の自転車がそこにはあった。ただ一つ違うのは、白い軽自動車が車庫に停まっていたことだった。
(昨日はここに車はなかったな)
 前日の夜十時過ぎに誰かが帰宅したーーということらしい。
 そのことはすぐにお父さんにラインで報告しておいた。
 そして僕は頭を普通の高校生に切り替えた。
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