第15話 部活勧誘週間1
文字数 2,480文字
数日後。
いよいよ待望の部活勧誘週間が始まる日になった。
オンエア部はどこの部よりも早く勧誘を始めようと、生徒たちの登校時間をねらって校門前ですることにした。
いつもより早く家を出た真雪は、オンエア部のみんなと待ち合わせ場所の校門前までやってきた。
朝早くなので校門前は誰もいないと思っていたが、もうすでにたくさんの人が集まっていた。
「真雪さん、こっちこっち」
人ごみのなかに樹々を見つけて、真雪は駆け足で向かう。
「おはようございます。すごいですね、もうこんなに人がいっぱいいる」
「どの部も考えてたことは同じ、というわけね。私たちも負けないようにしっかりとチラシを配りましょう」
「はい! ……で、他のみんなは?」
「日菜さんはもう来てるわよ。いま部室にチラシを取りに行ってる。あとは明夏さんと西瓜がまだ来てないわね。ま、明夏さんはともかく、西瓜がこんな朝早くに学校に来るとは思ってないけど」
「……明夏ちゃん、どうしたのかな。昨日話をしたときは『明日のために早く寝る!』って言ってはりきってたけど」
真雪は荷物を置いて辺りを見回してみた。
すでにたくさんの部活がチラシを手に持って、生徒たちが来るのを待ちわびているようだった。
「すごい。試合用のユニフォームとか着てる部活もいる」
「どこの部も新入部員に入ってもらいたいから、気合いが入ってるのよ。真雪さんもそういう格好してみる? ほら、去年講堂でゲリラ開催したライブのアイドルコスチュームとか」
「もうやりません! 思い出したらすっごく恥ずかしい」
真雪はすこしほてった顔を、手であおいだ。そんな真雪の後ろから、怪しい人影がぬっと姿を現わす。
「!?!?!?」
真雪は驚きすぎて言葉が出なかったが、怪しい人はカバンの中からたくさんの紙を取り出した。
「へいへい、持ってきましたよす。例のぶつ……じゃないなり。配る用のチラシたくさんねー」
「日菜ちゃんだったのか。びっくりした~」
それはサングラスをかけて雰囲気が怪しくなった日菜だった。
格好のことはスルーして樹々が言う。
「もうそろそろ早い生徒はもうすぐ登校してくる時間ね。二人とも、チラシ配りの準備はいい?」
「はい!」
「はいにょす!」
真雪と日菜は元気に返事をした。
日菜の持ってきたチラシが、三人に均等に配られる。
そうこうしているうちに、最初の生徒が校門をくぐり抜けてきた。
「さあ、私たちも。配るのはまだ部活に入っていない一年生が狙い目よ!」
樹々が言い終わらないうちに、多くの待ち構えていた生徒が一年生と思われる生徒に向かって集まっていった。
「うおおおー、どけどけー」
「一年生を見つけたぜ! ぜひ我が部に入部してくれ!」
「いいや、うちの部のほうが絶対にいい! けっこう強いチームだから!」
一年生のまわりは、かなりの人混みになってしまっていた。一年生の姿が見えないこの状態では、もはやチラシを渡せそうもない。
「先輩、あの人混みを突破するのは到底無理そうです。どうしましょう?」
「どうしましょうって言われても……。困ったわね」
真雪に聞かれた樹々もなすすべがなかった。
多少校門前が混雑することは予想していたが、まさかここまでひどい状況だとは思っていなかった。
「大丈夫でにゅる。こんなときには、日菜にまかせるヨロシ」
日菜がダンボールの防具を装備して現れた。首や手足が出るところに穴を開けて作った、手作りのものだった。
「これで防御は完璧なり! チラシを配りに行ってくるにゃす!」
日菜はチラシを持って人混みに突進していった。
だが、
「うひゃーん!」
謎の集団オーラによって、日菜はダンボールを着たまま吹き飛ばされてしまった。
樹々は一瞬でその現象の正体を見抜いた。
「他の部を寄せ付けないオーラでガードしているわ! あれを突破できない限り、近づくことさえできない!」
「それ人間技を超えている気が……」
校門前はもはや戦場と化していた。
一年生が通るたびに人が群がっていき、砂けむりのようなのが宙に舞っている。
「真雪さん、じっとしててもしょうがないわ。私たちも一年生のところへ行くわよ」
「え、なんかいやだな……」
樹々は一足先に砂けむりの中に飛び込んでいった。
「樹々先輩!? ……ううっ……もうどうにでもなれー!」
真雪は声を上げながら樹々の後を追う。
一年生に渡さなくちゃ。そして、オンエア部に入ってもらうんだ。
砂けむりで目の前がよく見えない。それでも人影のようなものがうっすらと見えたので、真雪はチャンスと思ってチラシを差し出した。
「これ、どうぞ!」
チラシは真雪の手元から離れて、相手に受け取られたみたいだ。ちゃんと渡せたと真雪がほっとしていると、
「ん? オンエア部のチラシ? もしかして、真雪なの?」
「え? その声は……明夏ちゃん!?」
真雪が渡した相手は同じオンエア部の明夏だった。
「とりあえず場所を移動しよう。謎のオーラに巻き込まれて帰ってこられなくなるかもしれない」
一年生が増えていき、ますますヒートアップしていく校門前。明夏の提案で、二人はいったん安全な場所に移動した。
そしてまず最初に、真雪が遅れてきた明夏に言った。
「明夏ちゃん遅いよ。昨日はあんなにチラシ配りをするって張り切ってたのに」
「ごめん。昨日は牧場ゲームしてたらやめられなくなって、ついつい遅くまで起きててしまって寝坊しちゃって。てへっ」
「もう……。はい、これ。明夏ちゃんも一年生に配ってよね」
真雪はちょっとむすっとして、明夏にチラシの半分を渡す。明夏は怒った真雪の機嫌を取るように言った。
「そんなに怒らないでよ~。ここに来る途中に、ちゃんといい場所を見つけてきたからさあ」
「いい場所?」
「そうです。誰にもじゃまされずにチラシを配ることができるとっておきの場所! 誰にも言いたくなかったけど、特別に真雪にも教えてあげる!」
「えー、本当かな……」
明夏は自信たっぷりに言ったが、真雪は半信半疑だった。
それから真雪は、明夏に先導されながら、誰にもばれないようにこっそりと移動を開始した。
いよいよ待望の部活勧誘週間が始まる日になった。
オンエア部はどこの部よりも早く勧誘を始めようと、生徒たちの登校時間をねらって校門前ですることにした。
いつもより早く家を出た真雪は、オンエア部のみんなと待ち合わせ場所の校門前までやってきた。
朝早くなので校門前は誰もいないと思っていたが、もうすでにたくさんの人が集まっていた。
「真雪さん、こっちこっち」
人ごみのなかに樹々を見つけて、真雪は駆け足で向かう。
「おはようございます。すごいですね、もうこんなに人がいっぱいいる」
「どの部も考えてたことは同じ、というわけね。私たちも負けないようにしっかりとチラシを配りましょう」
「はい! ……で、他のみんなは?」
「日菜さんはもう来てるわよ。いま部室にチラシを取りに行ってる。あとは明夏さんと西瓜がまだ来てないわね。ま、明夏さんはともかく、西瓜がこんな朝早くに学校に来るとは思ってないけど」
「……明夏ちゃん、どうしたのかな。昨日話をしたときは『明日のために早く寝る!』って言ってはりきってたけど」
真雪は荷物を置いて辺りを見回してみた。
すでにたくさんの部活がチラシを手に持って、生徒たちが来るのを待ちわびているようだった。
「すごい。試合用のユニフォームとか着てる部活もいる」
「どこの部も新入部員に入ってもらいたいから、気合いが入ってるのよ。真雪さんもそういう格好してみる? ほら、去年講堂でゲリラ開催したライブのアイドルコスチュームとか」
「もうやりません! 思い出したらすっごく恥ずかしい」
真雪はすこしほてった顔を、手であおいだ。そんな真雪の後ろから、怪しい人影がぬっと姿を現わす。
「!?!?!?」
真雪は驚きすぎて言葉が出なかったが、怪しい人はカバンの中からたくさんの紙を取り出した。
「へいへい、持ってきましたよす。例のぶつ……じゃないなり。配る用のチラシたくさんねー」
「日菜ちゃんだったのか。びっくりした~」
それはサングラスをかけて雰囲気が怪しくなった日菜だった。
格好のことはスルーして樹々が言う。
「もうそろそろ早い生徒はもうすぐ登校してくる時間ね。二人とも、チラシ配りの準備はいい?」
「はい!」
「はいにょす!」
真雪と日菜は元気に返事をした。
日菜の持ってきたチラシが、三人に均等に配られる。
そうこうしているうちに、最初の生徒が校門をくぐり抜けてきた。
「さあ、私たちも。配るのはまだ部活に入っていない一年生が狙い目よ!」
樹々が言い終わらないうちに、多くの待ち構えていた生徒が一年生と思われる生徒に向かって集まっていった。
「うおおおー、どけどけー」
「一年生を見つけたぜ! ぜひ我が部に入部してくれ!」
「いいや、うちの部のほうが絶対にいい! けっこう強いチームだから!」
一年生のまわりは、かなりの人混みになってしまっていた。一年生の姿が見えないこの状態では、もはやチラシを渡せそうもない。
「先輩、あの人混みを突破するのは到底無理そうです。どうしましょう?」
「どうしましょうって言われても……。困ったわね」
真雪に聞かれた樹々もなすすべがなかった。
多少校門前が混雑することは予想していたが、まさかここまでひどい状況だとは思っていなかった。
「大丈夫でにゅる。こんなときには、日菜にまかせるヨロシ」
日菜がダンボールの防具を装備して現れた。首や手足が出るところに穴を開けて作った、手作りのものだった。
「これで防御は完璧なり! チラシを配りに行ってくるにゃす!」
日菜はチラシを持って人混みに突進していった。
だが、
「うひゃーん!」
謎の集団オーラによって、日菜はダンボールを着たまま吹き飛ばされてしまった。
樹々は一瞬でその現象の正体を見抜いた。
「他の部を寄せ付けないオーラでガードしているわ! あれを突破できない限り、近づくことさえできない!」
「それ人間技を超えている気が……」
校門前はもはや戦場と化していた。
一年生が通るたびに人が群がっていき、砂けむりのようなのが宙に舞っている。
「真雪さん、じっとしててもしょうがないわ。私たちも一年生のところへ行くわよ」
「え、なんかいやだな……」
樹々は一足先に砂けむりの中に飛び込んでいった。
「樹々先輩!? ……ううっ……もうどうにでもなれー!」
真雪は声を上げながら樹々の後を追う。
一年生に渡さなくちゃ。そして、オンエア部に入ってもらうんだ。
砂けむりで目の前がよく見えない。それでも人影のようなものがうっすらと見えたので、真雪はチャンスと思ってチラシを差し出した。
「これ、どうぞ!」
チラシは真雪の手元から離れて、相手に受け取られたみたいだ。ちゃんと渡せたと真雪がほっとしていると、
「ん? オンエア部のチラシ? もしかして、真雪なの?」
「え? その声は……明夏ちゃん!?」
真雪が渡した相手は同じオンエア部の明夏だった。
「とりあえず場所を移動しよう。謎のオーラに巻き込まれて帰ってこられなくなるかもしれない」
一年生が増えていき、ますますヒートアップしていく校門前。明夏の提案で、二人はいったん安全な場所に移動した。
そしてまず最初に、真雪が遅れてきた明夏に言った。
「明夏ちゃん遅いよ。昨日はあんなにチラシ配りをするって張り切ってたのに」
「ごめん。昨日は牧場ゲームしてたらやめられなくなって、ついつい遅くまで起きててしまって寝坊しちゃって。てへっ」
「もう……。はい、これ。明夏ちゃんも一年生に配ってよね」
真雪はちょっとむすっとして、明夏にチラシの半分を渡す。明夏は怒った真雪の機嫌を取るように言った。
「そんなに怒らないでよ~。ここに来る途中に、ちゃんといい場所を見つけてきたからさあ」
「いい場所?」
「そうです。誰にもじゃまされずにチラシを配ることができるとっておきの場所! 誰にも言いたくなかったけど、特別に真雪にも教えてあげる!」
「えー、本当かな……」
明夏は自信たっぷりに言ったが、真雪は半信半疑だった。
それから真雪は、明夏に先導されながら、誰にもばれないようにこっそりと移動を開始した。