第9話

文字数 1,176文字

 翌朝の土曜日、朝早くにサトルにラインを入れた。
[今日の午後の予定はキャンセル。ちょっと疲れた。昨日のことは大丈夫。解決するから一週間くらい、お母さんの様子を見守っていてほしい。何も心配いらないぞ]

 サトルからすぐ返信がきた。

[健太、悪かったな。お前の体調が万全じゃないのにな。聞いてくれてありがとう。お前の助言、信じて様子をみてみることにするよ。また、相談にのってくれよな。月曜日は学校で会えるか?]
[頑張ってみるよ、じゃあな]
[OK]

 サトルの悩みはお父さんが解決してくれそうだ、でも、ここ何日かで起きた出来事は僕にとってはそう簡単に理解できることではなかった。未来を想像すると恐怖すら感じてしまう。
 また、月明かりの夜、あの影、リボーンを見てしまったら……

 人を助けることができるのだろうかーー

 僕はそんなたいそうな人間ではないのに……
 
 なぜ僕が……

 僕はこの先、お父さんに何度も助けてもらうのだろう。お父さんが生きているうちに自分が成長しなければならない。そう考えると、未来にはそれほど時間がないのではないかーー
僕はそう思った。


 翌週から僕は何事もなかったかのように登校した。クラスメートも先生も
「おはよう。みんなで一緒に卒業しよう」と声をかけてくれた。
 僕が休んでいる間に三学期に入り、勉強もほぼ完了し、まとめだの中学の準備だの、卒業式の練習だの、僕にとってはありがたい時間割が続いた。
 ひきこもっていたといっても、受験を考えていたくらいだから、勉強の遅れはほぼなかった。三学期は心の穴埋めに全時間を費やした。卒業アルバムにはクールな顔のカイトが一緒に写っていた。
(カイト、一緒に卒業したかったぜ)

 あれから僕の心配をよそに何事も起こらなかった。ただ、サトルからはこんな報告があった。

[おばあちゃんが施設に入居することになった。お母さんは僕に優しくなったし、今までごめんねと謝ってもくれた。健太が力を貸してくれたおかげだと思っているよ。ありがとう。これからもよろしく]


 斉藤家の問題は解決したようだ。このことをお父さんに報告したら嬉しそうに
「一人の友達の命を救ったんだぞ、健太は……この先、健太の良さを発揮して生きていけばいい」
「今回の件は、僕はほとんど何もしてないよ。全部、お父さんの力だよね……これからも相談にのってね」
「あぁ、まだまだ大人になるにつれて嫌でも関わりが大きくなるAISという組織があるんだ。このことはおいおいまた話すよ。いま、健太に必要なことは自分磨きだからな。普通に生きていればいいんだよ。難しいことはない。ただ周りの人よりちょっとだけ努力しなくちゃいけない。楽しみながら自分を成長させるんだ。そのためには何でも物怖じせずに挑戦してみることだ。勉強もスポーツも、あらゆることに全力投球だ。無駄なことなんて一つもないぞ」
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