第116話 オンエア部とガラケー部
文字数 4,790文字
真雪の放送は大好評で、想像以上にたくさんの人から聴かれていた。真雪の放送を聴くために、わざわざ学校にラジオを持ち込んでくる人も増えた。
もはや真雪の放送は放課後の定番となり、文化祭の準備をしながら真雪の放送を聴くことが学校内で流行しているほどだった。
だが、当の本人は満足している様子ではなかった。
今日の放送が終わった後、ガラケー部兼オンエア同好会のメンバーは、部室でしばしの休息をとっていた。
みんなくつろいだ感じで話をしていたが、真雪一人だけが浮かない顔をしていた。
「どうしたんだよ、真雪。そんな暗い顔してさ」
寿が真雪の顔をのぞき込むように言った。真雪は、寿の顔を見て不気味ににやっと笑みを浮かべる。
「ははっ。なんかさ、私の放送って違うんだよね。思ってるのとぜんぜん違う……」
「どの辺が違うの? 私は普通だと思うけど」
棒状のスナック菓子を食べていたともが言った。
真雪はゾンビのようにギギギと顔をとものほうに向けてにやりとする。
「なんていうかその、言葉にすると難しいんだけどね」
「わたくしにはどうして悩んでいるのかがよくわかりませんが……」
ケータイのデコ具合をうっとりとした目で見ていた姫が言った。真雪は顔を机に突っ伏して、足をばたばたさせた。
「あはは、私にもよくわかんなーい!」
「真雪さーん、大丈夫ですかー? しっかりしてくださーい」
優雅に緑茶を飲んでくつろいでいたライカが言った。真雪のばたばたさせていた足の動きが止まり、ぶんっと音を立てながら顔を上げた。
「ちょっと頭から水浴びしてくる!」
真雪は元気なく部室から出て行った。
ガラケー四天王の四人は、思わず顔を見合わせる。
「真雪、すごく悩んでたね」
「私たちで何かアドバイス出来ることがあればいいんだけど……」
「わたくしたち、放送関係の知識はありませんものね。ライカはどうなの?」
「おー、私もさっぱりでーす」
ガラケー四天王の四人は、真雪の力になれないことに自分たちの非力さを感じていた。
そんなとき、
ヒョロロロ。
部室の扉が開いた。
「あれ? ここってオンエア同好会の部室だよね? 真雪ちゃんはいないの?」
西瓜が部室の外から顔をのぞかせていた。
「真雪はさっき頭から水をかぶりに行ったけど、何か用ですか?」
「いやさあ、話したいことがあったんだけどね。ちょっとおじゃまするよ」
西瓜が部室の扉を開けると、ガラケー四天王全員が驚いた表情になった。
「メロン先輩!?」
見事にハモった四天王。寿が扉の前に立っていた西瓜のところまでやって来た。
「先輩久しぶり。ちょっと寄ってかない? 真雪ならすぐに戻ってくると思うから」
「へえ、最近真雪ちゃんと行動してたのはあんたらだったのか。じゃあ、ちょっとだけおじゃまするよ」
西瓜は寿に手を引かれて部室に入っていった。西瓜は後ろを見てから声を掛ける。
「樹々、あんたも来なよ。真雪ちゃんに用があるんだろ?」
「私も入っていいのかしら?」
「もちろん。メロン先輩のお友だちなら大歓迎です!」
ともの言葉を聞いて、樹々は一礼して部室に入ってくる。二人はテーブルに案内されて、隣あうように座った。
「西瓜。やっぱりあなた後輩から人気あるのね。誰でもあなたのことを知ってる感じじゃない?」
「そんなことないって。寿たちは私の中学時代の後輩だよ。それよりあんたたち、オンエア部の再興に協力してくれてるのかい? 本当にありがとう」
「真雪は私たちの友だちだからね。協力して当然さ」
寿は言った。他の三人もうんうんとうなずく。
「ありがとう。本来なら私たちも協力しなければいけないのに、あなたたちに任せっきりになってしまって」
樹々は申し訳なさそうに言う。
「そのことなんですが……真雪さん、今すごく放送のことについて悩まれているようですわ。わたくしたちでアドバイスできればいいのですが、みんな放送に関しては素人そのものでして」
姫が言うと、西瓜は自信たっぷりに言った。
「大丈夫。私たちは真雪ちゃんにそのアドバイスをするためにここに来たんだから。だよね、樹々」
「ええ。そのつもりよ」
~~~~~~
さっき真雪が放送をしていた時間。
元オンエア部部長の樹々は、放課後の学食で、真雪の放送を聴いていた。
「ああっ、そこはもうちょっと話を短くした方がまとまりがついてよかったのに………………次は速いっ! そこはもうちょっと間を持たせた方が」
耳にイヤホンを付けて独り言をしながら、真剣に真雪の放送を聴いていた。
最近すっかり勉強一筋の受験生っぽくなった樹々だったが、やはり後輩の活躍はずっと気になっていた。
「おーおー、文化祭の準備をさぼって、こんなところでくつろいでいるのかい? 去年、文化祭の実行委員をやってたとは思えない行動だねえ」
西瓜が紙コップのドリンク片手に、陽気な態度でやって来た。
樹々はイヤホンを外す。
「さぼってるんじゃないわ。出し物がゲーム大会だから、あまり準備することがないのよ」
看板や垂れ幕、飾り付けなどは、学校の空き教室に保管しているものを持ってくるだけ。することといえば、テレビやゲーム機、ゲームソフトを借りてきて、本番前に教室の準備をするだけだった。
樹々のクラスは特進クラスで、受験勉強になるべく支障がない出し物を選んだのだった。
「そういう西瓜はどうなの? あなたも自分のクラスでの準備があるんじゃないかしら?」
「ちょっと息抜きに休憩ってね。あー疲れた疲れた」
「本当かしら? さぼってるようにしか見えないけど」
西瓜は樹々の前に座った。
「ところで、何を聴いてたの? なんかすごく熱心に独り言をしてたけど」
「え? 声に出てた? 恥ずかしいわ」
「真顔でそんなこと言われてもな……」
西瓜はずずいと上半身を乗り出す。
「やっぱり真雪ちゃんの放送? 最近放課後に聴いてる人が多いよね。うちのクラスでも聴いてる人がけっこういるよ」
「ええ、そうよ。この時期の放課後にミニFMを放送するのはいい判断だと思うわ。でも放送内容で少し物足りないところもあるのよ」
「ふーん。じゃあ、その足りない部分を真雪ちゃんに教えてあげればいいじゃない?」
「そうね。でも、お節介じゃないかしら? 最近私はオンエア活動をしていないし、急に会って直したほうがいいとか言うなんて」
「大丈夫大丈夫。私も一緒に行くからさ」
~~~~~~
「……というわけで、私たちはここに来たのよ」
「おー、ナイスタイミングねー。真雪さん放送について悩んでたから、きっと喜んでくれまーす」
そのとき、部室のドアをノックする音がした。
「あのー、真雪いますか?」
「めいちゃん、そんな弱腰ではだめでし。ここはひとつ、物語の終盤に登場する強力な助っ人感を出していくめるよ。どすこーい、ゆきちゃんいるっすかー?」
明夏と日菜までもガラケー部の部室にやって来た。
「おー、明夏ちゃんに日菜ちゃん。あんたたちも来たのか」
「西瓜先輩!? それに樹々先輩も!」
「めいちゃん。日菜たちはすっかり先を越されてしまいましたなあ」
「くぅ~。文化祭の準備で遅くならなければ……」
~~~~~~
さっき真雪が放送をしていた時間。
明夏と日菜は、真雪のラジオを聴きながらジオラマの制作をしていた。真雪がいるクラスということもあり、大きなラジオで教室いっぱいに聞こえるような音の大きさでラジオを流している。みんな、真雪の声を聴きながら作業を進めている感じだった。
「ゆきちゃん、オンエア部再興のために頑張ってるっすね。日菜たちも何か出来ればよいのですますが」
「ガラケー持ちしか入れないところみたいだし、こればっかりはどうしようもないよね。……っていうかなんで隣のクラスの日菜が、うちのクラスの手伝いをしてるのよ。自分のクラスはいいの?」
「日菜のクラスは準備がもう終わったのダス。そして、放課後することがないから、今こうして友だちであるめいちゃんのお手伝いをやってるダスよ」
「そうだったんだ。ありがとう……って、それ違う! くっつける方向が逆~!」
「うほぅ! すまぬ。不覚であった」
日菜は家の屋根を逆に着けていた。
そんな話をしている間にも、真雪の放送は続いている。
真雪の放送はどこかひっそりとしていて、小鳥のさえずりを聴いているかのように、自然に耳に入ってくるような話し方をしている。
「真雪らしいというか、物静かな放送だよね。ま、そこが真雪のいいところでもあるけど」
「今はいいにゃろ。でも、文化祭の本番、みんなの前で今みたいな放送だったら、盛り上がりに欠けてしまうにょす」
「それは確かに言えるわね。以前の部活対抗戦でもはりきってはいたけど、やっぱりどこかおとなしい真雪らしさが出てたというか」
「これは我々がゆきちゃんに伝えるべきではなかとですか? 我々の持っているはちゃめちゃな極意を!」
「どうやらそのときが来たようね。この極意があれば、真雪はもっと上を目指せる!」
「でも、今日の分のジオラマを完成させないと、日菜たちはゆきちゃんのところには行けないぬる!」
「日菜、さっさと終わらせて真雪のところに行こう。スピードアップよ!」
「ラジャー。二人でやれば速く終わるなり!」
~~~~~~
「……というわけなのです」
「まあ、ちょっと予定よりも来るのが遅れちゃったけどね」
「やっぱり二人とも、真雪ちゃんに期待してるんだね。二人とも、こっちにおいでよ」
「ふふっ。私たちと考えてることは同じってわけね」
樹々と西瓜が手招きをすると、明夏と日菜も部室の中に入ってきた。
「すごい。元オンエア部のメンバーまで助っ人に来てくれた。これで真雪はますますパワーアップできる!」
寿の言葉通り、ここにいるみんなが、真雪への期待度を高めていた。
あとは真雪が来るのを待つだけだが、なかなか戻ってこなかった。
「遅いね、真雪ちゃん。どこか寄り道でもしてるのかな」
「日菜が捜してくるっす。人捜しは得意なすよ」
西瓜の言葉に反応して、日菜がいち早く立ち上がった。日菜が廊下に出たそのとき、
「びええええぇ! なんかいるっしゅー!」
廊下中に日菜の言葉が響いた。部室にいたみんながあわてて廊下を見に行くと、日菜の前に髪がびしょ濡れで、顔が見えない女子生徒がゆらゆらと歩いてきていた。
「あ~、みんな~。来てたんだ~」
謎の女子生徒の声は真雪だった。
「ちょっと真雪! あんたその髪どうしたのよ!」
「あ、明夏ちゃ~ん。水をかぶって頭冷やそうかと思ってやったけど~、タオル持ってなくて~。誰か持ってないかな~?」
みんなの真雪への期待度は平均くらいに下がっていた。
こちらはアイドルオンエア部の部室。
オンエア同好会の真雪の活躍は、ゆうたの耳にも入っていた。
「くそっ、何が『真雪のひっそりタイム』だ。オンエア同好会の奴め、露骨なポイント稼ぎをしやがって。アイドルである僕の影がすっかり薄くなってしまったじゃないか」
アイドルオンエア部のゆうたは一人でいらだっていた。
部室に掛けられていたカレンダーを見る。運命の文化祭の日まで、あと一週間ほどしかない。
「本番では絶対に僕のほうが目立ってやる。そして、今度こそ復活できないくらいの屈辱を与えてやるさ。……さて、作戦のほうはどうなっているのかな?」
ゆうたが指をぱちんとならす。すると、どこからともなく忍者の格好をした男がゆうたの目の前に現れた。
「お呼びでしょうか?」
「ポンデリング。例の準備のほうは上手くいってる?」
「はっ。すでに話はついております」
「オーケーだ。これで僕が負けることは無くなったも同然だ。文化祭当日は庶民の奴らに本物というものを見せつけてやろうか。はっはっは」
また何か勝つための作戦を企んでいるゆうた。
彼の暴走を止められるのは、もう真雪たちオンエア同好会しかいない。
もはや真雪の放送は放課後の定番となり、文化祭の準備をしながら真雪の放送を聴くことが学校内で流行しているほどだった。
だが、当の本人は満足している様子ではなかった。
今日の放送が終わった後、ガラケー部兼オンエア同好会のメンバーは、部室でしばしの休息をとっていた。
みんなくつろいだ感じで話をしていたが、真雪一人だけが浮かない顔をしていた。
「どうしたんだよ、真雪。そんな暗い顔してさ」
寿が真雪の顔をのぞき込むように言った。真雪は、寿の顔を見て不気味ににやっと笑みを浮かべる。
「ははっ。なんかさ、私の放送って違うんだよね。思ってるのとぜんぜん違う……」
「どの辺が違うの? 私は普通だと思うけど」
棒状のスナック菓子を食べていたともが言った。
真雪はゾンビのようにギギギと顔をとものほうに向けてにやりとする。
「なんていうかその、言葉にすると難しいんだけどね」
「わたくしにはどうして悩んでいるのかがよくわかりませんが……」
ケータイのデコ具合をうっとりとした目で見ていた姫が言った。真雪は顔を机に突っ伏して、足をばたばたさせた。
「あはは、私にもよくわかんなーい!」
「真雪さーん、大丈夫ですかー? しっかりしてくださーい」
優雅に緑茶を飲んでくつろいでいたライカが言った。真雪のばたばたさせていた足の動きが止まり、ぶんっと音を立てながら顔を上げた。
「ちょっと頭から水浴びしてくる!」
真雪は元気なく部室から出て行った。
ガラケー四天王の四人は、思わず顔を見合わせる。
「真雪、すごく悩んでたね」
「私たちで何かアドバイス出来ることがあればいいんだけど……」
「わたくしたち、放送関係の知識はありませんものね。ライカはどうなの?」
「おー、私もさっぱりでーす」
ガラケー四天王の四人は、真雪の力になれないことに自分たちの非力さを感じていた。
そんなとき、
ヒョロロロ。
部室の扉が開いた。
「あれ? ここってオンエア同好会の部室だよね? 真雪ちゃんはいないの?」
西瓜が部室の外から顔をのぞかせていた。
「真雪はさっき頭から水をかぶりに行ったけど、何か用ですか?」
「いやさあ、話したいことがあったんだけどね。ちょっとおじゃまするよ」
西瓜が部室の扉を開けると、ガラケー四天王全員が驚いた表情になった。
「メロン先輩!?」
見事にハモった四天王。寿が扉の前に立っていた西瓜のところまでやって来た。
「先輩久しぶり。ちょっと寄ってかない? 真雪ならすぐに戻ってくると思うから」
「へえ、最近真雪ちゃんと行動してたのはあんたらだったのか。じゃあ、ちょっとだけおじゃまするよ」
西瓜は寿に手を引かれて部室に入っていった。西瓜は後ろを見てから声を掛ける。
「樹々、あんたも来なよ。真雪ちゃんに用があるんだろ?」
「私も入っていいのかしら?」
「もちろん。メロン先輩のお友だちなら大歓迎です!」
ともの言葉を聞いて、樹々は一礼して部室に入ってくる。二人はテーブルに案内されて、隣あうように座った。
「西瓜。やっぱりあなた後輩から人気あるのね。誰でもあなたのことを知ってる感じじゃない?」
「そんなことないって。寿たちは私の中学時代の後輩だよ。それよりあんたたち、オンエア部の再興に協力してくれてるのかい? 本当にありがとう」
「真雪は私たちの友だちだからね。協力して当然さ」
寿は言った。他の三人もうんうんとうなずく。
「ありがとう。本来なら私たちも協力しなければいけないのに、あなたたちに任せっきりになってしまって」
樹々は申し訳なさそうに言う。
「そのことなんですが……真雪さん、今すごく放送のことについて悩まれているようですわ。わたくしたちでアドバイスできればいいのですが、みんな放送に関しては素人そのものでして」
姫が言うと、西瓜は自信たっぷりに言った。
「大丈夫。私たちは真雪ちゃんにそのアドバイスをするためにここに来たんだから。だよね、樹々」
「ええ。そのつもりよ」
~~~~~~
さっき真雪が放送をしていた時間。
元オンエア部部長の樹々は、放課後の学食で、真雪の放送を聴いていた。
「ああっ、そこはもうちょっと話を短くした方がまとまりがついてよかったのに………………次は速いっ! そこはもうちょっと間を持たせた方が」
耳にイヤホンを付けて独り言をしながら、真剣に真雪の放送を聴いていた。
最近すっかり勉強一筋の受験生っぽくなった樹々だったが、やはり後輩の活躍はずっと気になっていた。
「おーおー、文化祭の準備をさぼって、こんなところでくつろいでいるのかい? 去年、文化祭の実行委員をやってたとは思えない行動だねえ」
西瓜が紙コップのドリンク片手に、陽気な態度でやって来た。
樹々はイヤホンを外す。
「さぼってるんじゃないわ。出し物がゲーム大会だから、あまり準備することがないのよ」
看板や垂れ幕、飾り付けなどは、学校の空き教室に保管しているものを持ってくるだけ。することといえば、テレビやゲーム機、ゲームソフトを借りてきて、本番前に教室の準備をするだけだった。
樹々のクラスは特進クラスで、受験勉強になるべく支障がない出し物を選んだのだった。
「そういう西瓜はどうなの? あなたも自分のクラスでの準備があるんじゃないかしら?」
「ちょっと息抜きに休憩ってね。あー疲れた疲れた」
「本当かしら? さぼってるようにしか見えないけど」
西瓜は樹々の前に座った。
「ところで、何を聴いてたの? なんかすごく熱心に独り言をしてたけど」
「え? 声に出てた? 恥ずかしいわ」
「真顔でそんなこと言われてもな……」
西瓜はずずいと上半身を乗り出す。
「やっぱり真雪ちゃんの放送? 最近放課後に聴いてる人が多いよね。うちのクラスでも聴いてる人がけっこういるよ」
「ええ、そうよ。この時期の放課後にミニFMを放送するのはいい判断だと思うわ。でも放送内容で少し物足りないところもあるのよ」
「ふーん。じゃあ、その足りない部分を真雪ちゃんに教えてあげればいいじゃない?」
「そうね。でも、お節介じゃないかしら? 最近私はオンエア活動をしていないし、急に会って直したほうがいいとか言うなんて」
「大丈夫大丈夫。私も一緒に行くからさ」
~~~~~~
「……というわけで、私たちはここに来たのよ」
「おー、ナイスタイミングねー。真雪さん放送について悩んでたから、きっと喜んでくれまーす」
そのとき、部室のドアをノックする音がした。
「あのー、真雪いますか?」
「めいちゃん、そんな弱腰ではだめでし。ここはひとつ、物語の終盤に登場する強力な助っ人感を出していくめるよ。どすこーい、ゆきちゃんいるっすかー?」
明夏と日菜までもガラケー部の部室にやって来た。
「おー、明夏ちゃんに日菜ちゃん。あんたたちも来たのか」
「西瓜先輩!? それに樹々先輩も!」
「めいちゃん。日菜たちはすっかり先を越されてしまいましたなあ」
「くぅ~。文化祭の準備で遅くならなければ……」
~~~~~~
さっき真雪が放送をしていた時間。
明夏と日菜は、真雪のラジオを聴きながらジオラマの制作をしていた。真雪がいるクラスということもあり、大きなラジオで教室いっぱいに聞こえるような音の大きさでラジオを流している。みんな、真雪の声を聴きながら作業を進めている感じだった。
「ゆきちゃん、オンエア部再興のために頑張ってるっすね。日菜たちも何か出来ればよいのですますが」
「ガラケー持ちしか入れないところみたいだし、こればっかりはどうしようもないよね。……っていうかなんで隣のクラスの日菜が、うちのクラスの手伝いをしてるのよ。自分のクラスはいいの?」
「日菜のクラスは準備がもう終わったのダス。そして、放課後することがないから、今こうして友だちであるめいちゃんのお手伝いをやってるダスよ」
「そうだったんだ。ありがとう……って、それ違う! くっつける方向が逆~!」
「うほぅ! すまぬ。不覚であった」
日菜は家の屋根を逆に着けていた。
そんな話をしている間にも、真雪の放送は続いている。
真雪の放送はどこかひっそりとしていて、小鳥のさえずりを聴いているかのように、自然に耳に入ってくるような話し方をしている。
「真雪らしいというか、物静かな放送だよね。ま、そこが真雪のいいところでもあるけど」
「今はいいにゃろ。でも、文化祭の本番、みんなの前で今みたいな放送だったら、盛り上がりに欠けてしまうにょす」
「それは確かに言えるわね。以前の部活対抗戦でもはりきってはいたけど、やっぱりどこかおとなしい真雪らしさが出てたというか」
「これは我々がゆきちゃんに伝えるべきではなかとですか? 我々の持っているはちゃめちゃな極意を!」
「どうやらそのときが来たようね。この極意があれば、真雪はもっと上を目指せる!」
「でも、今日の分のジオラマを完成させないと、日菜たちはゆきちゃんのところには行けないぬる!」
「日菜、さっさと終わらせて真雪のところに行こう。スピードアップよ!」
「ラジャー。二人でやれば速く終わるなり!」
~~~~~~
「……というわけなのです」
「まあ、ちょっと予定よりも来るのが遅れちゃったけどね」
「やっぱり二人とも、真雪ちゃんに期待してるんだね。二人とも、こっちにおいでよ」
「ふふっ。私たちと考えてることは同じってわけね」
樹々と西瓜が手招きをすると、明夏と日菜も部室の中に入ってきた。
「すごい。元オンエア部のメンバーまで助っ人に来てくれた。これで真雪はますますパワーアップできる!」
寿の言葉通り、ここにいるみんなが、真雪への期待度を高めていた。
あとは真雪が来るのを待つだけだが、なかなか戻ってこなかった。
「遅いね、真雪ちゃん。どこか寄り道でもしてるのかな」
「日菜が捜してくるっす。人捜しは得意なすよ」
西瓜の言葉に反応して、日菜がいち早く立ち上がった。日菜が廊下に出たそのとき、
「びええええぇ! なんかいるっしゅー!」
廊下中に日菜の言葉が響いた。部室にいたみんながあわてて廊下を見に行くと、日菜の前に髪がびしょ濡れで、顔が見えない女子生徒がゆらゆらと歩いてきていた。
「あ~、みんな~。来てたんだ~」
謎の女子生徒の声は真雪だった。
「ちょっと真雪! あんたその髪どうしたのよ!」
「あ、明夏ちゃ~ん。水をかぶって頭冷やそうかと思ってやったけど~、タオル持ってなくて~。誰か持ってないかな~?」
みんなの真雪への期待度は平均くらいに下がっていた。
こちらはアイドルオンエア部の部室。
オンエア同好会の真雪の活躍は、ゆうたの耳にも入っていた。
「くそっ、何が『真雪のひっそりタイム』だ。オンエア同好会の奴め、露骨なポイント稼ぎをしやがって。アイドルである僕の影がすっかり薄くなってしまったじゃないか」
アイドルオンエア部のゆうたは一人でいらだっていた。
部室に掛けられていたカレンダーを見る。運命の文化祭の日まで、あと一週間ほどしかない。
「本番では絶対に僕のほうが目立ってやる。そして、今度こそ復活できないくらいの屈辱を与えてやるさ。……さて、作戦のほうはどうなっているのかな?」
ゆうたが指をぱちんとならす。すると、どこからともなく忍者の格好をした男がゆうたの目の前に現れた。
「お呼びでしょうか?」
「ポンデリング。例の準備のほうは上手くいってる?」
「はっ。すでに話はついております」
「オーケーだ。これで僕が負けることは無くなったも同然だ。文化祭当日は庶民の奴らに本物というものを見せつけてやろうか。はっはっは」
また何か勝つための作戦を企んでいるゆうた。
彼の暴走を止められるのは、もう真雪たちオンエア同好会しかいない。