第63話 佐与の家
文字数 1,883文字
待ち合わせの時間の数分前、佐与の乗った車が真雪たちのところへやってきた。
後部座席のドアが開き佐与が出てきた。佐与は少し恥ずかしそうにしながらも、真雪たちの前まで歩いてきた。
「ど、どうもお待たせしました」
「……」
「……」
佐与の格好を見て、まゆきともなえは一瞬止まってしまった。
「あの……もしかして佐与ちゃんなの?」
「あ、はい。もしかしなくても本物の佐与です。おはようございます」
「すっごいすっごい! お嬢様みたい!」
佐与は普段からは想像できないようなふりふりの服を着ていた。白黒を基調としたゴスロリ風の外観。着慣れていないのか、本人も相当恥ずかしそうにしている。コスプレ会場ならまだしも、普通の街中では浮いてしまうような格好だった。
「は、はやく車に乗ってください! 外に出てると周りの目が気になって」
佐与は真雪ともなえの手を引っ張って、いそいで車の中に案内する。周囲の目が集まってくる前に、なんとか車に乗りこむことができた。
「あの、この服装はいったい……」
「な、なんでもないんです!」
真雪が聞こうとすると、佐与は下を向いて顔が真っ赤になる。そんなとき、運転席から笑い声が聞こえてきた。
「ほっほっほ。そんなに恥ずかしがらなくても。とっても似合っていますよ」
「……いいから。早く出てよ、じいや」
「はいはい。かしこまりました」
じいやと呼ばれた年配の男性は、佐与の言うとおりに車を発車させた。
高級そうな車、佐与のかわいい格好、じいやと呼ばれた人。
真雪は予想していないことの多さに、なにがなんだかわからなくなってきた。
「……」
「……」
さらには佐与に服のことを聞いてはいけない雰囲気になっていたので、車の中は静かだった。もなえだけは平然としていて、窓からの景色を楽しんでいる。
じいやはその状況をわかっていたのか、自分から佐与の服のことを話し始めた。
「ほっほっほ。この服は佐与お嬢様のご両親がプレゼントされたものなのです。でも、佐与お嬢様はなかなか着ようとしなかったので、お友だちが来られるこの機会に一度着てみてはどうかと、屋敷の者たちみんなで提案したのでございます」
「部屋で無理矢理着せられたんだ。この服、ボクには全然合ってないのに」
「そんなことないよ。佐与ちゃんすごくかわいい。ね、お姉ちゃん」
「うん。最初は驚いたけど、よく見ると似合ってると思う」
「そ、そうですか」
「そうですとも。ほっほっほっ」
場の空気が少し和んだ。
真雪はそれよりも、佐与がお嬢様と呼ばれていたことのほうが気になっていた。さらにはじいやもいるし、本当に家はもなえの言っていたお屋敷かもしれない。
車はしばらく進み、街外れのほうまでやってきた。
車の向かう先には、大きな屋敷が見えている。
「もしかして、佐与ちゃんの家ってあの……」
「はい。あそこがボクの家です」
「すごーい。遠くからでもよく見える」
やはり真雪の予想通りだった。
車が屋敷の前までやって来ると、大きな門は自動で開いた。
車はそのまま敷地の中へ。門から屋敷までの間にも見晴らしのいい大きな庭園が広がっていて、手入れされているきれいな花がたくさん咲いていた。
あまりのスケールの大きさに、真雪は夢なのか現実なのかわからなくなってきていた。
「もなえちゃん、ちょっと私の腕をつねってみて」
「えいっ」
「いたたった! 夢じゃなかった! っていうか、もなえちゃん強くつねりすぎ!」
「先輩、なにやってるんですか……」
そうしているうちに、車は屋敷の前までやってきた。
目の前にはたくさんの使用人と思われる人たちが車を出迎えてくれている。
漫画の中でしか見たことのない展開に、真雪は少し混乱していた。
「なにこれ? お屋敷のテーマパーク?」
「お姉ちゃん。現実現実」
「つきましたぞ。ささ、降りてくだされ」
じいやの言葉のあと、車のドアが外から開かれた。
真雪たちが車から出てくると、並んでいた男女が一斉に礼をする。
中世貴族の私生活みたいな状況を前にして、真雪ともなえはなぜか二人でお互いの体を抱きしめあった。
「いらっしゃいませ。佐与様のお友だちの皆様」
「はっ、はじめまして! 高校2年生の真雪です! 佐与ちゃんのお友だちです!」
「はじめまして。中学1年生のもなえです。お姉ちゃんについてきました~。よろしくね」
どう対応していいのかわからない真雪は、かちかちになりながらも言葉をしぼりだす。対するもなえは、真雪の言葉を真似しつつもあっけらかんとした対応だった。
このはじめての場面で微動だにしないところを見ると、もなえは案外大物かもしれない。
後部座席のドアが開き佐与が出てきた。佐与は少し恥ずかしそうにしながらも、真雪たちの前まで歩いてきた。
「ど、どうもお待たせしました」
「……」
「……」
佐与の格好を見て、まゆきともなえは一瞬止まってしまった。
「あの……もしかして佐与ちゃんなの?」
「あ、はい。もしかしなくても本物の佐与です。おはようございます」
「すっごいすっごい! お嬢様みたい!」
佐与は普段からは想像できないようなふりふりの服を着ていた。白黒を基調としたゴスロリ風の外観。着慣れていないのか、本人も相当恥ずかしそうにしている。コスプレ会場ならまだしも、普通の街中では浮いてしまうような格好だった。
「は、はやく車に乗ってください! 外に出てると周りの目が気になって」
佐与は真雪ともなえの手を引っ張って、いそいで車の中に案内する。周囲の目が集まってくる前に、なんとか車に乗りこむことができた。
「あの、この服装はいったい……」
「な、なんでもないんです!」
真雪が聞こうとすると、佐与は下を向いて顔が真っ赤になる。そんなとき、運転席から笑い声が聞こえてきた。
「ほっほっほ。そんなに恥ずかしがらなくても。とっても似合っていますよ」
「……いいから。早く出てよ、じいや」
「はいはい。かしこまりました」
じいやと呼ばれた年配の男性は、佐与の言うとおりに車を発車させた。
高級そうな車、佐与のかわいい格好、じいやと呼ばれた人。
真雪は予想していないことの多さに、なにがなんだかわからなくなってきた。
「……」
「……」
さらには佐与に服のことを聞いてはいけない雰囲気になっていたので、車の中は静かだった。もなえだけは平然としていて、窓からの景色を楽しんでいる。
じいやはその状況をわかっていたのか、自分から佐与の服のことを話し始めた。
「ほっほっほ。この服は佐与お嬢様のご両親がプレゼントされたものなのです。でも、佐与お嬢様はなかなか着ようとしなかったので、お友だちが来られるこの機会に一度着てみてはどうかと、屋敷の者たちみんなで提案したのでございます」
「部屋で無理矢理着せられたんだ。この服、ボクには全然合ってないのに」
「そんなことないよ。佐与ちゃんすごくかわいい。ね、お姉ちゃん」
「うん。最初は驚いたけど、よく見ると似合ってると思う」
「そ、そうですか」
「そうですとも。ほっほっほっ」
場の空気が少し和んだ。
真雪はそれよりも、佐与がお嬢様と呼ばれていたことのほうが気になっていた。さらにはじいやもいるし、本当に家はもなえの言っていたお屋敷かもしれない。
車はしばらく進み、街外れのほうまでやってきた。
車の向かう先には、大きな屋敷が見えている。
「もしかして、佐与ちゃんの家ってあの……」
「はい。あそこがボクの家です」
「すごーい。遠くからでもよく見える」
やはり真雪の予想通りだった。
車が屋敷の前までやって来ると、大きな門は自動で開いた。
車はそのまま敷地の中へ。門から屋敷までの間にも見晴らしのいい大きな庭園が広がっていて、手入れされているきれいな花がたくさん咲いていた。
あまりのスケールの大きさに、真雪は夢なのか現実なのかわからなくなってきていた。
「もなえちゃん、ちょっと私の腕をつねってみて」
「えいっ」
「いたたった! 夢じゃなかった! っていうか、もなえちゃん強くつねりすぎ!」
「先輩、なにやってるんですか……」
そうしているうちに、車は屋敷の前までやってきた。
目の前にはたくさんの使用人と思われる人たちが車を出迎えてくれている。
漫画の中でしか見たことのない展開に、真雪は少し混乱していた。
「なにこれ? お屋敷のテーマパーク?」
「お姉ちゃん。現実現実」
「つきましたぞ。ささ、降りてくだされ」
じいやの言葉のあと、車のドアが外から開かれた。
真雪たちが車から出てくると、並んでいた男女が一斉に礼をする。
中世貴族の私生活みたいな状況を前にして、真雪ともなえはなぜか二人でお互いの体を抱きしめあった。
「いらっしゃいませ。佐与様のお友だちの皆様」
「はっ、はじめまして! 高校2年生の真雪です! 佐与ちゃんのお友だちです!」
「はじめまして。中学1年生のもなえです。お姉ちゃんについてきました~。よろしくね」
どう対応していいのかわからない真雪は、かちかちになりながらも言葉をしぼりだす。対するもなえは、真雪の言葉を真似しつつもあっけらかんとした対応だった。
このはじめての場面で微動だにしないところを見ると、もなえは案外大物かもしれない。