その13の3 演劇小説に必要なのは女優と演出家と(つづきのつづき) 

文字数 844文字

 ここまで読んで、誰が本当の元凶か、おわかりになっただろうか。
 そう。
 演出家くんだ。
 ピアニスト嬢をなだめるのに失敗したのは彼だ。あろうことか、その調整を私自身に押しつけた。チームリーダー失格だ。
 そもそも外部から人(私)を呼ぶことでそんな反感が生まれてしまうようなファミリー商店なら、私なんか呼ぶべきではなかった。人選ミスだ。

 つまり、ひるがえって、天網カイカイ事件も私の人選ミス。私に人を見る目がなかっただけの話だ。
 もっとちゃんとした人だと思っていたのだが、あの女優さん。
 それこそ「裏切られた」「作品づくりに専念したいのによけいなストレスを強いられた」と泣き叫んでいいのは私のほうじゃないかなと思うのだが、悲しいかな、どうもこういうときに黙って次へ進んでしまう体質に生まれついている。

 これはあくまで私サイドからのストーリーだから、「そんなこと言ってミムラさんがいい気になって引っかき回したんでしょう」と言われてしまえば、反証はできない。それでも、
「あるある」
とうなずいてくださっている読者もきっとおられると思う。ね、あるでしょう、貴方の職場やご近所でも?

 天才女優のライバル同士が演技のうまさを競い合い、演出家が奇抜な演出で観客を驚かせる。そんなところに演劇の本質はない。
 むしろそれはひじょうに些末な、と言わないまでも、

がうまく行った上にようやく成り立つもので、言ってみればショートケーキに乗っかってるイチゴみたいなものだ。
 もちろんイチゴがなくちゃショートケーキじゃないのだが、イチゴだけではショートケーキにならないのもまた厳然たる事実だ。
 そこをわかっていただけたら嬉しい。

 演劇に必要なのは、役者と、台本と、スタッフと、劇場と――
 いや、列挙する必要はない。
 こういうすべてを乗り越えて、作品を完成させようとする気もちだ。
 それは意志であり、責任感であり、
 何よりも、作品への愛だ。

 その愛を前にして、人間どうしの好いた好かれたなんぞ、どうでもいい話なんである。
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