第16話:不動産担保証券とサブプライL問題

文字数 1,519文字

 住宅バブルや信用バブルの一部として、不動産担保証券「MBS」と呼ばれる金融商品の契約高が非常に増えた。これは住宅ローンの弁済金と住宅価格を価値の裏づけとする証券である。こうした金融革新によって世界中の企業や投資家が米国の住宅市場に手軽に投資できるようになった。

 しかし、住宅価格が下落すると大量の資金を借りてサブプライム・不動産担保証券「MBS」に大きく投資していた世界的な大手金融機関が巨額の損失を計上した。住宅市場の危機が他の経済分野に波及するにつれて、他種のローンでも債務不履行や損失が目立って増加した。全世界の損失額は何兆ドルもの規模と推計されている。

 住宅バブルと信用バブルが形成されつつあった傍らで様々な要因から金融システムは脆弱さを増した。政策立案者は投資銀行やヘッジファンドといった金融機関「シャドーバンキングシステム」が果たすようになった役割の重要さを認識していなかった。一部の専門家はこれらの機関は米国経済への信用供与という点から見て商業銀行にも匹敵する重要さを持つに至った。

 そうと信じているが、商業銀行のような法規制下にはない。これらの投資銀行やヘッジファンド等、および一部の正規の銀行は、上述したようなローンの原資とするために自らも莫大な資金を借り入れていた。そのため、発生した大量の債務不履行や不動産担保証券による損失を吸収できるほどの財務的な余力が無かった。

 これらの損失は金融機関の融資能力を直撃し、経済活動を鈍化させた。中核的な金融機関の安定性が疑われたことから中央銀行も対応を迫られ、融資の促進と企業の重要な資金調達源であるコマーシャルペーパー市場の信頼回復のために資金を供与した。各国政府はまた更なる財政的な介入として中核的な金融機関に公的資金注入をも行った。

 住宅市場の落ち込みとそれに続いた金融市場の危機によって経済全般がリスクに晒され、これは世界中の中央銀行による政策金利の引き下げや政府による景気刺激策の発動を呼んだ主たる要因となった。この危機が世界の証券市場に及ぼした影響は劇的である。2008年1月1日から10月11日にかけて米国企業の株主は8兆ドルの損失を蒙った。

 時価総額は20兆ドルから12兆ドルに減少した。他国での損失は平均約40%であった。金融危機は、経済に開いた巨大な穴のような存在だ。穴に落ちかけていた政府系のフレディマック「連邦住宅貸付抵当公社」やファニーメイ「連邦住宅抵当公社」、保険大手のAIGなどは、アメリカ政府が「救命ロープ」を投げて助けた。

 しかし、リーマン・ブラザーズは見放され、穴に吸い込まれてしまった。危機感を強めた金融機関は、証券会社大手のメリルリンチがバンク・オブ・アメリカに救済合併を求めたように穴のふちでお互いを支え合っていた。金融危機の直接的な原因は、住宅バブルの崩壊とそれに伴うサブプライムローンの焦げ付きだ。

 アメリカの金融機関は、「証券化」などの最先端の金融技術を駆使したサブプライムローンを開発、低所得者でも住宅を購入できる道を開く。これによって住宅需要は急拡大、住宅価格は、所得や消費者物価を上回るペースで上昇し経済全体のインフレ圧力も強めていた。しかし、これは所得に見合わない無理な購入計画によりもたらされたバブルだ。

 金融機関が「ポンプ」となって大量のマネーを住宅市場に送り込むことで、そこだけ気圧が高い「風船」の様なバブルを膨らませ強引に低所得者を招き入れた。そして、この住宅バブルという風船が、2007年の秋に突如しぼみ始めた。住宅価格は急落、返済不能に陥った人が急増、その住宅は差し押さえられ風船の外へ追い出されてしまった。
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