第16話

文字数 1,146文字

 そして一週間後ーー
 佐々木さんの件は気にはなっていたが、高校生の僕は試験勉強でそれどころではなくなり、まさに明日のテストを乗り切るべく、一夜漬けに近い状態でテンパっていた。するとそこへ、こんな時なのに、お父さんが、
「健太、ちょっといいか?」とノックもせずに入ってきた。今の僕にNOという選択肢はないようだ。
「この前の佐々木さんの件なんだがな。健太が気になって勉強が手につかないといけないと思ってな……あれからいろいろ調べたらな、佐々木さん家は、一ヶ月ほど前に奥さまが病死したそうだ。二歳になる娘さんを残してな。ご主人は毎日、奥さまのお見舞いに通っていたそうだ。だが、願い叶わず他界してしまった。仕事を辞めて看護と育児をしていたそうだが、奥さまが亡くなってからは育児と仕事探しで、このところ、様子がおかしかったと近所の人が教えてくれた。そこで、育児ヘルパーさんのチラシをポスティングしたのさ。もちろん、佐々木さんから連絡があったら、引き受けてくれと先に根回ししておいたさ。今は少し離れたところに住む佐々木さんのお母さんも週に二日ほどきれくれて何とか難を乗り越えた感じだ」
「佐々木さん家からリボーンが消えた……ということだね」
「そうだ。あれから月夜に尋ねてみたが、みあたらなかったよ。いたって静かな住宅街だったよ」
「お父さんの仕事ぶりを観察して何となく要領がわかってきたよ。本当のことをいうと僕は怖かったんだ。一人のときにリボーンを見てしまったらどうしよう……って。リボーンが現れませんように……って祈っちゃってたんだよ。弱虫だよね」
「そんなことはないさ。気持ちはよくわかるよ。お父さんだって、健太くらいのころは、同じように考えていたよ」
「えーっ、お父さんにもそんなころがあったの?」
「そりゃそうさ。おじいちゃんは無口な人だったんだよ。だから、お父さんが口数多く尋ねなければ全く理解はできなかったと思うよ。一から十までノートにメモして自分なりに事例集みたいにオリジナル教本を作成したのさ。今では貴重な参考書かもな」
「お父さん、そのノート、僕に見せてよ。僕も同じように勉強したいな」
「そうか。字が汚いぞ。読めるかな……今度、探しておくよ。なんせ秘密事だからな。隠しておかなければいけない情報が満載だ」
「そうだよね。僕は今のやり方でパソコンにまとめることにするよ」
「そうだな。いい考えだ。だが、ちゃんとパスワードかけておけよ」
「うん、わかってる」
 お父さんは部屋のカレンダーに目をやり
「明日はテストか……悪かったな、貴重な時間。邪魔しといてなんだが、徹夜はするなよ」
「わかってるよ」
「じゃ、先に寝るから。おやすみ」
「おやすみなさい」

 僕は大人になるまでに、いろんな体験をして事例集を作成していった。
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