第22話 マユキングの全力オンエア
文字数 2,728文字
真雪が学食でお昼にオンエアしている「真雪のひっそりタイム」は、トークを中心とした地味なオンエアだが、一部の生徒(真雪の友だちなど)からはそれなりに人気があるらしい。
それでも全体的にはあまり興味をもたれてないらしく、タイトル通り本当にひっそりとしたオンエアになっていた。
だが、今日の真雪はいつもとはまるで違う。
とある一年生にオンエアを観に来てほしいと自分で言ったので、格好わるいところはみせられないと思っていた。
真雪はオンエアブースの前を通り過ぎる生徒たちを意識しながら、話しかけるような感じでしゃべり始めた。
真雪「それでは、今日の最初のコーナーにいってみましょう。『天ぷらの具材は何がすき?』です。あー、これは私も好きなものがあります」
作ってきたカードを取り出して、それを学食側に見えるように立てかける。
カードにはそれぞれ天ぷらの具材の絵がペンで描かれていた。
だが、今は学食側からは誰も真雪のことは見ていなかった。
カードを見ていないとあまり意味がないトークなのだが、それでも真雪は続ける。
真雪「カードに描かれているのは、たまねぎ、いか、さつまいも、などなど。いろいろあるよねー。あ、今日学食の日替わり定食は天ぷらですか!? これはタイムリーな日替わりになってるよね! やったね!」
真雪は事前に、学食をつくってるシェフ(と呼ぶように言われている)たちに今日の日替わり定食がなんなのかを聞いていた。今回の天ぷらの内容も、それに合わせて考えてきたものだった。
真雪「みんなはどんな具材が好きかな? 私は、そうだなー。やっぱりえびかなー。そ、えび天! うどんに入れるならかきあげ! ごぼう天! おいしいよね~」
いろんな天ぷらを想像して、にへら~とした表情になる。
真雪「さて、天ぷらの具材というと、中には変わったものもあります。さあ、想像してください。何が出るかなー、にゃにゃにゃ~」
真雪は裏返したカードを何枚か手に持つ。
カードを向こう側には見えそうで見えないように出し惜しみをすると、通りがかりだった生徒が、少しだけ真雪のほうに興味を持ち始めてくる。
真雪は嬉しい感情を抑えつつ、話しかけるように言った。
真雪「じゃん! ええーっ! こんなのが具材になるの~!? 信じられなーい!」
いつもひっそりとオンエアをしている真雪だが、今日は信じられないくらい高いテンションになっている。ちなみに真雪本人は、そのことには全く気づいていない。
真雪「え? ガラスの向こうのギャラリーさんが、何か言ってるみたいですが。この部屋じつは防音室だから、外の声が聞こえないんだよねー。ごめんね。それでは、信じられない具材を発表! それは……これだ!」
真雪はカードを裏返した。
それを見て、ガラスの向こうの人の顔が驚きに変わる。
「じゃーん。『たこやき』の天ぷらです! え? 本当なのって? ……じつはまだ食べたことないんだよねー。見【たこ】ともない! ……【たこ】やきだけに」
しーん。
真雪の前から、一人、二人と観客が去っていく。
真雪「うそっ、見てる人が誰もいなくなった! 昨日ずっと考えてやっと思いついただじゃれだったのに!」
思わず声に出して言ってしまった。気づいた真雪はあわてて口を押さえたが、なんだかぐだぐだな感じになってきた。
真雪はめげずに、次の話題を始める。
真雪「次のコーナーは、『体力測定』です! ああ~、運動にがてな人は触れたくない話題だよね~。ちなみに私も運動はにがてです。特に持久走とか!」
真雪がマイクを持って立ち上がる。
真雪「今日はせっかくだから、ここでなにか体力測定をやってみます。この空間でできることといえば……そう! 反復横跳びです! すごい! 百獣の王もびっくり!」
真雪は用意していた位置につく。
真雪「ふっふっふっ。じつはこのために、床にテープをはっていたんです。1メートル間隔で3本! 準備すごい! さあ、始めますよ? 制限時間は20秒。体育の先生から借りてきたストップウォッチで、時間をはかりながらやってみます。……よーい、どん!」
ひゅんひゅん。
真雪は反復横跳びを開始した。
真雪「どう、このステップ。昨日練習してきたんだ! 10、11、12……」
真雪は真面目にやっていたが、お世辞にも速いと言い切れない微妙なスピードだった。
そして、20秒後。
真雪「はあはあ……。なんかしゃべりながらやったらすっごく疲れた……。記録は30でした。これ、いいほうなのかな? 同じオンエア部の日菜ちゃんは60くらいって言ってたけど、その半分だよね……。少ない……」
真雪は少し落ち込んでいるが、これは日菜の記録が異常に高いだけである。
真雪「あ、もう時間みたい。学食にいるみなさん、よいお食事を~」
マイクの電源を切って、今日の真雪のオンエアは終了した。
真雪はオンエアブースから、控え室兼部室に戻っていった。
オンエア時間およそ20分。
今日も外から見てくれている人はあまりいなかった。
それよりも、真雪は気がかりなことがあった。
「あの子やっぱり、来てなかったな」
昨日公園で会った一年生。
今日よかったら見に来てねと言っていたが、真雪のオンエア中にその姿はどこにも見えなかった。
「あ~あ。あの子だったら仲良しになれそうな気がしてたんだけど。なんか私と似たような雰囲気あったし」
真雪はがっくりと肩を落とした。
「今日のオンエア、気合い入れてやったんだけどなぁ……今日のオンエアは」
テンションの高い天ぷらトークに反復横跳び。
思い出した真雪は思いっきり赤面した。
「もしかして、さっきのオンエアはすっごく恥ずかしかった? やだ。私どうしてあんなオンエアをしたんだろう……」
むしろあの一年生がオンエアを観に来なくてよかったとまで思い始めていた。
そんなとき、
ガチャ。
「こんちはー。今日のオンエアはよかったね。新しい真雪の一面が見られて最高だったよ」
明夏が上機嫌で部室に入ってきた。
「それと今日の天ぷら定食、おいしかったー。まだ時間あるから、真雪も今から食べてきたら? ……って、どうしたのよ。元気ないみたいだけど」
「うん。冷静になって考えてみたら私、さっきのオンエアですごく恥ずかしいことばっかりしてて……。あ~、もう誰にも会いたくない。教室に戻りたくないよ~」
「ドンマイドンマイ。マユキングは強いんでしょ?」
「マユキングってなに?」
「いや、あんたが自分で言い始めたんでしょうが……」
「あ~恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい~」
真雪はテーブルに突っ伏して、足をばたばたさせる。
今日は真雪にとって、ある意味忘れられない一日となった。
それでも全体的にはあまり興味をもたれてないらしく、タイトル通り本当にひっそりとしたオンエアになっていた。
だが、今日の真雪はいつもとはまるで違う。
とある一年生にオンエアを観に来てほしいと自分で言ったので、格好わるいところはみせられないと思っていた。
真雪はオンエアブースの前を通り過ぎる生徒たちを意識しながら、話しかけるような感じでしゃべり始めた。
真雪「それでは、今日の最初のコーナーにいってみましょう。『天ぷらの具材は何がすき?』です。あー、これは私も好きなものがあります」
作ってきたカードを取り出して、それを学食側に見えるように立てかける。
カードにはそれぞれ天ぷらの具材の絵がペンで描かれていた。
だが、今は学食側からは誰も真雪のことは見ていなかった。
カードを見ていないとあまり意味がないトークなのだが、それでも真雪は続ける。
真雪「カードに描かれているのは、たまねぎ、いか、さつまいも、などなど。いろいろあるよねー。あ、今日学食の日替わり定食は天ぷらですか!? これはタイムリーな日替わりになってるよね! やったね!」
真雪は事前に、学食をつくってるシェフ(と呼ぶように言われている)たちに今日の日替わり定食がなんなのかを聞いていた。今回の天ぷらの内容も、それに合わせて考えてきたものだった。
真雪「みんなはどんな具材が好きかな? 私は、そうだなー。やっぱりえびかなー。そ、えび天! うどんに入れるならかきあげ! ごぼう天! おいしいよね~」
いろんな天ぷらを想像して、にへら~とした表情になる。
真雪「さて、天ぷらの具材というと、中には変わったものもあります。さあ、想像してください。何が出るかなー、にゃにゃにゃ~」
真雪は裏返したカードを何枚か手に持つ。
カードを向こう側には見えそうで見えないように出し惜しみをすると、通りがかりだった生徒が、少しだけ真雪のほうに興味を持ち始めてくる。
真雪は嬉しい感情を抑えつつ、話しかけるように言った。
真雪「じゃん! ええーっ! こんなのが具材になるの~!? 信じられなーい!」
いつもひっそりとオンエアをしている真雪だが、今日は信じられないくらい高いテンションになっている。ちなみに真雪本人は、そのことには全く気づいていない。
真雪「え? ガラスの向こうのギャラリーさんが、何か言ってるみたいですが。この部屋じつは防音室だから、外の声が聞こえないんだよねー。ごめんね。それでは、信じられない具材を発表! それは……これだ!」
真雪はカードを裏返した。
それを見て、ガラスの向こうの人の顔が驚きに変わる。
「じゃーん。『たこやき』の天ぷらです! え? 本当なのって? ……じつはまだ食べたことないんだよねー。見【たこ】ともない! ……【たこ】やきだけに」
しーん。
真雪の前から、一人、二人と観客が去っていく。
真雪「うそっ、見てる人が誰もいなくなった! 昨日ずっと考えてやっと思いついただじゃれだったのに!」
思わず声に出して言ってしまった。気づいた真雪はあわてて口を押さえたが、なんだかぐだぐだな感じになってきた。
真雪はめげずに、次の話題を始める。
真雪「次のコーナーは、『体力測定』です! ああ~、運動にがてな人は触れたくない話題だよね~。ちなみに私も運動はにがてです。特に持久走とか!」
真雪がマイクを持って立ち上がる。
真雪「今日はせっかくだから、ここでなにか体力測定をやってみます。この空間でできることといえば……そう! 反復横跳びです! すごい! 百獣の王もびっくり!」
真雪は用意していた位置につく。
真雪「ふっふっふっ。じつはこのために、床にテープをはっていたんです。1メートル間隔で3本! 準備すごい! さあ、始めますよ? 制限時間は20秒。体育の先生から借りてきたストップウォッチで、時間をはかりながらやってみます。……よーい、どん!」
ひゅんひゅん。
真雪は反復横跳びを開始した。
真雪「どう、このステップ。昨日練習してきたんだ! 10、11、12……」
真雪は真面目にやっていたが、お世辞にも速いと言い切れない微妙なスピードだった。
そして、20秒後。
真雪「はあはあ……。なんかしゃべりながらやったらすっごく疲れた……。記録は30でした。これ、いいほうなのかな? 同じオンエア部の日菜ちゃんは60くらいって言ってたけど、その半分だよね……。少ない……」
真雪は少し落ち込んでいるが、これは日菜の記録が異常に高いだけである。
真雪「あ、もう時間みたい。学食にいるみなさん、よいお食事を~」
マイクの電源を切って、今日の真雪のオンエアは終了した。
真雪はオンエアブースから、控え室兼部室に戻っていった。
オンエア時間およそ20分。
今日も外から見てくれている人はあまりいなかった。
それよりも、真雪は気がかりなことがあった。
「あの子やっぱり、来てなかったな」
昨日公園で会った一年生。
今日よかったら見に来てねと言っていたが、真雪のオンエア中にその姿はどこにも見えなかった。
「あ~あ。あの子だったら仲良しになれそうな気がしてたんだけど。なんか私と似たような雰囲気あったし」
真雪はがっくりと肩を落とした。
「今日のオンエア、気合い入れてやったんだけどなぁ……今日のオンエアは」
テンションの高い天ぷらトークに反復横跳び。
思い出した真雪は思いっきり赤面した。
「もしかして、さっきのオンエアはすっごく恥ずかしかった? やだ。私どうしてあんなオンエアをしたんだろう……」
むしろあの一年生がオンエアを観に来なくてよかったとまで思い始めていた。
そんなとき、
ガチャ。
「こんちはー。今日のオンエアはよかったね。新しい真雪の一面が見られて最高だったよ」
明夏が上機嫌で部室に入ってきた。
「それと今日の天ぷら定食、おいしかったー。まだ時間あるから、真雪も今から食べてきたら? ……って、どうしたのよ。元気ないみたいだけど」
「うん。冷静になって考えてみたら私、さっきのオンエアですごく恥ずかしいことばっかりしてて……。あ~、もう誰にも会いたくない。教室に戻りたくないよ~」
「ドンマイドンマイ。マユキングは強いんでしょ?」
「マユキングってなに?」
「いや、あんたが自分で言い始めたんでしょうが……」
「あ~恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい~」
真雪はテーブルに突っ伏して、足をばたばたさせる。
今日は真雪にとって、ある意味忘れられない一日となった。