第59話 いけいけ! 星空レトロゲーム部
文字数 2,367文字
ここは星空中央高校のグラウンド。
明夏と真雪がドッジボールをしていた。
「明夏ちゃん、行くよ! とりゃー!」
真雪が渾身の力を込めてボールを投げる。
ぎゅるるるるっ!
ぱしゅ!
明夏は難なくそのボールをキャッチした。
「真雪、まだまだ甘いわね。もっとボールにスナップを効かせないと」
「おっけー! どんどんこーい!」
グラウンドでは二人のキャッチボールがつづいている。
いっぽうレトロゲーム部の部員AとBは、グラウンド隅にある木の陰からその様子を眺めていた。
「あの二人はなぜドッジボールを? たしか明夏殿はオンエア部だった気がするんすけど」
彼らは明夏に助っ人を頼もうと思ってここまでやってきたのだが、想定外の出来事になかなか姿を現せないでいた。
部員Aが、木の陰から様子をうかがう。
もう一人の部員Bは、いじけたように明夏たちを背にして、体育座りをしている。
「きっと明夏殿はすでにドッジボール部に助っ人を頼まれてるなりよ。完全に先を越されたなり」
「部員B! もう弱音は吐かないと誓ったではないっすか! まだそうだと決まったわけではないっすよ! あきらめたらだめっす!」
そのとき、明夏が投げた超高速のボールが逸れて二人のところにまっすぐに飛んできた。ボールは部員Bの体に吸い込まれるように、高速回転でせまってくる。
「部員B、あぶないっすー!」
どかっ!
「うへえっ!」
ボールはいじけていた部員Bに直撃して、そこそこ遠くまで吹っ飛ばされた。
「やばーっ!」
明夏が走ってこっちにやってくる。
「ごめんなさいー。手が滑って……ってあれ? レトロゲーム部の部員Aと部員Bじゃない」
「あ! 明夏殿、久しぶりっす!」
「ええっと……部員Bは大丈夫?」
「……問題ないなり。我は無敵ゆえに」
飛ばされた部員Bは、よろよろとした歩きで明夏のそばまでやってきた。
「我の体のことよりも明夏殿、お願いがあるなり。我がレトロゲーム部に力を貸してほしいなり」
「今度の部活対抗戦で負けてしまうと、レトロゲーム部は廃部になってしまうっす! 拙者からもお願いっす!」
「部員A、部員B……」
明夏は目をつむって少し考えた。
そして出した答えは、
「ごめん。オンエア部も今度の部活対抗戦で絶対に勝たなければいけないんだ。私はこっちを優先させないといけないから、助っ人としては行けない」
「そ、そんな~……」
「ああ、これでもうレトロゲーム部はおしまいっす! 廃部確定っす!」
「そんな大げさな。対抗戦で勝てばいいじゃない」
「簡単に勝てる相手ではないなりよ。我々の実力では、とうてい太刀打ちできないほどの強敵なり。eスポーツ部のスーコとかいう」
「スーコ!?」
明夏は驚いた様子で一歩引いた。
「スーコがどうかしたんすか?」
「あんたたち知らないの? スーコって言ったら、プロゲーマーのチームからスカウトが来てるっていううわさの生徒じゃない!」
「プロですと!? そんな人物が我が学校に!?」
「これはやっかいな相手ね。あんたたち二人だけじゃ太刀打ちできないかもしれないわ」
ここで見捨ててしまうのは、レトロゲーマー明夏の流儀に反する行為だ。
明夏はもう一度考えていた。 そのとき、一人グラウンドで待っていた真雪がやって来た。
「明夏ちゃん。さっきボールが当たった人、大丈夫だったの?」
「うん。大丈夫なんだけど」
「?」
「真雪殿! 我がレトロゲーム部に明夏殿を貸して欲しいっす!」
真雪はいきなり部員Aに頭を下げられた。続いて部員Bも同じように頭を下げる。
「あわわっ。ちょっと二人とも、いきなりどうしたの?」
「レトロゲーム部も廃部のピンチなんだって。私はオンエア部を優先させなきゃいけないって言って断ったんだけど、その」
真雪は明夏の表情を見た。
ずいぶんと迷ってるときの明夏の顔だった。オンエア部だけでなく、レトロゲーム部のことも気になるのだろう。
「明夏ちゃん、レトロゲーム部の手伝いに行ってあげてよ」
真雪は優しい顔をして言った。
「なっ! 真雪、オンエア部はどうするのよ! 私たちだって対抗戦で負けたら廃部になっちゃうんだから!」
「私たち去年の文化祭で、レトロゲーム部に助けてもらったじゃない。今度は私たちが助けてあげないと」
「でもそんなこと言っている余裕は」
「大丈夫! 本番は私一人でオンエアするんだし、明夏ちゃんがいない間は、私が明夏ちゃんの分まで頑張るから!」
真雪の決意は固い。
明夏はそんな真雪を見て、少しだけ微笑んだ顔を見せた。
「……わかった。ありがとう、真雪」
明夏は部員Aと部員Bに向き直る。
「本番には参加できないけど、練習に付き合うくらいだったらやるよ。私が上達するための攻略法とか教えてあげる」
「明夏殿、本当っすか!?」
「ありがたいなり! 明夏殿に教えてもらえれば、やつらにも対抗できるかもしれないなり! 小学生時代にプロゲーマーをこてんぱんにやっつけた伝説を持つ明夏殿に!」
「ちょっと大げさすぎ。勝ったのはレトロゲームでの対決だよ。それに、今回戦うのはあんたたちなんだから」
それでもレトロゲーム部二人は、明夏が協力してくれることを手を取り合って喜んだ。
「くぅ~。明夏殿! 真雪殿! 拙者、二人の優しさに感動したっす!」
「明夏の姉御! 真雪の姉御! 一生ついて行くなりよ!」
「それじゃあ、今からゲームの特訓よ! 二人とも私についてきなさい!」
「押忍っす!」
「押忍なり!」
明夏はレトロゲーム部の二人と一緒に校舎へと消えていった。
「さてと。こんなところでぼーっとしてる場合じゃなかったよね。早く部室に戻って私もオンエアの練習をやらないと」
少し運動をして、もやもやした気分も晴れてきた。
空はきれいな夕焼け。
真雪は落ちていたボールを拾い上げて、駆け足で体育倉庫に返しに行った。
明夏と真雪がドッジボールをしていた。
「明夏ちゃん、行くよ! とりゃー!」
真雪が渾身の力を込めてボールを投げる。
ぎゅるるるるっ!
ぱしゅ!
明夏は難なくそのボールをキャッチした。
「真雪、まだまだ甘いわね。もっとボールにスナップを効かせないと」
「おっけー! どんどんこーい!」
グラウンドでは二人のキャッチボールがつづいている。
いっぽうレトロゲーム部の部員AとBは、グラウンド隅にある木の陰からその様子を眺めていた。
「あの二人はなぜドッジボールを? たしか明夏殿はオンエア部だった気がするんすけど」
彼らは明夏に助っ人を頼もうと思ってここまでやってきたのだが、想定外の出来事になかなか姿を現せないでいた。
部員Aが、木の陰から様子をうかがう。
もう一人の部員Bは、いじけたように明夏たちを背にして、体育座りをしている。
「きっと明夏殿はすでにドッジボール部に助っ人を頼まれてるなりよ。完全に先を越されたなり」
「部員B! もう弱音は吐かないと誓ったではないっすか! まだそうだと決まったわけではないっすよ! あきらめたらだめっす!」
そのとき、明夏が投げた超高速のボールが逸れて二人のところにまっすぐに飛んできた。ボールは部員Bの体に吸い込まれるように、高速回転でせまってくる。
「部員B、あぶないっすー!」
どかっ!
「うへえっ!」
ボールはいじけていた部員Bに直撃して、そこそこ遠くまで吹っ飛ばされた。
「やばーっ!」
明夏が走ってこっちにやってくる。
「ごめんなさいー。手が滑って……ってあれ? レトロゲーム部の部員Aと部員Bじゃない」
「あ! 明夏殿、久しぶりっす!」
「ええっと……部員Bは大丈夫?」
「……問題ないなり。我は無敵ゆえに」
飛ばされた部員Bは、よろよろとした歩きで明夏のそばまでやってきた。
「我の体のことよりも明夏殿、お願いがあるなり。我がレトロゲーム部に力を貸してほしいなり」
「今度の部活対抗戦で負けてしまうと、レトロゲーム部は廃部になってしまうっす! 拙者からもお願いっす!」
「部員A、部員B……」
明夏は目をつむって少し考えた。
そして出した答えは、
「ごめん。オンエア部も今度の部活対抗戦で絶対に勝たなければいけないんだ。私はこっちを優先させないといけないから、助っ人としては行けない」
「そ、そんな~……」
「ああ、これでもうレトロゲーム部はおしまいっす! 廃部確定っす!」
「そんな大げさな。対抗戦で勝てばいいじゃない」
「簡単に勝てる相手ではないなりよ。我々の実力では、とうてい太刀打ちできないほどの強敵なり。eスポーツ部のスーコとかいう」
「スーコ!?」
明夏は驚いた様子で一歩引いた。
「スーコがどうかしたんすか?」
「あんたたち知らないの? スーコって言ったら、プロゲーマーのチームからスカウトが来てるっていううわさの生徒じゃない!」
「プロですと!? そんな人物が我が学校に!?」
「これはやっかいな相手ね。あんたたち二人だけじゃ太刀打ちできないかもしれないわ」
ここで見捨ててしまうのは、レトロゲーマー明夏の流儀に反する行為だ。
明夏はもう一度考えていた。 そのとき、一人グラウンドで待っていた真雪がやって来た。
「明夏ちゃん。さっきボールが当たった人、大丈夫だったの?」
「うん。大丈夫なんだけど」
「?」
「真雪殿! 我がレトロゲーム部に明夏殿を貸して欲しいっす!」
真雪はいきなり部員Aに頭を下げられた。続いて部員Bも同じように頭を下げる。
「あわわっ。ちょっと二人とも、いきなりどうしたの?」
「レトロゲーム部も廃部のピンチなんだって。私はオンエア部を優先させなきゃいけないって言って断ったんだけど、その」
真雪は明夏の表情を見た。
ずいぶんと迷ってるときの明夏の顔だった。オンエア部だけでなく、レトロゲーム部のことも気になるのだろう。
「明夏ちゃん、レトロゲーム部の手伝いに行ってあげてよ」
真雪は優しい顔をして言った。
「なっ! 真雪、オンエア部はどうするのよ! 私たちだって対抗戦で負けたら廃部になっちゃうんだから!」
「私たち去年の文化祭で、レトロゲーム部に助けてもらったじゃない。今度は私たちが助けてあげないと」
「でもそんなこと言っている余裕は」
「大丈夫! 本番は私一人でオンエアするんだし、明夏ちゃんがいない間は、私が明夏ちゃんの分まで頑張るから!」
真雪の決意は固い。
明夏はそんな真雪を見て、少しだけ微笑んだ顔を見せた。
「……わかった。ありがとう、真雪」
明夏は部員Aと部員Bに向き直る。
「本番には参加できないけど、練習に付き合うくらいだったらやるよ。私が上達するための攻略法とか教えてあげる」
「明夏殿、本当っすか!?」
「ありがたいなり! 明夏殿に教えてもらえれば、やつらにも対抗できるかもしれないなり! 小学生時代にプロゲーマーをこてんぱんにやっつけた伝説を持つ明夏殿に!」
「ちょっと大げさすぎ。勝ったのはレトロゲームでの対決だよ。それに、今回戦うのはあんたたちなんだから」
それでもレトロゲーム部二人は、明夏が協力してくれることを手を取り合って喜んだ。
「くぅ~。明夏殿! 真雪殿! 拙者、二人の優しさに感動したっす!」
「明夏の姉御! 真雪の姉御! 一生ついて行くなりよ!」
「それじゃあ、今からゲームの特訓よ! 二人とも私についてきなさい!」
「押忍っす!」
「押忍なり!」
明夏はレトロゲーム部の二人と一緒に校舎へと消えていった。
「さてと。こんなところでぼーっとしてる場合じゃなかったよね。早く部室に戻って私もオンエアの練習をやらないと」
少し運動をして、もやもやした気分も晴れてきた。
空はきれいな夕焼け。
真雪は落ちていたボールを拾い上げて、駆け足で体育倉庫に返しに行った。