その6の2 なぜパイプオルガンだったのか(つづき)

文字数 1,262文字

(6の1からつづく)

 歌やピアノのそれぞれは、日本の音大生に要求されるような超絶技巧ではぜんぜんない。正直、「オケイコゴト」でしかピアノを習ったことのない私にくらべても下手な子が、けっこういる。
 でも、みんな、和音付けと移調の宿題は、ちゃんとこなしてくる。即興のレッスンも楽しんでいる。
 この差は、何なんだろう。

「ドイツの音大に留学してきました」なんて言って、とんでもなくすごいことになってると思われたら困る。なってない。私はどうしようもない、箸にも棒にもかからない落第生だった。
 ドイツ語もオルガンの即興も、ホントにつっかえつっかえ、たどたどしくしか、できるようにならなかった。

 それでも、ほんのちょーっとだけなら、進歩した。(当社比)
 人類にとってはまったくどうでもいい進歩だが、一人の人間にとっては、大きな一歩だった。

 自分自身から自由になる、という感覚を、ほんのちょーっとだけ、味わわせて——いや、
 嗅がせてもらった。

 さて、「なぜパイプオルガンだったのか」というタイトルについてだけれど、もうおわかりのとおり、
 とくに理由はなかったのでした。
 真実、本気で、冒頭に書いたとおり、「なんとなくいいなぁ」と思っただけだったのでした。
 まさかまさかそんなアホな落ちじゃないだろう、どんでん返しがあるんだろうと期待して、ここまで読んでくださった方、本当に! ごめんなさい。

 演劇も同じだ。「なんとなくいいなぁ」と思って、始めてしまった。
 運命の出会いなんて、そんなものかも、と思っている。と言うより、後でふり返ったときに、どうしても(または、なんとなく)やめられないで続けてきてしまったなぁ、いろいろあったけど、後悔はしてないなぁ、というものがあったら、それが運命なのだ。
 たぶんね。


付記1:
 レーゲンスブルク・カトリック教会音楽・音楽教育大学。
 Hochschule fuer Katholische Kirchenmusik und Musikpoedagogik Regensburg...
 池田理代子『オルフェウスの窓』に出てくる学校と同じ名前だな、と思った方もおられるかもしれない。そう、あのオル窓のレーゲンスです。
「運命の出会い」がテーマの(そうだったんだ?)今回の文章に、ぴったりの舞台だったのではないでしょうか。ないですね。はい。
 だいたい、「そこから見下ろしたときに初めて目のあった人物と永遠の恋に!」という、伝説の窓なんかなかったよ。改装されたからなくなってしまったのか、それ以前の問題なのか知りたかったけど、誰に訊いたらいいのか、わかりませんでした。

付記2:
 愛するコンスタン・ルイ神父さまは、2015年8月30日午後6時30分(現地時間)、フランスのトゥルーザン地方、モン・トバン市立病院で、帰天されました。
 彼のことも書こうとしたのですが、まだ書けない自分に気がつきました。
 本文中に冗談めかして書いたのはもちろん冗談で、恋愛とは違いますし、親とも違うのですが、本当に、私にとって大切な方でした。
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