第13話:エンロンの破綻

文字数 1,580文字

 エンロン社の高収益体質は以前から「謎」と言われていたが正体は不透明な簿外取引による資金調達だった。エンロンは情報開示の必要がない方法で設立したパートナーシップ法人を使って資金を調達し、その見返りにエンロン株などの資産を担保として提供していた。本来、借入金はエンロンの財務諸表の負債に計上される。

 しかし、負債が膨らむと株価や信用格付けが下がる要因となりパートナーシップ法人を使った簿外による資金調達を行う様になった。この方法ではエンロンの財務諸表に資産売却益が計上され情報開示の必要がないパートナーシップ法人の財務諸表には借入金と資産が計上される。パートナーシップ法人が調達した資金の返済原資を確保するため、別のパートナーシップ法人を設立して資金調達を繰り返しす。

 こうした方法は資金調達だけでなく損失移転にも利用された。これらの目的のために設立されたパートナーシップ法人は3千社を超えた。簿外による資金調達や損失移転は粉飾会計であった。米国の企業会計基準の取りまとめを行うGFASB「財務会計審議会」の報告基準に沿うよう監査法人ASや5つの法律事務所により合法的に処理された。

 そのためにエンロン本社の1フロアをASが独占していた他、250人もの弁護士を常駐させていたと言う。また、ASからは多くの人材がエンロンに転籍していた。その結果、同社とASは、ほぼ一体化していたとも考えられた。しかし、多角化や海外事業の失敗が表面化せずエンロンの株価が上昇している間は上手く機能していた。

 そのため、これらの仕組みも事業の失敗による評価損や実現損、それによる株価下落などが起きるとパートナーシップ法人の資産が目減りし機能不全を起こしていった。さらにCFOらの着服も発覚した。エンロンは自己資本の約1割、12億ドルの損失計上を余儀なくされた。こうした問題によりエンロンの株価はピーク時から10分の1にまで下がった。

 信用格付けも投資不適格手前まで格下げされ資金繰りが逼迫。遂には同業の中堅会社ダイナジーとの合併により生き残りを図るという方法を選ばざるを得なくなった。合併といっても新会社の社名はダイナジーであり事実上はダイナジーによるエンロンの買収。合併比率はエンロン1株につきダイナジー0.2685株でした。

 しかし、エンロンに35億ドル以上の予期せぬ損失が発生した場合、合併を撤回できるという条件が付けられていた。ところが、合併合意後もエンロンで簿外の損失が相次いだ。信用格付けは投資不適格に下げられて39億ドルもの債務返済義務が発生。これを受けてダイナジーは合併合意事項の違反を理由に合併を白紙に戻した。

 そして、エンロンは2001年12月にチャプター11「米連邦破産法11条」を申請し経営破綻。エンロンの会計監査をしていたASはシカゴ発祥の監査法人で当時は米国の5大監査法人の一つだった。しかし、エンロンの破綻により同社にも批判の矛先が向かった。ASはFASBの報告基準に沿うよう合法的に処理していたため法的には問題がなかった。

 しかし、エンロンの粉飾会計が発覚した際、関連資料を破棄し、犯罪捜査妨害の有罪判決が下された。この判決は後に覆されたが、この件で大量の顧客を失ったASは解散に追い込まれた。「アメリカで最も革新的な企業」と謳われたエンロンの破綻は金融市場に大きな衝撃を与えた。

 その後、企業会計・財務諸表の信頼性を向上させ、こうした事態の再発防止を目的に米国では2002年7月、SOX法「通称、企業改革法が制定された。これで情報開示や監査独立性の強化、企業統治の改革、説明責任など様々な規定が設けられた。2000年に入りインターネット・エクスプローラーとファイアーフォックス、オペラ、サファリ、グーグルクロムが激烈なブラウザ戦争を日本で繰り広げた。
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